ユビキタス時代とエネルギー問題について。

快適なユビキタス環境とは?
皆さんも、最近よくユビキタスという言葉を聞かれることと思います。もともとは「偏在する」というラテン語のubiquitosからきた言葉です。 いつでも、どこでも、だれでもが自由に使うことのできるネットワークでつながったIT環境をさすものとして、注目を浴びるようになってきました。これから来るであろうインテリジェントな情報社会のためのユビキタスネットワーク環境とはどのようなものなのでしょう。

ユビキタス環境の整備のためのネットワーク化、ブロードバンド化などについては、かなり議論が盛んになってきています。その他、行き交う情報であるコンテンツの充実や ホームバンキング、ショッピング、メディカルケア、ネットワークとつながったインテリジェントな家電製品も考えられています。けれど、家の中を線だらけにしてさまざまな機器を使うのはとても不便です。ワイヤーレスでなきゃだめです。一歩外に出れば、それらは非常に軽い小さな携帯機器でウェアラブルでなくてはだめです。それらの発展がユビキタス環境の大きな牽引の役割を担うと思われます

携帯電話の発展からみると、昔の固定式の電話からは考えられないほど自由に、個々の人間が電話を持ち歩くことができ、 大体どこからでも好きな時間に、音声や文字、画像などでコミニケーションができ、ネットとつながっていて情報を得ることもできるようになりました。 小さなコンピュータの開発も飛躍的に進み、 手のひらに載るほどのミニコンピュータもほぼ現実のこととなり、本格的な情報処理をどこでも好きな時にできるようになってきました。本格的なユビキタス時代を目前に準備が整ってきた感があります。
しかし、その発展もよく目を凝らしてみると、大きな4つのキーワードがあることがわかります。それは、地球環境に優しいエネルギー源、小型軽量 化、誰でも使えるユニバーサルデザイン、そして、エネルギー貯蔵です。


ユビキタスのキーテクノロジーは、エネルギーデバイスである。
携帯電話はここ数年で、大きな進歩を遂げました。(白黒からカラー、文字送信から画像送信、静止画から動画の送信、単なる通 話からネットにアクセスなど。)でも、バッテリーの使い勝手はその進歩に伴って進歩しているとは言い難いでしょう。相変わらず充電の手間がかかり、持続時間も旅行や出張のあいだ充電無しでは持ちません。
デジタルカメラはどうでしょう。わずかな間に進歩を遂げ30万画素から300万画素の高解像度の高機能カメラが普通 の個人が持てるようになりました。画像を貯めるメモリーも容量が増加し、海外旅行の思い出も小さなカードのようなメモリーを1つ差し込んでおけば何枚撮っても大丈夫です。でも、電気はすぐに切れてしまうので、旅先でも何回も充電をしなければなりません。そのため充電機器一式をもっていかなければなりません。市販の乾電池を 使用することのできるものもありますが電池がたくさん必要で、しかもカメラ本体が重く形態も不格好になってしまいます。
最近売り出されたミニコンピューターも前から見ると、両手の中に納まってしまうほど小さいのに、横から見ると、携帯電話ほどもある大きなバッテリーがとびでて付いています。せっかく一回りも小さくなって行動の自由を得たというのに、ちょっと落ち着いてコンピューターを使おうとすると、電源を探してしまうのです。

ブレークスルーは、エネルギー貯蔵のテクノロジーと、その他のテクノロジーが一緒になって、新しい物を開発することである。

従来のIT関連の発展の仕方は、自動車の分野などと比較すると、エネルギーを抜きにしてどんどん進み、最後にバッテリーを搭載するというものでした。エネルギーはいつも製品の、場所をとり、発熱をし、安全性を下げ、値段をあげる、頭の痛いお荷物のような扱われかたでした。ですから、エネルギーの問題はできるだけ省エネをすることで通 り過ごしたいカテゴリーだったのです。 エネルギー研究は、常に新しいエネルギー貯蔵方法の開発、新規材料の探索など研究開発がなされてきましたが、 材料から一歩一歩地道に開発していくため、理論が先行するコンピューターの分野のような速さでは進んでいくことはできません。エネルギー貯蔵方法のテクノロジーと他のテクノロジーが一緒になって、実用化を開発すべきでしょう。それぞれの分野が、互いの分野を理解しあって合体しそれぞれの特性を最大限生かした一番効率的で実力を発揮しやすい方法や形態やアプリケーションを創造していけば、斬新で新しいユビキタス製品を生み出していけると思います。それにより、全く新しい市場を産みだし、新たなユビキタス社会を実現し、人々の生活の質の向上をもたらすと考えます。
では、ユビキタスとは我々にとってどのぐらい重要なものなのでしょうか。

ユビキタステクノロジーは日本を再生するチャンスである。
まず、男性女性を問わず子供も大人も妊婦も高齢者も障害者も、その個々人のニーズにあったユビキタスの技術を利用して、快適な生活が送れるようになるのは非常にすばらしいことだといえるでしょう。特に日本において、ユビキタスはこれから最も注目すべきキーワードの1つとなると思われます。その理由は、以下の通 りです。

1)日本は極端な少子高齢化が目前に迫ってきている。
2)日本は元来、小さくて便利な物を作るのが得意である。
3)日本経済は、日本ならではの付加価値の高い「物作り」をしていかないと再生できない。
4)世界中の人々に等しくITや情報のチャンス、コミニケーション手段を広げるチャンスである。
5)日本は、電池をはじめとしたエネルギーデバイスの分野で世界一の技術を誇っている。

1)から説明していきましょう。 日本は、子供の出生率の低下から子供の人口の占める割合は極端に少なくなってきました。しかしながら、親が子供にかける教育費は高く、子供は通 学、塾、習い事などで長時間、広範囲に渡り活動しており、親のサイドからも子供のサイドからも携帯電話などのコミニケーションツールが必需品となってきています。子供と連絡をとりあったり居場所を確認したり、安全の面 からも親はユビキタスを利用したいと思っています。一方、高齢者の人口はそれとは対照的に増加し、2005年には成人の4分の1が高齢者になります。高齢者はなるべく自立して生活をし、つつましいながらも豊かな生活を楽しんでいきたいと考えています。従来の年寄りという概念とは異なり、これからの高齢者は文化的で活動的かつ活発です。どんどん趣味や買い物、旅行などで外出し、どこからでも、友人や家族と連絡をとることができ、緊急の時に通 報でき、自由に情報を得ることができることを望んでいます。ユビキタス技術を、快適な老後に生かそうとするでしょう。また年をとることによって生じる健康面 の不安や労働力不足をユビキタス技術に頼ることができます。家にいて健康チェックができ医師から適切な処方や診断をうけられれば何時間も病院で待つ必要はありません。家でバンキングやショッピングも可能です。少なくなった若年層の手を煩わせなくてすみます。

2)日本は、昔から箱庭、お雛さま、盆栽など精密な小さな物を作るのを得意としています。その伝統は引き継がれ、トランジスタラジオ、電卓、ウォークマン、小型自動車、MDプレーヤー、携帯電話、デジタルカメラなど、その小ささと技術の高さには定評があります。まさに日本のお家芸です。あらゆるものにチップを組み込み身に付けて移動することができる小型のユビキタスのハードウェア造りは、きっと日本の得意技なはずです。

3)本来「物作り」で国を造ってきたはずの資源の少ない日本が、労働力の安い中国や韓国、東南アジアなどに押されて、物作りの空洞化が問題化しています。しかしそれなりに安くていい製品が売られるのは、全世界の消費者にとっては歓迎されるべきことです。日本は、日本ならではの高い知識や技術をベースとした付加価値の高いものを作らなくてはいけません。長距離通 勤などで日常的に身一つで動き回っている日本人は、いいユビキタス製品なら少々高くても買うでしょう。それは世界の人々に、使い勝手は今一歩だが安価な商品と、少々高価だが高い付加価値の商品の選択を与えることになると思います。おそらくどちらのニーズもあるはずです。

4) 世界の国の中には、いまだに電気の通っていない地域や、固定電話の線の通 っていない地域、コンピューターやインターネットから立ち後れている地域などがあります。それらの人々と先進国とでは、衣食住などにおける貧富の差と同じくいやそれ以上に、情報やテクノロジー、コミニケーションの不平等が起こっています。けれど受信衛星などを介してどこからでも電話がかけられる時代です。エネルギー貯蔵の問題が解決すれば、電気の通 っていない地域の人々も携帯電話で遠くの人と話をしたり、情報を得ることができます。また、日本国内を見ても不平等は起こっています。全人口の一部である若年層にITテクノロジーの恩恵が偏っています。ユビキタス時代、もっとユニバーサルデザインに対して高い関心を払うことが重要です。もし日本がユビキタステクノロジーで他国に先んじて成功したら 、世界へ貢献できるいいチャンスです。

5)電池やバッテリーなどのエネルギー貯蔵の分野は、日本が最も進んでいます。バッテリーでも、キャパシタの分野でも、日本は世界から最も注目を浴びています。ユビキタスのネックとなっているエネルギーの問題に対して、日本がリーダーとなって解決に貢献できると思います。直井研究室で研究している新規エネルギー貯蔵方法は、新しいさまざまなユビキタス製品へ、大いに貢献できると考えています。