農工大の樹  その116

ヤマグワ
クワ科クワ属の種、学名:Cycas revoluta Morus bombycis Koidz. 漢字:山桑

  この種は樹高10m(時に15m)、直径40cm(時に70cm)になる落葉広葉高木ですが、空き地などに2m程度の低木がよく見られます。この種の分布は広く、サハリン、千島列島、北海道、本州、四国、九州、韓半島、中国南部など東アジアにみられます。クワの仲間はカイコの飼料として知られていますが、東アジアでは中国原産のマグワ(トウグワ、シログワ)が広く栽培されており、多くの品種が作り出されています。このクワの語源は「食葉(くうは)」、あるいは、「蚕葉(こは)」に由来するとの二説があるようです。黒紫に熟した実は甘く生食できることから、口の中や歯を紫にしながら食べた経験を持つ方も多いことでしょう。葉は乾燥させてお茶の代用にもします。また、枝の内側の白皮を焼酎に浸けた桑酒も造ります。この材はやや堅く、光沢があるので建築材、器具材、楽器、履き物、彫刻材などに広く利用されますが、生産量が少ないこと、利用に耐える大きさの個体が少ないことから、貴重な材でもあります。また、樹皮は強靱な繊維であり紙の原料になりますが、昔はそれを材料にした着物も織られていたようです。東京都八王子市は、かつて横浜に続く絹街道の重要な拠点でしたが、それにちなんでクワを街路樹に植えています。

農学研究院自然環境保全学部門 教授 福嶋 司
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