本学大学院の共同研究が朝日新聞で紹介されました

 「光合成の司令塔」遺伝子の発見〜朝日新聞掲載の研究内容について紹介します。
 大学院連合農学研究科生物生産科学専攻生物制御科学大講座・生物制御化学研究室では、天然物化学を基盤とした微生物二次代謝産物化学、植物ホルモンに関する植物科学研究等を行っています。この度、理化学研究所および東京大学との共同研究から、植物ホルモン・ブラシノステロイド情報伝達に関する新しい因子を発見した論文が英国の著名な植物科学専門雑誌THE PLANT JOURNALに掲載予定となり、その内容が朝日新聞2010年1月15日付け紙面の科学欄で紹介されました。
 当該研究には、大学院連合農学研究科博士課程に所属していた小松知之氏(現在、JT勤務)と川出洋講師らが研究グループに加わり、ブラシノステロイド類のホルモン量を有機合成化合物を用いて人為的に低下させてもホルモン異常による植物の形・色が変化しない突然変異株を取得しました。この突然変異の原因遺伝子を調べた結果、BPG2と名付けた遺伝子が破壊されていることが分かりました。この遺伝子から作られるタンパク質は、細菌や緑藻類、高等植物のゲノムに広く存在することがわかっていましたが、このタンパク質の働きが何であるかはまったくわかっていませんでした。ブラシノステロイドホルモン量が正常でBPG2遺伝子が破壊されたモデル植物のシロイヌナズナでは、淡黄色の葉色となり、植物体全体が矮小化しますが、一番影響を受けたのが葉緑体の形や機能の異常です。このBPG2遺伝子破壊植物では、タンパク質の設計図としての働きを持つ葉緑体メッセンジャーRNAの量は変化しないのに、葉緑体リボゾームRNAの長さに異常が生じていることが判りました。その結果、葉緑体中のタンパク質量が減少していたことから、BPG2タンパク質が葉緑体中の多種類のタンパク質の翻訳プロセスと合成に関与し、葉緑体の発達、光合成機能を調節する「司令塔」のような役割を果たすものと私たちは考えています。この司令塔役のBPG2遺伝子の働きを調節して葉緑体を活性化することが出来れば、植物機能を生かしたCO2削減や低炭素社会の実現が期待されるとして、注目を集めました。
 小松氏は上記研究を含む関連の成果をまとめ、今春学位取得を目指しています。

 詳細な解説は理化学研究所・プレスリリースに掲載されています。 http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2009/091214/index.html(別ウィンドウで開きます)
<土に植えたアラビドプシス(シロイヌナズナ)の健全な植物体とbpg2変異株の違い> <植物細胞内(特に葉緑体内)でのBPG2の働き>
 
<左から夏目雅裕教授(主指導教員)、中野雄司理化学研究所博士、小松氏、川出講師>
 
   

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