農工大の樹  その110

   
トガサワラ

(マツ科トガサワラ属の種、学名:Pseudotsuga japonica Beissner)

 この種は樹高30m、胸高直径80cm以上にもなる常緑針葉高木で、四国東南部と紀伊半島中部以南だけに分布する日本固有種です。そこは年間降水量2,000から3,000mmの多降雨地域で、明るい尾根部を中心に分布しています。また、この種は2,500万年以上前の第三紀に栄えた遺存種といわれています。この種の発見は明治時代で、和名は樹形がツガ(トガ)に似ており、材がサワラに似ていることから名づけられました。学名の属名のPseudotsugaは「偽のツガ」と言う意味です。この属に属する種は北半球に4種あります。東アジアには日本のトガサワラ、台湾のタイワントガサワラ、中国雲南省のシナトガサワラの3種が分布し、北米(ロッキー山脈に沿う地域)にはダグラスファー(米松)1種が分布します。北米のものは特に大きく、ブリテッシュコロンビア州のバンクーバー島には高さ100m、胸高直径5m以上の固体が林立している森が見られます。この属の種が太平洋を挟んで東西に分布することは興味深い現象で、類似する分布パターンを示すヒノキの仲間と同様に、遠い過去の歴史を反映した結果といわれています。この種の材は軽くて軟らかいことから加工は容易で、建築材、器具材、船舶材などに使用されました。しかし、産地が限られており生産量が少ないことから、利用は一般的な利用ではなかったようです。
環境資源共生科学部門 教授 福嶋 司
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