農工大の樹  その97

   
チドリノキ
(カエデ科カエデ属の種、学名:Acer carpinifolium Sieb.et Zucc.、別名:ヤマシバカエデ)
  この種は高さ8-10m、直径30-40cmになる落葉高木で、本州の新潟県と岩手県以南、四国、九州の山地の谷間に生育します。この種の葉の形は他のカエデ科の種とは異なっています。一般に、カエデ科の種は蛙が足の指を広げたような形、いわゆる蛙手の形か、一枚の葉が何枚かに分かれた複葉の形をしています。しかし、この種の葉は1枚の長楕円形で、先が尖り、鋭い重鋸歯を持っています。この葉の形はカバノキ科シデ属のクマシデやサワシバにとてもよく似ています。学名の種小名carpinifolium「シデ属の葉をした」という意味であり、その類似性を示しています。しかし、この種は葉が対生につくというカエデ科の特徴を持つことで、シデの仲間から容易に区別できます。花は淡黄色で5月に開花し、10月には写真のようなプロペラ状の実をつけます。和名のチドリノキは「千鳥の木」の意味で、翼のある果実を鳥の千鳥の飛ぶ姿に見立てたものです。また、ヤマシバカエデは「たきぎ」となるカエデという意味です。この種の材は帯黄色から淡紅色で、堅くて緻密であり、装飾用の家具材、器具材として利用されました。また、昔は刀の鞘や柄にも使われました。カナダでサトウカエデからメイプルシロップを採るように、この種でも春先には樹液から砂糖を採ることができます。
環境資源共生科学部門 教授 福嶋 司
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