平成19年度修了式・学位記授与式告辞
 本日は、東京農工大学大学院連合農学研究科を構成する茨城大学学長 菊池龍三郎先生、および宇都宮大学学長 菅野長右ェ門先生をはじめ、各構成大学の農学部長、理事のご臨席のもと、平成19年度の学位記授与式を挙行できますことは、本研究科全構成員の大きな喜びとするところであります。

 本日、学位記を授与されました課程博士48名、論文博士13名、合計61名の皆さん、おめでとうございます。皆様がこれまでの研鑽と努力の結果、博士の学位を取得されましたことに対し、我々一同、心よりお祝いを申し上げます。学問に到達点はありませんが、博士号の取得は、研究者として歩むこれからの長い人生の中でも、もっとも明確に位置づけられ、かつ一段の飛躍の機会ともなる節目です。ここに到る道は決して生易しいものではなかったと思います。研究に行き詰まり、悩みに悩んだこともあったかもしれません。しかし皆様はその壁を見事に乗り越えました。素晴らしいことです。皆さんが示されたたゆまぬ努力と研鑽に拍手を送りたいと思います。今日ここに、皆さんが新しい学位取得者として連合農学研究科の輝かしい歴史に序せられることは、我々の大きな喜びであり、心より祝意を表したいと思います。
 また、この日を待ちわびておられたご家族の皆様をはじめとした関係各位のお喜びもひとしおと思います。心よりお祝い申し上げます。新たに博士になられた皆さんには、これまで皆さんを支えてこられたご家族やご指導をいただいた先生方などに対して、また裏方として皆さんをサポートしてきてくれた事務の方々にも改めて感謝の気持ちを思い起こしていただきたいと思います。
 本日の修了者の中には17名の外国からの留学生が含まれております。皆さんは異なる言語、文化、習慣の壁を克服し、学位を取得されました。今日までの努力に対して深く敬意を表します。本学で身につけた知識や技術を母国の発展のために大いに役立てて下さい。さらに、皆さんの母国と日本との友好の架け橋となっていただくよう、お願い致します。
 さて、皆さんは今日からは研究者として独り立ちし、独自のフロンティアを切り開いていかれると思います。社会は今、高度に専門化された知識社会となっております。皆さんの活躍の場は広く、かつその役割がますます大きくなる方向に変化してきております。しかし、この高度化した社会の変化は極めて急速で、かつ多様化しつつあります。皆さんが博士論文をまとめる中で身につけた専門知識は今でこそその分野でのスペシャリストというにふさわしい高度なものですが、それも急速に陳腐化していくことを忘れないで下さい。皆さんには、これからはたゆまず自ら道を切り開き、新たな知を創造していくことが求められます。ユダヤには、
  『学習することは一生涯の仕事だ』
という格言があります。新たに博士となられた皆さんには、この格言のように、たゆまぬ能動的学習が必要だと心得て下さい。そうでなければ、先端的研究者としての役割を果たせなくなるからです。
 皆さんがこれから取組む多くの課題では、異なる分野が複雑に絡み合ったものであるものが多くなるでしょう。思わぬところに影響が及ぶことも珍しくありません。これらに適切に対処するには、グローバルな視点を持ち、ことの本質を見抜く力のある研究者であることが求められます。すなわち、真の意味での“知恵”(ギリシャ語ではソフィア)のある研究者・技術者へと成長することです。
  「知恵とは、学校で学べるものではなく、一生をかけて身につけるべきものである。」
と相対性理論で有名なアルバート・アインシュタインは言っております。皆さんにはいつまでも若々しい探究心を持ち続け、日々の努力によって知恵のある研究者・技術者へと成長されることを期待したいと思います。
 それには、「高い志」を持ってほしいと思います。高い志を持つとは、しっかりとした目的意識のもとに高い目標を掲げ、倫理観に基づいて日々努力し行動することです。高い志に基づいたたゆまぬ努力の先には必ずや光明が見えると思います。
 いま我々は、地球温暖化や環境汚染、食料不足、エネルギー不足など、地球を破壊し、人類の生存そのものを脅かすような大問題に直面しております。かけがえのないこの地球を次の世代にしっかりと受け継げるようにする責任が我々にはあると思います。これらの課題の解決はこれからの科学技術に課された重要課題ですが、皆さんは自らの専門を通して、これらの課題解決に広い範囲で貢献できますし、課題解決の中核を担える立場にあります。皆様の活躍を期待したいと思います。
 皆さんは本日で大学を巣立ち、社会に出て活躍されますが、それは大学との結びつきがなくなることではありません。皆さんのこれからの研究生活において、これまでの指導教員やそれ以外の先生方との研究上の接点を持ち続けることは、皆さんにとって大きなプラスとなるでしょう。また、研究に直接関係は無いとしても、大学の先生方や先輩、後輩との人的ネットワークを維持することはもちろん、それをより強固なものにし、あるいは新しい結びつきを広げてゆくことも非常に重要です。それは皆さんが今思っている以上に価値あるものになることは間違いありません。我々は巣立ち行く皆さんには常にドアを開いております。連合農学研究科との強い絆を大切にして下さい。そして一年に一度は大学を訪れ、後輩に皆さんの活躍ぶりを披露して下さい。皆さんの社会での活躍振りを知ることができれば、それは後輩にとって大きな励みになるものと思います。

 最後になりましたが、これまでに修得された学識と技術を存分に活かして活躍されますよう祈念し、また、連合農学研究科のさらなる発展のため、構成大学である茨城大学、宇都宮大学、そして東京農工大学のさらなる発展のため、同窓会活動などを通じて、ご支援くださいますようお願い申し上げまして、ここに告辞といたします。
 
平成20年3月14日
東京農工大学長 小畑 秀文
 

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