平成19年度 秋季修了式告辞

 本日、学位を取得されました課程博士31名、論文博士8名、修士26名のみなさん、おめでとうございます。晴れて学位記を授与された皆様に、心よりお祝い申し上げます。また、この日を待ちわびておられたご家族の皆様をはじめとした関係各位のお喜びもひとしおと思います。心よりお祝い申し上げます。新たに博士あるいは修士になられた皆さんには、これまで皆さんを支えてこられたご家族や先輩、ご指導をいただいた先生方などに対して、改めて感謝の気持ちを思い起こしていただきたいと思います。
 さて、博士課程を修了された皆さんはこれからひとり立ちした研究者・技術者として社会で活躍されます。修士課程を終えられた方々の多くも社会に出て活躍される方が多いと思います。これまでに習得した専門知識に益々磨きをかけ、その分野でのスペシャリストとして成長されるように大いに期待しております。皆さんがこれから活躍される社会は厳しい競争の社会です。自立した主体的な行動が求められるでしょう。皆さんが大学で学んだものは、多くの場合、これからの社会での活躍に必要な知識そのものではありません。しかし、それは仕事を進める上で必要な知識を自ら学び、習得する力を与えるものなのです。仮に学んだものが仕事に直接的に役立つ専門知識であったとしても、それは数年で陳腐化してしまうでしょう。学ぶことは学位取得で区切りが付くわけではありません。これからは、仕事をしつつ学ぶ毎日ということです。現代の科学技術上の多くの問題は複合的です。一つの製品を開発する場合を考えても、それを作るのに必要な資源やエネルギーの問題、製造過程での廃棄物の問題、製品が社会へ及ぼす影響やその役目を終えて廃棄あるいは回収される過程まで含んだ環境問題など、一つの専門分野をはるかに超える課題を考慮せねばなりません。すなわち、製品開発に直接的に関わる深い専門知識が必要なことはもとより、製造から廃棄に到るまでの過程に横たわる種々の問題を考えると、幅広い知識に裏打ちされた総合的な判断力が求められることになります。皆さんには幅広い基礎知識に裏打ちされた高度な研究者・技術者として成長していただきたいと思います。そうなるには日々の学習が必須です。大学を離れても、日々学ぶ心を持ち続けて下さい。
 「教育とは自分の頭で考えることを教えていくことだ」といわれます。本学の教育の理念である課題の探求能力と解決能力の育成はまさにそのことを指しているわけであります。本日学位を授与された皆さん、皆さんはこれから色々な課題に遭遇するでしょう。その解決法を自らの頭で考え、そして行動することが求められます。その積極性を常に見失わないで下さい。
 世界の中の日本を考えたとき、今大きな転換期にあることがわかります。先進国の中で際立って深刻な財政危機、生産年齢人口と65歳以上の高齢者人口とが3対1という超高齢化社会、食料自給率はわずかに40%、資源の乏しい中での石油、鉱物資源の価格高騰などなど、日本は幾多の難問を抱えております。しかも欧米以外の中国、インド、韓国などの新興勢力が急成長しつつあり、日本の産業地盤は安泰とはいえません。江戸時代の末期にペリーが浦賀沖に来たことを契機とし、日本の若者は列強の中での日本という国のありかたを真剣に考え、学び、行動し、近代化への変革を成し遂げました。今の日本はペリー来航が意味したのと同じような状況にあるように思えます。30年近く前は「Japan as Number One」といわれ、世界の目標となっておりました。その地位は今や失われたといっても過言ではありません。この厳しい状況下で日本を再び世界から目標として見られるような国にするのは政治だけの力ではありません。一般社会人一人一人の自覚が大きな力になると思います。MORE SENSEを基本理念に掲げ、「地球を回そう、農工大」を標榜している本学で学んだ若い皆さんこそ、その先頭に立つべきでしょう。東京農工大学で学んだ誇りを持って、グローバルな立場からの活躍を期待したいと思います。
 日本という国が厳しい状況にあるのと同様に、国立大学法人にも厳しい対応が迫られつつあります。国内の大学間の競争だけではありません。国際化への対応も急がれます。本学は農学と工学、およびその融合分野において特色ある教員を擁し、厳しい競争社会の中で高く評価される実績を残してまいりました。規模の大きな大学と対等以上の実績を挙げている部分もあります。しかし安心はできません。たゆまぬ改革の努力をし、科学技術系大学としての教育、研究、それに社会貢献などでトップクラスの大学という地位を維持すべく、これからも努力してまいりたいと思っております。これには同窓生との協働は不可欠です。社会に出られてからも、本学との絆は末永く維持していただきたいと思います。我々もそれに応えられるように努力をしてまいります。
 本日の修了生の中には、14ヵ国から34名の外国人留学生が含まれております。留学生の皆さんは異なる言語、文化、習慣の壁を克服し、学位を取得されました。今日までの努力に対して深く敬意を表します。母国に帰られる方々には、日本で学んだ専門知識を生かし、自然環境との調和のとれた母国の発展に大いに寄与されることを祈っております。皆さんには母国に戻ってからも、本学との関係を密に保っていただきたいと思います。中華人民共和国には中国同窓会が既に組織されており、定期的な交流の機会もありますが、それ以外の国では同窓会の組織化はこれからです。できれば皆さん自らが先頭にたって同窓会を組織して本学との連携を深める中核となっていただきたいと思います。
 グローバル化が進み、科学技術上の問題への取り組みにおいても一国の枠を超え、世界各国との相互理解と相互協力が必須という時代になってきております。今は、通信手段、交通手段が飛躍的に発達し、空間的、時間的距離が劇的に縮まってきておりますが、解決のキーとなるのは信頼関係に根ざす人的ネットワークが存在するかどうかであると思います.本学は世界各国からの留学生が学ぶ国際感覚あふれる大学です。この学園で培った国際的な人的ネットワークは皆さんの宝物になるでしょう。これを大切に、かつより大きく育てるよう期待したいと思います。
 最後になりましたが、これまでに修得された学識と技術を存分に活かして活躍されますよう祈念し、また、本学のさらなる発展のため、同窓会活動などを通じて、ご支援くださいますようお願い申し上げまして、ここに告辞といたします。
 
             平成19年9月19日 
                            東京農工大学長 小畑 秀文  
  

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