農工大の樹  その82

   
シラカンバ
(カバノキ科カバノキ属の種、学名:Betula platyphylla var. japonica Hara
         別名:シラカバ、漢字:白樺) 
 この種は樹高20m、胸高直径40cmにもなる成長の早い落葉広葉樹で、わが国では福井県、静岡県以北から北海道までに分布します。この種の母種が樺太、南千島、中国、シベリアなど北方の亜寒帯地域に広く分布することから、日本の種は北から南下してきた変種といえます。この種は高原などで崩壊地、森林伐採の跡、山火事跡などに多くみられ、時に大群落を作ります。これはこの種が陽樹で生育に多くの光を必要とすること、熱にあうと種子の休眠が解除され発芽する性質があるためです。この種の樹皮は白色で、薄紙状によく剥げます。昔の登山家は山中で雨にあった時にこれを剥ぎ「たき付け」にしたようです。また、最近では心ない人が、この幹の美しさに惹かれて樹皮をナイフで剥ぎ取ることがあります。困ったことに剥いだ跡の幹は黒くなり、それがいつまでも消えず、大変興ざめな姿になります。これと同じ性質は古い枝が落ちた跡にもみられ、この写真にみられるように「への字」の黒い模様となります。これもこの種の特徴の一つです。この種の葉は三角形状で葉脈は5-8対です。同じような場所に生育するダケカンバは、葉が長楕円形で、表脈は7-12対であることで区別できます。北方圏の人々は、早春にこの仲間の幹に穴をあけて、そこから溢れるほのかに甘い樹液を、健康飲料として飲む習慣があります。日本でもアイヌ民族が、飲んだり菓子を作る時に利用していたそうです。その成分はグルコース、フラクトース、アミノ酸、ミネラルなどで、その量も樹齢20年の木でなんと1シーズンに100から180リットルの樹液が採れるというから驚きです。材は利用範囲が広く、建築材、器具材、彫刻材、マッチの軸などに使われていますし、葉は黄色の染料ともなります。また、寒冷地の街路樹、公園樹としても一般的です。また、北海道ではその種の樹液を瓶詰めにして販売していますので、気をつけていれば空港などで賞味する機会もあるでしょう。
環境資源共生科学部門 教授 福嶋 司
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