農工大の樹  その70

  
ヒサカキ
(ツバキ科ヒサカキ属の種、学名:Eurya japonica Thunb.)

 この種は樹高7mにもなる雌雄異株の常緑樹ですが、普通には1〜3mの低木のことが多いようです。本州各地、四国、九州、琉球列島に広く見られ、外国では、韓半島および済州島、台湾にも分布します。この種の花は3〜4月にかけて、他の樹種に先駆けて白か、うす黄色あるいは紅紫色の色で咲き、下向きにつきます。この花特有の強烈な匂いは、遠くからでもその存在を知ることができるほどです。雌株はその後、3mm程度の黒い丸い実をつけます。葉は楕円形で光沢があり、縁に鈍い鋸歯があるのが特徴です。サカキが分布しない関東以東では、この種がサカキの代用として神事に使われます。この種の名前(和名)はサカキに比べて小形であることを示す「姫サカキ」が訛ったという説が一般的ですが、サカキに似ているがサカキにあらずとして「非サカキ」と言う意味もあるといいます。ちなみに、サカキは関東以西から沖縄にかけて分布し、葉がやや大型で、鋸歯がないことでこの種と容易に区別できます。この種はあまり大木にならないことから材としての利用はなく、まれに小細工用に使われる程度ですが、枝葉、果実などはチラシャケ染めの染料に使われます。私たちが普通に見かけるのは、放置された雑木林の中に生育する個体や生け垣に植えられているこの種でしょう。
    
環境資源共生科学部門 教授 福嶋 司
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