平成17年度大学院連合農学研究科修了式告辞

 本日ここに、平成17年度、東京農工大学大学院、連合農学研究科学位記授与式を挙行することになりましたことは、誠に喜びに堪えません。本日は、連合大学院を構成する大学より、茨城大学学長菊池龍三郎先生、宇都宮大学学長菅野長右ェ門先生、また、各構成大学の農学部長、理事・副学長のご臨席を頂いております。
 本日、学位記を授与されましたのは、課程博士49名、論文博士7名の計56名であります。晴れて学位記を授与されたすべての皆さんに、心よりお祝い申し上げます。また、この日を待ちわびておられたご家族の皆様をはじめとした関係各位のお喜びもひとしおと思います。心よりお祝い申し上げます。新たに博士になられた皆さんには、これまで皆さんを支えてこられたご家族やご友人、先輩、ご指導をいただいた先生方などに対して、改めて感謝の気持ちを思い起こしていただきたいと思います。
 本日修了された課程博士の中には、18名の外国人留学生が含まれております。出身国は9ヵ国でありまして、その国名を五十音順に紹介いたしますと、イランイスラム共和国、インドネシア共和国、スーダン共和国、大韓民国、中華人民共和国、ドミニカ共和国、パラグアイ共和国、バングラデシュ人民共和国、ベトナム社会主義共和国となります。留学生の皆さんは異なる言語、文化、習慣の壁を克服し、学位を取得されました。今日までの努力に対して深く敬意を表します。
 さて、皆さんはこれからひとり立ちした研究者として社会で活躍されます。大学の使命は、古くから教育と研究と言われておりましたが、最近は三番目の重要な使命として社会貢献が声だかに言われるようになってきました。現在の社会は深刻な問題を沢山抱えております。地球規模の課題としては温暖化、環境破壊、エネルギー不足、食料問題、などがあり、いずれも複雑な要因が絡んだ大変重要でかつ解決困難な問題です。これらを克服するために大学が大いに貢献することが求められているわけです。我々連合農学研究科としてもこれらの問題解決への期待に十分に応えようと努力をしております。応えるための基礎となるものは、もちろん教育と研究です。教育と研究に優れた実績をあげることこそ、社会貢献をする上での第一条件です。本日めでたく博士課程を修了された皆さん、あるいは論文博士となられた皆さん、皆さんの存在そのものが連合農学研究科での教育と研究の成果の大きな部分を占めているということができます。地球温暖化や環境問題、食料問題など、二十一世紀が抱える大問題の多くが農学にかかわりのあるものであることにお気付きでしょう。皆さんの専門を通して貢献できる範囲は非常に広く、かつ課題解決の中核を担えるものといえるでしょう。農学というキーとなる専門領域を通して課題の解決に寄与され、持続的な地球環境の回復に大きく貢献されんことを期待したいと思います。皆さんのそのような活躍が連合農学研究科に期待される社会貢献の大きな部分を占めていると思っております。皆さんはそういう意味でも期待の星です。思う存分活躍してみてください。
 皆さんの研究者としての門出にあたって、2つの言葉を紹介したいと思います。一つはアメリカの思想家で詩人でもあるラルフ=ウォルド=エマーソンの言葉で、次のようなものです。「人々は驚くことを愛する。そしてこれこそ科学の種である。」と。「驚く」は「意外」と言い換えてもよいと思います。予定あるいは推測の範囲を出ることを意味します。そこに科学の種がある、というわけです。ニュートンはりんごが木から落ちるのを見て万有引力の法則発見に至る思考のきっかけを得たといわれております。当たり前のこととして見過ごさなかったわけです。ほんのちょっとしたことに“なぜ、どうして”という疑問を持ち、漫然と見過ごさないことの重要性をいっている言葉です。電気を伝えるプラスチックを発明したことによりノーベル賞を受賞した白川英樹博士も、間違った条件で行った実験で得られたサンプルに興味を抱いたことがノーベル賞に結びつく研究のきっかけとなったといわれております。自然は偉大な教師です。科学の種は皆さんの周りに沢山あるということです。皆さんの科学者・技術者としての感覚は瑞瑞しさに満ちていると思います。驚きを覚える新鮮さに満ちた科学者の目をこれからも長く持ち続けていただきたいと思います。
 もう一つはシェークスピアと同時代の哲学者として有名なフランシス=ベーコンの言葉です。「青年たちは判断するよりも発明すること、評議するよりも実行すること、決まった仕事をするよりも新しい企てに適している。」というものです。若さあふれる皆さんにふさわしい言葉と思います。失敗を恐れず、自らの感性に基づいて、色々なことにチャレンジすることの重要性を説いている言葉です。失敗の中にも次のステップへの科学の種があります。積極的な研究に取り組んで下さい。
 最初にも触れましたように、連合農学研究科は世界各国からの留学生が学ぶ国際感覚あふれる研究科です。皆さんには博士論文の課題に取り組む過程で多様な国からの多くの友達ができたことと思います。その国際的な人的ネットワークは皆さんの宝物になるでしょう。今は、通信手段、交通手段が飛躍的に発達し、空間的、時間的距離が劇的に縮まってきております。一方では、問題解決への取り組みが国際的広がりを持つものになり、一国の枠を超え、世界各国との相互理解と相互協力の下で進めることが必須という状況になってきております。皆さんが築いてきた人的ネットワークはそのような場合に大きな力となるでしょう。連合農学研究科を核とした修了生の間の国際的なネットワークを有効に活用しつつ、さらに強固なものにしていっていただきたいと思います。我々もそれに惜しみなく支援して行きたいと思っております。
 最後になりましたが、今後とも皆さんが心身ともに健康で、これまでに修得された学識と技術を存分に活かして活躍されますよう祈念し、また、連合農学研究科のさらなる発展のため、同窓会活動などを通じて、ご支援くださいますようお願い申し上げまして、ここに告辞といたします。
 
 
                     平成18年3月17日
東京農工大学長 小畑 秀文
  

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