平成18年度大学院連合農学研究科入学式告辞
 本日ここに、平成18年度、東京農工大学大学院、連合農学研究科入学式を挙行することになりましたことは、誠に喜びに堪えません。本日は、連合大学院を構成する大学より、茨城大学学長菊池龍三郎先生、宇都宮大学学長菅野長右ェ門先生、当研究科長國見裕久先生をはじめ、各構成大学の農学部長、理事・副学長等関係の方々多数のご臨席を頂いております。
 本日、新たな連合農学研究科への入学者は68名です。新入生の皆さん、入学おめでとうございます。皆様を心より歓迎いたします。
現在、人類は地球環境の破壊、人口の急増、資源の枯渇など、かってないほどの危機に直面しております。地球上の生物が共存できる環境の維持、安全な食料の確保、暮らしを支える資源の確保、健康な生活の維持は、われわれの「いのちと暮らし」を支えるために必要不可欠です。農学はまさに「いのちと暮らし」の総合科学といわれておりますが、これらの問題解決に繋がる重要な学問分野として位置づけられております。二十一世紀はまさに農学の時代といっても過言ではありません。皆さんはこの農学の持つ意味に共感し、ご自身の専門分野として選ばれたものと思います。本研究科は、このような社会的要請を受け、二十一世紀が抱える課題の解決のための日本およびアジアでの中核的な研究推進および研究者養成のための博士課程大学院として発展し、現在ではその地位を不動のものとしております。皆さんの期待に十二分に応えられる研究科です。
 さて、皆さんはこれから自立した研究者を目指して研究に取り組むことになります。そこで、私の希望を幾つか述べたいと思います。
 まず、皆さんは学位取得のための研究に取り組むわけですから、独創性のある研究にチャレンジしていただきたいと思います。研究を進める上で最も大切なことは皆さん自身が強い興味を抱くテーマを持つことです。何としても自分の力でこの問題を解決してやろう、という強い熱意のもてるテーマです。自然科学は、それまでに明らかになっていること、実現できていることの上に新しいことを積み上げていくものです。したがって、研究を始める前に、まず前人が成し遂げたことを調べなければなりません。その上で、自分が頭の中に抱いた課題を客観的に評価し、目標とするものの意義を確認しなければなりません。それができれば、あとは皆さんの尽きぬ興味、そのテーマへの執着心が大きな力となって研究を進展させることができるでしょう。研究に取り組むにあたっては、自分自身がおもしろいと実感し、全力で取り組めるテーマを持つことが重要であることを忘れないで下さい。
 次に、皆さんが所属する本連合農学研究科の持つ利点を最大限に活用していただきたいということです。本研究科の最大の特色は、三つの大学の教官から構成されているところにあります。距離的には少し離れておりますが、三つの大学間では、大学の枠を越え且つ専門の領域をも越えた協力関係ができております。これは他に無い本研究科の優れたところです。皆さんは皆さんの研究テーマに最もふさわしい教官のもとで研究を進めるわけですが、最近の研究は融合化が進み、広い専門分野の知識を要求されるものが増えてきております。そのような状況でも、本研究科は幅広い研究者集団から構成されておりますので、主指導教官以外でも皆さんに適切な指導・助言ができる教官が配置されております。教官は喜んで皆さんの相談にのってくれるでしょう。これが本研究科の特色でもあります。皆さんがこの特色ある制度を有効に活用して、所期の目的を達成することを願っております。
 次に皆さん自身の心構えについてです。皆さんは博士課程の学生ですから、全ての点で自ら進んで考え、調べ、行動することが求められます。さらには博士論文の中では新たな知を生み出すことが条件となります。教官から与えられることを待つのではなく、自ら求めて下さい。求めれば、それに応えられるのが本研究科です。そして一つの分野のスペシャリストになって下さい。これに関しては世界に胸を張って情報発信できる、という自信の持てる成果を期待したいと思います。
 一方、広く学ぶ、ということも重要です。狭い専門的知識や技能のみでは対処できない問題が多くなってきているからです。幅広い教養と総合的な判断力や優れた創造力が要求されるわけです。したがって、皆さんには自らの専門領域を越えて広く学ぶことが求められるでしょう。広く学ぶ、ということは全体像を頭に常に描けるようになる、という意味で、深さは必要としません。しかし、全体を見通した総合的な判断力は簡単に短期間で獲得できるものではありませんが、それを育んでいくための基盤を是非大学にいる間に作っていただきたいと思います。皆さんは博士課程修了後、研究者として過ごすことになると思いますが、次第に研究グループ全体にかかわる決断などを迫られる重要な立場に立つことになるでしょう。全体像の中での位置づけが的確にできる、ということは、自分の研究方針の決定だけでなく、グループ全体の方針決定などに必要なリーダーとしての重要な資質です。今からその訓練をしていただきたいと願うものです。
 新入生68名の中には、11の国と地域、具体的には中華人民共和国、大韓民国、台湾、アフガニスタン・イスラム共和国、イラン・イスラム共和国、インドネシア共和国、タイ王国、ハンガリー共和国、フィリピン共和国、ベトナム社会主義共和国、ヨルダン・ハシェミット王国から来日された26名の留学生が含まれております。大変国際色豊かな研究科です。留学生の皆さん、言葉も習慣も異なる日本における生活は、何かと苦労も多いかと思いますが、皆さんの先輩も沢山在学しておりますし、先輩の皆さんは立派な成果を挙げて博士の学位を取得しておりますので、安心して下さい。勉学・研究とともに1日も早く日本での生活になれ、日本文化についても造詣を深めていっていただきたいと思います。
 今はグローバル化の時代と言われております。卒業後の活躍の場は世界を視野に入れるべきでしょう。そのために、本研究科において国際人としての資質を大いに磨いていただきたいと思います。異なった国や民族の風俗習慣、宗教、歴史、政治、経済など、背景となる部分を十分に理解することは、これからのグローバル化の時代で活躍するには必須のこととなるでしょう。お互いの理解の上に成り立った真のグローバル化に貢献をしてほしいと思います。それは国と国との間の親善をはかる、という視点からは立派な外交官の役割をしていることにも繋がります。そのような真の国際人としての訓練の場として本研究科での生活は大いに役立つものと思います。
 以上、連合農学研究科の大学院生としての生活のスタートにあたって、私の期待したいことを述べてみました。皆さんが世界に向かって大きくはばたく姿を今から頭に描きつつ、これからの大学院での研究が順調に進展し、3年後には修了式で再会することを期待して、告辞といたします。
 
    平成18年4月14日
  東京農工大学長 小畑 秀文 


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