◎  平成17年度 大学院 連合農学研究科 入学式告辞

 
 平成17年度東京農工大学連合農学研究科の入学式にあたり、関係者を代表して当博士課程に入学される皆さんを歓迎するとともに心からお祝い申し上げます。
 本日の入学式には、連合農学研究科構成大学である茨城大学の菊池龍三郎(きくち りゅうざぶろう)学長、宇都宮大学の田原博人(たばら ひろと)学長をはじめ國見研究科長、三大学の農学部長及び理事等関係者の方々多数のご臨席を仰ぎ、皆さんを祝福していただいております。
 本日、新たに連合農学研究科に入学されます学生諸君は75名で、茨城大学に20名、宇都宮大学に17名、東京農工大学に38名がそれぞれ配置されます。本連合農学研究科の最大の特色は、三大学にまたがる複数の教官から研究指導を受けられることです。皆さんがこの特色ある制度を有効に活用して、所期の目的を達成することを願っております。
 なお、75名の中には中華人民共和国、大韓民国、カンボジア王国、スリランカ民主社会主義共和国、ホンジュラス共和国、インドネシア共和国、フィリピン共和国、タイ王国から来日された27名の留学生がおります。留学生の皆さんには勉学・研究とともに日本の文化についても造詣を深めていただきたいと思います。また、日本人の学生の皆さんも連合農学研究科が持つこの国際的環境を積極的に利用して、異なる文化の理解に努めてください。そして国際的な交流の輪を広げていって欲しいと思います。文化が違えば、ものの見方、考え方、価値観が違ってきますが、これを認識しお互いを認め合うことは相互理解の大切な第一歩であるとともに、地球の平和と発展に欠かすことができません。
 さて、皆さんはこれから本格的な研究に取組まれることと思いますが、研究においてはいつも独創性が大切です。日本語で独創的という言葉は英語では「オリジナル」という言葉に相当しますが、英語の「オリジナル」という言葉には「他にはない固有のもの」というかなり強い意味が込められております。研究においてこの独創性を発揮するには絶えず素朴な疑問を発し、いろいろな事を想像、英語では「イマジン」ですが、してみることが大切です。研究過程の苦しさは、この「想像」が実際に正しかった時、一瞬にして感激に変わってしまいます。そして、しばしば大きな発見になるのです。人類はこのようにして様々な原理を発見し、いろいろな技術を開発してきました。その最先端の成果の一つとして、土星探査機カッシーニがあります。この探査機は1997年10月に打ち上げられ、6年8ヶ月にもわたる飛行を経て今年、土星に接近し、見事な土星の輪の写真を送ってきました。これから、土星の衛星となって数年間にわたり土星の観察データを地球に送ってくれることになっており、太陽系の謎がまた少し解き明かされるのではないかと期待されます。
 一方、目を地球に転じて、地球上のいろいろな出来事に注意を向けて見ますと、いろいろな難問が新聞記事をにぎわしております。その中で、私が気がかりなのは、地球の温暖化です。人類の活動は巨大化しており、人口と経済の幾何級数的な成長によって、地球環境は大きく変わりつつあるのです。今から350年前の1650年の地球の人口は約5億でしたが、2005年の現在は63億です。最近の予測によれば、皆さんが定年退職する西暦2050年には 85億となります。そして当然のことながらエネルギーの消費も増大し、そのエネルギー源から排出される炭酸ガスは膨大な量に達し、この炭酸ガスが地球温暖化の大きな原因となっております。炭酸ガスを吸収する森林面積も減少の一途にあり、地球を定常状態を維持するには新たな知恵が必要になってきたのです。
 また、この増加した人口を支えるに必要な食糧生産も重要課題であります。すでに地球上における農地の拡大は水資源の不足から限界に近づいており、その上、乾燥による広大な農地の砂漠化が徐々に広がりつつあります。中国黄河の流域、中央アジアの巨大な湖の砂漠化、アフリカのサハラ砂漠の拡大はよく知られております。人口一人当たりの食糧生産を地球規模で見てみますと、1980年がピークとなっており、すでに食糧生産が人口増加に追いついてゆかなくなっているのです。その上地球温暖化に伴う気象変動は、食糧生産にも大きな影響を与えるようになっており、いろいろな資源をめぐる国際的な摩擦はますます増えてくるのではないかと予想されます。
皆さんは豊かさを実現した日本にあって、是非このような世界の状況にも関心を払い、新たな知の創造によって困難な問題の解決に取り組んでいっていただきたいと願っております。
 さて、これから青葉の季節を向かえ、緑のキャンパスで皆さんの研究生活が始まりますが、時には研究の合間を見つけてリフレッシュの時間も作ってください。上手なリフレッシュ、つまり気分転換は研究の効果を高める上でも大切であります。そして、リフレッシュには遠出をしてみてください。遠くに行くことでリフレッシュの効果は間違いなく高まります。
 それでは、3年後に立派な研究成果を挙げられて、ここで皆さんが再び再会することを期待し告辞といたします。
              
                                          平成17年4月15日
                                                東京農工大学長 宮田 清藏


 


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