学長就任あいさつ
 このたび,学長に選任されました。学長の役割が如何に重要であるか,十分に自覚しているつもりです。その学長に期待される職務を全力でまっとうしたいと考えております。よろしくお願い申し上げます。
 私が農工大に移ったのは昭和50年5月でした。それから丁度30年になります。私の人生の半分を本学で過ごしたことになります。したがって農工大学は私の胸の中ではまさに“わが大学”と呼ぶ存在になっております。これからの4年間はわが大学の発展のために全力を尽くしたいと思っております。
 法人化によって大学は大きく変わりました。大学の経営という視点が大きくなり,その責任が学長を中心にした役員会にかかるようになったことと言えると思います。大学の使命はいうまでもなく教育と研究,それに社会貢献です。その使命が十分に果たされている,という状態を維持することが役員会の基本的な責任と言えましょう。しかしその責任を果たすこと自体が大変な努力無しでは達成できそうにありません。法人化という大学を取り巻く環境が厳しく,現状のまま進むことを許さないからです。運営費交付金が毎年6500万円程度も無条件で削減されることだけでも十分な理由です。この削減額は平均的な人件費に換算すると約7人分に相当します。これだけ毎年削減されますから,それに対する対策をきちんと立てることは必須でしょう。単なる節約だけでは十分ではありません。外部資金の現状以上の獲得に努力することも必要です。しかし,それで削減分を埋めることは不可能と思われます。また定員の単純な削減だけを考えるのではジリ貧状態に陥るでしょう。教育と研究のレベルを維持することは当然として,より上を目指せる組織体に自己変革すると同時に,縮小再生産ではなく,新分野への発展をも目指しうる余力ある組織へ改革すべきであると考えております。
 4年前,当時の梶井学長あてに出された答申は本学の長期目標としていまでも大方のコンセンサスが得られていると思います。しかし具体性が残念ながら十分ではありません。法人化による厳しい環境への対応は,組織の見直しを迫るものです。その基本は,先の答申の線に沿い,本学の長所をさらに伸ばし,短所となっている部分を時代の変化を先読みして大胆に変革・改組することです。それを具体性のある長期ビジョンとして策定するための検討を早急に始めたいと思います。これは大きな変革につながると思われますし,その実行には学内のコンセンサスの形成が不可欠です。そこには厳しい決断や選択を迫る部分もあると思います。しかし,「全学の発展と利益のために」,という視点に立てばそれは乗り越えられるものと私は思っております。その舵取りが私の役割とも言えるでしょう.大学が発展していくことは,大学構成員一人一人の利益でもあります。その長期ビジョン実現に職員一人一人がやりがいを感じ,強い責任感と参加意識をもって取り組む体制を作ることが私の仕事と思っております。それは就任早々の大仕事と自覚しておりますが,職員の皆さんもこれまでのしがらみから離れ,全学的視点からの議論に積極的に加わり,知恵を出していただきたいと思います。
 役員会では迅速かつ責任ある決断が要求されます。全学的視点から必要なことであれば,反対の強いことも決断し実行しなければならないこともあるでしょう。事なかれ主義的な発想から反対を避けて通るようなことがあれば,それは長期的な見通しのもとでの道を誤ることにつながります。私は対話を重視し,色々な意見を聴取した上で,真に大学にとって必要なことは何か,という視点から決断をするように心がけるつもりです。その場合,外から決定のプロセスが理解でき,決断の根拠もはっきりと判るようにいたします。理事としてお願いした先生方は私としては望みうるベストの方と思っております。それぞれ出身母体からの支持も厚いものがありますので,その先生方で構成される役員会への信頼も確かなものがあると期待しております。しかし,それにおごらず,我々は学内構成員の意見には謙虚に耳を傾ける姿勢を常に保持します。皆さんには,いつでも,どのようなことでも,遠慮なく意見をいって下さるようお願いいたします。
 初めにも申し上げましたように,私が農工大に移ってから丁度30年になります。この間の本学の発展には目覚しいものがあります。これは先輩教職員の皆様の努力の結果です。法人化を契機に,従来の護送船団方式の時代から厳しい競争の時代に入りました。運営を誤ると発展路線から簡単に外れてしまう時代になりました。私はこの厳しい競争社会を逆に好機として捉え、従来の国立大学の固定的な序列化体制から脱却し,発展へ向けて飛躍できるように最大限の努力をすべきであると思います。これまでの先輩教職員の皆様の努力の結果を受け継ぎ,更なる発展を目指したいと思っております。ここにお集まりの皆さんもその戦いの中の重要な戦士です。教職員が一丸となってこの難局に立ち向かうことが求められます。私はその先頭に立って出来うる限りの努力をするつもりです。東京農工大学を小さいながらも特色ある,存在感のある大学にするために力を合せて努力いたしましょう。
 最後に,皆様のご支援とご協力を再度お願いし,就任にあたってのご挨拶といたします。

 
                                  平成17年5月9日
                                                東京農工大学長 小畑秀文
 
  

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