平成17年度 東京農工大学 入学式告辞
 
 新入生の皆さん、入学おめでとう。
 近年は地球温暖化の影響によるためか、桜は3月中に咲いてしまいますが、今年は満開で皆さんを迎えることができ私も大変嬉しく思っております。またご臨席のご家族の皆さんにもおめでとうとお祝いを申し上げます。
 本年度の新入生は、学部では、農学部が352名、工学部は672名で合計1024名であります。大学院は、工学教育部、農学教育部、生物システム応用科学教育部、連合農学研究科、技術経営研究科より構成され、修士課程、博士課程併せて847名が入学しました。
 従って、学部、大学院を合わせた新入生の合計は1871名となります。
 この1871名のうち、外国人留学生は、東北アジア、東南アジア、中近東、東ヨーロッパ等19ヵ国から97名で、これから本学で皆さんと一緒に勉学、研究を始めようとしております。本学にはすでに在学中の留学生が339名おりますので、この国際性豊かな環境の中でお互いの交流を深め、国際的視野を広めて頂きたいと思います。日本人の皆さんは卒業後技術者として一時的に外国で仕事をすることが多いことと思います。異なる国々の文化の理解は、今後の人生を大変に豊かにしてくれるものと思います。
 また、今年度、本学は全国の工学系国立大学の先陣を切って、高度専門職業人の養成を目的とする新たな制度である専門職大学院として「技術経営研究科(いわゆるMOT)」を開設しました。ここでは、本学における工学の教育研究の蓄積に基づき、安全・安心な社会の実現を目指し、技術リスクの最小化に配慮しながら先端技術を利用・展開してビジネスの創出ができる人材の育成を図ることとしています。その第1期生として49名の方をお迎えしました。農工大の新たな仲間を心から歓迎したいと思います。
 次に、私は学部新入生及びそのご家族の皆さんに東京農工大学とはどのような大学かをご紹介したいと思います。本学の理念は農学、工学及びその融合領域における自由な発想に基づく教育研究を通して、社会や自然環境と調和した科学技術の進展に貢献するとともに、その課題を担う人材育成を行うことであります。この理念を「使命志向型教育研究‐美しい地球持続のための全学的努力‐」と称しています。英語表現ではMORE SENSEと呼んでいます。そしてこのような理念を実現する教育研究環境は以下のとおりです。
 主たるキャンパスは府中と小金井に分かれておりますが、両キャンパスともに緑豊かな木々に囲まれた学園らしい雰囲気をかもし出しております。そのほか農場や演習林などを含めますと約300万坪と全国でも屈指の広大な土地を有しております。皆さんをお世話する教職員は非常勤まで含めますと1200人にも達します。また昨年の全予算は多くの競争的研究費を勝ち取った結果、約130億円でした。全学生が約6000人ですので皆さん一人当たりの年間経費は200万円以上かけています。
 最近は色々な視点から大学のランキングが行われるようになりましたが、昨年日本経済新聞社が行った工学系学部の研究・教育力調査では教員一人当たりの特許件数などの情報発信力では全国第一位、総合ランキングでも東京大学に次いで第五位でありました。また農学部の学生が多く受験する国家公務員試験で将来幹部職員となる第T種試験がありますが、この試験の学生数当たりの合格者の割合は一昨年、東京大学、京都大学、一橋大学に次いで第四位であります。このように大学の規模としてはあまり大きくはないのですが、教育・研究における質の高さがこれらの数字に如実に示されております。本学は日本の主要な科学技術系大学として認められております。したがいまして、本学の学生であることに対して大いに誇りを持っていただきたいと思います。
 さて、ここに居られる皆さんは厳しい受験競争を勝ち抜いてこられたわけですが、試験を通過するためにその原理まで十分理解せずに単に暗記していたことが多かったのではないでしょうか。例えば化学の炎色反応において、Liだと赤でNaだと黄色と覚えるだけだったのではないでしょうか。これに対し大学では「なぜ」かをいつも発し、その理由を理解し発現原理をイメージできるようにしてほしいということです。
 偉大なる天才科学者のアインシュタインは次のように言っています。「私は天才ではない。ただ人より好奇心に溢れていて、何時でも質問をし続けてきた。それだけだ。」。その質問は先生や親に対してだけではないでしょう。むしろ自分自身に対して、それから自然そのものに対して質問する。なぜだなぜだ、と質問を繰り返すうちに宇宙、物質、エネルギー、光、相互作用などに対してあるイメージが形成され、それを美しい数式で表現されてきたのです。すなわち、理論が先にあったのではなくイメージが先行していたのです。これは中間子を理論的予言した日本人初のノーベル賞を受賞した湯川秀樹博士の場合も同様であります。だからといって急にアインシュタインや湯川博士のように独創的なイメージを描けといっても無理であります。ですから日頃の授業においても教授の講義からその本質をイメージングできるように訓練するようにしてください。そして暗記的に単に現象や事象を覚えるのではなく、その本質をイメージし、それから演繹的に現象などを説明できるようにしてください。そうすれば、周りの条件が変わった時でもそのイメージに沿って自分で考えて答えが出せるのです。しかしある場合にはイメージから演繹した結果と異なった実験結果が得られることがあります。それが「なぜ」を考えることにより新しいイメージが生み出され、独創的なものへと発展していくのです。
 私は大学における講義や研究は教員にとっては真理の探究や新技術開発などの「知」の創成であっても、学生諸君にとっては将来研究者、技術者として、自分で問題を見つけ自分でそれを解決し、それに基づいて社会貢献するための訓練であると考えています。
 最後に、私の恩師がいつも述べていた西洋の諺を紹介します。
 A student is a lamp to be lit , not a bottle to be filled .
 litはlight(灯りをともす)の過去分詞です。すなわち学生は灯りをともされるべきランプであって、満たされるべきボトルではない、知識だけをいたづらに詰め込むのではなく皆さんが有している可能性や能力に灯りをともして、独創性や個性を輝かせることが教育であり、学生はその能力を持っているということであります。
 皆さんも自らの灯りをともすべく我々と一緒になって研鑽を積もうではありませんか。「一隅を照らすもの、これ国の宝なり」これは1200年前に比叡山延暦寺を開いた伝教大師最澄の言葉であります。是非自分自身の可能性を信じ、自分の灯りをともし、どんな小さな一隅であっても世の中を照らす光になっていただきたいと思います。
 以上を入学式に当たって諸君に送る言葉とします。


                              平成17年4月7日
                                 東京農工大学長 宮田清藏



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