東京農工大学 農学研究院 応用生命化学専攻 木村研究室(テニュアトラック推進機構)

東京農工大学大学院
農学研究院
応用生命化学専攻
代謝機能制御学研究室

〒183-8509
東京都府中市幸町3-5-8

研究内容Research

分子生物学的手法による遺伝子改変マウスを用いた生理実験や、神経細胞や脂肪細胞、各種細胞株を用いた細胞レベルでの実験に加え、個体レベルでの生命現象・生理機能の解明、そして機能性食品、プロバイオティクス、創薬などの実学応用へ繋げることを目指します。

食と腸内細菌代謝産物を介した宿主のエネルギー制御機構

食事は日々のエネルギー獲得に非常に重要ですが、近年の欧米を中心とする日本を含めた先進諸国の人々の多くが、過度な食事や高カロリー食による過剰エネルギー摂取の結果、肥満、さらには糖尿病に代表される生活習慣病等の代謝疾患を引き起こしてしまい、社会的にも大きな問題となっています。

近年、食事由来の脂肪酸をリガンドとする細胞膜上の受容体(G蛋白共役型受容体GPCR)が同定され、脂肪酸はエネルギー源としてだけではなく、シグナル伝達物質として認識されるようになりました。これらの受容体群は、脂肪酸により活性化されることから、生活習慣病の新たな創薬標的分子として注目されます。この中で、GPR41とGPR43は、食事による腸内細菌の分解産物である、ヒトを含む宿主にとって重要なエネルギー源となる短鎖脂肪酸をリガンドとします。

近年、腸内細菌叢がその宿主のエネルギー調節や栄養の摂取、免疫機能等に関与し、その結果、肥満や糖尿病などの病態に影響するという知見から、私たちは、食事と腸内細菌の宿主エネルギー調節への関与と短鎖脂肪酸受容体との関係に着目しました。現在までに私たちはGPR41が交感神経活性を制御することで、またGPR43が脂肪組織特異的にインスリンシグナルを調節することで、腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸を、生体エネルギー量の指標としてセンシングすることにより、エネルギー恒常性維持機能を発揮することを明らかにしました(Kimura et al. PNAS. 2011, Kimura et al. Nature Commun. 2013)。

現在、私たちはこれらGPR41やGPR43を介した、各種臓器間ネットワークによる、新たなる腸内細菌-短鎖脂肪酸による宿主エネルギー調節機構についての研究を行っています。さらには、短鎖脂肪酸だけに止まらず、腸内細菌叢において産生される各種代謝産物が宿主のエネルギー代謝に及ぼす影響について国内外の研究者達と研究を進めています。そして、腸内細菌叢による包括的宿主エネルギー恒常性維持機構の解明を目指します。これらの研究によって、肥満・糖尿病に代表される生活習慣病に対する新たなる機能性食品の開発、プロバイオティクスへの応用、そして、エネルギー調節に関与する宿主受容体を標的とした創薬応用へ繋げます。

性ステロイドホルモンによる即時性反応を介した高次脳機能

近年、性ステロイドホルモンは性機能への関与だけではなく、母性行動、攻撃行動や情動、節食、リズム、睡眠、そして記憶や学習を含む高次脳機能に至るまでの多彩な機能に関与していることが明らかになってきています。従来、性ステロイドホルモンは核内受容体を介して、生体において種々の生理機能を発揮すると言われてきました。しかしながら、核内受容体を介するにしては、あまりにも即時的なステロイドホルモンにより誘発される反応が多数あり、これらの反応は細胞膜上の受容体を介して行われると予想されていましたが、その分子実体は現在まで明らかにされていませんでした。

近年、この性ステロイドホルモンの細胞膜上の受容体として、エストロゲンに対し、GPCRであるGPR30、またプロゲステロンに対し、mPRファミリーや、MAPRファミリーが同定されました(Kimura et al. CPPS. 2012)。私たちは、このうちのMAPRファミリーであるneudesinとneuferricinを世界で初めて単離・同定し、neudesinが神経栄養因子であり神経系を介して食事性肥満に関わる重要な因子であることを明らかにしました(Kimura et al. JBC. 2008, Kimura et al. J Neurochem. 2010, Ohta et al. Sci Rep. 2015)。これらの細胞膜上性ステロイドホルモン受容体は一般的に知られている核内受容体を介したgenomicな作用に対し、即時性のnon-genomicな作用(MAPK経路の活性化、細胞内Ca濃度の上昇等)を有します。そのために、核内受容体では証明できなかった、全く新たな性ステロイドホルモンの機能とリンクすると期待されています。

したがって、私たちは近年発見されたプロゲステロンの細胞膜上受容体のmPRおよびMAPRファミリーに注目し、性ステロイドホルモンの即時的反応の解明とそれに基づく生体機能調節機構の発見を目指します。この研究は乳癌や不妊等の従来の性ステロイド関連疾患治療薬開発だけに留まらず、雌雄差、性差に関連した生活習慣病、睡眠・リズム障害の新規治療パラダイム発見の可能性と、さらにはそれからの美容・健康と化粧品の融合医学への新たな知見を提供すると期待されます。