物理システム工学科2年次「材料物性工学概論」(94番教室)第8回プリント 2000.6.1

佐藤勝昭教官(量子機能工学分野教授)10号館215室, 内線7120

E-mail: satokats@cc.tuat.ac.jp,

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第7回の復習

はじめに、同じ材料物性系といっても、階層構造があって、基礎となる物性から、材料、デバイス、システム(サブシステムを含む)まで広いこと、互いに連関しあっていること、物シスでは基礎からシステムへのつながりを念頭において、基礎教育、基礎研究を行うことを目的としていることを紹介した。

次に、半導体とは何か。半導体の電気伝導性と金属のそれはどう違うのか、それが半導体物性のどの特徴から来ているのかについて述べた。

 キーワード:導電率σ=neμ、(キャリア密度n、移動度μ)、バンドギャップ、フェルミ分布、

金属のキャリア密度:一定、活性型の温度変化n=n0exp(-ΔE/kT); ΔE=Eg/2 (高温:真性領域)、ΔE=不純物準位の束縛エネルギー(低温;不純物領域)。アレニウスプロット(活性型の変化をする物理量の対数を縦軸、温度の逆数1/Tを横軸にとったグラフのこと。勾配から活性化エネルギーが求められる。

第7回の問題

半導体と金属の導電性の違いをのべよ。

標準解答:金属の場合、電子の密度は温度変化せず、移動度が格子振動による散乱のため温度とともに減少するので、高温になると導電率が低くなる。これに対して、半導体の場合、温度とともに不純物準位や価電子帯から伝導帯に励起される電子の密度が増加するので、温度上昇とともに導電率が高くなる。

(ここでは、正孔のことは触れていませんが、正確には、電子と正孔のいずれもが電気を運びますので、キャリア密度と言い換えるべきでしょう)

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8回で学ぶこと

l          半導体の純度を上げる。

l          半導体の結晶成長。バルク成長、薄膜成長。

l          半導体デバイスの基礎。pn接合

 

用語集

1.        伝導帯(conduction band):伝導電子がとりうるエネルギーの範囲のこと。純粋な半導体では絶対零度で伝導帯に電子は分布しない。

2.        価電子帯(valence band):共有結合に関与している価電子がもつエネルギーの範囲のこと。ここに電子の抜け穴ができると、正孔として電気伝導に寄与する。

3.        正孔(positive holeまたは単にhole):価電子帯における電子の抜け穴。水のなかの泡の動きは、本当は水が移動するのだけれど、泡が移動しているように考えて差し支えないのと同様に考え、正の電荷をもつ粒子と見なす。

4.        キャリア(carrier):電気の運び手という意味:電子と正孔の総称

5.        移動度(mobility):電界のもとでのキャリアの動き易さを表す因子。1[V/cm]の電界を印加したときに増加した速度がμ[V/cm]であったとすると、移動度はμ[cm2/Vs]であると表す。Siでは1000cm/Vs程度、GaAsでは6000程度。

6.        n形[1]半導体(n-type semiconductor):電気伝導が主として電子によって生じている半導体

7.        p形[2]半導体(p-type semiconductor):電気伝導が主として正孔によって生じている半導体

8.        有効質量(effective mass):バンドのなかで電子や正孔がもつ見かけの質量。自由電子の質量より軽くなっている。

9.        バルク(bulk):元の意味は「かさばったもの」というような表現。結晶に関しては薄膜でない結晶をバルクとう。

10.     チョクラルスキー法(Czhochralski technique):融液に種結晶(seed crystal)を浸漬し、回転させながら引き上げる結晶成長法。シリコンはこの方法で作られる。

11.     薄膜(thin film):一般には薄い膜という意味であるが、結晶の場合は何か下地(基板という)があってその上に形成された薄い結晶をこう呼んでいる。

12.     単結晶(single crystal):結晶の方位や格子定数などが結晶全部にわたってそろっているようなものをいう。

13.     多結晶(polycrystal):結晶が多数の結晶粒(grain)から成り立っている場合をいう。

14.     エピタキシー(epitaxy):かつては、directional overgrowthと呼ばれた。薄膜が、基板結晶と一定の方位関係を保って成長する場合をいう。

15.     分子線エピタキシー法(MBE=molecular beam epitaxy):超高真空中で蒸着元素を分子流として基板に到達させ、基板上で反応させ基板方位と一定の方位関係を保って成長させる薄膜成長法。ヒ化ガリウム(GaAs)の成長法として一般的。HEMTという超高周波用トランジスタはこの方法で作られる。

16.     有機金属気相化学堆積法(MOCVD=metal organic chemical vapor deposition):物質を有機金属の形で供給し、基板上で分解、反応させて成長させる薄膜成長法。MOVPE(metal organic vapor phase epitaxy)ともいう。半導体レーザはこの方法で作られる。

第7回のQ&A

Q1.   電気製品が低温で動作しなくなるのは半導体の導電率が低温で低くなるからか(城後)→A.家電製品は通常の温度範囲(0-30℃)では、きちんと動作するようになっていますから、半導体の温度依存性が原因で低温での動作不良が起きることはまれです。低温で動作しないのは、何らかの不良が考えられます。ハンダ付けの不良があっても、温度が高いときはバリアを熱活性によって乗り越えるのですが、低温になるとバリアを超えられなくなって、電気的に不導通となることがあります。

Q2.   半導体の性質はわかったのですが、それがどのように実用されているのですか(木島)→A. 半導体は人為的にキャリア密度を変えることができます。また、電子が主なキャリアであるn型、ホールを主なキャリアとするp型というように、伝導型を自由自在に制御できるので、pn接合をつくることにより整流性やキャリア注入などの機能をもたらすのです。これによりことによりトランジスタなどの電子デバイスを作ります。その原理には半導体の性質が使われています。

Q3.   シリコンの純度が10nine(99.99999999%)だと聞いて感心した。どうやって測るのですか(栫井)→A. SIMS(secondary ion mass spectroscopy)という微量質量分析法が使われます。

Q4.   ダイオードの順方向電圧降下が、Geでは0.2V, Siでは0.6Vと違うが、バンドギャップだけに関係するのですか(遠藤)→A. バンドギャップEgはGeでは0.6eV, Siでは1.1eVなので、Geの方がSiよりバンドギャップが低いのですが、順方向の電圧降下はバンドギャップに直接関係があるのではなく、接合を作ったときのバンドの変化と関係します。ただ、傾向としてはギャップが大きいほど電圧降下も大きくなります。

Q5.   コンピュータの半導体も温度変化の影響を受けるのですか(甲本)→A. 動作不良にならないよう、ファンをつけて冷やしたり、ヒートパイプで熱を逃がしたりします。

Q6.   半導体の導電率は高温で高くなると言ったが、上限はあるのか(皆川)→A. あるにはあるのですが、その前に融けてしまうかも知れません。

Q7.   物シスでは、大学の勉強だけだと技術職に就けないと聞いたが本当ですか?(大住)→A. 基礎学力は即戦力にはならないのですが、新しいものを開発したりするときに、じわっと効果を発揮します。技術者としての即戦力は、会社にはいったとき研修などを通じて学ぶことができるので、問題ないでしょう。でも、会社によっては、電子回路くらいは知っているのが当たり前と考えているので、自分で学習された方がよいと思います。

Q8.   工学には広い知識が必要と言われましたが、大学の授業だけでは足りないのですか(高梨)→A. 基礎がきちんとしておれば、自分で書物を読んで更に広い知識を身につけることができます。大学の学習は、その為のものです。即戦力が必要なら専門学校に通っててください。このごろは文科系の学生でダブルスクール生活をする人も多いと聞きます。

Q9.   今日の授業にあった物性、材料、デバイス、システムは分野的に大分異なっていると思うが、物シスではどこまで対応できるのですか(八町)→A. 物性、材料と、デバイスの一部くらいでしょうか。

 

感想・印象

C1.     バンドの概略がよくわかった(松浦)

C2.     エネルギーバンド構造というのがいまいちわからなかった(杉沢)

C3.     物性、材料、デバイス、システムなどの違いがよくわかった。(赤川)

C4.     物性の定義の分け方がいまいちわからない(松浦)

C5.     1-2年で基礎の物理学などをやっていて工学部っぽくないと思っていたが、今日の話を聞いてデバイスや物性の方もこれから習うというので安心した(氏原)。物理と技術のことを聞けて興味を持った(岩崎)。

C6.     いままで半導体は低温で誘電率が高くなると思っていたが反対だった。(佐藤大)→注:誘電率の話はしていません。導電率が低温で低くなるのです。

C7.     先生の話は聞いていて気持ちがいいです。(山田)

C8.     自分は元々理学部志望だったが、ある時から実生活への応用が大切だと思って工学部に入った。物シスは基礎を重んじる工学部の学科だったので個人的にはラッキーだ。(谷川) 僕は理論、物性に興味があるがデバイス、システムも理解して、理論を応用できるようになりたいとおもった(青木)

C9.     物理を理解してさらにデバイス、システムと学ぶことが新技術につながると思うので、基礎をきちんとしようと思った。(木村)

C10.  いろいろなことがつながっていることを知ってちょっと納得した、化学がとても関わっていると感じた(水澤)

C11.  論理回路、無機化学とこの授業がリンクしていて、基礎の学問が、他の学問に通じていることがわかった。(福地)

C12.  授業のはじめの話で、実生活と学習していることの関係が理解できた。(上) 物理と技術の流れの話が勉強になった。(中村) 物理と技術の間柄が少しわかってきた。(萩原) 物理からシステムまでの長い道のりにめまいしそうになる(杉谷和夫)

C13.  物理学実験でディジタル回路をやっていて、そのとき半導体の講義を受けたが、今回の授業では材料の視点から説明が聞けて興味深かった。(小野)

C14.  材料物性の授業はわからない単語が多くて自分には向いていないと思っていたが、今日の話で、物理と技術の積み重ねが大切だと気付いた。(小島)

 

 



[1] n型とも書く

[2] p型とも書く