物理システム工学科3年次「物性工学概論」:火曜日1限 23番教室

9回配付資料2002.6.11 佐藤勝昭教官(量子機能工学分野教授)専門分野:固体物理学

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8回の復習

      これまで学んできたことを振り返った。
(
光学応答のマクロな取り扱い:マクスウェル方程式;媒体は誘電率で表す。
誘電率のミクロな起源:電気分極の電子論;古典論でもDrudeの式、Lorentzの式が導かれる。
量子論:時間を含む摂動、電界の摂動を受けて、基底状態に部分的に励起状態が取り込まれる)

      光学吸収の選択則:遷移行列:電気双極子の演算子は奇パリティ。始状態と終状態のパリティが同じだと電気双極子遷移はパリティ禁止、パリティが異なるとパリティ許容となる。

      誘電率とバンドギャップ:半導体の誘電率はバンドギャップの二乗に反比例。このことを用いて、ダブルヘテロ構造の半導体レーザが作られている。

 

第8回の問題

問題:水素原子において基底状態は1sである。この状態からパリティ許容の電気双極子遷移で励起される最低の励起状態はどのような電子状態か。理由も述べよ。

→解答:2p状態。理由:水素原子の励起状態は、2s, 2p, 3s, 3p・・・とあるが、このうちで最も低いエネルギーを持つのは2sであるが、1s2sはパリティ禁止である。次に低いのは2pで、1s2pはパリティ許容である。

解答状況:正解者5名 堀越、市川、高木、見角、山本() 出席点4点
     準正解:p状態とのみ書いたもの:5名 出席点3点

     誤答者:1pと書いたもの:7名 (主量子数n=1に対してはl=0のみ→1pは存在しない)

         2sと書いたもの:4名 (パリティの話を聞いていなかったらしい)

         意味不明:3名 (誤答者は出席点2)

     白紙または問題を写したのみ:5名 (出席点1)

 

9回の授業内容:半導体の光学現象

4.3 固体の光吸収、光反射

 原子が寄り集まって固体を作ると電子状態はバンドをつくる。これは、絶縁体、半導体、金属のいずれにも当てはまり、固体を形成する凝集力と固体の持つさまざまの物性は大まかにはバンド電子系によって決まっているといっても差し支えない。従って、固体の中での光吸収は主としてバンド間遷移が支配している。4.3.1では、バンド電子系の典型例である半導体や金属に見られるバンドとバンドの間、バンドと不純物準位の間の光吸収について述べる。しかし、バンドモデルがよい近似にならない系も存在する。電子相関の大きさがバンド幅より大きな物質では電子は固体中に広がらず、局在状態をつくる。4.3.2では、局在電子系の典型例として遷移金属イオンを含む絶縁体に特有な3d電子系の配位子場遷移および価電子帯と3d電子系の間の電荷移動遷移について述べる。

 また、アモルファス物質など構造の乱れのある系では、構造の揺らぎの大きな部分に電子が局在する現象が起きる。これをアンダーソン局在と呼ぶ。4.3.3では、乱れた系における光吸収について述べる。また、4.3.4では量子井戸など人工的な低次元構造に特有の光吸収について述べる。

 

4.3.1 バンド電子系の光学遷移

(1)バンドダイヤグラム

 図4.3.1は、Siのエネルギーバンドの波数kに対する分散を表している。これをバンドダイヤグラムという。図中横軸のところにΓ、X、Lなどと記されているが、これは波数ベクトルがブリルアンゾーン(BZ)の境界面上の対称点に一致したことを示す。BZというのは、逆格子空間の単位格子である。電子を波長の逆数の次元をもつ波数(空間周波数)kで指定するので、電子の舞台となる結晶も逆格子空間で表しておかねばならないのである。実空間でSiの格子は面心立方格子(fcc)であるが、逆格子は体心立方格子(bcc)となる。原点と、逆格子点(hkl)を結ぶ逆格子ベクトルGは、実空間の(hkl)面に垂直で、2π/|G|が実空間の(hkl)面の面間隔に対応する。BZは逆格子ベクトルの垂直2等分面で囲まれた領域なので、図4.3.2(a)のようにtruncated octahedron(角を落とした八面体)となる。Γ点は逆格子空間の原点(000)である。X点は逆格子点(100)(2π/a)と原点を結ぶ直線の中点である。立方対称では、実空間の(100)面は(010)、(001)、(-1 00)、(0 -1 0)、(00 -1)の各面と等価である。したがって図中のXは、これら6方向のkベクトルを代表する。Lは(1,1,1)(√3π/2a)を含む等価な8つのkベクトルを代表する。Δはkの向きが<100>方向で、長さが0とπ/aの間の値をとることを示す。Λは<111>方向で、長さが√3π/2aより小さいkベクトルを表す。因みに、bcc格子の逆格子はfccとなり、そのBZは、図2(b)に示すように正12面体となる。BZの境界上の波数ベクトルをもつ電子は、ブラッグ反射により逆方向に進む波と干渉して定在波となる。このとき(実空間の)格子位置に節をもつ定在波と、腹をもつ定在波ができる。格子位置にポテンシャルがなければ、これら2つの波は縮退している(つまりエネルギーが等しい)が、ポテンシャルがあるとエネルギー的に分裂が起きる。これによってエネルギーギャップが生じる。

  バンドダイヤグラムではΓ−X方向、Γ−L方向、X−K方向などの分散(エネルギーがkとともに変化する様子)が屏風のようにつなぎあわせて描かれているが、これは、便宜上のものである。意見Γ点のところでバンドが非対称になっているように見えるが、別の方位の分散が貼り合わせてあるためである。もし、k空間の各方位につき別々に図を描けば、それぞれ左右対称になっている。

 

(2)遷移の選択則

 電子状態がバンドを作って連続的に分布する場合には、(4.2.27)式のΣを積分に置き換えて、

α(ω)(πωb2/2nc)d3kfvc(ω)δ(ω-ωcv)                       (4.2.28)

ここに、fcvは価電子帯から伝導帯への遷移の振動子強度、ωcvは伝導帯と価電子帯の間のエネルギー差である。

 いま、振動子強度がωの緩やかな関数であるとしてfvc(ω)を平均値Fvcで置き換えると、

α(ω)(πωb2/2nc)vcd3kδ(ω-ωcv)

   =(πωb2/2nc)Fvcvc(ω)                                 (4.2.29)

上式中においてJvc(ω)は価電子帯|>と伝導帯|>の間の結合状態密度を与える。

α(ω)(πωb2/2nc)d3kfvc(ω)δ(ω-ωcv)   

で表されることを述べた。ここにfvcは価電子帯と伝導帯の間の光学遷移の振動子強度であり遷移確率の2乗に比例する。

vc(2m/h2)hωvc|xvc|2(2m/h2)hωvc|<v|qx|c>|2

遷移の選択則の判定は、群論の手続きによって行うことができる。

 価電子帯と伝導帯の既約表現をそれぞれΓv、Γcとする。また、電気双極子遷移の演算子の既約表現をΓdとすると、ΓvとΓdの直積を作り、それを簡約した表現にΓcが含まれれば許容、含まれなければ禁止である。一例として、Si(ダイヤモンド構造)BZ(4.3.1)のΓ点における価電子帯の頂Γv=Γ25'から、最も低い伝導帯Γc=Γ15への遷移の選択則を考えよう。電気双極子ベクトルΓdはx,y,zのような変換性をもち、Γ15で表される。Γv×Γd=Γ25'×Γ15を作り群論の手続きに従って簡約するとΓ25'×Γ15=Γ2'+Γ12'+Γ15+Γ25となりΓ15を含むので、Γ25'からΓ15への遷移は許容であることがわかる。2番目に低い伝導帯Γ2’への遷移も許容である。

 

(3)バンド構造と光学遷移

 研磨したSi単結晶の反射スペクトルを測定すると、図4.3.2に示すようにE1とかE2とかラベルをつけた反射のピークがあることがわかる。このような構造が現れるのは、このエネルギー位置でバンド間光学遷移の強度が大きくなっているからである。これは振動子強度が高くなっているのではなく、この遷移に関与する状態の数が多くなっているためである。前節で述べたようにバンド間遷移の吸収係数は、振動子強度が周波数の緩やかな関数であれば、

   α()∝Jvc・Fvc

で与えられる。すなわち、価電子帯と伝導帯の結合状態密度Jvcに比例する。一方、Jvc

   Jvc=∬d dk=∬ d dE・1/k(Ec−Ev                          (4.3.1)

と表される。dSはEc−Ev=Eの等エネルギー面(k空間)についての積分であり、dkはこの等エネルギー面に垂直な方向についての積分である。第3式に示されるようにJvcは▽k(Ec−Ev)の逆数をk空間で積分したものであるため、▽k(Ec−Ev=0のとき大きな値を持つ。

 この条件は、▽kc=▽kv、すなわち、k空間表示でエネルギーの分散が平行のとき、あるいは、伝導帯、価電子帯ともにk空間での極点であるとき成立する。すなわち、▽kc=▽kv0である。このような構造は模式的には図4.3.3に示すように、k空間表示で伝導帯の分散曲線が価電子帯の分散曲線と平行になっているようなとき(Γ-Δ-XおよびΓ-Λ-Lにそって)に現れる。これをバンホーブ特異点と呼んでいる。

k空間の特異点k0の付近でEc−Evをテーラー展開したとき

c−Ev=E0+ax(x-x0)2+ay(y-y0)2+az(z-z0)2

と表せるとすると、ax、ay、azの符号によって4種類の特異点の型が現れる。たとえば、ax>0、ay>0、az>0であれば、koでは極小点となる。Ec−EvはE0以下の値をもたないから、hω<E0ではJ結合状態密度は0で、E>E0付近ではJcv∝∫dE・E-1/2∝E1/2となる。一方、3つのうちの1つが負であると、k0においては鞍点となり、Jcvのスペクトルには、変曲点が現れる。これらをまとめたもの表4.3.1および図4.3.4に示す。

 反射スペクトルのピーク位置はバンド間遷移のピーク位置から若干ずれている。従って、バンド間遷移をもっときちんと論じるには、反射スペクトルより誘電関数の虚数部εr"を使った方がよい。これは前節に述べたように、反射スペクトルのクラマースクローニヒ変換や分光エリプソメトリなどによって求められる。

 図4.3.5はSiのE1、E2ピークの誘電関数の温度変化を示している。バンホーブ特異点は、結晶の周期構造があってはじめて現れるものであるから、周期構造の乱れに敏感であり結晶性のモニタとして用いることができる。

 

(4)光学吸収端と直接遷移・間接遷移

 図4.3.6にはシリコンの透過率Tのスペクトルを掲げる。透過率TはT=Iout/Iinで与えられる。ここに、Iinは入射光強度、Ioutは出射光強度である。透過率は,物質の界面での反射をも含めた比率であるから,透過率Tから吸収係数を求めるためには、近似的に

                   T=(1−R)2 e−αL                                            4.3.2

という式を用いる。ここにRは反射率、Lは試料の厚さである。Siの吸収係数を光エネルギーに対してグラフに表したのが図4.3.7である.ここに,光のエネルギーE[eV]と真空中での波長λ[nm]との間には

         E=1239.8/λ                                   4.3.3

の関係が成り立つ。

 図4.3.7には,高エネルギー側と,低エネルギー側に吸収の立ち上がりが見られる。高エネルギー側の吸収の立ち上がりをふつう基礎吸収端とよんでいる。一方,低エネルギー側の吸収の立ち上がりは格子振動による吸収の裾である。図4.3.8には、さまざまな半導体の光学吸収端付近における吸収スペクトル(縦軸は対数表示)を示す。InSb、GaAsの吸収端の立ち上がりは非常に急峻であるのに対し、SiやGaPではゆるやかに立ち上がる様子が見られる。このような吸収の違いは、バンド間の遷移が前者では直接遷移、後者では間接遷移であることによるといわれている。

 可視光の波数(2π/λ)は105cm-1の程度であり、これに対しブリルアンゾーン(BZ)の端のkの値(=π/a)は108cm-1の程度であるから、光の波数kはバンド図においては無視することができるほど小さい。従って、光を吸収して遷移が起きるときには、原則として始状態と終状態の波数はほぼ等しい遷移が起きる。このような遷移を直接遷移という。図4.3.9(a)の模式図において、垂直に上る(Δk=0)遷移がこれである。直接遷移は強い遷移である。両バンドのバンド端付近のエネルギーのk-依存性がkの2次式で表されるようなとき、結合状態密度Jcv(E)は(E-g1/2に比例する。その結果吸収係数αは、

   α=A(E-g1/2/E  (E≧Eg)                                4.3.4

のE依存性を持つことが示される。ここにEgはエネルギーギャップである。この式が成り立つならば,(αE)2をEに対してプロットするとグラフは直線となるはずで,直線が横軸を横切るエネルギーがEgである。直接吸収端の物質の吸収スペクトルの(αE)2-Eプロットの一例を図4.3.10に示す。U-Y族半導体の大部分は直接吸収端を持つ。またV-X族のうちGaAsは直接吸収端を持つ。

 これに対して、価電子帯の頂と伝導帯の底のkが異なるため、遷移にkの変化を伴うもの(Δk≠0)では、運動量の保存のために、kの差をフォノン(格子振動)の波数によって補う。このような遷移を間接遷移という。図4.3.1に示すシリコンのエネルギーバンドのように価電子帯の頂と伝導帯の底のkの値が異なっていると、価電子帯の頂から伝導帯の底への遷移は,遷移の前後での電子の運動量の保存則が成り立たないので禁止される。遷移が起きるためには、図4.3.9(b)に示すようにkの差に相当する波数分の運動量hqをフォノン(格子振動の量子)からもらわなければならない。フォノンの助けを借りて遷移する場合を間接遷移という。間接遷移の場合も、吸収端付近の吸収スペクトルの様子は結合状態密度で決まる。結合状態密度は価電子帯・伝導帯それぞれの状態密度のコンボリューション(畳み込み積分)により計算される。結果だけ示すと、

            0

Jvc(hω)=∫           (-i1/2(Ei+hω-±Ep1/2dEi

           -(Ei-Eg±Ep)

    ∝(hω−E±Ep2                   (4.3.5)

±はフォノンの放出、吸収に対応している。エネルギーEpをもつフォノンの個数はNp1/eEp/kT1)であるから、フォノン吸収の確率はNpに比例、フォノン放出が起きる確率はNp+1に比例する。この結果、フォノン吸収を伴う間接遷移の吸収係数は

αabshω)∝(hω−Eg+Ep2/(eEp/kT1)                     4.3.6

という形となりEgより低いエネルギーから吸収が始まる。この吸収は低温では起きない。一方、フォノン放出を伴う間接遷移の吸収係数は

αemihω)∝(hω−Eg−Ep2/(1−e-Ep/kT)                   4.3.7

の形で与えられ、Egより高いエネルギーから吸収が立ち上がる。

いずれの場合も√αEをEに対してプロットするとほぼ直線になり,この直線が横軸を横切るエネルギーからおよそのEを求めることができる。間接吸収端を持つ物質の√αE−Eプロットの一例を図4.3.11に示す。

<間接遷移を実空間で考える>

 間接遷移はk空間を考えてはじめて説明されるので、慣れないと、いまひとつ実感がわきにくい。

間接遷移を実空間で考えるとどうなるのであろうか。たとえば、Siにおいて、価電子帯の頂はΓ点にあり、伝導帯の底はΓ−Δ−Xに沿って、X点よりわずかに小さな波数kmをもつ位置にある。実空間で考えると、価電子帯の頂付近の電子の波数kはほぼ0、つまり、電子の波長λは∞である。これはどの原子位置でも電子の(時間的)振動の位相がそろっていることを示している。この波は定在波であって運動量を持たない。

  これに対して、伝導帯の底の電子は、ある原子位置と、そこからa軸方向にaだけ離れた原子位置とでkaだけ(時間的)振動の位相がずれているような進行波であることを示している。もしk=X点ならば、ka=(π/a)×a=π、つまり、ある原子位置と、a軸方向にaだけ離れた原子位置とでは180゜位相のずれた波となる。

 このようにSiの伝導帯の底の電子の波は、hという大きさの運動量をもっている。したがって、運動量をもたない電子が、光のエネルギーを吸って伝導帯の底に励起されるには、a軸方向にhだけの運動量を与えてやらねばならない。さきに述べたように光の運動量は非常に小さいので、光を吸っただけでは、遷移することができない。このような場合運動量の差を格子振動の運動量で補うのである。格子振動においては、イオンの質量は電子のそれよりはるかに大きいのでほんのわずかな振動が起きただけで大きな運動量の変化をもたらすことができる。格子振動の周波数は1014Hzの程度であるから、原子が原子間距離(2Å)の千分の1動くだけで、速度vは2000cm/sにも達する。このときの波数はk=mv/h=14×1.7×10-24×2000/10-27=5×107cm−1となって、ほぼブリルアンゾーンの境界のkを与えるのである。つまり、原子位置で位相をそろえて振動していた定在波の価電子は、光のエネルギーを吸うと同時に、格子点の原子によってa軸方向へ蹴飛ばされることによって運動量を稼いで、a軸方向に進行する伝導電子状態へと遷移するのである。