私たちの身体の中では、遺伝情報を担うDNAと生理機能を担う蛋白質がお互いに作用して、生命現象を維持しています。私たちはDNAと蛋白質の相互作用を応用して、様々な病気の診断技術の開発を目的に研究を行っています。蛋白質を認識する核酸分子“アプタマー” を使って、癌やアルツハイマー病、感染症を診断する新規バイオセンサーの開発を進めています。また、核酸を認識する蛋白質“ジンクフィンガー” を使って、病原性微生物を検出するシステムの開発を進めています。
1本鎖の核酸分子 (DNA/RNA)は、その塩基配列に従って、多様な立体構造を形成します。特有の立体構造を形成する核酸分子は、蛋白質などの標的分子に特異的に強く結合することができます。このような核酸分子をアプタマーと呼びます。私たちは進化分子工学を駆使して、約1018種類の配列を含む核酸ライブラリーの中から、腫瘍マーカーや病原性微生物に結合するアプタマーを探索しています。そして、コンピューター内進化を利用した“in silico maturation”というアプタマーの改良法を独自に開発し、標的分子に対する結合能や特異性を飛躍的に改良したアプタマーの開発に成功しています。そして、アプタマーのナノ構造の変化を利用して、癌やアルツハイマー病、感染症などを簡単・迅速に診断するバイオセンサーの開発を行っています。
ジンクフィンガー蛋白質は生体内で多く見られるDNA認識蛋白質で、9塩基程度の配列を特異的に認識することができます。私たちはDNAを指標に病原性微生物を検出する検査であるPolymerase Chain Reaction(PCR)法に、このジンクフィンガー蛋白質の認識を組み合わせた新規微生物検出システムを構築しています(図1)。PCR法は微生物のゲノムDNAの一部を増幅することにより見分ける方法ですが、まれに誤ったDNA配列が増幅されることがあります。そこでジンクフィンガー蛋白質を用いて増えた配列が正しいか否かをチェックします。これまでに大腸菌O157をはじめとした様々な病原性微生物を検出する事に成功しています。また、同様の原理を応用して、ヒトゲノムDNAのメチル化を検出するシステムを開発しており、発症前診断への応用を検討しています。