カイコ成虫短命形質を支配する遺伝子の所属連関群
○李 玉順・蜷木 理・横山 岳・黄色 俊一(農工大農)・原 和二郎(生物研)
カイコの成虫生存期間は2、3日から十数日間であり、成虫生存期間に関する突然変異としてsdi遺伝子が知られている(Fujii et al. 1996)。
本学に保存されているN25系統は、成虫の生存期間が2〜3日と短く、個体間の変異がほとんどみられない新たな成虫短命系統と考えられた。本系統は形態異常に関する遺伝子を複数保持していたため、それらE群の遺伝子を除いた新たなN251系統を育成した。
連関検索は、(N251×RF02)♀×N251♂の交雑に用いた♀親と♂親個体、及びBF1区において成虫が7日間以上生存した個体を選抜し、これらから全ゲノムDNAを抽出した。次いで、原らの樹立したcDNAリンケージグループの各連関群の標識クローンを用いてサザンブロットハイブリダイゼーションを行なった。連関関係の判定は先ず、BF1の両親個体間におけるRFLPを確認し、それら両親から生じたBF1個体の遺伝子型を調査した。その結果、可視形質により調査した第1と第6、またRFLPにより調査した23の連関群においては、成虫短命形質と独立関係が明らかとなった。一方、m268クローン(原らの第22連関群)では、7日以上生存したBF112個体の全てがヘテロ型を示した。したがって、m268クローンと成虫短命遺伝子は同一連関群に所属していることが明確である。
明暗条件下における蟻蚕拡散行動の差異
○大槻治嘉・蜷木理・横山岳・黄色俊一(農工大農)・原和二郎(生物研)
蟻蚕の拡散行動は品種によって大きな違いがあるとされているが、多数の品種を同時期に調査した結果は報告されていない。また、これまでの蟻蚕の拡散行動調査はすべて暗条件で行ってきたが、拡散の様子を実際に見て確認するために明条件で一部の品種を拡散させたところ、暗条件より活発な行動が観察された。
そこで東京農工大学に保存されている24系統について、暗と明条件下で拡散行動を調査した。拡散させる時間は暗の場合は15分間、明では9分間とし、温度25±1℃、湿度60±20%の条件下で測定を実施した。
t46の蟻蚕は暗での拡散係数(D)が45.48ともっとも活発であり、明においても115.55と極めて活発な行動を示した。暗でD=1.99と不活発であったN15の蟻蚕は、明では約38倍のD=75.83と大きな増加を示した。一方、暗でD=1.91であったN22は、明では約3.6倍のD=6.94と、条件を変えてもその変化程度は比較的小さかった。そのほかの系統においても、光刺激による拡散係数の増加程度は系統によって異なっており、各品種に特有の光刺激感受性があることが伺われた。
r20系統の組み換え値の異常について
横山 岳1・藤井
告1・阿部広明1・蜷木
理1・伴野 豊2・黄色俊一1(1.農工大、2.九大院農)
九州大学遺伝子資源開発センター保存のr20系統は第2連関群上のp (0.0)とY (25.6)の遺伝子間の組み換え値が極めて小さいが、その詳細については不明である。そこで、このr20系統の組み換え値の異常の原因が染色体のどこにあるのか検討した。
r20系統のpS・Yを持つ染色体とp・+Yを持つ染色体のどちらが異常な組み換えを示すのか交雑実験によって調査した。その結果、p・+Yを持つ染色体の組み換え値は22.7%と正常で、pS・Yを持つ染色体の組み換え値は1.8%と極めて小さい値を示したことからpS・Yを持つ染色体に原因があることが分かった。次にpS・Yを持つ染色体のpS側とY 側のどちらが異常を示すのか同様に交雑実験によって調査した。その結果、+Y側の組み換え値は18.3%とほぼ正常で、pS側では5.9%と極めて小さい組み換え値を示した。以上の結果、r20系統の組み換え値の異常はpS座位周辺の染色体に異常があることが分かった。 r20系統ではpSヘテロ型にもかかわらず黒縞斑紋が薄くならず、pSホモ型と同じであったことから、r20系統ではpS 周辺の染色体が重複しており、重複が組み換え値を小さくしていることが示唆された。
カイコのBt毒素Cry1Abに対する優性の抵抗性
○蜷木 理・佐野 明紀・横山 岳・黄色 俊一(農工大農)・神田 康三(佐賀大農)・原 和二郎・宮本 和久(生物研)
カイコはBt毒素に対し様々な反応を示す品種が存在し、抵抗性解明の有力な研究材料として期待される。そこで、農工大学に保存されている一部の品種についてCry1Ab毒素抵抗性に関する調査を実施し、抵抗性を示した系統については交雑実験により遺伝性を検討した。毒素投与は粗タンパク量37.6mg/mlを含む10%蔗糖溶液を原液とし、ミクロマニプレーターに取り付けた100μlシリンジにて4齢起蚕に1頭ずつ0.8μlを嚥下させた。調査した12品種中、抵抗性と判断されたもの5品種、感受性は3品種であった。抵抗性4品種に感受性のe21を交雑したF1のうち3つの交雑組み合わせではF1はすべて感受性であったが、c440との交雑では毒素投与した2蛾区中1蛾区で半数の個体が生き残った。また、感受性のF1雌に抵抗性の雄を戻し交雑したBF1において、3系統のBF1では毒素投与で半数以上の個体が死亡したが、c440雄を交雑した区では68.3%の個体が生存した。この結果は、戻し交雑に用いたc440が優性の抵抗性遺伝子を持っていた可能性を示すものである。よって、c440は劣性のCry1Ab毒素抵抗性遺伝子のほかに優性の抵抗性遺伝子を保持している可能性が示唆される。
限性黄色繭のW染色体部位のW特異的RAPD保有状況
○ 阿部広明1・藤井 告1・横山 岳1・黄色俊一1・伴野 豊2・三田和英3・味村正博3・嶋田 透4(1.農工大農、2.九大院農、3.農生研、4.東大院農)
我々はこれまでに12個のW染色体特異的RAPD(randomly amplified polymorphic DNA)を得た。日本で保存されているほとんどの品種のW染色体は、これら12個のRAPDを保有している。限性黄色繭のW染色体(T(W;2)Y)には、黄血遺伝子(Y)を含む第2染色体断片が転座している。この限性黄色繭のW染色体のW特異的RAPD保有状況を調べた。調査した系統は、農工大・横山保有系統(横山Y系統と称する)、農工大・阿部保有系統(阿部Y系統)、ならびに九州大学保有の系統(九大Y系統)の3系統である。横山Y系統は、W-Mikan,
W-Samurai, W-Bonsai, W-Yukemuri-S, W-Yukemuri-L, ならびにW-Rikishiの6個を保有していた。これに対し阿部Y系統ならびに九大Y系統は、W-Rikishiのみを保有していた。これら3系統は放射線照射によって得られた限性個体1頭を起源としている。限性黄色繭系統の転座前の系統は支125号である。この支125号のW染色体は12個のW特異的RAPDを保有していた。これらの結果から、現存する限性黄色繭系統のW染色体には、最初の転座でW特異的RAPDを6個分を含む部位が欠落し、そこに第2断片が転座したものと、それに続く改良の結果、さらにW染色体部位が短くなったものの2種類があると考えられる。
Z染色体の末端部の過剰と欠損に起因する卵形成と雄の羽ばたき行動の異常
○藤井告1・横山岳1・阿部広明1・蜷木理1・黄色俊一1・石川剛弘2・根井充2・嶋田透3(1.農工大農、2.放医研、3.東大農)
昨年の関東支部会で、1)限性虎蚕系統のW染色体から解離したZe断片を新たに得て、それがW染色体の一部を保有していること、2)Ze断片はZ染色体に転座しており、転座部位は+sch座(1-21.5)と+od座(1-49.6)との間であること、3)転座Z染色体を持つ虎蚕の+od雌にod雄を交配すると、期待型であるodの雌と虎蚕の+od雄の他に、伴性遺伝の例外型である虎蚕の+od雌やod雄が生じたことを報告した。今回伴性遺伝の例外型の雌雄を遺伝学的に解析した。例外雌は卵形成に顕著な異常があり次代が得られなかった。例外雄はほとんど羽ばたくことができず次代蚕の約1/4が胚致死し雌雄比は1:2であった。胚致死した卵からDNAを抽出し、W染色体とZ染色体のPCRマーカーの保有状況を調査すると、胚致死した卵は雌でありN20.70b(1-0.0)からBmkettin(1-40.0)を保有しているがT15.180a(1-48.8)を欠損していることが判明した。この結果からZe断片は、Z染色体がBmkettin(1-40.0)とT15.180a(1-48.8)との間で2つに切断された結果生じた+od座を有する染色体(+od断片)に転座していると考えられた。+od断片とW染色体との分離の異常(不分離)で伴性遺伝の例外型個体が生じたことが推察され、例外雌では+od断片上の遺伝子が過剰であり、例外雄では欠損していると考えられた。例外型個体には形質異常が認められたので、遺伝子量補正の欠如が指摘されているカイコのZ染色体に座位する遺伝子の機能解析において有用である。
桑葉含量の異なる人工飼料で飼育したカイコガ幼虫のα-グルコシダーゼ阻害活性について
○八並一寿1・福田栄一1・町田順一2・横山 岳3小野寺敏4(1.玉大農、2.群馬蚕試、3.農工大農、4.昭和薬大)
演者らはこれまで、カイコガ幼虫のα-クルコシダーゼ阻害活性に系統間で差異があることを明らかにした。系統間で活性の違いが見られた理由には、品種・系統により阻害物質を蓄積・代謝する能力の違いか、合成・代謝能力の違いと予想した。しかしこれまでの研究では、飼育過程で摂取した桑葉の量は系統間で差がないことを前提としていた。そこで、以下の品種「小石丸、C601、J601、ぐんま×200」について、以下の各区、すなわち、桑葉飼育(みなみさかり)M-0(人工飼料のみ)、M-15(乾燥桑葉15%)、M-30(乾燥桑葉30%)の人工飼料でカイコガ幼虫を飼育した。2〜5齢の幼虫を蒸留水でホモジナイズ後、遠心した上清の希釈液について、α-グルコシダーゼ阻害活性を測定した。桑葉より幼虫の活性が高く、桑葉飼育の3齢の活性が強かった。飼育に使用した桑葉、人工飼料について、阻害活性を測定したところ、桑葉>M-30>M-15>M-0で、M-0にもわずかに活性が見られた。C601の人工飼料飼育で、2齢、3齢で阻害活性はM-30>M-15、J601の人工飼育で3齢、4齢でのM-15とM-30の阻害活性は同程度であった。ぐんま×200の2〜5齢では、M-0の活性は極めて弱く、2齢と3齢では活性はM-15>M-30、4齢と5齢ではM-30>M-15であったがいずれも活性は接近していた。桑葉飼育は、いずれの品種でも極めて活性が高かった。