低コヒーレンス動的光散乱法
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 図1 低コヒーレンス動的光散乱法の光学系
図2 2種類のポリスチレン球懸濁液の粒径分布
 
   図3 Wall-drag効果
 
  図4 Wall-drag効果の実測例 
動的光散乱法とは,溶液中をブラウン運動する粒子で1回だけ散乱された光の強度ゆらぎの時間相関関数から粒子径を推定する手法です.単散乱を発生する溶液は,体積濃度で0.01%という極端な濃度に希釈される必要があります.したがって,原液のままで測定したいという要求に答えることはできません.私達は,Optical coherence tomography (OCT) の原理と一般に用いられている動的光散乱法を組み合わせた新し粒質計測法を提案しています.(図1)

OCTでは,マイケルソン干渉計の参照平面鏡を走査することによって,その位置に対応した観測試料内の位置付近に存在するブラウン粒子からの散乱光を光源のコヒーレンス長以内の精度で検出できます. 実は,SLD光源の代表的なコヒーレンス長10ミクロン〜20ミクロンというのは,高密度な溶液,たとえば体積濃度10%の溶液中の平均的な粒子間距離に対応します.したがって,高濃度な溶液に散乱された光の中から,1回だけ散乱した光を選択的に検出することができるのです.

図2は,半径0.165ミクロンと0.403ミクロンのポリスチレン球10%懸濁液を1:4の割合で混合した懸濁液について,低コヒーレンス動的光散乱法を用いて粒径分布を計測した結果です.従来の測定法では,10%という高濃度の懸濁液の粒径分布計測は不可能でしたが,提案手法によって測定が可能になりました.

さらに,低コヒーレンス動的光散乱法において参照平面鏡の位置を固定すると,それに対応する懸濁液中の位置を固定することができます.その固定された位置の周りの粒子による単散乱光を検出できます.この特徴を利用して,固体と液体の境界付近の粒子の動態計測が可能になります.図3に示すように,固液境界におけるブラウン粒子運動においては,その周囲の液体と固体表面との流体力学的な相互作用によって,速度が急激に減少します.このような効果を,Wall-drag効果といいます.

図4は,低コヒーレンス動的光散乱法で測定したブラウン粒子の拡散運動の係数の変化を,固体表面からの距離の関数として示しています.
曲線は、理論曲線です.このようにWall-drag効果を実測できることが実証されました.