研究内容

  1. 種を通して保存された昆虫ストレス応答機構の解明
  2. 昆虫は環境変化に素早く適応できる能力をその体構造や生理代謝機構において進化させた結果、地球上で大繁栄できたと考えられています。その適応システムのひとつとして、ストレスを受けた際に発生する多量の活性酸素を素早く処理できる能力があります。昆虫はヒトなど他の生物と同様の活性酸素処理システムも持ちますが、その詳細についてはよく分かっていませんでした。昆虫がストレス因子をどのようにかわすのか、生体内のいずれの分子群を利用しているのかを明らかにすることができれば、昆虫の環境適応戦略の仕組みの一端に迫ることができます。研究室ではWet&Dry手法を組み合わせた解析により昆虫が他の生物にはない環境適応能力を持つ理由の解明に取り組んでいます。

    プレスリリース: 2016年7月昆虫はストレスを上手にかわす

    プレスリリース: 2019年2月活性酸素を除去する新型酵素を昆虫から発見

    プレスリリース: 2019年10月蛹で活性酸素を利用する仕組みを発見

  3. 寄生蜂による宿主独占と宿主侵入の仕組みの解明
  4. 多胚性寄生蜂キンウワバトビコバチは、多胚生殖という発生様式を持ち、1卵から2000頭の同一遺伝子を持つ個体(1卵性2000生児)が発生します。キンウワバトビコバチの幼虫は、最終的に成虫となる繁殖幼虫と、攻撃専門の不妊の兵隊幼虫がおり、これらがカーストを構成しています。繁殖幼虫は、寄主が終齢幼虫期に達すると寄主を殺して蛹化、羽化します。兵隊幼虫は繁殖幼虫よりも早い時期から現れますが、蛹化せず幼虫のまま寄主体内で死亡します。この兵隊幼虫には同一寄主内部に寄生する競争者を攻撃して排除する役割があります。同一寄主内部に競争者がいた場合に、兵隊幼虫の数が増加する宿主独占の仕組みがあることが知られています。一方で、キンウワバトビコバチにおいて、宿主体内への侵入は寄生成功の必須要件です。この侵入において、多胚性寄生蜂の桑実胚は宿主組織に損傷を与えることなく侵入し、むしろ宿主は桑実胚を積極的に迎え入れます。このような組織親和的侵入は、一般的に動物界で広く知られる遠縁種間の急性型移植拒絶反応を回避するユニークな現象で、その仕組みとして分子擬態が示唆されています。研究室ではこのような興味深い現象を持つキンウワバトビコバチをモデルとして、宿主独占と、宿主侵入の仕組みを研究しています。

    プレスリリース: 2019年10月寄生蜂が宿主を独占する戦略の仕組み

  5. 医薬品シードとして有用な昆虫由来化合物の探索
  6. 昆虫は強い生理活性を持つ毒成分を含む植物を利用し、積極的に体の中に蓄積および濃縮できるように進化してきました。 これらの生理活性成分は食草から吸収され、それぞれの昆虫種に特有の代謝を受けて変化した成分が含まれます。 昆虫体内や、昆虫の糞には人間の考えが及ばない新奇な構造を持つ化合物を含み、尚且つ昆虫代謝系の特徴から、 動物が吸収しやすい構造に代謝される利点があります。現在100万種以上存在することが報告されている昆虫から 狙った薬理作用を持つ昆虫種を探索出来るシステムを構築できれば、医薬品シードとして有用な化合物を効率良く 探索可能です。当研究室ではニューラルネットワークによる機械学習を用いて薬用昆虫資源探索モデルの開発を通し、昆虫から医薬品の候補となるような 有用生理活性物質の探索を行っています。

    新聞掲載情報:日経産業新聞2016年6月23日掲載ナナフシの成分が効果            

  7. 昆虫類の家畜/水産用飼料としての利用開発
  8. 今後世界中において食料が不足することが懸念されています。 アメリカミズアブは生ゴミを食料とし、豊富なタンパク質や微量栄養成分を体内に蓄えることが知られており、 それを利用した良質な家畜および水産用飼料としての開発が待たれています。 研究室ではアメリカミズアブの特性を生化学的視点から研究し、代謝に関わる酵素類の網羅的同定を通して、より高い処理能力を持つアメリカミズアブの選抜に取り組んでいます。また、有用成分を体内により多く蓄積できる飼育方法を開発しています。 最終的には機能性を付加したアメリカミズアブ飼料を大規模に供給可能とすることを目指します。