2つの芳香族化合物をカップリングする反応は、Ullmannカップリングやクロスカップリング反応、さらには直接アリール化などの方法が知られていますが、いずれもハロゲン化物や金属アリール化合物を事前に準備しておく必要があり、金属ハロゲン化物などの廃棄物が生成物と等量副生します。脱水素アレーンカップリングは、2分子の芳香族化合物から直接炭素―水素結合を切断し、酸素により切断された水素を水にする触媒反応であり、副生成物は水のみです。この優れた反応は、もともとは企業の研究により開発された反応であり、触媒には酢酸パラジウム(II)と酢酸銅(II)が使われます。しかし、これまでの収率は10%程度に留まっていました。触媒反応の見直しのためには、反応機構を知ることが重要ですが、触媒濃度が希薄な条件でないと反応がうまく進行しないこと、200 ˚Cを超える高温が必要であることや、パラジウムと銅の2成分の金属化合物が混在する系であることから反応機構はほとんど明らかとなっていませんでした。私たちは、大阪大学や京都大学とも共同して太陽の100億倍明るい光が作れるシンクロトロンにより、触媒反応中のパラジウム錯体がどのような反応をしているのかを触媒反応中の溶液をそのまま観察することではじめて解明しました。この反応は、現在電子材料や宇宙航空材料として重要なポリイミド原料の合成に使われている工業的にも重要な触媒反応であり、この機構解明は新聞にも掲載されました。
- 【最近の関連論文】
- (1) Hirano, M.; Sano, K.; Kanazawa, Y.; Komine, N.; Maeno, Z.; Mitsudome, T.; Takaya, H. ACS Catalysis 2018, 8, 5827-5841.
有機ケイ素化合物は、地球の主要な構成元素のひとつであるケイ素と、有機化合物の主要である炭素間での直接的な結合を持つ化合物群です。有機ケイ素化合物の科学は、無機化学や有機化学に匹敵する基礎化学の一分野として発展してきました。また、有機ケイ素化合物の優れた性質から高分子化学や材料化学、さらには有機合成試薬として近年極めて重要なものとなっています。その有機ケイ素化合物の合成法の一つとして、ヒドロシリル化反応が挙げられます。この反応は、アルケンなどの炭素―炭素不飽和結合を有する有機化合物とヒドロシランから有機ケイ素化合物が得られる反応です。この反応には、触媒として主に白金錯体が用いられてきました。最近、我々の研究室では、リン配位子を1つだけ持つパラジウムゼロ価錯体がアルケン、アルキンやジエンの立体および位置選択的なヒドロシリル化反応の有効な触媒となることを発見しました。この触媒は特に電子不足なアルケン、アルキンやジエンのヒドロシリル化に対して、高い活性を示します。
- 【最近の関連論文】
- (1) Komine, N.; Abe, M.; Suda, R.; Hirano, M. Organometallics, 2015, 34, 432-437.
(2) Komine, N.; Ito, R.; Suda, H.; Hirano, M.; Komiya, S. Organometallics, 2017, 36, 4160-4168.