読書体験を豊かにするための基礎技術
読書体験を豊かにするための基礎技術
仮想挿絵システム(Ver.1: 2007, Ver.2: 2008-2009)
近年,電子書籍の登場により携帯電話やPCといった電子端末で,漫画や小説といったコンテンツを楽しめるようになってきています.これらの電子書籍の中にはページ内容に沿った音や映像を付加したものが存在しており,これまで紙に描かれていた挿絵が持っていた役割をデジタルコンテンツにより実現したという点で「仮想挿絵」と表現するできます.仮想挿絵によりもともと印刷されている内容を強力にサポートすることができ,より豊かな読書体験を持つことが可能になると考えられます.
しかしながら電子書籍自体が現在広く普及しているとは言い難く,有料の電子書籍になると全ての世代を見ても利用したことのある割合は10%程度となっています.普及に至っていない理由として,技術の側面からは液晶ディスプレイを通じた長時間の読書は目の疲労が大きいことや読書時に紙の質感が得られないことが挙げられます.電子ペーパー技術の発展により目に優しい表示やフレキシブルディスプレイによる「ページめくり」感覚の提供は可能になると考えられますが,読み進むにつれて変化する重量感覚を提示することは困難であると考えられます.特に推理小説を読む場合などには,支える手から得られる現在のページ位置の感覚からさらなる話の転換の有無などを無意識的に予測していることが考えられ,書籍とのインタラクションを考える上で重要かつ興味深い要素です.また非技術的な側面からは,著者のみならず複数の個人や団体が関係する複雑な権利関係のため既存の本を電子化しにくくコンテンツ自体が不足している点が挙げられ,本質的な課題となっています.そこで本研究では,既存の印刷媒体を直接利用することで電子化することなく豊かな読書体験をもたらす仮想挿絵システムとその基盤技術を開発しています.
既存の本の使用感を保つために,ページめくりの認識は,しおりとブックカバーの2種類を拡張することで実現します.下図の左側はしおり型です.
これはスワンタッチという製品を応用しています.ページをめくるたびに「スワン」のくちばし部分がはじかれるのでこれを検出しています.
一方,右側はブックカバー型です.透明なカバーの裏側で新たなページを押さえるためにめくる動作を検出しています.
稲川暢浩,藤波香織; 読書中に低い妨害感で効果的に付加情報を伝達するための情報提示方法”,情報処理学会ユビキタスコンピューティングシステム研究会第24回発表会(UBI24),2009年11月.
Nobuhiro Inagawa and Kaori Fujinami; “Presenting Supplementary Information while Reading a Book”, Presented at Late Breaking Results Session in 7th International Conference on Pervasive Computing, In Adj. Proc., pp. 155-158, Nara, Japan, May 2009.
Kaori Fujinami and Nobuhiro Inagawa; “Virtual Illustration System to Augment Book Reading Experiences with Multimedia”, DIPSO2008 workshop at Ubicomp2008, September 2008.
Nobuhiro Inagawa and Kaori Fujinami; “Making Reading Experience Rich with Augmented Book Cover and Bookmark”, In Proceedings of the 8th Asia-Pacific Conference on Computer Human Interaction (APCHI2008), Seoul, Korea, July 2008
稲川暢浩,藤波香織;”読書体験を豊かにする紙ベース書籍の拡張”,インタラクション2008(ポスター),2008年3月
稲川暢浩,藤波香織;”読書体験の向上に向けた紙ベース書籍のマルチメディア化の試み”,第70回情報処理学会全国大会,2008年3月