ウェアラブルプロジェクタによる歩行支援
ウェアラブルプロジェクタによる歩行支援
投影画像の安定化(2010-2012)
村田 哲史
近年の高齢者増加に伴って介護予防の概念が重要視されてきてますが,中でも歩行能力の低下防止は生活空間を広げるうえで重要となります.その手段として専用機器を用いた訓練等が行われていますが,数の問題等から利用しにくい現状があります.高齢者が自主的な歩行訓練を行うことは歩行能力の低下防止に有用だと考えられますが,加齢に伴う歩行の変化により高齢者の習慣的歩行は運動効果が低いと考えられます.そこで,何らかの方法で本人の歩行状態に合わせた支援情報の提示が必要となると考えています.また,高齢者に多くみられる脳卒中やパーキンソン症候群等の患者においては,歩行障害がしばしば認められます.例えばパーキンソン症候群の場合,すくみ足現象により歩行開始が困難になることや,小刻み歩行,加速歩行等により歩行が安定しないことが報告されており,日常生活上でそれらの歩行障害を回避するための支援が望まれます.
一方,プロジェクタは近年の技術進歩が目覚ましく,将来的には携帯電話に搭載される程度に小型化されることが予想されます.本研究では,身体に装着した小型プロジェクタで情報を床に投影し歩行支援を行う「ウェアラブル歩行支援器」の実現を目指しており,それに際してまず問題となる歩行時の投影画像の揺れを軽減する方法について中心的に取り組んでいます.
本システムは,図1に見られるように,1)利用者に身体装着されたセンサから検出したデータを用いて歩行状態を推定する歩行状態検出ユニット,2)現在の歩行状態と身体機能等の基本データを基に歩行支援情報の動的生成を行う支援情報生成ユニット,3)歩行に伴う床上での支援情報の揺れを軽減する投影安定化ユニット,の主として3つの機構から構成されます.支援情報は腰部に装着した小型プロジェクタを用いて前方の床上に投影され,利用者にフィードバックされます.図2は実装の様子です.処理は小型PCで行われます.
ある被験者の歩行開始から400フレーム分の画像中心点のからの誤差の座標を水平方向と歩行方向についてプロットしたものを図3に示してあります.これは,中心点(0, 0) に近い座標であるほど誤差が小さいことを示しています.安定化補正処理を行うことによって投影画像の位置誤差を48.7%改善できていることが確認されています.
本研究は以下で発表しました.
Satoshi Murata, Masanori Suzuki, and Kaori Fujinami; “A Wearable Projector-based Gait Assistance System and its Application for Elderly People”, In Proceedings of the 2013 ACM International Joint Conference on Pervasive and Ubiquitous Computing (UbiComp’13), pp. 143-152, Zurich, Switzerland, September 10. 2013.
Satoshi Murata and Kaori Fujinami; “A Stabilization Method of Projected Images for Wearable Projector Applications”, In Proceedings of the 13rd International Conference on Ubiquitous Computing (UbiComp2011) (demo), pp. 469-470, September 2011. (ACM-Digital Lib.)
Satoshi Murata and Kaori Fujinami; “Stabilization of Projected Image for Wearable Walking Support System Using Pico-Projector”, presented at the 1st International Workshop on Cyber-Physical Systems, Networks, and Applications (CPSNA’11), In Proceedings of the 17th IEEE International Conference on Embedded and Real-Time Computing Systems and Applications (RTCSA2011), Vol. II, pp. 113-116, August 2011.
村田哲史,藤波香織;“小型プロジェクタを用いたウェアラブル歩行支援システムのための投影画像安定化”,情報処理学会 第57回モバイルコンピューティングとユビキタス通信(MBL)・第29回ユビキタスコンピューティング(UBI)合同研究発表会,2011年3月.
(学生奨励賞/情報処理学会推奨卒業論文認定)村田哲史,藤波香織;“小型プロジェクタを用いたウェアラブル歩行支援器のための投影情報安定化手法”,第73回情報処理学会全国大会,2011年3月.
図1 全体構成
図2 実装の様子
図3 投影安定化の様子