ハイブリッド化によるタンパク質・多糖の機能改変



機能改変の意義

 タンパク質、多糖、核酸などの生体高分子は、生命に直接関与するだけでなく、古くから我々の衣・食・住に密接に関わっており、多くの天然高分子の構造と特性が、これまで明らかにされきました。しかし、複雑多岐にわたる天然高分子の全貌は、未だ不明な部分が多く、具体的利用にあたっては、残念ながら経験的な色彩が強い、と言えます。すなわち、物性や機能を制御しようとする場合、これまでの実施例に基づき、適切な天然高分子の選択やその巧妙なブレンド技術で対応することが多い訳です。しかし、近年の高度化と多様化の潮流により、これら既存の素材やそのブレンドでは不十分で、さらに新たな機能の開発、改変、高機能化が必要となってきました。
 以上の背景により、既存の天然分子とは本質的に異なった、高度な要求に対応できるような新たな物質 (特にハイブリッド分子)の創出がきわめて重要であると考えられます。これまで、多くの改質・修飾が試みられてきました。特に、タンパク質では、(脱)アミド化、アルキル化、グリコシル化、アシル化、アセチル化、スクシニル化、リン酸化、硫酸化及びリポイル化等の化学修飾、また、トランスグルタミナーゼ等の酵素を介した修飾によって、耐熱性、乳化能やゲル物性の向上、基質特異性の変換、対溶媒溶解性の変換、抗原性の低減化、血中半減期の延長及び生理活性物質、薬剤や着色料の保護・選択輸送等の機能改変が行われてきました。タンパク質工学の発展に伴い、アミノ酸の部位指定変換、グリコシル化を行えることも加わり、機能改変制御の扉は開かれつつある、と言えます。
 これらの成果は、天然分子の欠点を補ったり、新たな機能を発現させる上で非常に重要です。なかでも、異種分子間の結合(ハイブリッド化)は、両者が互いに異なる特異性を有することから、特に重要であると考えられます。しかし、機能の発現の華やかさの陰で、創出分子の構造解析はなおざりにされる傾向が強かった、というのが実情です。機能発現はその構造に依存するので、詳細な構造研究の蓄積によって初めて、意図的機能開発達成の為の基盤が築かれると考えられます。さらに、従来の機能改変は、偶発的或いは意図的であっても単一の目的の為に行われた場合が多い、と言えます。今やマルチの時代。多岐にわたる機能改変を同時に達成することができれば、さらに多様で高度な価値を持つと考えられます。
 我々の研究室では、タンパク質・多糖の多面的な機能改変を達成するため、ハイブリッド分子の創出のチャレンジし、その構造と機能について解析を進めています。


酸性多糖とのハイブリッド化による
β-ラクトグロブリン(β-LG)の機能改変



 牛乳中の主要な乳清タンパク質であるβ-ラクトグロブリン(β-LG)は、栄養学的には必須アミノ酸をバランスよく含む良質のタンパク質です。有用生理活性物質であるレチノール等の疎水性物質の結合能を有しており、さらに、優れた機能特性(乳化性、ゲル化性、起泡性)を有することから、食品素材、食品添加物として優れたものものとなる可能性があります。しかし、一方で、β-LGは、牛乳アレルギーにおける最も強力なアレルゲンであり、利用上大きな問題点があります。そこで、β-LGを人為的に機能改変し、低アレルゲン化するとともに機能特性の改善を図ることは社会的にも意義が大きいと考えられます。そこで、本研究においては、β-LGと酸性多糖を複合体化し、β-LGの生理機能であるレチノール結合能を維持した状態で、β-LGの有する優れた機能特性をさらに増強し、さらに、アレルゲン性の低減化を達成すること、そのメカニズムを明らかにすることを目的としています。本研究は、蛋白質機能改変技術の確立、高機能化蛋白質の構造機能相関の解析、蛋白質低アレルゲン化の普遍的手法の確立に多大な貢献をすることが期待されます。
 これまでに、塩存在下、酸性pH条件下といった乳化に不利な条件での乳化性を格段に改善し、さらに、低アレルゲン化も大いに期待できる分子を創ることに成功しました。




新規バイオマテリアルとしての
酸性多糖-コラーゲンハイブリッドの調製とその性質



 人工皮膚のような新規バイオマテリアル、新規の可食性フィルムの開発につながるような研究の基礎として、酸性多糖をコラーゲンにハイブリッド化し、諸性質(線維形成性、ハイブリッドフィルムの透過性、細胞の分化・増殖に及ぼす影響など)を検討しています。


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