タンパク質の変性再生に関する研究
はじめに
タンパク質の変性・再生は、タンパク質の生合成後の成熟、遺伝子組換え技術を用いての有用タンパク質の生産といった関心から、近年特に注目され、また、これまでに数多くの研究が行われているテーマです。遺伝子組換えタンパク質においては、その生物活性が完全に維持されていても、局所的な構造が元のタンパク質と異なっていると、医薬品として投与するとアナフィラキシーショックを引き起こすという大きな問題点もあります。これまでに、多くのタンパク質について、一旦は変性した構造をin vitroにおいて元の状態に戻す試みが成功しています。リボヌクレアーゼA、α−ラクトアルブミン、ウシ膵臓トリプシンインヒビターは可逆的な再生を示すタンパク質の代表です。
一般に、分子量1万〜2万程度の比較的低分子量の球状タンパク質は、可逆的な変性・再生反応を示すといわれています。しかし、これまでの研究では、構造の分析方法は、CDスペクトル、自然蛍光の測定といった、分光学的手法を用いた物理化学的解析によっており、タンパク質全体としての構造は捉えられていますが、局所的な構造については、殆ど調べられていません。
そこで、本研究において、我々は、ウシ β-ラクトグロブリン(β-LG) をモデルタンパクとして、変性剤で完全に変性させた後、変性剤除去によりリフォールディングを試み、再生後のβ-LGについて、モノクローナル抗体(mAb)をプローブとして、微細な局所的高次構造へのアプローチを行ってきました。
本研究の目的としているのは以下のような点です。
1) 比較的低分子量の球状タンパク質において、変性後、再生を試みた場合、はたして再生タンパク質は完全に、局所的なレベルにおいても巻き戻っているか、明らかにすること。
2) 比較的低分子量の球状タンパク質において、完全なリフォールディングが達成できるような、変性・再生条件を構築すること。
3) 比較的低分子量の球状タンパク質の再生過程において、S-S結合形成の経路を明らかにすること。
本研究プロジェクトは、東京大学大学院 農学生命科学研究科 上野川修一先生、飴谷章夫先生との共同研究です。
Reference
Hattori, M.; Hiramatsu, K.; Kurata, T.; Nishiura, M.; Takahashi, K.; Ametani, A.; Kaminogawa, S., Complete Refolding of Bovine beta-Lactoglobulin Requires Disulfide Bond Formation under Strict Conditions. Biochim. Biophys. Acta 2005, 1752, 154-165. [Abstract]
Hattori, M.; Ametani, A.; Katakura, Y.; Shimizu, M.; Kaminogawa, S. Unfolding/Refolding Studies on Bovine beta-Lactoglobulin with Monoclonal Antibodies as Probes: Does a Renatured Protein Completely Refold ? J. Biol. Chem. 1993, 268, 22414-22419.
[Abstract]
東京農工大学のホームページへ
食品化学研究室のホームページへ