中・大型哺乳動物の生態と保全

金子 弥生

中国の高山と深い渓谷は、氷河時代にはレヒュージとして機能し、2800種以上の木本類、パンダやユキヒョウなどの希少哺乳類を擁する多様性の高い温帯林を生み出しました。特に中高標高域の森林の保水機能は、過酷な旱魃や洪水、土壌浸食を防ぎ、さらに下流域の灌水による集約農業を可能にし、世界でもっとも森林への依存が高い文明地域と言われてきました。しかし近年、中国南部をとりまく問題点は山積しています。行き過ぎた森林伐採により、例えば四川省の森林被覆率は1970年代には9%にまで減少し、森林棲の野生鳥獣のハビタットは消失し、地域・国家規模の絶滅が見られます。さらに特記すべき内容として、哺乳類では国立自然保護区 (National Nature Reserve、以下NNR) にすら人間活動による食肉目個体群の衰退、すなわち経済的資源としての野生動物の利用を目的とした密猟が生じています。この背景として、既存の野生動物に対する価値観(漢方薬、中大型食肉目の食肉利用)と、西洋化・資本主義の大量生産大量消費型の価値観が混在し、野生動物保護について理解や、その生息地としての管理方針が一貫性を欠いていることがあげられます。

中国にはアナグマ類が複数種生息するが、中でもブタバナアナグマ(Arctonyx collaris) は、IUCNの絶滅危惧種に指定され緊急な保護が必要とされます。しかし、アジア東部の文化的独自性を考えると、欧米で発達したConservation Biology(保全生物学)だけでなく、アジアにおいてWildlife Conservationを達成するための科学的根拠と動物と人間との関わりに関する具体的な情報を蓄積することが必要であると考えられます。特に食肉目動物を食料として利用するという伝統はアジア以外の地域にはみられない特徴です。したがって現在の中国、特に野生動物の生息地域の社会経済的状況や、地域住民の野生動物に対する意識や利用状況、流通に関する情報が不可欠です。この研究では、生態調査と並行して人間による野生動物の利用状況の実態把握(漢方薬や食品としての利用状況やこれらの流通をめぐる問題点)について調査し、国立自然保護区において実行可能な保全策と地域住民との合意形成内容について考察を行っています。


小池 伸介

ツキノワグマの基礎的・科学的生態情報の蓄積に関する研究:森林を主な生息環境とするツキノワグマ(アジアクロクマ)の持続的な個体群の維持と人間活動との軋轢を防ぐための基礎的・科学的な生態情報の蓄積を目指しています。また、日本だけでなくアジア各国の研究者と共同して、アジアクロクマの保護管理体制の確立を目指した研究を行っています


鈴木 馨

1.鈴木 馨(2013)野生動物の福祉.動物とのより良い関係を求めて:動物福祉学入門(上野吉一・武田庄平 編),印刷中,農林統計出版,東京
動物福祉の視点を、動物を学術的対象として扱う研究者のみならず一般の人々にも理解を進めるきっかけを与えようとするものである。欧米の「Animal welfare」の単なる輸入や翻訳ではなく、日本文化を意識した動物福祉に関する書き下ろしのテキストである。野生動物と人間の関わり、および野生動物への福祉的配慮について執筆した。