研究・報告
第51回国立大学教養教育実施組織会議参加報告
平成26年度(第51回)国立大学教養教育実施組織会議が、5月29日と30日、京都大学の主催により京都ブライトンホテルで開催され、本学からは、吉永契一郎准教授・加藤由香里准教授・今井賢教育企画課長が参加した。
プログラムは、以下の通りである。
◆特別講演
吉田文早稲田大学教授「教養教育担当教員・組織の課題:歴史的変遷と今後の可能性」
◆分科会
第一分科会:健康・スポーツ科目の履修単位数について
第二分科会:高年次教養教育の特色と課題
第三分科会:海外留学支援制度と教養教育プログラムについて
第四分科会:学びの質的転換について
◆事務協議会
1)授業の実施回数及び学生の出席状況の管理体制について
2)TOEFLの全学実施とその活用状況について
3)TAへの研修の実施及び活用状況について
◆全体会議
猪俣志野文部科学省高等教育局大学推進課大学改革推進室長挨拶
協議題「教養教育の実施組織と仕組みについて」
報告:京都大学・東北大学・三重大学・九州大学
ここで、すべての内容を紹介することはできないため、以下、本学から出席のあった分科会/事務協議事項に絞って報告する。
【第二分科会】
本分科会は、本学からの提案によるものである。最初に、吉永が、大綱化以降、高年次においても教養教育が可能となったことを説明し、専門に密着した教養教育の事例として、本学の「科学技術と社会」を取り上げた。その後、千葉大学からは、副専攻制度、大学院生を対象とする高度教養教育、それらを支えるコース・ナンバリング・システムの説明、大阪大学からは3年次以降の他部局科目履修「知のジムナスティクス」、大学院生副専攻プログラムの紹介、そして、島根大学からは、学士課程副専攻プログラム「環境教育」・「英語高度化」・「ジオパーク学」の紹介があった。
討議においては、大綱化以降、低年次教育の過密化、専門教育の中で職業倫理等の科目が増えていること、教養科目を高年次に開講することの難しさ(運営体制・分散キャンパス・担当者不足・時間割)、研究との関連で英語を中心とするコミュニケーション教育に対する高い要望、高年次教養教育における各部局の主体性などが指摘された。この分科会では、実施組織担当者の多くが、学部における教養科目については、掌握していないという実情が明らかとなった。全学的な組織と各部局との意思疎通の悪さは、教養教育/専門教育という分断が、現在でも存在していることを示す。今後は、より全体を見渡した学士課程教育の設計が求められるところである。
【第三分科会】
本分科会では、海外留学支援制度と教養教育プログラムについて3大学から発表があった。
<京都大学>
京都大学では、「2×by2020」と名付けた新たな国際化強化策を打ち出し、2020年までに英語で開講する授業の倍増、ならびに、留学生の受け入れと日本人学生の送り出し事業の強化に取り組んでいる。国際高等教育院では、5年間に英語力の高い教員を100名(現在35名決定)新たに採用し、各教員が4科目ずつ英語で授業を開講する予定となっている。このような取り組みは、各部の意向を前提にカリキュラムと予算、人事を審議する「教養・共通教育協議会」と分野別に活動する「企画評価専門委員会」が連携して行っている。
<東京大学>
東京大学では、駒場キャンパスにおいて1995年から3-4年生を対象としたAIKOM(Abroad in KOMana )を創設し、単位互換を前提とする短期(10ヶ月)交換留学プログラムを開始した。毎年30名程度(15%)の派遣実績がある。このプログラムは5年後に全学交換プログラムとして統合される予定である。また、2013年度から1年生向けの「初年次長期自主活動プログラム FLY (Freshman Leave Year) Program」により大学以外におけるボランティア、就業会見を行う活動も開始した。
<お茶の水女子大学>
お茶の水女子大学では、7割の学部生が留学に興味を持つものの、実際に留学に至らない要因として①資金、②語学力、③時間の3点を挙げ、それぞれについて独自の方策を提案している。また、大学の制度上の変更として、平成26年度から4学期制を併用し、海外の大学と接続を高める工夫を取り入れている。さらに、自学英語学習環境を整えることで、留学準備を支援している。
【事務協議会】
事務協議会は、次の3つの協議題について提案大学から提案理由の説明があり、当番大学(京都大学)が事前に依頼してある数大学から取組み事例の報告を行った後、質疑応答を行う方法で進められた。
1)授業の実施回数及び学生の出席状況の管理体制について(茨城大学)
茨城大学から提案理由の説明あり、信州大学、金沢大学、岐阜大学、長崎大学から取組み事例の報告があった。各大学最新の出欠管理端末を導入するなど先進的な取組み事例であった。特に、信州大学では、出欠管理システムのデータを活用し、問題を抱えている学生の早期発見や災害時の安否確認に活用している。岐阜大学のシステムでは、成績不振者など教員が個別に設定した条件よって、警告メールを送信する仕組みとなっているなど、大変興味深い事例が報告された。
2)TOEFLの全学実施とその活用状況について(京都大学)
京都大学から提案理由の説明に併せて取組み事例の報告があった。次いで、北海道大学、九州大学から取組み事例の報告があった。各大学ともグローバル人材育成事業による取組みであり、学部学生の英語スキルを向上するためのきめ細かいプログラムが用意されていた。各大学とも、TOEFLの成績と大学での英語の成績の相関関係についての分析が不充分であり、今後さらに分析したいとの報告があった。報告大学以外でも配布冊子(P.172~195参照)にあるとおり、多くの大学がTOEFL(TOEFL- ITP)を活用している。
3)TAへの研修の実施及び活用状況について(京都大学)
京都大学から提案理由の説明あり、東京農工大学、千葉大学、大阪大学、熊本大学から取組み事例の報告があった。本学(今井)から、TAセミナーの実施について、特徴的な取組みとして化学系・機械系に分けた安全教育及び、グループワークなどについて報告を行った。大阪大学では、TAに必要な情報を小冊子にまとめてハンドブックとして配布している。
TAセミナーについても出席者に時給を支払う必要があるのではとの質問があり、事例報告を行った4大学全て、支給していないとの回答があった。
特別講演・分科会・協議題はいずれも充実したものであり、京都大学の企画力の高さをうかがわせた。新学年が始まり、多くの業務を抱えている中、開催の労を取っていただいた京都大学の先生方および事務方にお礼を申し上げたい。