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学社融合型環境教育実践の展開構造

学社融合型環境教育実践の展開構造

玉井康之
(北海道教育大学釧路校)


1 課題と方法

1−1 地方の現状と地域づくりの課題

 地方における環境教育は、都市部における環境教育と異なり、環境教育が原生的な自然との関わりを強く持っている。しかも、それらの自然は、高度経済成長期には経済記な発展の妨げでもあり、自然を多く有していることが、逆に自然環境を保全するという意識を遠ざけていた。その結果自然が多く経済的に遅れている町を早く離れ、自然が少なく経済的に発展している都市部に早く移り住むことが、生活の豊かさを追求する条件として意識されていった。
 このような中で、1970年代から80年代の農山村の過疎地では、レジャー施設や企業の誘致を展開し、へき地を都市化することで人口流出の防止と経済的な活性化を試みた。しかし多くの自治体では、投入された財政支援と乱開発のマイナス面を補填するために、かなりの予算を支出したところが多く、自治体財政全体としては悪化していた。バブル崩壊後は、ほとんどの自治体において、レジャー施設や企業誘致は破綻している。
 多くの自治体が乱開発に走る中で、自然環境を守る取り組みやへき地性の意義を確認する取り組みを早くから開始している地域では、現在に至ってはむしろ地域の特色を生かし、地域づくりの条件となっているところも少なくない。またかつて何も価値を生まないとされた自然環境は、地球環境問題のグローバル化が深刻になればなるほど、自然そのものの価値を見直すようになってきている。このような現段階においては、改めて自然保護の活動と地域づくりの活動を連動させて考えていくことが重要な課題となっている。


1−2 環境教育における学社連携の課題

 環境教育では、これまでは自然保護活動などの活動が先行していたため、社会教育活動・社会教育行政が、環境教育の主要な活動を担っていた。しかし長期的には、社会教育として展開するだけでは、市民の認識の発展に限界があり、学校教育を含めて環境教育を展開することが重要になる。行動様式を含めた環境意識を継続的に培うためには、幼少期からの環境保全の活動と環境学習が継続的に展開されてはじめて、それが可能となる。
 また2002年度からは、すべての学校で「総合的な学習の時間」が展開することになり、そのひとつに環境教育が例示されている。さらにまちづくりや地域の活性化そのものを「総合的な学習」の学習課題として、地域の調べ活動に取り組む学校も増えている。すなわち環境問題とまちづくりを連動させ、「まちづくり環境総合的な学習」として課題設定することも可能である。これからの教育の中では、地域を与件として傍観者的にとらえるのではなく、自ら主体的に関わる学習対象として、地域づくりに関わることが重要な課題となる。地域の環境を自ら良くしていく地域づくりの活動に関わることによって、地域への愛着や誇りを醸成していくのである。自然環境が豊富な地域では、この自然を守る学習と活動が、地域づくりにもつながり、地球環境保全にもつながるという連鎖構造として、学習構造をとらえていく必要がある。
 学校が地域の環境教育に関わる方法として大きく分けると、第一に、学校教育課程のあらゆる活動を通じた環境教育がある。「総合的な学習」や特別活動や教科の学習活動の一環として行う学習活動である。同じような環境保全の活動をやっても、それがどの教育課程の一環として行われるかによっても意義付けが異なるが、現実にはそれらは密接に結びついて展開されている。
 第二に、社会教育の行事・活動と連携した環境教育である。これは市民環境保全活動に参加したり、環境保全を通じたまちづくりと連携しながら環境教育を進める活動である。これらの社会教育活動は、社会教育行政が主催している場合もあるし、NPOなどの社会教育団体が主催している場合もある。
 これらの学校教育活動と社会教育活動が連携しながら、学校内外で環境教育を展開していくことが重要な課題となっており、またそのことによって長期的に環境教育の効果を高めていくことができる。このような学校教育と社会教育が結びついた学社融合型の環境教育実践が重要な課題となる。


1−3 浜中町の環境教育の特徴

 北海道東部にある浜中町は、町全体で環境教育を進める町である。まず浜中町は、広大な自然があり、これまでも何度か開発業者やゴルフ場会社がレジャー開発をすすめようとしていたが、すべて受け入れないようにしている。基幹産業は、農業と漁業であり、これらの自然を対象にした産業であるために、自然環境を守ることと農漁業を営むことは密接に結びついている。
 また浜中町の中央に霧多布湿原があり、湿原保護条約であるラムサール条約の指定地域となっている。このような豊富な自然環境の中で、早くから湿原を保全しようという町民グループ「霧多布湿原ファンクラブ」が活動しており、これらは近年NPO法人として発展的に活動している。このような民間団体の活動を契機として、社会教育行政による町民への環境教育啓発活動も積極的に展開している。
 さらに、学校教育においても、環境教育活動を中心とした「ふるさと学習」を早くから展開しており、このような活動が現在の「総合的な学習」における環境教育活動につながっている。
 このような浜中町の環境教育活動をとりあげることによって、学校教育と社会教育が融合した学社融合型の環境教育活動を取り上げることができる。


2 環境教育における学習・啓発活動の構造

2−1 環境教育の学習・啓発活動の構造

 本稿では、浜中町の湿原保全運動を通じた環境教育を踏まえながらも、さらに環境教育に果たす社会教育行政の役割を明らかにすることを課題としている。環境教育の対象は、市民全般の生活・教育を包括した社会教育と、「総合的な学習」に見られるような学校教育の二つに分けられるが、とりわけ、子どもを含めた市民教育全般を担うものとしての社会教育活動を中心にとらえている。
 環境教育を進めるにあたって、これまで自然保護運動が牽引する役割は大きかった。北海道はとりわけ原生的な自然が今でも多く残っているために、自然保護団体もきわめて多い。環境教育もこの原生的自然を守る運動から派生している場合が多い。さらに、NPO法案に後押しされるように、自然保護団体がNPO(民間非営利組織)として発展する場合も多くなっている(注一)。浜中町の「霧多布湿原ファンクラブ」を前身としたNPO「霧多布湿原トラスト」も環境保全活動が発展して、環境教育活動を担う団体として展開している。
 このような団体の活動は年々重要になっているが、さらにこれらを後押しできるのが行政の役割である。どんなに民間の活動が大きな影響力を与えるような段階になっても、最後に公的な権限でもって啓発普及する行政の支援がなければ、啓発は定着していかない。
 またたとえ行政が環境教育に関わる運動や団体に直接援助を与えていなくとも、行政による意識的で一般的な環境教育の啓発事業によって、潜在的な意識として、市民の間に環境意識が定着する場合も多い。したがって社会教育行政や自治体行政が担っている環境教育の啓発事業の役割も、住民意識の向上において無視できない影響力を持つものとしてとらえておかなければならない。住民の意識変化は、あらゆる取り組みが感性的に結びつきながら、ゆっくりと全体としてのイメージが作られていくものだからである。そのため環境教育も、直接的に環境を保全する運動や啓発事業だけでなく、ゴミ拾いや省エネなど身近で小さな環境教育活動・事業の積み重ねが環境保全意識を高めていく上で重要であると言えよう。
 このような環境教育に果たす社会教育及び一般行政の役割をとらえるために、第一に、浜中町の環境教育をめぐる社会教育行政とそれを補完する自治体行政の全体構造を明らかにする。
 第二に、その各論として、社会教育行政が直接管轄する環境教育活動が、具体的にどのような内容と役割をもって展開しているかを明らかにする。社会教育行政が担当しているものの中には、子どもを対象にした事業もあるが、それらも社会教育事業の一環として行われているものである。
 第三に、教育行政を支える首長部局の一般行政が行う環境教育関連行政の具体的な施策の内容をとらえるとともに、間接的に市民の環境保全意識を高めている構造と役割を明らかにする。この場合に、必ずしも直接に環境保全活動を目指すものではなくとも、間接的に環境教育の役割を果たしているものも含めている。
 このような観点を踏まえながら、浜中町の環境教育の市民教育的な構造と社会教育活動をとらえていきたい。


2−2 身近な地域環境の素材と環境教育

 環境教育に関わる学習・啓発活動の構造を図式的にとらえて見ると、次のような構造となる。特に近年の環境教育の取り組みを見ると、グローバル問題の学習から入るよりは、身近な環境保全活動からグローバル問題へつなげていく取り組みが多い。すなわち、地域内での環境保全活動や環境調査活動が地域の保全や地域づくりにいかにつながっていくかをとらえ、それらが結果としてグローバル問題につながっていることを認識していく取り組みが求められている(注二)。なぜなら、身近に感じられる環境が、もっとも実感を伴いながら環境問題を考えることができるからである。このためには、地域ごとに展開する町村独自の環境教育活動から環境教育の構造を個別にとらえていくことを積み上げていくことが重要になる。


    環境教育に関わる学習・啓発活動の構造

     T.広義の生涯学習
       一. 市民団体の環境保全活動を通じた環境教育
            (一)湿原の自然を守る活動
            (二)湿原の自然に親しむ活動
            (三)湿原の自然を守る人を増やす活動
       二. 教育委員会生涯学習行政による学習・啓発活動
            (一)市民教育
               @生涯学習基本計画の中での位置づけ
               A出前講座の環境教育
               B自然ガイド養成講座
               C清掃活動をはじめとした自然環境保全のためのイベント・行事
               D環境学習講演会・環境学習活動
            (二)青少年の学校外教育
               @青少年の自然体験リーダー研修
               A高齢者の自然の中での知恵を学ぶ取り組み
               B総合的な学習と関連させた地域の環境学習
       三. 首長部局の一般行政による環境問題への対応を通じた環境教育
            (一)自然環境ビジターセンターなどの取り組み
            (二)ゴミ問題対応等役場各部署の環境問題への取り組み
            (三)クリーン自然エネルギーの推進

     U.学校教育 
       一. 地域環境をテーマにした「総合的な学習
       二. 社会教育事業と連携した環境保全活動



2−3 生涯学習と学校教育

 教育活動に関する領域を大きく分けると、行政の管轄で区切られる「T.広義の生涯学習」と「U.学校教育」に分けられる。一般的にどの地域でも、環境問題に関しては、社会教育の領域で取り組むのが早く、地域の環境破壊の問題への対応が環境教育活動に展開する場合が多い。学校教育で環境教育に取り組むようになったのは、グローバルな環境問題が共通に認識されるようになり、それらを「総合的な学習」の一つの課題とするようになったごく最近のことである(注三)
 「T.広義の生涯学習」の中では、「一. 市民団体の環境保全活動を通じた環境教育」と、「二. 生涯学習行政による学習・啓発活動」と、「三. 首長部局の一般行政による環境問題への対応・取り組み」の三つに分けられる。すなわち簡単に言えば、市民中心の活動と社会教育行政の活動と一般行政の活動の三つである。これらは相互に関連しており、市民活動を社会教育行政が啓発事業等で支え、生涯学習行政を一般行政の関連事業が支える構造となっている。
 「U.学校教育」では、「一. 地域環境をテーマにした『総合的な学習』」と、「二. 社会教育事業と連携した環境保全活動」の二つに分けられる。相対的に、前者の「総合的な学習」では、総合的な科学的認識能力を形成するのに対し、後者の環境保全活動では、心の教育に資するものとなっている。


2−4 市民環境保全団体の活動を通じた環境教育

 「T.広義の生涯学習」の中の「一. 市民環境保全団体の活動を通じた環境教育」では、大きく分けて次の三つがある。それは、第一に、浜中町の自然の代表的な存在である霧多布の「湿原の自然を守る活動」、第二に、霧多布の「湿原の自然に親しむ活動」、第三に、霧多布の「湿原の自然を守る人を増やす活動」の三つに分類できる。
 湿原を守るためには、まずその良さが分かるために湿原に親しまなければならないし、また湿原を守る人々を増やしていかなければならない。これらは、自然保護活動の三要素である。この自然保護活動は、最初は霧多布湿原など特定の自然保護に魅せられた人たちの活動という形態を取るのが一般的であるが、さらに、それだけにとどまらない。なぜなら、自然の生態系は、水と空気を媒介にして、山も川も湿原も海も結びついているからである。したがって、特定の自然に対する保護活動は、やがて自然一般の問題や生活問題に拡大していかなければならなくなる。霧多布湿原というラムサール条約で指定された特殊な自然地域は、やがて地域の自然一般の問題と結びつかなければならなくなるのである。


2−5 生涯学習行政による学習・啓発活動

 「T.広義の生涯学習」の中の「二. 生涯学習行政による学習・啓発活動」は、その中でも対象者別に、成人一般を対象にした「市民教育」と「青少年の学校外教育」とに分けられる。これらは、対立する事業ではなく、本来は車の両輪として位置づけられなければならない。とりわけ過疎地では、親や町民の意識が高まれば子どもの意識も高まるし、子どもが参加したいような社会教育事業は、大人も一緒についている。生涯学習行政は、文字通り、青少年から成人まで教育効果が連続するものとして、とらえていかなければならない。


3 生涯学習としての環境教育・啓発施策と役割

3−1 「浜中町生涯学習推進計画」の基本構想

 一般的に社会教育は、高齢者・婦人・青少年・団体・勤労者等あらゆる社会諸階層を対象にして、学習内容も多岐にわたっている。その中で、浜中町の第四期社会教育中期計画(一九九七〜一九九九年)では、基本的な「社会教育目標」として、「恵まれた自然を生かす知識と生産技術の進展を図り、町民生活の向上と豊かな郷土づくりに努める」ことを筆頭項目に据えている。浜中町の社会教育計画は、二〇〇〇年度の教育委員会の機構改革によって、社会教育課から生涯学習課となり、生涯学習計画として幅広く拡充されることとなった。
 二〇〇一年三月の「浜中町生涯学習推進計画-楽しく豊かに学ぶ生涯学習二一」では、多様な学習活動の一環として、「自然環境の保護の推進」「環境教育の推進」を明記している。この中では、「学校や社会教育、地域活動、イベント、などを通じ、町民の郷土に対する関心と理解を深め、郷土愛に根ざした自然保護意識の高揚に努める」としている。このために、@「自然との共存を図った、賢い利用のあり方を学習する機会の充実」、A「各種研修、観察、交流機会の提供」、B「自然環境の保護・保全のための日常生活の見直し」等を提起している。
 また自然環境保護だけでなく、環境教育の推進のために、「幼児・小学校期での環境教育や社会教育で環境教育を取り上げ、自然を大切にする心を養う」ことや、「自然とふれ合う体験学習を推進」し、「大量消費・大量廃棄型の社会経済活動やライフスタイルから省資源、省エネルギー、資源リサイクルについて学ぶ機会の拡充を図る」ことを重視している。
 このような自然保護・環境教育を推進するためにも、学習機会を拡充することが重要である。浜中町教育委員会では、自然に関する講座をはじめ、「生涯学習出前講座」を行うとともに、「自然保護・環境問題に関する学習」、「農林漁業をはじめとする地域産業を生かす学習機会の充実」を基本柱として社会教育行政を積極的に推進している。
 このような社会教育行政の施策が浸透していく背景には、浜中町に展開している各地区の社会教育駐在員制度がある。月に二回発行する社会教育通信も、社会教育駐在員によって、各戸に配布されており、地域住民と社会教育行政が密接に結びついている。


3−2 生涯学習出前講座政策の一環としての環境教育講座

 生涯学習の推進にとっては、学習要求にあった講師の選択が重要になる。その場合に、講師のメニューがあれば学習会や研修会も開きやすい。町民の学習を草の根的に普及するためには、日常的に集まれる場所に講師を派遣することが、学習会場に集まってもらうことよりも、普及しやすい条件となる。
 そのため浜中町では、一九九九年度から、役場の職員が学習の要求に応じて出向いていき、講座を無料で行う「生涯学習出前講座」を行っている。申し込み対象は、浜中町民一〇人以上で希望する団体・サークル・学校としている。メニューは、生活や町行政の所轄するあらゆる分野に及んでおり、全部で六三講座用意している。この出前講座の担当部署は、教育委員会の生涯学習課が担っている。
 このような出前講座によって、町民の学習機会が拡大するとともに、地域の学習素材を取り上げることによって、地域への愛着心や町づくり意識の向上につながる効果がある。農漁村地域にとっては、町づくりの大きな柱として自然環境保全や、自然を相手にした第一次産業の振興があり、町づくり意識の向上が環境教育の推進にとっても、重要な条件となる。
 環境整備・環境教育に関わる出前講座としては、「下水道処理のしくみ・使い方」「浜中町の水道」「ゴミ減量とリサイクル」「ゴミ処理施設見学会」などの生活環境整備に関するもの、「みんなで学ぼう浜中町の農業・漁業」などの第一次産業に関わるもの、「浜中町の見どころ・観光ガイド」などの景観や自然体験型観光メニューに関わるもの、「浜中の自然と環境」「自然と遊ぼう!」などの自然に親しみつつ環境を考えるもの、などが用意されている。
 二〇〇〇年度の出前講座の実施は、二〇件以上あり、現在は増加傾向にある。そのうちの半分以上が学校からの要請であり、学校教育行政と生涯学習施策が内容的に連動しているといえよう。


3−3 普及事業の一環としての霧多布湿原ガイド養成講座の役割

 生涯学習を草の根的に広げていくためには、行政が直接町民を教育・啓発していくだけでなく、町民から町民に向けて啓発していけるような町民を増やすことが重要である。浜中町では、霧多布湿原の自然環境を守り、その良さを普及するために、普及事業の一環として「霧多布湿原ガイド養成講座」を、一九八九年から開設している。一九八九年の初年度は、三〇名定員で二五名が受講し、ちょうど良い人数であるため、以後毎年三〇名定員で開設している。一九九一年には、前年の実施カリキュラムを元にしながら、「霧多布湿原ガイドマニュアル」を作成し、誰もが湿原ボランティアを担えるようにしていった。
 開講内容は、浜中町の自然全体の内容・湿原の植物・野鳥・生物などの自然全般の知識の他、ネイチャーゲーム・クイズ形式法・案内方法・自然の見せ方などの指導法も講義している。野外実習を伴いながら、実践的な内容を中心にカリキュラムが構成されている。
 このようなガイドの養成の中で、系統的に湿原を調査・研究していくことの重要性や、ガイドを養成するにしてもセンターとなるべき施設が必要であることが認識され、すでに計画のあった霧多布湿原センターの必要性が町内においてもいっそう認識されるようになっていった。
 また養成講座とは別に、生涯学習行政発行の通信の中に、環境問題に関する「環境学習コラム」を毎回掲載している。これは、町民一般に環境問題や環境用語に関する知識だけでも普及しようとするものである。それによって、養成講座にくる人以外の環境意識を高めようとしている。


3−4 浜中町「ふれあい自然ワークショップ」の役割

 浜中町教育委員会では、役場各部署と連携しつつ、一九九九年から「ふれあい自然ワークショップ」を取り組んでいる。これまで湿原保全のために、各団体が自主的にゴミひろいなどのボランティア活動などに取り組んでいたが、単に清掃活動としてだけでなく、学習事業と行事を併せ持って取り組もうとしたのが、この「ふれあい自然ワークショップ」である。
 「ふれあい自然ワークショップ」の主催は、浜中町教育委員会生涯学習課で、共催団体として、浜中町・町内各小中学校・霧多布湿原センター・霧多布湿原センター友の会・浜中町消費者協会・浜中町女性団体連絡協議会・浜中町商工会婦人部・霧多布湿原ファンクラブ・浜中町青少年団体連絡協議会が加わっている。後援としては、浜中漁業協同組合・散布漁業協同組合・浜中町商工会の各産業団体が加わっている。
 「ふれあい自然ワークショップ」の企画内容の柱は、「湿原クリーン作戦」・「グリーンフェスティバル」・「環境講演会」の三つである。
 五月中旬に行われる「湿原クリーン作戦」は、町民・子ども達が一斉に集い、湿原に捨てられているゴミを拾いながら、自然環境の保全を実感として感じてもらおうとするものである。清掃対象の道路は、霧多布湿原の真ん中を走る道路とその周辺の道路である。学校や町内会でばらばらに行われていたゴミ拾いを一斉に行うことで、清掃の効果が目に見えて現れるとともに、町全体の環境保全の機運や意識が高まることをねらいとしている。集まったゴミは、トラック三台分になり、集まったゴミを見て、参加者は汚れた度合いを再認識している。これによってゴミに関する社会マナーの啓発を行っているが、実際に、「湿原クリーン作戦」以降は、捨てられるゴミの量が減っている。子ども達の感想文を見ても、この取り組みに参加して以降は、ゴミ捨て行為に対して怒りを感じるようになっていると同時に、自分の行為としていっそうゴミを湿原や道路に捨てないようになったとしている子ども達が多い。
 六月に行われる「グリーンフェスティバル」の行事内容は、商工業と霧多布湿原と身近な自然とのふれ合いをミックスさせてとらえられるように、各単発行事をひとまとめにして開催するものである(表一)。


表一 グリーンフェスティバルの行事メニュー
リサイクルバザー
物々交換ばくりっこ
バードカービング
焼き板クラフト講座
新緑の木道散策
ハンドクラフト
ハンドメイドフィッシング
粘土の包み焼きコーナー
生活科学実験室
昔の遊びコーナー


 「リサイクルバザー」「物々交換ばくりっこ」などでは、古物や自分で作った物等を交換している。これによって、リサイクルや大量消費・大量廃棄の生活様式の問題について考える契機としている。
 「バードカービング」は野鳥の形態を木工カービングで再現する物であるが、これをすることによって、作成者は、野鳥の正確な様子を観察することになり、野鳥を身近に感じる契機となっている。
 「焼き板クラフト講座」は、産業廃棄物としても問題になっている建築廃材を使って、クラフトづくりを行う講座である。廃材利用によって、森林伐採の原因ともなる廃材の問題を考え、廃材のリサイクルや自然林への親しみをもたらそうとするものである。
 「新緑の木道散策」は、親子一緒になって木道を散策しながら自然観察を行うものである。これによって、親子のふれ合いを感じるとともに、親子で自然環境の問題を語り合ってもらおうとするものである。
 「ハンドクラフト」は、羊毛をつむいで機織りを行うものである。「ハンドメイドフィッシング」は、自然物を使った手作りの道具で小川のフィッシングを行うものである。「粘土の包み焼きコーナー」は、自然の葉と粘土で包み焼きを行うものである。これらはいずれも、自然の物を使って道具や生活用品を作るものであり、自然と生活との関連性をとらえる契機となっている。
 「生活科学実験室」は、合成着色料や洗剤や家庭包装ゴミなど日常的に使う商品の環境破壊に対する影響などを実験的に示すものである。これによって、家庭用排水問題や生活ゴミの問題への関心を高め、日常生活様式の転換と環境保護型の生活を促すようにしている。
 「昔の遊びコーナー」は、自然と接してきた、昔の人たちの遊びに触れることによって、自然の中での創造や工夫などを取り上げている。またここで高齢者と触れあうことによって、物がなかった時代の高齢者の生活の知恵を聞き語りで学んでいる。
 これらに合わせて産業団体が、地場の物品販売や、特別ランチや飲食物を扱ったり、バーベキューを行ったりして、お祭り行事的な内容を組み込んでいる。これらは、環境教育とセットになることによって、環境行事を通じた町民の関心・意識の向上、及び環境を媒介にした町民相互の交流を促進することをねらいとしている。また子ども達と大人達が共同開催することによって、大人達の問題意識を後ろ姿で子ども達に伝え、町づくりの担い手としての模倣学習効果を高めている。
 「グリーンフェスティバル」に加えて、さらに「ふれあい自然ワークショップ」の一環として「環境講演会」を行っている。これは、自然に触れながら自然の良さを実感的に認識したものを、さらに系統的にその意義を学習する取り組みである。講師には、環境保護に関係している北海道内の作家などを呼んでいる。
 すでに述べたように、これらは、全体として統一されているからこそ、行事としての位置づけや効果も大きくなるのである。必ずしも直接環境問題に関して学習を行ったということではなく、自然を使って物を作ったり、散策で自然の中にとけ込む中で、環境保全の重要性を実感としてとらえていくことになる。これらの体験的な活動を伴う実感的な認識が後に系統的な環境学習や環境教育講演会の学習と結びついていくのである。


4 学校外教育と自然保護・生活体験活動の役割

4−1 「浜中グリーンキッズクラブ」の取り組みと役割

 子ども達の環境教育は、一般的に自然に親しむ体験活動から入るものが多い。しかもそれらは、特定の自然保護などの目的的な活動というよりは、自然体験や生活体験を包括的に経験することが重要で、その中で、自然を守ることの重要性が感性的に育っていくのである。子ども達の発達段階の特性からすれば、包括的な自然・生活認識をとらえていくことがまず重要だからである。このため、自然に親しみまたそのような研修活動を意識的に行ってきた者の中から、成人後の自然保護活動のリーダー的な存在が輩出されることを期待している。このような取り組みをつうじて、自然環境保全の意識が町民の中に徐々に浸透していったのである。
 浜中町では、「浜中グリーンキッズクラブ」という自然体験・自然保護リーダー研修を一九八九年度から行っている。対象者は、町内の小学校五・六年生である。もともと名称は、「少年少女科学探偵団」という名称であったが、より自然保護や町づくりの意図を持たせるために、二〇〇〇年度から名称変更した。
 この目的は、自然体験・生活体験を行うことで、生きる力の基礎となる知恵や技能を習得するとともに、浜中町の身近な自然を観察・学習しつつ、浜中町の郷土を再発見する心を育てることである。自然体験メニューは、表二の通りで、清掃活動・ネイチャーゲーム・自然散策・陶芸・もの作り・料理づくり・冬季スポーツなど、多彩な内容を有している。この内容の特徴は、自然体験と生活体験が統合されていること、また楽しい体験と厳しい体験の両方が統合されていることである。これらを短期集中的な研修ではなく、一ヶ月に一度開講することで、長期的な問題意識を醸成するようにしている。
 この子どもを対象にしたリーダー養成の取り組みをすでに一〇年以上行っているために、今では初期に受講した子ども達も青年層の中に存在している。このような幅広い若年層に自然体験や自然保護を行ってきているからこそ、町民の自然保護や環境問題に対する関心が徐々に高まってきているといえる。(表2省略)


4−2 少年と高齢者とのふれ合い事業」の取り組みと役割

 学校外体験活動である「浜中グリーンキッズクラブ」に先駆けて、学校内においても、自然の中で生きた生活の知恵をはぐくむために、一九八五年度から「浜中町少年と高齢者とのふれ合い促進事業」を行っている。この取り組みは、各小学校に高齢者を派遣し、自然の中で遊び方や労働を工夫してきた高齢者の生活の知恵や技能を語ってもらったり、一緒に作業をしながら学ぶものである。したがって、直接自然環境保護・湿原保全に取り組むものではないが、昔の人たちの生活の知恵や自然との関わりを学ぶことによって、潜在的な環境保全意識が芽生えてくるのである。
 各小学校の学習内容は、表三の通りである。触れあう内容は、聞き語り・遊び道具の作り方・農作業などの労働体験学習・伝承遊び・収穫行事・敬老行事など多様な知恵と工夫を養うための体験的な学習が盛り込まれている。学校と地域の連携の一環としての地域人材の活用は、現代の学校教育改革の大きな柱でもあり、また次の「総合的な学習」の取り組みとも連動するものである。(表3省略)


4−3 「総合的な学習」と関連した環境教育実践の取り組みと役割

 二〇〇二年度から「総合的な学習」が一斉に導入されるが、浜中町の小学校では、既に全校において、へき地のふるさと学習活動を基盤にして、「総合的な学習」に発展させている。「総合的な学習」は、地域を素材にして体験的な学習を組み込みながら、年間一〇五時間予定されている。「総合的な学習」の例示領域のうちの一つが環境教育であるが、浜中町では、環境問題を地域づくりと関連させながら取り組んでおり、環境問題は、総合的な学習の取り組みとしてもふさわしいものである。
 環境教育実践校は、表四の通りである。霧多布小学校・榊町小学校・散布小学校・浜中小学校・奔幌戸小学校・貰人小学校・茶内小学校では、地域及び湿原の清掃活動に取り組んでいる。琵琶瀬小学校では、湿原の動植物観察やアサリ・ほっき貝などの海の資源を活用した資源観察学習に取り組んでいる。姉別小学校では、牛乳パック等の再利用・川つりに取り組んでいる。茶内第一小学校・浜中中学校では、緑化運動や植樹に取り組んでいる。茶内中学校は、ゴミ問題に関する講演や調査活動等を行っている。
 これらの取り組みは、「総合的な学習」として学校教育課程としてのみ位置づけられているのではなく、地域ぐるみの地域づくり活動の一環として位置づけられている。そのため、学校での「総合的な学習」がそれだけで自己完結しているのではなく、「浜中グリーンキッズクラブ」の取り組みや、「少年と高齢者とのふれ合い事業」の取り組みとも連動している。「総合的な学習」のプログラム内容や、子どもの教育効果の分析については、機をあらためて取り上げなければならないが、地域に出ていくこれらの活動に対する子ども達の学習関心度と教育効果は高い。(表4省略)


5 一般行政の環境問題への対応と環境教育

5−1 行政と連携した霧多布湿原センターの環境教育活動の役割

 教育委員会と並んで環境教育・湿原保全の啓発活動に大きな役割を果たしているのが、一九九三年にオープンした浜中町営の「霧多布湿原センター」である。霧多布湿原センターについては、すでに前章までで詳細にのべているが、行政の役割をとらえるためにここでも簡単に触れておきたい。
 この霧多布湿原センターは、地域活性化推進計画の一環として設置され、湿原に関する博物館的な機能と観光ビジターセンターとしての機能を備えている。霧多布湿原センターの管轄は、商工観光課であり、教育委員会ではないが、博物館的な啓発機能を併せ持っている。霧多布湿原センターは、地域住民への自然理解を深める社会教育的な役割と、まちづくりの役割の両面を有した町の施設としての役割を持ち、行政施策と密接な関連を持っている。
 霧多布湿原センターの職員は一〇人いるが、そのうち四人が町役場の職員で、三人が「霧多布湿原センター友の会」の職員であり、三人が掃除を請け負っている。職員は、役場職員と友の会職員の間で明確な線引きがあるわけではなく、密接に連携しながら進められている。現在の霧多布湿原センター長は、NPO「霧多布湿原トラスト」の前身である「霧多布湿原ファンクラブ」の役員である。
 町職員は、霧多布湿原センターの運営全般を担っており、主にその役割は、展示物・展示ホールの内容整備や入れ替え・図書室の運営・湿原の調査研究・湿原のデータ蓄積・観光インフォメーションなどである。
 「霧多布湿原センター友の会」は、民間の非営利団体として運営されており、町職員であるよりも活動しやすくしている。「霧多布湿原センター友の会」には、町から一八〇万円を助成している。この友の会職員の主な役割は、ミュージアムショップやコーヒーラウンジの出店・修学旅行エコツアーへの対応・センター内展示物の解説・湿原センター主催行事の補助・友の会通信の発行・イベントの開催などである。
 霧多布湿原センターの環境教育の方針としては、環境問題を教えることよりも、いい自然環境の中で、自然と人間環境との関係や暮らしのあり方を気づき発見することを第一の目的としている。この気づき発見することを支援するために、インタープリテーションが必要となるととらえている。したがって、感性的な認識を目指すために、野外における自然体験を通した環境教育プログラムを多く取り入れている。環境教育プログラムの要素としては、「遊ぶ・創る・手技を学ぶ・食べる・観る」であり、五感と体験を重視した構成となっている(注四)
 このような活動を行っているために、商工観光課との連携だけでなく、教育委員会社会教育課の環境教育事業や、学校教育課が学校に取り入れた湿原環境の「総合的な学習」との関連性も強く、人材派遣や行事の共催など、教育委員会と連携されている。


5−2 役場各部署の環境教育への取り組みと役割

 環境教育を担っているのは、教育委員会や商工観光課の霧多布湿原センターだけでなく、行政の各部署が担う幅広い環境保全政策が、無意識のうちに地域住民の環境保全意識の向上に影響を与えている。浜中町も環境問題だけを独自に扱う部署はないが、役場の各部署で行っている環境施策が、徐々に潜在的な環境意識を醸成している。
 役場町民課では、生活環境や廃棄物の処理や公害の問題を扱っている。ゴミ処理場が二〇〇三年度に満杯になってしまうために、ゴミを出さないように指導している。特に生ゴミに関しては、一個二五〇〇円のコンポストを、使いたい町民用に一〇〇個助成している。また二〇〇〇年から家庭用電気生ゴミ処理機の助成を、費用の約半分である三万円を上限にして助成している。このような取り組みもゴミを出さないという町民の意識を生み出している。
 役場水産課では、漁業協同組合と連携して、川の浄化と漁業にとって必要な植林に努めている。すでに毎年二千本ほどの植林を、一九九七年頃から続けている。また漁協婦人部では、魚介類に対する合成洗剤の影響を考え、合成洗剤を使用しないで、石けんを使用する運動を一九八五年以降始めている。この取り組みは川を汚さないという環境保全意識を生み出している。一九九五年度には、教育委員会と役場が連携して、環境セミナー「石けんで海と大地と人にやさしいまちづくり」を開催している。
 役場農林課では、糞尿が河川を汚染しないように、河川の周りに木を植えたり、河川に近いところに堆肥盤を設置しないように奨励している。また町面積の三八パーセントを占める森林・原生林における鳥獣保護に努めている。


5−3 風力発電の取り組みと住民への啓発効果

 浜中町は、クリーンエネルギーの導入にも積極的で、一九九七年八月から風力発電を導入した。風力発電を担当・啓発しているのは、企画財政課である。年間発電量は一一〇万キロワットで、余剰電力は、北海道電力に販売している。風力発電と同時に、隣接地に「ふれあい交流センター ゆう湯」という温泉館を設置し、この電力でお湯を沸かしている。風力発電自体の経済効果がきわめて高いわけではないが、温泉入館者は、経営が成り立つぐらい毎年盛況である。町民は、風力発電による温泉に浸かることで、自然のエネルギーのありがたさを肌で感じることになる。この風力発電の存在そのものが、環境に優しいエネルギーのあり方や省エネの考え方を潜在的に普及している。


6 地域環境教育発展の課題

 すでに前章までで見たように、浜中町の環境教育は、NPOをはじめとした民間団体の自然保護運動の果たした先導的な役割は大きい。さらにそれらを普遍化するためには、公的な行政機関の役割が大きい。
 とりわけ、地域住民への啓発や住民団体の組織化・活動への援助という点からすれば、教育委員会の社会教育行政が、NP〇団体の活動や地域住民の活動に対して間接的に与える教育効果は大きい。これらの社会教育行政が広くまた継続的に住民に啓発しているからこそ、環境意識が徐々に高まっているのである。
 また教育委員会を取り巻く一般行政も各部署において、環境保全に関わる施策を施しており、これらが広い意味で、住民の環境意識を向上させる条件となっている。ゴミ問題対策やクリーンエネルギーとしての風力発電などは、それ自体が教育事業でなくとも、それらを普及することによって、十分な環境教育効果をもたらしている。
 浜中町の地域の環境教育の発展は、このように、直接環境保全をめざす民間団体と、それらを含めて一般的に啓発を促す教育委員会の活動と、それを潜在的に補完していく一般行政の環境保全施策の三つの要素で構成されていると言える。民間の活動と教育委員会の行政施策と首長部局の環境施策が結びついてはじめて環境教育が地域住民の中に浸透していくのである。このような民間団体と教育行政と一般行政が結びつきながら、環境保全政策を進めていくあり方は、今後の環境教育の一つのモデルになりうるものである。
 今後の課題としては、学校教育においても、地域の素材に依拠した「総合的な学習」が展開することになるが、この「総合的な学習」は、学校教育行政とだけ連携するものではなく、社会教育行政はもちろんのこと一般行政や地域の活動とも連携しなければ展開できないものである。そのコーディネイト的な役割として社会教育行政の果たす役割はますます大きくなっている。学校教育時代から青年期・成人期までをトータルに連続的にとらえる地域の学習活動が重要になってきている。そのためにも学校教育と社会教育を総合的にとらえた地域教育計画が、環境教育においても、今後いっそう求められていると言えよう。


                                                   (玉井康之)





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