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ピーター・バーグ講演会報告

ピーター・バーグ講演会報告

福永真弓
(東京農工大学大学院)


1 講演会の目的および日時

 2001年5月18日、東京農工大において、生命地域主義の代表的論者であるピーター・バーグ氏の講演会を行った。当日は学部学生・院生・および教官を含め、多数の参加者があり質疑も活発に行われた。講演会の内容については以下2.にて記す。
 今回の講演会の目的は、日本において現在活発になっている里山を中心とした自然の保全運動、および地域社会から「グローバルに考え、地域で行動する」ことを根付かせるために私たちが何をすべきかについてバーグ氏の講演会を通じてより深く考え、学ぶことにある。バーグ氏の生命地域主義は、「地域に根付き、住み直す」というプロセスを持つ。その彼が、アメリカ合衆国および南米において、生命地域主義がどのような活動をしているのか、そして「土地で生きる」とはどういうことと考えているのかを知ることは、日本における私たちにとっても有意義であろうと考えられる。


2 講師のプロフィール

◆ピーター・バーグ(Peter Berg)、1930〜
  1960年代半ばよりサンフランシスコ・ディガーズの中心人物として、対抗文化において重要な役割を果たす。1972年のストックホルムで行われた人間環境会議以降、環境運動に携る。1977年にレイモンド・ダスマンと共に『エコロジスト』誌上に発表した「カリフォルニアに住み直すこと」(“Reinhabiting in California”)にて生命地域主義(bioregionalism)を発表し、以後自ら主催する「プラネット・ドラム協会(Planet Drum Foundation)」を中心に、生命地域主義の旗手として活動を続けている。


3 講演会の内容について

  今回の講演会では、バーグ氏が現在携る生命地域主義の活動、それをケーススタディとして生命地域主義とは何かをバーグ氏が語った。以下、講演の内容について簡略に述べると以下の通りである。

 @バーグ氏が現在活動している南米のエクアドルにおける生命地域主義の活動
  バーグ氏は現在、プラネット・ドラム協会の数名と共にエクアドルにて地域社会再興の試みを行っている。エクアドルは植民地時代より残るコーヒーのプランテーションが現在でも行われ、地域住民は多国籍企業や先進国の所有する産業を中心に簡易な労働力として見なされ、歴史的に搾取されてきた。更には、森林伐採やそれによる土壌流出、マングローブ林の伐採による干潟の消滅等の自然破壊により地域住民の生活状況は悪化し、産業自体の継続も困難になっている。このような状況の中で、先進国のNGO、NPOがコーヒーおよびその他の生産物を、無農薬有機栽培かつフェア・トレードにて取引を行い、それによる地域社会の再興を試みたり、マングローブ林の再生を行う努力をしている。しかしながら、特筆すべきは、その地域住民の中から、自らの地域社会再生を志し、自分たちで活動し、その活動を発信しようとするグループが生まれてきたことである。そのグループは「エコ・バヒア」というグループであり、バーグ氏が北米で興していた生命地域主義の思想を知り、自ら土地を住み直すことを手がかりに地域社会の再興を試みようとしてきたのである。バーグ氏はその「エコ・バヒア」の活動を共に行いながらエクアドルにおける生命地域主義の活動を手助けしている。

 A生命地域主義とは何か
  さて、では生命地域主義とは何であろうか。生命地域主義とは、「生命地域(bioregion)」にて「その土地において十全に生きること(living-in-place)」を目指し、その地域に「住み直す(reinhabitation)」試みである。「生命地域」とは、政治的な取引により決められた国境や州境、村の境界等ではなく、生態系と人々の意識の領域、つまり歴史的に土地に根付く文化に基づいた新たな地域(流域を中心とすることが多い)である。その「生命地域」において、自然と人間が、お互いの豊かさを増大させることを目的に歴史的に営まれてきた相互の関わりを再度つむぎだし、自律的な地域社会を作り上げようとする試みである。もちろん、それは家父長制度等の復活などではなく、あらゆる人間が生きることの豊かさを求められる社会を作り出すことが目的である。
  バーグ氏は、エクアドルにおいて、傷ついた自然の修復活動(restoration)と共に、永続可能な(sustainable)地域社会を求めて活動を続けている。日本における「里山」という概念はまさに、生命地域主義と相通じるものを持つのだ、ということを指摘した上で、バーグ氏は、日本においてpro-active、常に「住む」ことの豊かさを捉えながら、積極的に自らが生活を通じて活動に参加しようとする態度、こそが必要なのだと訴えた。

講演会の内容は以上である。


                                                   (福永真弓)





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