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地域生涯学習計画における環境教育実践の
構造化に関する理論的・実証的研究

地域生涯学習計画における環境教育実践の構造化に関する理論的・実証的研究

(課題番号12610247)
平成12年度〜平成13年度科学研究費補助金(基盤研究(C)(2))研究成果報告書

平成14年3月
研究代表者   朝岡 幸彦
(東京農工大学農学部助教授)


はしがき

 中央教育審議会(中教審)の答申を受けて「総合的な学習」の有力な教育領域として「環境教育」が学校の教育課程の中に積極的に導入されようとしているにもかかわらず、これまでの環境教育学には複数の教科を統合した「合科教育」の発想を越えて学校―地域―国家―地球の環境問題を通観した実践を支える学習構造に関する理論的・実証的研究が不十分であった。そのことが、学校における環境教育実践の基盤を矮小化し、地域や国家・地球レベルでの環境問題の解決に積極的に取り組む能力と柔軟性をもった主体として子どもたちの成長を促す環境教育実践を生みだしえない大きな原因のひとつになっていた。他方で、これまでの社会教育学や生涯学習論においても、公的社会教育や民間カルチャーセンターなどの施設・制度に依拠した学習実践に関する研究の域を越えて、積極的に地域の環境門内と関わる学習実践を構造化するための理論的・実証的研究がほとんどみられない。
これは、現在の環境教育研究の多くが学校教育に集中して社会教育・生涯学習の領域に関わる研究が極めて弱い領域となっていること、反対に社会教育・生涯学習研究が環境問題に象徴される地域課題に積極的に取り組む子どもや市民の学習実践を十分に構造化しえなかったこと、この双方の研究上の弱点が子どもや市民のエンパワーメントに依拠した地域における学習実践の構造化・計画化を困難にしてきた。
 これらを踏まえて本研究プロジェクトは、1)学校―地域―国家―地球を通観した子どもや市民の環境教育実践に注目し、2)これらの学習実践を生涯学習へと構造化する理論的仮説を提起しつつ、3)社会教育型環境教育―学社融合型環境教育―学校教育型環境教育の実態を分析し、4)そこに内在する動態的な環境教育実践の類型と具体的な実践モデルを析出し、その運用可能性を吟味して、5)地域生涯学習計画の構造化に関する理論的・実証的課題を明らかにしようとするものであった。
 本研究プロジェクトの特色・独創的な点として、以下の諸点をあげることができる。
1)本研究は、環境教育学から見ても、社会教育学・生涯学習論から見てもこれまでの研究上の弱点に当たる部分である地域課題に関わる子どもからおとなまでの幅広い範囲の教育実践を取り上げていること。
2)こうした実践の具体的な例として、学校における環境教育実践と市民の環境保全運動につらなる環境教育実践とが連携しつつある事例に注目し、その実践に内在する生涯学習の論理と課題を構造化しようとするものであること。
3)さらに、地域における環境教育実践の具体的・実証的な調査・分析の方法にもとづいて、地域生涯学習計画の前提となる学習実践の類型と実践モデルを組み立てようと意図したものであること。
4)そのうえで、従来の環境教育や社会教育・生涯学習とは異なる、「地域の環境問題の解決にかかわる学習の構造」を明らかにし、それにもとづいた「学習の計画化」の目的・内容・方法・組織を導きだそうとしていること。
 本研究プロジェクトは、環境教育学の領域において蓄積されてきた学校を中心とした環境教育実践とその研究の延長上に位置づくものの、直接的には社会教育学会において積極的に取り組まれてきた地域生涯学習計画研究の成果を踏まえて、地域で地道に取り組まれている環境教育実践から導き出される「学習の構造化」を試みようとするものである。とりわけ、学校における環境教育実践と市民の環境保全運動につらなる環境教育実践とが連携しつつある事例に注目し、学校―地域―国家―地球の環境問題を通観した学習実践の構造を再び「総合的な学習」の可能性として学校における環境教育実践にも応用することができると考える。
 また、社会教育学・生涯学習論の領域でも、社会教育―学社融合―学校教育という3つの型の教育実践の分析にとどまらない、地域生涯学習計画の策定に向けた各実践の有機的結合の方法と可能性を環境教育実践の分析という形をとりつつ明示しようとするものである。そのために各型の分析をもっぱら分担する研究分担者(朝岡=社会教育、玉井=学社融合、安藤=学校教育)に加えて、環境思想研究の側面から環境教育実践の意味の分析・理論化を主に担当する研究分担者(鬼頭=環境思想)、教育行政の側面から地域教育計画化の手法について主に担当する研究分担者(小島=教育行政)を配置して研究に取り組んだ。


研 究 組 織

   研究代表者:朝 岡 幸 彦 (東京農工大学農学部助教授)
   研究分担者:小 島 喜 孝 (東京農工大学農学部教授)
   研究分担者:鬼 頭 秀 一 (東京農工大学農学部教授)
   研究分担者:玉 井 康 之 (北海道教育大学釧路校助教授)
   研究分担者:安 藤 聡 彦 (埼玉大学教育学部助教授)
   研究協力者:永 石 文 明 (東京農工大学非常勤講師)
   研究協力者:山 本 千 明 (東京農工大学大学院修士課程2年)
   研究協力者:降 旗 信 一 (東京農工大学大学院修士課程2年)
   研究協力者:小 栗 有 子 (東京農工大学大学院修士課程2年)
   研究協力者:佐 藤 洋 作 (NPO法人文化学習協同ネットワーク代表)
   研究協力者:菊 池  滉  (国分寺市光公民館事業係長)
   研究協力者:福 永 真 弓 (東京農工大学大学院博士後期課程1年)


交付決定額(配分額)      (金額単位:千円)

直接経費 間接経費 合 計
平成12年度 1,900 0 1,900
平成13年度 1,900 0 1,900
総計 3,800 0 3,800


研究発表

(1)学会誌等(発表者名、テーマ名、学会誌名、巻号、年)
@鬼頭秀一、環境(的)正義論、アジア・太平洋の環境・開発・文化、1号、2000年
A鬼頭秀一、環境倫理における「地域」の問題をめぐって、東北哲学会年報、16号、2000年
B玉井康之、生活体験学習の基本類型と教育効果、日本生活体験学習学会誌、1号、2001年
C朝岡幸彦、まちづくりとつながる環境教育の現代的課題、月刊社会教育、539号、2000年
D安藤聡彦、<環境と自然>の現在、にいがたの教育情報、66号、2001年
E安藤聡彦、コモンズをはぐくむ、いい住まいシニアライフ、43号、2001年
F小島喜孝、公立義務教育学校の出席停止命令に関する法改正、人間と社会、12号、2001年

(2)口頭発表(発表者名、テーマ名、学会等名、年)
@朝岡幸彦、持続可能な社会に向けた環境教育の戦略と社会教育の役割、日本社会教育学会、2001年

(3)出版物(著者名、書名、出版社名、年)
@朝岡幸彦、NPOと参画型社会の学び、エイデル研究所、2001年
A朝岡幸彦、都市公民館の再生、北樹出版、2002年
B玉井康之、地域に学ぶ「総合的な学習」、東洋館出版社、2000年
C小島喜孝、子ども・学校と教育法、三省堂、2001年





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