講義で使用する/したスライド等のpdf(カラー)をこちらからご覧いただけます。
小テスト回答のヒントは、平成15年度の「病原微生物学:質問に対する回答など」をご覧下さい。
質問に対する回答など
10月 7日クラス
質問と回答
植物の「病気」と「病害」の違いは理解できたが、植物病理学では、病気の研究はしないのか?
講義でのご紹介の仕方がまずかったようです。申し訳ありません。農学における植物病理学の目指すところは、農業=食料生産への貢献であり、そのため、農業の阻害要因である「病害」の制御を目的にして研究を行っていることをお伝えしたかったのです。そのためには、「病気」がなぜ起こるか、どのような条件で起こりやすいのか、「病気」を起こす原因は何か、など「病気」に関する研究を行います。
植物が病気によって絶滅した例はあるか?
講義の中では、圃場に全面的に病気が発生している様子をお見せしました。耕作者がその圃場を放棄すれば、その作の植物は全滅したということができるでしょう。一方、ご質問いただいた植物(種)の絶滅については、例を知りません。講義資料の、植物の病気が生態系に及ぼした重大事例としてあげられている、Ophiostoma属菌によるニレ類立枯病など、大きな被害を及ぼした例はありますが、植物の絶滅には至っていません。このような流行は、侵入病原による場合が多いのが特徴です。
原種トマトから採取される微生物と、現在のトマトの病原微生物の関係に興味をもった。
12月ごろに講義の中でご紹介する予定です。また、大学院修士課程の講義で詳細にご紹介する予定です。
青首大根はカブモザイクウイルスに強いのか?
いわゆる青首大根すべてが強いわけではありませんが、青首になる大根品種の中に、カブモザイクに対する耐病性が高い品種があります。
10月21日クラス
質問と回答
生物の系統解析の結果と既存の分類で矛盾が生じた場合どう対応するのか?
生物の分類体系の究極は系統関係を忠実に示すものです。しかし、古くから形態に基づいた分類が行われていたため矛盾が生じることがあります。「他人の空似」と呼ばれる(細谷 2019)現象です。概ね、系統が明確になったものから系統に準じた分類体系を用いるのが常です。10/28のクラスでご紹介する菌の分類体系の変遷でこの例をお示しします。「分類は目に見える形質で行われてきたが、今後は他の基準で分類されるようになという理解で良いか?」というご質問もいただきました。従来は形態(顕微鏡レベルの形態も含みます)が基準になることが多かったですが、上記のように、系統をできるだけ反映できるよう、遺伝子の塩基配列などを基準にすることが多くなっています。
病原菌の寄生性について、「biotroph」、「necrotroph」などと、「obligate parasite」などの表現はどう違うのか?
「biotroph」などは栄養をとる様式、「obligate parasite」は寄生の様式を示す言葉ですが、意味しているところはほぼ同じと理解いただいて結構です。
土壌で長期間生き延びる病原による病害が発生してしまうと対処法は無いのか?
1月の講義でご紹介する予定ですが、病原はいても感染あるいは発病しない植物種や品種を用いる、土壌を殺菌剤や熱などで消毒する、高設ベッドを用いる、などの方法で対処されます。「病原の生存期間が過ぎたら病原は死滅するのか?」とのご質問をいただきました。病原は、土壌などの中で少しずつ死滅していきますが、講義でお示ししたバナナパナマ病菌の例では、40年程度は病気を起こすだけの密度で残っているということを示しています。
病原が水で伝搬することがあるとのことだが、洪水の後で病気が広がることはあるのか?
バナナパナマ病などでよく見られます。
10月28日クラス
質問と回答
生物の分類体系は系統関係を反映していなくてはいけないのか?
分類は、生物の種などを誰でも共通に理解できるために与える名前です。系統関係を表現できるものだと種の近縁性が理解しやすいなど便利です。ただし、たとえば植物病理学では、宿主にできる植物品種などの範囲に基づく分類体系も用いられる場合があり、これだと、どのような品種に病気を起こすかがわかりやすく実用的ですが、系統関係を反映していないことがあります。
異核共存状態は長期間維持されるのか?また、3種類以上の核が含まれる場合もあるのか?
異核共存状態は長期間維持される場合があります。ナシ赤星病菌では、5月ごろから翌年の3月ごろまで異核共存状態でいます。異核共存状態が定常になっている菌もいます。アオカビ類を例示できます。3種類以上の核を持つものもいるとされています。「異核共存が病原性に影響を及ぼす場合があるのか?」というご質問をいただきました。大変興味深いご質問ですが、そのような例は文献でみあたりません。
擬有性生殖をする菌の染色体になにか特徴はあるのか?
糸状菌では核分裂の際に核膜が完全に消失しないとされていますが、これが擬有性生殖と関係するとの報告はありません。その他、擬有性生殖をする菌に特徴的な性質に関する文献はみあたりません。「有性生殖をせず、擬有性生殖ばかりになった場合のデメリットはあるのか?」とのご質問をいただきました。擬有性生殖のためには、多くの胞子や菌糸細胞が必要になりますので、染色体の組み換え等によって多様性を獲得した後代をつくる効率が下がると考えられます。「2nからnに至る間は正常に生育できるのか?」とのご質問もありました。生育が劣るものなどもあるでしょうが、そうでないものが選抜されると考えられます。
酵母にミトコンドリアが少ない場合があるのはなぜか?
嫌気条件で発酵を盛んにする場合には、理論的にはミトコンドリアが不要になります。
11月 4日クラス
質問と回答
菌の胞子の飛びやすさなどは形によると思うが、この知見をなにかに利用できないか?
菌の胞子の表面は平滑なもの、とげのあるもの、本日接合菌でご紹介したように複雑な筋のあるものなど多様です。これと、親水性や、胞子形成様式などによって、空気中での飛びやすさ、風によって運ばれる距離などが変わると考えられます。その知見を、たとえば飛び散りにくい粉剤の開発などに活かせると良いですね。
ゴルフ場の芝に大規模にPythiumによる病害が起きているのにびっくりした。あのように大面積に出た場合、どのように処理するのか?
複数種のPythiumが芝にPythium病を起こすことが知られています。排水不良の場合によく発生するようです。発生した際は、排水性を良くするなどの長期的改善が必要ですが、短期的には殺菌剤の散布処理によって対応することが多いようです。複数の殺菌剤が芝にPythium病用に登録されています。
レタスビッグベイン病の病原はMiLBVVとのことだったが、LBVaVは病原性を持たないのか?
ビッグベイン症状の株から常にLBVaVが見いだされるため、過去にはこちらが病原であると考えられていました。その後、MiLBVVが病原であることが明らかになりましたが、LBVaVの機能は不明です。「レタスビッグベイン病を媒介するOlpidium virulentus」微生物遺伝資源探索収集調査報告書 25 77-81, 2016を参照ください。このほか、「MiLBVVはどのようにしてOlpidium sp.の表面に付着するのか?」というご質問をいただきましたが、ご回答できるような参考文献が見当たりませんでした。
農薬の開発費が1剤100億円程度かかるのに、国内の農薬市場は3000億円程度しかない、とのことであったが、この「しか」の意味はなにか?
例えば、農薬市場を、殺菌剤、殺虫剤、除草剤で分け合ったとすると殺菌剤の市場は1000億円に相当します。50成分の殺菌剤が市場にあるとすると、1成分の売上は20億円ということになり、開発費の回収だけで5年間かかってしまいます。そのため、最近は、新剤の開発は、3000億円の市場しかない国内でなく海外も含めた市場をターゲットとする必要があります。そのため、べと疫剤、イネいもち剤など、市場が大きいものを対象にした開発が盛んに行われています。
11月18日クラス
質問と回答
「かすがい連結」は担子菌に特徴的であるとのことだが、異核共存状態の子嚢菌は細胞分裂の際にどのように娘核を再配分するのか?
通常の細胞分裂の際の核分裂相当のことが複数の核で起き、複数の娘核が娘細胞に分配されるとされています。
胞子を作らない菌がいるとは驚いた。拡散に不利では無いのか?
確かに風で運ばれる胞子に比べて飛散による拡大では不利な部分があるかもしれません。しかし、菌糸の伸長が早く優先したり、菌核が水や風で飛ばされたり、菌核が家畜の糞の中で生き残って拡散されたり、様々な代わる拡大戦略を持っています。
ムギ類のさび病菌は、ムギ類の葉の気孔をどう認識して気孔侵入するのか?
さび病菌だけでなく、他にも気孔など植物の構造などを認識して侵入行動をとる病原菌がいます。気孔の孔辺細胞の高さ、葉の硬さ、疎水性、化学組成など多様なものを認識する場合があることがわかっています。
さび病菌が宿主交代するメリットは?
同様なご質問を複数いただきました。例えばナシ赤星病菌の場合、ナシの様な落葉樹上から常緑樹に移動して越冬できることが1つのメリットであろうと思われますが、なぜその様な宿主交代を行うようになったのかはわかっていません。「複数の胞子世代を持つメリットは?」とのご質問もいただきました。冬胞子は耐久および交配、銹胞子や担子胞子は飛散など役割分担があると考えられます。
どのムギ類の品種も同じ様に、黒さび病や、黒穂病にかかるのか?
品種によって、それぞれの病気へのかかりやすさ(感受性)に違いがある場合があります。病害に強い性質を持つ(耐病性)品種の育種が行われています。
ムギ類の種子に殺菌剤を処理すると、内部に潜在する黒穂病菌を殺せるのか?
殺菌剤を溶解あるいは懸濁した液に種子を浸漬しますので、殺菌剤が種子の内部まで浸透して効果を示します。
11月25日クラス
質問と回答
子嚢菌の交配において、子嚢果を構成する細胞の核相はどうなっているのか?
子嚢菌のスライド2枚目を御覧ください。Ascoparp initiialと書かれているのが、子嚢果の原基に相当します。これは、交配する細胞とは独立し、どちらかの株の細胞からなりますので、核相はnです。
イネ稲こうじ病が豊作年に多いとのことだが、菌がどうやって豊作か凶作かを認識するのか?
複数、類似のご質問をいただきました。説明の仕方が不十分だったかもしれません。稲こうじ病菌は、イネが豊作がどうかを認識するのではありません。稲こうじ病は比較的気温が高く推移した年に発生しやすく、そのような気象のときにイネが豊作になることが多いため、豊作病と呼ばれます。逆にいもち病は、気温が低く、天候不順な気象条件で発生しやすく、その様な年には、冷害やいもち病でイネが凶作になる場合があります。
植物の炭疽病菌と動物の炭疽菌の関係は?
植物の炭疽病(anthracnose)の病徴が黒色の円形病斑で、これが動物の皮膚に起きる炭疽病(antnrax)の症状である黒色のかさぶた状の症状に似ているため同じような病名がつけられました。しかし、植物の炭疽病の病原は子嚢菌、動物の炭疽病の病原は細菌(Bacillus anthracis)であり、全く異なるものです。
12月 2日クラス
質問と回答
多犯性の病原菌は少ないのか?
講義でご紹介した灰色かび病菌(Botrytis cinerea)や、菌核病菌(Sclerotinia sclerotiorum)が多犯性の病原菌として知られていますが、このような多犯性の菌は少ないです。植物と病原の相互作用の中でご紹介しますが、多くの微生物は植物への侵入を植物の防御機構で阻止され、それをも打ち破れるものだけが病原になり得ます。上記の2種は、細胞外に分泌する加水分解酵素によって植物の組織を消化することで、植物の防御機構とあまり関係なく病気を起こせるものと考えられます。
イネばか苗病菌の水平伝搬はどこで起きるのか?
苗箱において汚染種子から、健全種子あるいは健全種子由来の苗に、菌糸伸長などによって水平伝搬します。これを本田に持ち込むと本田でばか苗症状がでます。一方、本田で徒長、枯死した株の株元に形成される胞子(分生子等)が飛散、これが健全頴花に風で運ばれて拡大します。これも水平伝搬ということができます。「イネばか苗病の制御のために、薬剤希釈液や温湯に種子を浸漬すると発芽してしまうと思うが大丈夫なのか?」というご質問をいただきました。通常、イネの催芽処理は10度以上で1週間程度水に漬けることで行いますので、短時間の処理はあまり影響がありません。しかし、処理と催芽方法の関係で発芽率の低下などの報告もありますので注意が必要です。
Fusarium oxysporumが複数の小型染色体を持つと多犯性になるのか?
2種以上の植物に感染するようになったという数少ない報告がありますが、あまり簡単でないようです。病原性に関わる因子は、かなり多くあり、ある宿主に病原性を示すにはそれらのうち必要条件を満たすことが要求されるからであると考えられています。現に、非病原性フザリウム菌にトマト萎凋病菌レース2の14番染色体を導入するとトマトに病原性を示すようになるという報告(Ma 2010)がありますが、この非病原性フザリウム菌は限られた株であり、どんな非病原性フザリウム菌株でも良いわけではありません。「小型染色体間に共通の遺伝子はあるか?」というご質問もいただきました。今のところ知られていません。病原性に必要な基本的な因子(加水分解酵素、毒素等)の生産に関わる共通の遺伝子は、コア染色体に乗っていると考えられています。「小型染色体は生存に必要ないのであれば、殺菌剤のターゲットにした場合に耐性菌が出にくいのでは?」というご質問もいただきました。確かに、小型染色体にはいわゆるエフェクター分子がコードされていますので、それと結合して無効化するなど、特異性が高く、殺菌性は無いが発病を抑えるような薬剤の開発につながるかもしれません。in vitroスクリーニングで選抜し、in vivoで効果を示すことができれば面白いですね。
F. oxysporumの起こす病気はどんな植物でも萎凋病という病名か?
宿主によって異なる病名が付けられています。トマトやホウレンソウでは萎凋病、ウリ科やサツマイモではつる割病、キャベツでは萎黄病、ミツバでは株枯病、バナナではパナマ病(萎凋病とも言います)、サトイモでは乾腐病など、それぞれの病徴の特徴を表す病名が付けられています。「ミツバは水耕栽培が主流だと思うが、それでも株枯病は発生するのか?」というご質問もいただきました。人工的に、水耕液にミツバ株枯病菌を接種すると容易に発病します。しかし、通常の栽培環境では水耕液にF. oxysporumが混入し被害を出している場面を見たことはありません。水耕の場合、水耕液を消毒あるいは容易に替えられること、ベッドを消毒できること、他の病気が顕在化しやすいこと、などが理由であると思います。
12月16日クラス
質問と回答
非病原性フザリウム菌のトマトへの「定着性」とは「病原性」とどう異なるのか?
実は、このご質問に回答できるようにするために、現在研究を進めています。簡単には、病気を起こさないにも関わらず、宿主植物の表面や組織内で増殖することができることを「定着」と考えているのですが、それをどう数値やメカニズムで示すかが現状では研究者によって異なっています。
グリシノエクレピンやソラノエクレピンの本来の機能は何か?
大変興味深いご質問です。本日の講義では、それぞれダイズやジャガイモなどの根部から滲出する物質で、それを認識してシストセンチュウのシストが孵化する、とお伝えしました。しかし、これらの物質が本来何か他の機能を持つのか、持たないのかはわかりません。同じ様な例では、植物が根部から分泌するストリゴラクトンをストライガという寄生植物の種子が認識して発芽することからストリゴラクトンが見いだされましたが、現在では、ストリゴラクトンは、そもそもは植物が有益な菌根菌などを呼び寄せることができプラスに機能していることがわかっています。しかし、これもそもそもの機能なのかは不明です。「グリシノエクレピン」がグリシノエクレピンAなどのカクテルとのことであったが、類似物質のカクテルなのか?」というご質問もいただきました。そのとおりです。近縁物質の混合物です。
シストセンチュウは、ネコブセンチュウやネグサレセンチュウより防除しにくいのか?
ネコブセンチュウやネグサレセンチュウも難防除です。講義のはじめの方で、ネコブセンチュウが土壌中で10年以上生存することをお話しました。シストセンチュウのシストはさらに耐久性があるため難防除です。
マツ枯れでは3つの生物が関わって病気が発生しているとのことであったが、他にこのように複数の生物が関わって病気が発生する例はあるか?特に、他の生物の寄生などに依って病原性が高まることはあるか?
興味深いご質問です。植物ウイルスの媒介者として、昆虫、菌、原生動物が関わる例があることはすでに講義の中でご紹介しました。また、マイコウイルスの感染に依って病原菌の病原性に強弱が生じる例が報告されています。Disease Triangleでご紹介したように、環境要因は、「誘因」として、病原(主因)と宿主(素因)の関係に影響を及ぼすことがありますので、このような例は他にもあるでしょう。2つの病原が同時に感染することで発病が相乗的に増す例も知られています。
12月21日クラス
質問と回答
どうして温州はカンキツ類かいよう病細菌に強いのか?
カンキツかいよう病細菌は、夏秋梢の緑枝の中で越冬し、翌年の伝染源になるとされています。温州では、夏秋梢中でかいよう病細菌が越冬をしにくいため、比較的抵抗性であるとされています。「マンダリンはかいよう病にかかりやすいようだが、マンダリンの輸入では殺菌など行っているのか?」基本的に、あらゆる植物病原を国内への持ち込みは植物防疫法に基づいて管理されています。かいよう病は国内に普遍的に存在すること、我が国で多く栽培されている温州が抵抗性であることから、かいよう病は、リンゴなどの火傷病とはことなり、侵入を警戒されている病原にはなっていません。
ファイトプラズマ、植物、媒介虫は3者で共進化しているのか?
大変興味深いですね。難波成任先生(東京大学)の文に、「ゲノム解析から物質輸送に関わるタンパク質など多数の膜タンパク質遺伝子が見つかった。これらのタンパク質は、ファイトプラズマの細胞表面に存在すると考えられる。ファイトプラズマはそれぞれ固有のヨコバイにより媒介される。これらのタンパク質が媒介昆虫の特異性に関係している可能性が高い。」(2005、夏の学校シンポジウム)とあるように、それぞれの組み合わせで共進化しているであろうと思います。
アグロバクテリウムが持つオーキシン生合成遺伝子は植物由来か?
そうでは無いと思われます。そもそも細菌が持っていた遺伝子が真核生物にも伝播していき、そこで機能を発揮するようになったと考えるのが自然だと思います。
野菜類軟腐病細菌は、植物の生育初期から植物上ですこしずつ増殖するとのことだが、植物の抵抗性をどう回避しているのか?
誘導抵抗性はバイオトロフな病原には効果がありますが、ネクロトロフな病原にはあまり効果が無いと考えられます。軟腐病細菌は、初期は、植物の表面で、漏出する栄養分を使いながら増殖するだけであるため、ネクロトロフに近い状況で生活をしており、植物が抵抗性を起こさない、あるいは、誘導抵抗性が届かないところで増殖しているのだと考えられます。
ファイトアレキシンのなかに動物毒性のあるものはあるか?
講義でご紹介したように、イポメアマロンなどで、障害事例が知られています。ファイトアレキシンの毒性に関する報告は多数ありますが、例えばワタが産生するgossypolの飼料への混入による動物毒性が調べられています。
全身抵抗性で、サリチル酸経路とジャスモン酸経路は相互作用するのか?
たくさんの研究事例があり、多くは、サリチル酸経路とジャスモン酸経路が拮抗的に働くとしています。しかし、一部の報告では両方が働くとしています。ジャスモン酸経路は根圏微生物などに対して機能するという報告が多くあります。
12月23日クラス
質問と回答
HST遺伝子はアクセサリー染色体に乗っているのか?
Alternaria alternataにおいて、柘植ら(2009)は、「7つの病原型のうちナシ黒斑病菌(AK毒素生産菌),イチゴ黒斑病菌(AF毒素生産菌),タンゼリンbrown spot菌(ACT毒素生産菌),リンゴ斑点落葉病菌(AM毒素生産菌)およびトマトアルターナリア茎枯病菌(AAL毒素生産菌)から毒素生合成遺伝子を単離し,それぞれのHST生合成遺伝子群がクラスターとして存在することを明らかにした.また,各病原菌の毒素生合成遺伝子が1.8 Mb以下の小型染色体にコードされていることを見出すとともに,イチゴ黒斑病菌,リンゴ斑点落葉病菌,トマトアルターナリア茎枯病菌から,毒素生合成遺伝子をコードする小型染色体の欠落株を分離した.これら染色体欠落株は毒素生産性,さらに病原性を完全に失うが,栄養成長,胞子形成,胞子発芽などは正常であり,これら染色体が生存・成育には必要でない余分な染色体であることが明らかとなった.」としています(https://doi.org/10.11556/msj7abst.53.0.6.0)。遺伝子クラスターの解析やその水平移動など、進化に関わる研究が進められています。A. alternataでは、このような染色体は、conditionally dispensable chromosome (CD染色体)と呼ばれます。「A. alternata AK-Toxin -株をAK-Toxinとともに接種すると感染が成立するというのはどういう意味か?」とのご質問をいただきました。AK-Toxinがあると、植物の抵抗性が低下し、菌受容性が増しますので、通常定着できないような菌が定着できるようになる、とご理解ください。
AVR遺伝子を失っても病原にはマイナスにならないのか?
AVR遺伝子の多くはもともとは病原力に関与していたと考えられています。これが植物に認識されて防御反応を起こされるようになると、持っていることが不利になると理解されます。その場合、AVRを失う、あるいは変異することで植物に認識されなくなり、病原としては有利になります。一方、トマト萎凋病菌がもつAVRの1つに類似した遺伝子をキャベツ萎黄病菌が持っており、これを失うと病原性が低下します。キャベツ萎黄病金では、このAVRは、非病原力遺伝子ではなく、キャベツに対する病原力遺伝子として機能しているようで、これがこのAVRのそもそもの機能であろうと考えられます。「トマト萎凋病菌で見られるような新レース出現による抵抗性品種の無効化が起こると、いくら抵抗性品種の育種を続けてもずっとそのイタチごっこは続くのか?」というご質問もいただきました。その可能性は高いです。しかし、それをできるだけ防ぐために、抵抗性はそれほど強くないものの安定した効果が持続する量的抵抗性(圃場抵抗性)の育種への利用や、マルチラインの利用も試みられています。
マイコトキシンを産生する菌は植物に感染しているのか?
感染しているものも、付着して表面などで増殖しているだけのものもあります。マイコトキシンは通常、植物への病原力に関与しません。「菌はマイコトキシンを何のためにつくるのか?」とのご質問をいただきました。一般的に二次代謝産物は、代謝の結果あるいは過程でできるもので、それ自体に本来の産生の意味があるのかどうかは不明な場合が多いです。
1月 6日クラス
質問と回答
「静菌性」とはどういう意味か?
菌を殺す作用を「殺菌性」と呼びます。これに対して、菌を殺さないながら、菌の増殖を止める作用を「静菌性」(fungistatic)と呼びます。静菌性の薬剤は、基本的に狭義の殺菌剤には含まれません。
土壌検診をして病原菌が検出されたらどう対応するのか?
栽培しようとしている作目、品種に対して土壌病害を引き起こす病原が要防除水準以上いると判断された場合は、土壌消毒(燻蒸剤、熱消毒、土壌還元消毒など)、病害抵抗性品種の利用、病害抵抗性台木に接いだ苗の利用、作目変更、などの対応をとる必要があります。
病害防除でもリサージェンスは起こるか?
太陽熱消毒や燻蒸剤消毒土壌消毒をした場合に、リサージェンス(かえって病気が激しく起こること)が起こるとされる場合があります。土壌に住む微生物が殺され、土壌の緩衝能が落ちたからと理解されます(昆虫の天敵の場合と同様)。しかしながら、多くの場合、消毒が不十分で、湛水によってかえって病原を広げてしまった、などの結果のようです。
菌と節足動物がなぜ同じキチン生合成系をもつのか不思議に感じた
菌と、動物の中でも節足動物だけがなぜ、共通したキチン生合成系を持つのか、説明できる文献などは見当たりません。しかし、生物の分類のところでご紹介したように、動物が植物と別れた後に菌が動物から別れていますので、菌と動物は近縁であり、類似した代謝系を持っていてもあまり不思議では無いように思います。
ミトコンドリアゲノムがコードするチトクロームC複合体を作用点とする殺菌剤には、耐性菌が出やすいのではないか?
そのとおりです。1/20の講義でご紹介します。
1月20日クラス
質問と回答
土壌病原菌が要防除水準以上、圃場の土壌にいるか、どう判断するのか?
近年、病原の密度を、リアルタイムPCRやLAMP法で測定する技術は次第に進歩してきています。しかし、講義でご紹介したように、病気がでるかどうか、また、その程度は、植物と病原だけでなく、環境条件によっても影響を受けます。土壌環境には、水分、pH、温度、有機物や養分、他の微生物(微生物の多様性など)など様々な因子が関係しますので、土壌診断を行う場合があり、サービスも始まっています。現在、一部の作物や地域では、「ヘソディム」に代表されるマニュアルがあり、土壌診断結果を活用して、発病の可能性を推定、要防除水準以下か以上かを診断している場合があります。今後はこれをAIによってシステム化できるよう、農林水産省でプロジェクトを推進しています。なお、土壌サンプルのとり方に関するご質問もいただきました。これもマニュアルにかかれていますが、実際の圃場では、病気の発生は均一でなく、サンプリングは画一の手法では不十分な場合も多いと感じています。
HR病原によるサリチル酸を介した抵抗性誘導系(SAR)と、根圏微生物によるジャスモン酸などを介した誘導系(ISR)が同じNPR1を核内移行シグナルとしているのはただしいか?
講義でご紹介したように、抵抗性誘導に関わるシグナル伝達系は、直線的ではなく網目状になっていると考えられ、相互作用をしながら複雑になっていますし、また、植物の種類や部位、環境条件によってもその関係は多様であると考えられています。講義で使用した図は簡略化したものです。SARとISRは同じNPR1を介していますが、相互に抑制する場合もあるという報告が多数ありますし、植物の部位によっても反応が異なります。
プラントアクチベーターはHRを起こしやすくする可能性はあるのか?
あります。そのため、薬害が生じる場合があると考えられています。「ウイルスへの抵抗性付与は生じないのか?」とのご質問をいただきました。そもそも、誘導抵抗性は、ウイルスが植物の下位葉に感染したときに、上位葉で当該ウイルスに抵抗性になることから見つかりましたので、ウイルスが抵抗性を誘導する可能性は高いです。また、プラントアクチベーターがウイルスの感染や長距離移行を阻害するという報告もあります。ウイルス病に対する良い薬剤が無いので、プラントアクチベーターが使えるようになると良いと思います。
1月27日に定期試験を実施しました
試験は、以下の要領で行いました
『試験に際しては、12/23に配布したB4用紙(両面使用可)1人1枚を持ち込み可とします。参考書、講義で配布したプリント、ノートなどは持ち込めません。試験前に講義のプリント・ノートおよび参考書を利用して勉強していただき、病原微生物に関する理解(記憶ではない)をしていただきたく思います。従って、細かい語句、名前等の情報については配布したB4用紙をご利用いただき、独自性のある答案をつくっていただくことを期待しています。』
図書館所蔵の教科書・参考書は、皆さんが閲覧できる機会を確保するために、長期間借り出ししないようお願い致します。
なお、成績の評価は、シラバスにもありますように、「授業参加度合(15回分の授業の参加状況)」+「試験評点(85点満点)」で行います。授業参加度合が「7」未満の者は試験の成績にかかわらずDと評価します。詳しくは有江へお尋ね下さい。
1/27は30分間弱講義を行い、その後60分間で試験を行いました。2/3に試験の解説を行うとともに、講義(最終回)を行いますので、ご出席下さい。
2019年度の試験問題と評価のポイント(152 kb pdf)