平成26年度
病原微生物学授業情報

Modified: Feb 18 2015

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質問に対する回答など


10月20日クラス

質問と回答

植物の病気を治療することはできるのか?
歴史的な樹木や公園の樹木、あるいは庭木や盆栽、果樹等では病気に対する治療が行われます。例えば、患部を削り取って薬剤を含むペーストをつめたり、薬液を注入する場合もあります。

ポストハーベスト病害による被害率にふれがあるのはなぜか?
スライド15についてのご質問です。貯蔵期間や場所、また病気の発生は環境等に依って左右されますので、幅のある数値になっています。「ポストハーベスト病害は、収穫前に起こる病原と同じか?」というご質問もいただきました。ポストハーベスト病害の病原は収穫前に付着あるいは感染していることが多いですが、収穫後の組織の変化(例えば、有機酸の増加など)に伴って発病する場合が多く、従って、ポストハーベストで特に出やすい病害もあります(カンキツ緑かび病等)。一方で、リンゴの炭疽病のように、収穫前も収穫後にも発生するものもあります。

複数の病気が1つの植物個体で同時に起こることはあるのか?
あります。時には複数種類の病原が感染することでより病徴が激しくなる場合もあります(複合病と呼ばれる場合があります)。一方で、1つの病原が感染すると他の病原が感染しにくくなることがある場合も報告されています。

病害虫などによる作物生産のロスを減らすと、生態系に影響があるのでは?
あるでしょう。しかし、講義でご紹介したように、耕地生態系は人工的な生態系ですので、その影響をどう評価するか、大変難しい課題だと思います。。

耕地生態系で、植物と病原の共進化が早いのはなぜか?
植物の遺伝的多様性が低く、かつ密度が高いので病原が感染すると一気に拡大することが予想されます。防除のために、抵抗性の遺伝子を導入した抵抗性品種を育種しても、病原の数が多いため、その抵抗性を打破できる変異株が容易に選択されてしまうため、抵抗性品種の罹病性への転落が早期に起きる可能性があります。


10月27日クラス

質問と回答

花器に感染する病原が多いとのことだが、花器を耐病性にするような育種はされないのか?
花器は受粉のために他を受け入れる器官であるため、開口部等も多く、病原が感染しやすい傾向があります。花が耐病性であることを指標にした育種は私が知る限りではありません。

植物病原は媒介昆虫に悪影響をおよぼさないのか?
基本的に植物病原は動物には感染しません。ただし、毒素を産生する病原の中には昆虫に悪影響を及ぼす場合があります。

薬剤に対する耐性菌は新たな種であるのか?
新たな種にはなりません。薬剤耐性系統などと呼ばれます。

長期間圃場で生存する病原の調査はどのように行われるのか?
数年等ある程度長期の生残性は、菌体をガーゼ等に包んで、土壌中に埋め、期間後に分離して生存を見ます。ただし、もっと長期のものは、実際の圃場データを基にして推察されたものと思います。「長期で生存する病原が侵入した圃場はどうするのか?」とのご質問もいただきました。燻蒸剤を使用した殺菌、抵抗性品種の栽培など、様々な方法で対処されます。

クロミスタに分類される疫病菌などが過去に菌と思われていたのはなぜか?
これらは見かけは菌類と比較的類似しています。葉緑体を持たないため、菌類に入れられたのではないかと思います。「形態分類とDNAベースの分類は相関するのか?」とのご質問もいただきました。基本的には形態分類に基づきますが、DNAベースでも同様になるように工夫されます。「不完全菌亜門」が無くなったのはどういう理由か?」とのご質問をいただきました。講義でもご紹介しましたが、DNAベースで既知の子のう菌、担子菌に近縁であることが判明そちらに編入されたためです。


11月 3日クラス

質問と回答

菌糸が先端成長する中で隔壁が形成されるタイミングは何で決まるか?
菌糸が一定の長さ伸びると隔壁が形成されると考えられています。そのため、菌糸先端細胞の長さの平均が菌の形質として記録されることがあります。「菌糸先端にしか核は無いのか?」というご質問がありましたが、そんなことはありません。菌糸の生きている細胞はすべて核を有しています。

担子菌以外は「きのこ」を作らないのか?
いわゆる「きのこ」と呼ばれるものの多くが担子菌です。子嚢菌がつくる子実体は小さな場合が多いですが、中には「きのこ」と呼ばれているものもあります。アミガサタケはその代表例です。アミガサタケの表面のたくさんのセル状のものは、1つ1つが子嚢菌盤菌類によくある盃状の子嚢盤です。いわゆる冬虫夏草とよばれるCordyceps属などもきのこ様の子実体を形成します。http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/hyoujun_gijutsu/kinoko/gaiyou.pdf が参考になるかもしれません。

子嚢菌の有性生殖でできる子嚢殻は母由来とのことだが、交配に関わらなかった部分からできるのか?
そのとおりです。交配は、2つの交配型の異なる菌株のそれそれ1つずつの細胞がオスあるいはメスとして機能し、細胞融合→核融合→減数分裂することでおこります。子のう殻はそれを守るような形で周囲に形成される器官で、交配に関わらなかった菌糸部分から形成されます。ちょうど、植物の、卵細胞+花粉管細胞(精細胞)と、珠皮のような関係です。

異核共存は種を超えた現象か?
いいえ、種内での現象です。同種で異なる核を持つ菌の菌糸同士等が融合し、1つの細胞に2つの核が独立して存在した状態になっていることを示します。その場合、両方の核が動くのではなく、通常1つの核が機能していると考えられています。何かのきっかけで(これがまだ不明です)、機能する核が変わると、形質が変わる場合があり、それが培地上で見ることのできる形質の場合、セクターとして顕れてきます。「異核共存状態を保つメリットは何か?」というご質問がありました。これはお答えするのが大変むずかしいですが、例えば、上記のように機能できる核のオプションを2つにしておくことで環境の変化に対応しやすい(核相2nの生物と同様ですね)、等のメリットが想定できます。一方、デメリットとしては、菌糸の隔壁形成の際に2つの核を上手く分配しにくい等の問題点が考えられます。担子菌の菌糸隔壁部にかすがい連結が形成されるのはこれを解決するためであるとされています。

偽有性生殖の単相化の過程で生じる2n-2や2n-3の核相の細胞は無性生殖できるのか?それとも有性生殖できるのか?
無性生殖で増殖(無声増殖)できます。有性生殖の可能性の報告などはありませんが、(交配型遺伝子等が整えばできそうです)、そもそも、有性生殖に替わる遺伝子の多様性維持の手段としての偽有性生殖ですので、途中で有性生殖をする意味や可能性は低いと考えます。偽有性生殖に関わる染色体の不当配分が障害に繋がるのでは?とのご質問をたくさんいただきました。無性増殖で、菌糸細胞や分生子をたくさん作っている中でのことで、障害に繋がるものは死滅などして失われ、残ったものが選抜されるような状況になりますので、この部分は見えてこないと考えられます。また、偽有性生殖の起こる確率に関するご質問を多数いただきましたが、上記のように、無性増殖で、菌糸細胞や分生子をたくさん作っている中でのことですので、低率であっても問題は無いと考えられます。


11月17日クラス

質問と回答

アブラナ科野菜根こぶ病菌はアブラナ科植物にオーキシンの生合成を賦活するとのことだが、そのメカニズムは?
アブラナ科野菜がもともと持つオーキシン生合成に関わる遺伝子の発現を上昇させるためとされています。「オーキシンの分解を抑制することによって植物組織内のオーキシン量を増加させるような病原はいるか?」とのご質問をいただきました。興味深い考え方ですが、そのような病原の報告は見当たりません。

アブラナ科野菜根こぶ病菌の休眠胞子は何を感知して発芽するのか?
アブラナ科野菜根こぶ病菌の休眠胞子発芽に関わる因子として、植物根部浸出液や土壌滲出液などに含まれている物質が報告されていますが、それを使っても発芽率はそう高くなりません。菌の分生子などでは、胞子の密度の感知に関わる自己物質(クオルモン)が発芽抑制や、促進に関わることが報告されていますが、根こぶ病菌の休眠胞子では現在までそのような物質の関与は知られていません。

PolymyxaOlpidiumはどのようにしてウイルスを伝搬するのか?
講義でご紹介した写真のように、PolymyxaOlpidiumは植物細胞内に侵入します。これらは、胞子などの表面にウイルスを付着し、侵入時にウイルスを植物細胞に運びこむといわれています。「菌類伝搬ウイルスによる病害を防除するには、ウイルスを防除するのがよいのか、媒介者を防除するのが良いのか?」とのご質問も戴きました。植物ウイルスを防除するに十分な農薬は現時点は開発されていません。そのため、媒介者を防除するのが通例です。

遊走子はどのくらいの距離を移動するのか?
Pythium属菌の遊走子が水分の多い砂中で、24時間で7.5cm程度は移動するようです。https://ir.kochi-u.ac.jp/dspace/bitstream/10126/1858/1/A035-05.pdfなどが参考になります。「植物に水をやり過ぎると枯死するのに、このような菌が関与しているのか?」とのご質問もいただきました。Pythiumなどは多様な植物に、根腐れや立枯れなどの病気を起こす場合があります。

疫病菌は休眠胞子を作らないが、耐環境性が劣らないのか?
ジャガイモ疫病菌がつくる卵胞子が耐久体です。その他、感染した塊茎中で菌糸で生存しているものもいます。病原に依って、生存場所や時期が異なりますので、耐久体がどのようなものかもそれに応じて変わります。「Phytophthoraの接種試験ではなぜ、高湿だけでなく、比較的低温(20℃)で暗黒の人工気象室で行うのか?」とのご質問をいただきました。これは、その条件で病気が出やすいからなのですが、もともと、梅雨時期の夜間、高湿度の時に伝染しやすい病気ですので、それに類似した条件にすることが肝要です。

病斑が褐変化するのは、植物の防御反応の結果か?
病斑の褐変化にも様々なメカニズムが関与します。もちろん、防御反応の結果の場合もありますし、消化酵素等で組織が壊された結果である場合もあります。

ツボカビが伝搬するようなウイルスの防除のためにはどのようにするのか?
例えば、Olpidium属菌によって媒介されるウイルスに依って引き起こされるレタスビックベイン病の場合、土壌を殺菌剤に依って消毒することが一般的です。。


11月24日クラス

質問と回答

さび病菌の夏胞子と冬胞子の違い、特に役割の違いがわからない
講義でご説明したように、さび病菌がすべての胞子世代を持つわけではありません(ナシ赤星病菌では、夏胞子を欠く)。基本的に、冬胞子は耐久体で、そこから担子器を形成、核融合→減数分裂して担子胞子を形成するのに必要です。夏胞子は、菌によってはクローンをたくさん作って範囲を拡げるのに役だっているのではないかと推察しますが、例えば、アマナさび病菌で、アマナの上に、夏胞子と冬胞子が同時に見られるとき、どのように機能が分化しているのかわかりません。「さび病菌はかなり長距離を移動するとのことだが、環境耐性があるのか?」という御質問もいただきました。担子胞子はそれほど環境耐性が高いとは思えませんが、かなりの(数キロ程度)距離は飛ぶとされています。銹胞子、夏胞子などはさらに遠距離を飛ぶとされています。

さび病菌の宿主認識機構はわかっているのか?
さび病菌にかぎらず、宿主特異性を持つ病原菌がどのように宿主を認識しているのかは重要な研究課題ですがまだあまり明らかになっている例はありません。1月になってからの講義で扱いますが、宿主に感染して発病するためには単に認識するだけでなく、宿主からの排除をくぐり抜けることなど、多様なステップをくぐり抜けることが必要です。

ムギ類の黒穂病菌の汚染種子は視覚的に区別できるので排除しやすいのでは?
もちろん、発病して黒穂胞子をたくさん形成しているような穎果は排除できますし、通常、そのような発病をしている圃場では採種しません。実際には、外見では分からない程度に感染して、胚乳に潜んでいるような種子が問題になります。

黒穂病菌に感染したトウモロコシやマコモなどみな肥大しているようだが植物ホルモンの影響か?
複数の御質問をいただきました。アブラナ科野菜根こぶ病菌におけるオーキシンのようなホルモンの影響が想定されていますが、あまり論文などが見当たりません。

イネ紋枯病菌は圃場ではあまり胞子(担子胞子)を形成しないとのことだがどのように拡大するのか?
イネ紋枯病菌は分生子を形成しません。私の認識の間違えのようで、圃場で担子胞子を形成して拡大するようです。https://www.jstage.jst.go.jp/article/kyubyochu/55/0/55_0_18/_article/-char/ja/がさんこうになります。この他、微小菌核でも拡大します。

トウモロコシの裸黒穂、マコモタケのような食べられるもの以外の病気にかかった植物はたべられないのか?
菌は、多様な二次生理活性物質を産生します。中には、動物毒性のあるようなものも有りますので、食べるべきではないと考えられます。


12月 1日クラス

質問と回答

かんきつ緑かび病菌が潜在感染しているみかんを食べても大丈夫か?
潜在感染の間は菌糸の伸長などもほとんど止まっている状態だと考えられますので、基本的に問題はないと考えられます。しかも、潜在感染は通常、外果皮(フラベド)時に、中果皮(アルベド)に限定されますので、普通これらを除いて内部を食用にすることが多いので、問題はないでしょう。

熱耐性の閉子嚢殻はどのくらいの熱に耐性があるのか?
例えば、60度、10分以上加熱処理したジュースなどの食品でも事故が起きます。75度、30分間の加熱でも生残する場合が有るようです。

麦角病の菌核もオーキシンで大きくなるのか?
麦角の菌核は菌糸が塊状になったものですので、オーキシンの影響で大きくなるわけではありません。菌そのものです。「麦角にかかったライ麦を食べるとどうして幻覚症状を起こすのか?」との御質問をいただきました。量も関係しますが、麦角病菌が生産するアルカロイド系の麦角毒に神経系の毒性を示すものがあるからです。

Fusarium oxysporumは植物組織内をどのように進展するのか?
細胞間隙を進展します。この際に、ペクチン分解酵素で細胞間を消化して進展する、オーキシンなどの植物ホルモンで細胞間を拡げる、などが推定されていますが確かなデータはみあたりません。

日本から海外へ、逆に海外から日本へ流行が移動する病気はあるのか?
すでにご説明したように、病原は、風、種子、苗植物、昆虫、ヒト、収穫物(農産物)などで媒介されます。従って、日本から海外へ、海外から日本へ進入する病原が懸念されます。これを「植物防疫」が防いでいます。


12月 8日クラス

質問と回答

病名で、「◯星病」というものが多いがなぜか?
葉に形成される斑点状の病斑が星状に見えることから付けられた病名と考えられます。

分生子をつくることと作らないこととどちらが有利なのか?
分生子は、クローンを増やし、拡大するためには有利であると考えられます。分生子をつくらない菌(例えば、菌核病菌)は、分生子を作らなくてもあまり不利にならない戦略(例えば、子のう胞子で拡大する、菌糸で拡大するなど)を有していると考えられます。

不動精子はどうやって菌核での受精に関与できるか?
主に、水で運ばれるとされています。

貴腐ブドウでは、灰色かび病菌は糖を消費し尽くさないのか?
糖を消費する前に乾燥して干しぶどう状になるとされています。

HSTは特定の品種に適応して作られるようになったのか、それとも産生されたものが偶然その品種に毒性が高かったのか?
後者であると考えられています。現在、トマト品種ーアルターナリア茎枯病菌の関係を例に、その解析を行っています。宿主特異性毒素については、1月に詳細をご紹介する予定です。

鞭毛と分泌機構の類似点は運動の仕方か?
説明が悪く申し訳ございません。タンパク質サブユニットによって構成されているなど、構造が類似しています。

根頭がん種病に罹った植物に形成されるがん種の中には何が入っているのか?
内部にはオーキシンの影響で増生した細胞と、根頭がん種病細菌があります。「根頭がん種病細菌のホストレンジの広さの理由はなにか?」という御質問をいただきましたが、お答えするデータがありません。「根頭がん種病罹病植物は穂木として利用できるか?」との御質問をいただきました。根頭がん種病細菌はあまり地上部上部まで移行しませんので、移行していない部分を穂木として利用することは可能です。


12月15日クラス

質問と回答

植物防疫所が海外に出すことを警戒している病原はあるのか?
基本的に、各国の植物防疫所は、病原等の侵入を警戒しており、出すことについてはあまり対応していません。各国が侵入を警戒していれば、それで良いわけですね。ただし、農作物などの輸出時に、相手国の植物防疫検疫条件に合致しているかを検査し、証明(sanitary certicifate)する場合があります。イネいもち病菌など、植物防疫法ではなく、外為法(なんと生物兵器、しかも法律が誤っているのですが、細菌兵器扱い)によって海外にほぼ出せない病原もあります。

ナシやリンゴの火傷病が見出されたのは1878年か、1882年か?
Burrellが、コッホの原則に則って火傷病の病原を見出したのは1878年(Burrill, T. J. 1878. Report on botany and vegetable physiology. Trans. Ill. State Hortic. Sot. 11:114-116.)で、その細菌の学名が正式に示されたのは1882年です。

カンキツかいよう病最近はハモグリガが伝搬するとのことだが、ガには影響はないのか?
ハモグリガが媒介するのではなく、ハモグリガの食痕(傷)から病原細菌が侵入します。

軟腐病菌のクオルモンやバイオキーパーによる生物防除のメカニズムをもっと知りたい
講義でご紹介した篠原信氏の文献をご参照いただくのが良いと思います。篠原 信(2001)細菌と人間の『情報戦』『情報かく乱(微生物ホルモンかく乱)』と軟腐病の阻止.施設園芸 (10) 24-25 が良いと思います。メカニズムについては、H18の本講義、12/5の質問に対する回答を御覧ください。

自らが生産する毒素に対する解毒作用は多くの植物病原が持つのか?
一般に、生育に必要ではない代謝産物のことを二次代謝産物と呼びます。二次代謝産物を、感受する生物が感受性の場合、毒素と理解されます。これは、自らにとっても同様です。自らにとって毒性がある場合、何らかの形(代謝解毒や排出)で、無毒化するあるいは耐性の機能をもっているのが普通です(獲得したもののみが生き残っているという理解をします)。これは、植物病原に限るわけではありません。例えば、抗生物質産生能を持つ微生物は多くの場合、自らの産生する抗生物質に対する解毒作用などを持ちます。

ファイトプラズマはなぜ叢生を引き起こすのか?
大変興味深い御質問です。叢生だけでなく、矮化、葉化など、様々な形態変化を起こす場合があります。近年、東京大学植物病理学研究室でそのメカニズム解析が進められています。http://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/namba2.html などをご参照ください。

マリーゴールドをダイコンなどと一緒に植えるとダイコンへの線虫害は低減できないのか?
このような植物の使い方を「混植」と呼びます。講義でご紹介したように、ネグサレセンチュウなどは寄主範囲が比較的広く、ダイコンなどの野菜類でなく、マリーゴールドなどの根部にも侵入します。しかし、マリーゴールドの根部では、線虫に対する生育抑制物質を産生するため、線虫が増えません。そこで、ダイコンを植える前にマリーゴールドを植えて、土壌中の線虫密度が下げよういうのがマリーゴールドを対抗植物として使用した場合の防除メカニズムです。そのため、ダイコンなどとマリーゴールドの混植では、効果が低いことが予想されます。「ネコブセンチュウが植物根部にこぶを作らせるメカニズムは?」との御質問を戴きました。ネコブセンチュウに感染した組織でオーキシンの産生が誘導されるからとされていますが、センチュウがどのように植物のオーキシン産生を誘導するかに関する文献は見つかりません。

シストセンチュウの生活環などについてもっと詳しく知りたい
12/22の講義で詳しくご紹介します。


12月22日クラス

質問と回答

ジャガイモシストセンチュウの孵化促進物質によるシストの孵化率はどのくらいか?
ジャガイモの粗抽出物質で、50〜90%程度の孵化率が報告されていますが、ソラノエクレピンAにはそれほどの孵化率が認められず、他の物質の関与、あるいは、ソラノエクレピンがカクテルで働く可能性が示されています。「ソラノエクレピンのカクテルとして働く物質は明らかになっていないのか?」との御質問をいただきました。上に書きましたように、孵化促進物質の詳細は明らかになっていません。一般的には、構造が類似するソラノエクレピン類縁体(その1つがソラノエクレピンA)が適切な割合で混合された時に孵化促進作用が高まると理解されています。「トマトもソラノエクレピンを作るのか?トマトもジャガイモシストセンチュウの宿主になり得るのか?」との御質問もいただきました。どちらもその通りです。

ジャガイモシストセンチュウ等の孵化促進物質は植物自体における機能をもつのか?
情報はありません。「ジャガイモが孵化促進物質を出さないようにすればシストセンチュウの害を防げるのでは?」との御質問をいただきました。考え方としてはその通りです。上の御質問で回答したように、孵化促進物質が不明確であること、そのため、その植物での代謝経路も不明であること、大変微量で効果があること、などから孵化促進物質生産(生産していないこと)を指標に選抜・育種することが現状では困難であると思われますが、良い観点だと思います。

界面活性作用のあるサポニンがなぜ病原を抑制するのか?
界面活性作用に依って、細胞膜を撹乱、殺菌作用を示すためと考えられています。

酸化して抗菌性物質になるチオエーテル類などはなぜ、静的抵抗性のひとつとして説明されるのか?
動的抵抗性でないのか?という御質問と理解しました。講義でご紹介したように、動的抵抗性は、植物が病原などを認識して、その結果、抵抗性反応を起こす場合と考えます。チオエーテル類は、前駆体がすでに細胞などに蓄積されており、病原の侵入などに依って酸素に触れ、酵素が機能し、化学変化が起こる過程で抗菌性物質になります。これは、植物の外敵認識の結果でないため、静的抵抗性のひとつとしてご説明しました。

パピラやリグニン化した部分はその後どうなるのか?
動的抵抗性のひとつとしてご紹介したパピラ(カロース等を病原の周囲に蓄積させる)やリグニンは通常その後もそのままになります。動物がかさぶたを落とすように、植物もリグニン化した部分をなくして、元の組織の様になればよいのですが、そうなりません。そのため、植物生産において、病害等による傷はそのまま生産物に残ってしまうため、そもそも病気を起こさない、予防的な防除が必要になります。

プロベナゾールに40年間も耐性が生じていないのは、プロベナゾールに依って生産されるPR-タンパク質がそんなに強固なのか?
逆に、PR-タンパク質の抗菌性があまり強くないため、選択圧にならず、耐性がでないものと考えられます。また、PR-タンパク質は複数ありますので、それも耐性が生じない理由だと思われます。。

シストセンチュウの生活環などについてもっと詳しく知りたい
12/22の講義で詳しくご紹介します。


 1月19日に定期試験を実施しました

試験は、以下の要領で行いました。
『試験に際しては、12/15の講義で配布したB4用紙(両面使用可)1人1枚を持ち込み可とします。参考書、講義で配布したプリント、ノートなどは持ち込めません。試験前に講義のプリント・ノートおよび参考書を利用して勉強していただき、病原微生物に関する理解(記憶ではない)をしていただきたく思います。従って、細かい語句、名前等の情報については配布したB4用紙をご利用いただき、独自性のある答案をつくっていただくことを期待しています。』 
図書館所蔵の教科書・参考書は、皆さんが閲覧できる機会を確保するために、長期間借り出ししないようお願い致します。
なお、成績の評価は、シラバスにもありますように、「授業出席回数(12回が最多)」+「試験評点(88点満点)」で行う予定です。また、授業出席回数が「7」未満の者は試験の成績にかかわらずDと評価します。詳しくは有江へお尋ね下さい。 
1/19は30分弱講義を行い、その後60分間で試験を行いました。また、2/2は試験の解説を行うとともに、講義(最終回)を行いますので、ご出席下さい。


有江 力のホームページ  最近の研究成果発表

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