平成24年度
3255 病原微生物学授業情報

Modified: Jan 19 2013

講義で使用する/したスライド等のpdf(カラー)をこちらからご覧いただけます。
うまく接続できない場合は、「ゲストとしてログインする」ボタンを押し、「農学部」→「病原微生物学」を選択、「登録キー」に講義でご紹介したパスワードを入力して、「コースに登録する」ボタンを押して下さい。
小テスト回答のヒントは、平成15年度の「質問に対する回答など」をご覧下さい。


質問に対する回答など


11/13以前の講義の「質問と回答」はこちらをご覧下さい。


11月20日クラス

質問と回答

モモ縮葉病に感染した葉では何故、上偏成長するのか?
植物ホルモンが産生されるためとされています。Johnston & Trione (1974) は、Taphrina deformansがサイトカイニンを産生することを報告しています。この他、Taphrinaは、ジベレリンを産生あるいは植物に産生させることで叢生症状を引き起こすとされています。「縮葉病はどのように防除するのか?」とのご質問もいただきました。ジラム、チウラム等の殺菌剤の処理を休眠期にします。

かんきつ類の緑カビ病、青カビ病の色は何の色か?
病原すなわち、Peniciliium degitatumP. italicumの菌糸や分生子の色を表しています。当初は白色の菌体(見た目は、かび)が現れ、そのあと青や緑になるのを区別して表現したものです。もう少し放置しておくと灰色味が強くなります。なお、Penicillium類は、培地に、黄色などの色素を分泌する場合があることも知られています。

かんきつ類の緑カビ病、青カビ病は、発病前の果実を食べた場合は病原菌を食べていることになるのか?
このような潜在的感染(latent infection)は、かんきつ類の緑カビ病、青カビ病に限るわけではなく、比較的様々な病原で起きている現象です。かんきつ類の緑カビ病、青カビ病の場合は、当初は果皮に病原がいますので、いわゆる皮を剥いて内部を食べている場合にはPenicilliumは食べていないのでは無いかと思います。いずれにせよ、少しばかり植物病原を食べたところで、ヒトの健康に害が生じたりする可能性はほぼ無いと考えられますので、心配はいらないと思います。

Penicillumが産生するかび毒を摂取するとどうなるか?
かび毒については、1月の講義でご紹介する予定です。Penicillumが産生するかび毒で有名なものは、パツリンです。パツリンは、麦角毒やアフラトキシン程急性毒性は高くありませんが、マウスの経口接種で 消化管の充血、出血、潰瘍等が起こる場合があること、長期的には発がん性が示唆されています。「ブルーチーズの青かびを食べても問題ないのか?」とのご質問もいただきました。チーズの生産(プロテアーゼで柔らかくする)にはPenicilliumが使用されますが、人類の知恵と歴史で選抜した結果かび毒非生産株を選択しているようです。我々が日本酒や醤油などの発酵に使用する黄麹菌も同様です。かび毒を生産するように変異することもないと考えられています。

菌はなぜかび毒を生産するのか?
かび毒については、1月の講義でご紹介する予定ですが、お答えするのが難しい質問です。かび毒の中には、植物の抵抗性を弱めたり、植物への病原性に関連する例も報告されています。単なる二次代謝産物であるとの考え方もあります。

エルゴタミンを含む飼料を家畜が食べるとどのような症状がでるのか?
農林水産省のデータによると「四肢末端の壊疽,血管収縮,泌乳量低下」などの毒性がでるとされています。詳しくは動衛研HPを御覧ください。

麦角病が日本で発生しにくい、いもち病が日本以外で発生しにくいというような地域差は何故起こるのか?
イネいもち病が日本以外で起きにくいとご説明した記憶はありませんので、誤解されないよう。世界的にイネの生産地で重要な病害です。麦角病に限らず、地域によって重要な病害は異なることがあります。これは気候が異なる、品種が異なる、栽培体系が異なる、等の発病条件(発病の三角形では「環境」に相当)が異なることで、病気が出やすかったり出にくかったり、あるいは、他の病気の方がより需要であるため、等の原因が考えられます。


11月27日クラス

質問と回答

炭疽病菌はヒトの炭疽病菌と違う病原か?
ヒトの炭疽菌がどのような微生物か調べてみてください。分類学上の界も異なる微生物です。

日本のイネいもち病菌の多様性が少ないというのはどのような意味か?
日本のイネいもち病菌を、例えば、中国雲南等のいもち病菌と比較すると、遺伝的多様性が低くなっています。推測に過ぎませんが、日本にイネいもち病菌が伝来した際に、一部の性状を有する菌株が入り、その後それから多様化したものが現在我が国に存在するいもち病菌であるからです。一般に、植物の多様性は、原産地と育種地で高いとされていますが、それと同様であり、イネとの共進化の結果であるからと考えられます。

平成の米騒動の際にいもち病は発生したのか?
大発生しました。いもち病用の殺菌剤が売り切れて入手できなかったと言われています。

イネばか苗病用の生物農薬にはどのようなものがあるのか?
植物病害に対する生物農薬はすべて微生物(弱毒ウイルスもあります)です。イネばか苗病用の生物農薬としては、TrichordermaPenicillium等の菌が成分の生物農薬が登録されています。1月の講義でご紹介します。

ばか苗病に感染した種子は食べることはできるのか?
ひどく感染すると成熟せず、秕(しいな)になります。あまり感染が激しくないと、見た目では区別がつきませんので、実際に精米して食べていると思います。ただし、病原菌がマイコトキシンを作る可能性もありますので、感染がわかっていればあえて食べない方が良いと思います。「ばか苗病に感染すると発芽率は落ちるか?」とのご質問もいただきました。激しく感染した場合は発芽率も落ちますし、講義でご紹介したように、発芽直後に枯死する場合があります。

ばか苗病菌が産生するジベレリンやフザリン酸は二次代謝産物か?
二次代謝産物です。「菌にとってこれらの物質はどのようなメリットがあるのか」とのご質問もいただきました。フザリン酸は植物組織にダメージを与えて菌が入りやすくするため、ジベレリンは徒長して早期に枯死、分生子を飛散させるのに機能しているとされています。

クロールピクリンなどの燻蒸剤は厚膜胞子にも効果があるのか?
上手に使えば効果がでます。「クロールピクリン等で燻蒸した土壌に植物を植えても大丈夫か?」とのご質問もありました。クロールピクリンなどの燻蒸剤は植物も殺しますので、ガスが抜けてから植物を定植します。

自宅のプランターに植えたトマトが黄色く枯れたが、萎凋病か?
高い確率で違うと思います。栄養条件や気象条件が理由だと思います。さらに気になるようでしたらサンプルを見せてください。「自宅で置いていたキャベツが無地っぽく腐ったが菌核病か?」とのご質問をいただきました。菌核病の可能性も捨てられません(菌糸や菌核が観察できれば良いですが)が、多分軟腐病ではないかと思いますが、、、

灰色かび病にかかったイチゴなどを食べてしまっても問題はないか?
無理に食べる必要はまるでありませんが、知らずに食べてしまっても問題ないでしょう。マイコトキシンの産生は知られていません。

貴腐ワインに使える菌は灰色かび病菌だけか?
他の菌については聞いたことがありません。「干しぶどうから貴腐ワインは作れないのか?」とのご質問もありました。貴腐ワインのブーケには灰色かび病菌が貢献しているのだそうです(私にはわかりませんが)。


12月 4日クラス

質問と回答

宿主特異的毒素はどうして特定の品種にのみ効果を示すのか?
ある品種に特異的な膜のタンパク質などに結合することで効果を示すために、その特異的タンパク質を持つ品種のみに被害(産生する菌株が病気)を起こしますが、特異的タンパク質を持たない品種には被害を及ぼしません。

宿主特異的毒素生産菌株はどのようにして出現するのか?
宿主特異的毒素を産生するには複数の酵素が機能することが一般的です。宿主特異的毒素生産菌株では、これらの酵素をクラスターのような形で、時には菌の生存・成長には必須でない染色体に座乗して保持されていることが見いだされています。従って、もともと腐生的な生活をしていた菌が、関連遺伝子を、遺伝子や染色体(部分)の水平移動で取り込んで宿主特異的毒素産生能を獲得、宿主特異的毒素生産菌株が生じた想定されていますが、その起源はまだみつかっていません。

うどんこ病菌のもつフィブロシン体とは何か?
分生子の内部に存在する顆粒状の構造をいいます。

うどんこ病菌等がグリーンアイランドをつくるメカニズムは?
コムギうどんこ病菌のグリーアイランド形成において、光合成能が変化するという論文(PMPP 40:31-38, 1992)(古いですが)があります。また、メカニズムの詳細は明らかにされていませんが共生細菌がグリーンアイランドを形成する報告(Proc Biol Sci 277:2311-2319, 2010)もあります。


12月11日クラス

質問と回答

動物の病原として細菌が多いのに、植物の病原では菌が多いのはなぜか?
大変難しい質問です。以下私見ですので。講義の中でもご紹介したように最近は自ら植物組織に侵入してゆく能力を持たず、開口部や傷口から感染します。動物は細胞壁やクチクラを持たず、植物組織よりも定着・侵入しやすい、というのが想定される原因です。

アグロバクテリウムを用いた植物などの形質転換には何か規制があるのか?
遺伝子組換え実験になる時には、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」に基づき、申請、承認などを受ける必要があります。農工大内部専用ページですが、こちらをご参照ください。

根頭がんしゅ(癌腫)病は苗木などで伝搬するとのことだが、日本のリンゴの育種にアメリカの品種などが利用されたことはないのか?
根頭がんしゅ病は、オウトウ(サクランボ)の苗木とともに日本に侵入したと言われています。もちろん、リンゴの苗木などでも侵入する可能性があります。根頭がんしゅ病の日本侵入とリンゴの苗木の導入の関係は不明ですが、多くの米国産品種が日本にもちこまれ、育種に使用されています。日本で育種されて現在世界で最大の品種である「ふじ」も元は米国の品種の交配で生まれました。「紅玉」は、米国品種「Jonathan」を勝手に日本語別名をつけたものです「根頭がんしゅ病の最も効果的な防除法は?」とのご質問をいただきましたが、なんといっても健全な苗を使用することに尽きると思われます。

根頭がんしゅ病菌が多犯性なのはプラスミドが病原性に関係するからか?
根頭がんしゅ病菌のTiプラスミドは病原性に関係しますが、プラスミドを細胞内に導入するためにはまずは組織(あるいは細胞)にがんしゅ病菌が感染・定着しなくてはなりません。根頭がんしゅ病菌は、広範な生物種に感染する能力を有していることが想定されます。

リンゴ、ナシなどの火傷病は何故日本には無いのか?
侵入されないように厳しく検疫をしているためです。従来発生していなかったにほんとを除くアジア各地でも発生の報告があり、環境などの要因で発生していないのではないと考えられます。火傷病菌は、雨風や昆虫等の多様な伝搬手段で周囲にひろがり、また、花器等の感染すると、花柄、小枝、幹へと迅速に拡大するため、急速に広範囲に被害が拡大します。

軟腐病菌に見られるような「居住型増殖」の欠点は?
居住型増殖では限られた栄養源をもとにゆっくりと増殖することが一般的ですので、急速に数を増やすのには向いていません。「クオルモンとは何か」とのご質問をいただきました。講義でご説明したように、細菌などの生物が同種の量的状況(密度、quantity)の認識や制御に利用る細胞間シグナル分子を言います。詳細については、篠原 信(2001)施設園芸 10:24-25などをご参照ください。

農家が病気の発生などで被害を受けた時に補償を受けることはできるのか?
「農業共済」という相互扶助制度に加入することによって補償をうけることができます。


12月18日クラス

質問と回答

アグロバクテリウムを用いた植物などの形質転換には何か規制があるのか?
遺伝子組換え実験になる時には、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」に基づき、申請、承認などを受ける必要があります。農工大内部専用ページですが、こちらをご参照ください。

ファイトプラズマが起こす病徴は何故ウイルスによる病徴に似るのか?
どちらも、菌や最近の様に、例えば酵素で植物組織を分解するような病徴の発現はしません。どちらも自らの増殖のために、植物の持つ物質を利用するため、植物の生育が不良になって、モザイクや萎縮などの病徴が現れると考えられ、そのため類似した病徴が起こると考えられています。

虫媒されるファイトプラズマの防除は、虫の防除を行えば良いのでは?
そのとおりです。虫媒されるウイルスでも同様です。ただ、ファイトプラズマを媒介するヨコバイなどは森林の樹木などにも生息するため、効率的に殺虫することはなかなか難しい様です。

虫媒されるファイトプラズマで虫に悪影響をおよぼすものは無いのか?
調べた範囲内では見つかりません。推察ですが、媒介者に悪影響をおよぼすと媒介される効率が下がってしまい、生存に不利になるのではないでしょうか。

ファイトプラズマのゲノムは解析されているのか?
解析されています。Oshima K. et al. (2004) Nature Genet. 36: 27-29などを御覧ください。


 1月 8日クラス

質問と回答

線虫類の防除は困難か?
植物寄生性線虫類は主に土壌に生息していて植物に感染しますので、菌や細菌による土壌病害と同様に防除が困難な場合が多いようです。

内部寄生性線虫は細胞内を動きまわるのか?
第2回で使用したスライドの14番を御覧ください。線虫と植物細胞の大きさを概念的に示しています。線虫は植物の細胞に比べて非常に大きいため、細胞というよりも、組織に侵入しています。

シスト孵化物質は人口合成できるのか?
ジャガイモシストセンチュウの孵化物質とされるソラノエクレピンは、北海道農研と北大のチームによって合成が可能とされていますが、コストの問題および、講義でご紹介したようにカクテルとして機能する可能性が高いことから、天然からの精製の方が有利であると現在は考えられています。

食菌性の線虫は植物病原菌の生物農薬になり得るか?
そのような研究の報告例はかなりたくさんあります。逆に、線虫を食べる線虫もいて、これは生物農薬として実用化されています。

「認識」から「発病」までのどこを化学殺菌剤は抑えるのか?
植物病原が、宿主植物を発病させるまでには、「認識」、「付着」、「侵入」、「進展」、「発病」等の過程を全て完遂する必要があります。従って、化学殺菌剤にせよ、その他の病害制御技術にせよ、少なくともこのどれかを抑えれば発病抑制効果を示すことができるということになります。例えば、土壌燻蒸剤は、植物を植える前に土壌中の病原を殺しますので、「認識」以前で効果を示していますし、今後ご紹介する予定の、カルプロパミドは、メラニン生合成を阻害することによって付着器経由の侵入を妨げます。

植物が静的抵抗性を獲得するようになったのはどのような経緯か?
静的抵抗性に関与する化学物質は基本的にいわゆる二次代謝物です。二次代謝産物は、解毒などの結果生産されることが多く、酵素の変異や獲得等によって新たな代謝産物ができ、それが偶然抵抗性物質(例えば抗菌性物質)として機能した場合には、その個体にとって有利なため選択される、というように私は考えています。

動的抵抗性を持たない植物もあるのか?
植物と病原の関係において、動的抵抗性が誘導されない場合があり、その時は病原が植物に病気を起こし得ると考えられます。例えば、トマト萎凋病の時にご紹介した、萎凋病菌レース2がトマト品種桃太郎を犯す理由は動的抵抗性を誘導しないためです。

植物病原は植物に物理的に侵入するのか?化学的に侵入するのか?
1/15にご紹介します。

実家で、「干し柿をつくるときに、抗菌作用を期待して、硫黄を使用する」と聞いたが?
硫黄は、最も古くから使用されてきた抗菌剤です。農薬としても登録されています。

遺伝子組換えによって植物に病害抵抗性をつけることはできるか?
できますし、例があります。1/29にご紹介する予定です。


 1月15日クラス

質問と回答

ファイトアレキシンは食用の植物に含まれることがあるのか?
ファイトアレキシンは、病原に侵された部位の周囲でも生産されていることがあります。また、病原以外の微生物や物理的刺激(切断)等によっても量は少ないものの生産される場合があります。

ホウレンソウには渋みがあるが、元来持っている抗菌性物質なのか?
「ホウレンソウの渋み」は多分シュウ酸によると思われますが、シュウ酸の抗菌性はあまり高くないようです。

HSTに対する抵抗性はどのようにして起こるのか?
HSTの受容体の欠如によって、抵抗性になります。

人工的に植物に病害抵抗性をもたせることはできないのか?
できます。1/29にご紹介する予定です。

根頭癌腫病菌が病原性に関与するT-DNAを植物ゲノムに挿入するとのことだが、このようなメカニズムで発病させる病原は他にもあるのか?
根頭癌腫病細菌の近縁のメロン類毛根病細菌など少数が知られています。

植物側も病原側もあの手この手で、防御、攻撃を繰り返しているのにどちらも淘汰されずに残るのはなぜか?
確かに興味深いテーマです。病原は「えさ」を残しておくためにも完全に植物を枯らすことはしない、どちらも遺伝的多様性があって、どこかに抵抗性を司る遺伝子が存在し、しかし、その抵抗性も完璧でなく、それを打ち破ることができる病原の系統が存在する、などが原因なのでしょう。


 1月22日に定期試験を実施しました

試験は、以下の要領で行いました。
『試験に際しては、1/15の講義で配布するB4用紙(両面使用可)1人1枚を持ち込み可とします。参考書、講義で配布したプリント、ノートなどは持ち込めません。試験前に講義のプリント・ノートおよび参考書を利用して勉強していただき、病原微生物に関する理解(記憶ではない)をしていただきたく思います。従って、細かい語句、名前等の情報については配布したB4用紙をご利用いただき、独自性のある答案をつくっていただくことを期待しています。』 
図書館所蔵の教科書・参考書は、皆さんが閲覧できる機会を確保するために、長期間借り出ししないようお願い致します。
なお、成績の評価は、シラバスにもありますように、「授業出席回数(15回が最多)」+「試験評点(85点満点)」で行う予定です。また、授業出席回数が「8」未満の者は試験の成績にかかわらずDと評価します。詳しくは有江へお尋ね下さい。 
1/22は30分弱講義を行い、その後60分間で試験を行います。また、1/29は試験の解説を行うとともに、講義(最終回)を行いますので、ご出席下さい。

試験問題と評価のポイント(414 kb pdf)


有江 力のホームページ  最近の研究成果発表

植物病理学研究室ホームページ