平成23年度
3255 病原微生物学授業情報

Modified: Jan 20 2012

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質問に対する回答など


10/25以前の講義の「質問と回答」はこちらをご覧下さい。


11月 1日クラス

質問と回答

菌媒介性植物ウイルスはどのようにして媒介されるのか?
変形菌であるPolymyxaやツボカビであるOlpidiumは、その表面にウイルスが付着して植物に侵入する事でウイルスを媒介するとされています。メロンえそ斑点ウイルスはOlpidiumの遊走子表面に吸着することが中央農研の研究で示されています。(参考HP) 菌によって媒介されるウイルスが媒介者である菌に影響を及ぼすとの報告はみあたりません。

分生子は胞子か?
分生子は胞子のひとつです。無性的増殖によって作られる胞子で、同時に作られるすべての分生子が基本的には同じ遺伝情報を持っているクローンです。分生子形成細胞と呼ばれる細胞から産生される場合と細胞がちぎれる様にできる場合があります。ただし、菌糸の細胞の一部が厚壁化して作られる厚壁胞子(厚膜胞子)や分裂や発芽で生じる酵母は分生子とは呼ばないのが一般的です。

精子や卵(子)も胞子か?
この講義での定義は、「増殖に直接関わるものを胞子と呼ぶ」ことにしていますので、精子や卵(子)など生殖に関わる物は胞子と呼びません。「増殖に直接関わる」とはそれが発芽して菌糸や他の胞子になって、細胞数を増やす事に直結する場合とします。

何故湿度の高い日本でブドウべと病が大きな問題でないのか?
Plasmopara viticolaによるべと病は湿度が高く、比較的冷涼な条件で発病し易いとされています。元来、ヨーロッパ系のブドウがべと病に弱いと説明されてきました。我が国では、べと病よりも炭疽病菌であるGlomerella cingulataによって引き起こされる晩腐(おそぐされ)病やElsinoe ampelinaによる黒痘(こくとう)病の方が問題でしたが、ヨーロッパ系のブドウやそれとの交雑品種の栽培の増加に伴ってべと病の発生が問題になりつつあるようです。

べと・疫病に対して有効な農薬にはどのようなものがあるのか?
現在広く使用されているべと・疫病用の殺菌剤は「メタラキシル(商品名はリドミルなど)」、「ベンチアバリカルブイソプロピル(プロポーズ等)」「シアゾファミド(ランマンなど)」です。この他、ボルドー液、銅剤なども使用されます。作用機作に関するご質問もありましたが、メタラキシルの作用機作はウリジン(U)の細胞内取り込み阻害に伴うリボソームRNAの生合成阻害、ベンチアバリカルブイソプロピルは細胞膜成分ホスファチジルコリンの生合成を阻害による遊走子のう形成阻害、シアゾファミドはチトクローム複合体III(QIi)への結合による呼吸系電子伝達系の阻害であるとされています。メタラキシルは浸透移行性(全身に速やかに広がる)に優れており、多用されてきましたが、耐性菌の出現が報告されており、使用方法等注意する必要があります。異なる作用機作の薬剤を上手に使用していく事が必要です。殺菌剤の作用機作はこちらに纏められていますので、参考にして下さい。

接合菌で雄、雌として機能する細胞の形は違うのか?
同じです。菌の場合、雄および雌として機能する細胞の形は同じ形である事が多いです。そのため、接合菌の交配において、どちらの細胞が雄か雌かを見分ける事は困難ですが、形成された接合胞子のうの遺伝的性状と同じ遺伝的性状を持つ菌糸が雌として機能したと考える事ができます。


11月 8日クラス

質問と回答

さび病菌は何故多様な胞子をつくるのか?
担子胞子は有性生殖の結果形成される胞子です。また、胞子ではありませんが、精子は受精のために使われます。また、冬胞子は、有性生殖の場となり、担子器はそこから形成されます。その他の銹胞子や夏胞子は種によって、飛散などの役割を持ちます。なぜこれほど多様な胞子をつけるのかお答えするのは困難ですが、機能の分化にともなって胞子の多様性も増したと考える事ができると思います。

さび病菌が宿主交代をする利点は?
落葉する植物を宿主としている場合には、宿主を交代する事でその間の「生活の場」を確保していると考える事はできます。しかし、多くの植物病原菌は宿主交代をしなくても死に絶える事はありません。ことなる生活環を持つ事で病原も棲み分けをしていると考える事も可能だと思います。「どのようにして2種類の宿主が決定されるのか?」とのご質問がありましたが、未だ解明されていない課題です。

「中間宿主」は、感染しても被害の少ない植物のことか?
講義の中でご紹介した様に、宿主交代をする病原の宿主のうち、人間にとって一般的に重要でない方の宿主を「中間宿主」と呼びます。ナシ赤星病菌の場合は、中間宿主として理解されるビャクシン類(カイヅカイブキ、ハイビャクシン等)のさび病による被害は小さいですが、コムギ黒さび病の中間宿主メギの被害は大きいようです。「中間宿主であるビャクシンに対する薬剤散布はナシ赤星病防除に有効か?」とのご質問もいただきました。発想としては、中間宿主で生活環を切ってしまおうということです。農薬メーカーであるシンジェンタのHPに、「果樹園に発生する前の4月上旬から中旬に、20〜30倍に希釈した多硫化カルシウム剤、またはメプロニル剤をビャクシン類に2〜3回散布することで、小生子の飛散を事前に防止できます。」という記載がありました。

トウモロコシ裸黒穂病に罹病したトウモロコシ以外にも食用になる病気になった植物はあるのか?
マコモに黒穂病菌Ustilago esculentaが感染すると、新芽基部が肥大、これを「マコモタケ(真薦筍)」と呼んで古くから食べられていた様ですし、現在でも中華食材等として利用します。「トウモロコシ裸黒穂病菌はジベレリンを産生するか?」とのご質問がありましたが、裸黒穂病に罹ったトウモロコシでは逆にジベレリン生産量が低下し、節間がつまるという報告があるようです。また、「オオムギ裸黒穂病に罹病したトウモロコシを食べても毒性は無いのか?」とのご質問をいただきましたが、マイコトキシン産生の報告はみあたりません。


11月15日クラス

質問と回答

RhizoctoniaAtheriaの担子器は野外ではあまり見られないのか?
担子器の形成は有性生殖の結果です。有性生殖は一般に、菌の種などによって異なる環境条件が満たされた場合に起こります。RhizoctoniaやAtheriaでは、野外での担子器の形成は希であるとされています。これは、有性生殖の条件が整わないからと考えられています。しかし、北海道立農業試験場の報告(http://www.agri.hro.or.jp/center/kenkyuseika/gaiyosho/S58gaiyo/1982208.htm)などを見ると、比較的高頻度でRhizoctoniaの担子器が観察されている様ですので、単に観察不足が原因なのかもしれません。「白絹病はなぜ白絹病と呼ばれるのか?」とのご質問をいただきました。地際の感染部周辺に、白色の菌糸がまとわりつく(http://www.sc-engei.co.jp/navi/byoki12.htmlに例の写真があります)標徴からつけられた病名です。

イネ紋枯病の防除に農薬を使用するとの事だが、水面の高さが変化すると効果がなくなってしまうのでは?
通常使用される殺菌剤は、残効性(ある程度の期間付着する等して効果を持続する)や、浸透移行性(全身に行き亘る)ものがあり、また、薬剤を全身に噴霧処理する場合も多いため、ある程度の期間はやや異なる場所の感染にも対応できます。「Rhizoctonia solaniの菌核は耐久性があるのか?」とのご質問もありました。講義でご紹介した様に、イネ紋枯病では、菌核が地面等に落ち、越冬、翌春水に浮いて浮遊してイネに感染しますので、耐久性があるということができます。

「子嚢(しのう)」の「嚢」とは何か?
「嚢」は袋の意味です。従って子嚢は子嚢胞子を内包する袋を表します。

「子嚢」は植物組織にめり込んで形成されるのか?
鋭い観察力です。お見せした図ではそのようになっていましたが、植物組織上に形成されるもの(サツマイモ黒斑病菌など)もあります。また、植物組織ではなく、菌の菌糸に埋もれて作られる場合(これをpseudotheciumとよびます)もあります。

Taphrinaは自らジベレリンを産生するのか、それとも、植物にジベレリンを産生させるのか?
自ら産生しているとさています。「サクラ天狗巣病やモモ縮葉病の防除はどのように行うのか?」とのご質問をいただきました。植物の休眠期に石灰硫黄合剤等を散布で対処するのが一般的です。発病してしまった場合は、罹病枝を取り除いたり、発病葉を取り除いて翌年の発生を減らすことが重要です。

カンキツ類緑かび、青かび病菌は、ペニシリンを産生するのか?
Penicillium属菌の菌株がすべてペニシリンを産生する訳ではありません。ペニシリンは、P. chrysogenumから発見されましたが、その種内でも菌株によって産生するもの、しないものが存在します。ただ、Penicillium属菌は物質産生能が高いものが多く、中には、パツリン等のマイコトキシンを産生するものもいます。

カンキツ類緑かび、青かび病の発病条件をもう一度聞きたい
理化学研究所理研ニュースの記事をご覧下さい。有本裕研究員が見いだした情報ですが、「この菌はさまざまな植物の死んだ細胞を養分にして生育できるが、生きている植物ではミカンにだけ、しかも皮に傷がなければ発病しない。「この謎をどうすれば解けるのか、四六時中考えていました。しかし解明するための糸口が見つかりません。あるとき、皮から分泌される成分を取り除いてみようと、皮を傷付けた後、すぐに水で洗ってみました。すると発病しなかったのです」。ミカンの皮が障壁となり、菌の侵入を防いでいるわけではなかったのだ。この発見をきっかけに、有本研究ユニットリーダーらは、次のような発症過程を突き止めた。この菌は死んだ細胞でなければ栄養として消化できない。皮が傷付くと皮から油成分が分泌されて、ミカン内部の細胞が死に、菌が栄養として消化できる。「しかし油成分をすぐに洗い流すと、ミカン内部の細胞は生きたままなので、菌は栄養として消化できず発症しないのです」。 菌がミカンの細胞を消化して養分にするとき、酸性物質ができて、水素イオン濃度のpH(ペーハー)値が3.5に下がる。すると菌の性質が変わり、周りの生きた細胞の細胞壁に穴を開けて侵入するようになる。このようにしてミカン内部へと菌が侵入し、カンキツ緑カビ病が発病することが分かった。「pHが3.5に下がると菌の性質が突然変わり、生きた細胞を攻撃し侵入し始めるのです。まるで満月を見ると突然変身する“おおかみ男”のようです。ただし、ミカン以外の植物では酸性物質ができないので、pH値が3.5にまで下がりません。だからカンキツ緑カビ病は、生きた植物ではミカン以外には発病しないのです。」とのことです。

カンキツ類緑かび、青かび病の良い防除法は?
講義でご紹介した様に、これらの病原菌は圃場ですでにミカン果実に感染しています。また、我が国では収穫後に病害防除を目的として農薬を散布する事はできません。従って、圃場において薬剤処理等の防除をきちんと行っておく事が現時点では最適な方法とされています。ただし、発病しにくくするために、温度や湿度をあげないことは重要です。購入したミカンは、気温の低い所に置き、時々果実を移動して湿度を下げる事が効果的です。また、発病した果実は速やかに取り除いて下さい。

麦角毒は、麦角菌の感染や発病で機能を持っているのか?
情報がみあたりません。麦角菌は植物に内生して潜む様な性質を持ちますので、植物に認識されない様にする、他の微生物から身を守るなどの機能があると面白いと思いますが、証拠がありません。


11月22日クラス

質問と回答

イネばか苗病は日本で見つかったのか?
堀正太郎(1898)農商務省農試農事試験成績12(1)110が最初の正式な報告の様です。ちなみに、ジベレリンはこの病原菌から1926年に単離の報告(黒沢英一、台湾総督府農事試験場)がされています。「世界的に『ばか苗病』の病名が使われているのは、他の国でばか苗病が問題でないからか?」というご質問をいただきましたが、そうではなく、和名が世界的に一般的になったことが理由です。また、「生活環にでている『赤籾』とは何か?」とのご質問もいただきました。ばか苗病菌は赤色の色素を産生しますので,菌糸や分生子が赤や桃色を呈します。籾の縫合部(外籾と内籾の重なる部分)に病原菌の菌体が標徴として赤く見える事があり、この場合赤籾と呼ばれます。

イネいもち病の「いもち」とは何か?
「稲熱病」と書いて「いもち病」と呼びます。「いもち」の語源としては、「入熱」であろうとの考察が松本和男(1983)日植病報49:374にあります。

イネいもち病菌は実験室だと完全世代をつくるのか?
菌株によりますが、異なる交配型の菌株を対峙して適切な環境条件におくと完全世代をつくります。日本で採集されたいもち病菌同士は交配する事ができません。

イネいもち病菌が物理的に(圧力で)イネに侵入するとの事だが他の病原菌も同様か?
ウリ類炭そ病菌では、圧力(物理的)と酵素(化学的)で侵入すると言われています。また、イネいもち病菌はイネ細胞内に直接侵入しますが、多くの植物病原菌は細胞間隙に侵入する事が多く、この場合、それほど圧力を必要としないと考えられます。

トマト萎凋病菌が職種であるトマトを認識、感染するメカニズムが明らかになっているのか?
残念ながら明らかになっていません。元々地下部での感染なので観察が難しかった事が原因ですが、近年、蛍光タンパク質の利用や遺伝子破壊による遺伝子機能解析等に寄って断片的に理解されてきています。。

萎凋病抵抗性の遺伝子を導入する事でトマトの品質が落ちる事はないのか?
従来からの交配に基づく育種で、野生種由来の抵抗性遺伝子を導入する場合は、品質が落ちます。そのため、品質の良い品種との交配を何度も繰り返す等して、病害抵抗性以外の品質等の性質は元と変わらない様に育種する事が必要になります。そのため、抵抗性品種の育成には長い年月がかかります。「病原の非病原力遺伝子を認識する宿主の遺伝子(抵抗性遺伝子)は元々植物は持たないのか?」とのご質問がありました。種、品種や系統等に依って抵抗性遺伝子を持っている場合があります。それを見いだして、持たない品種に導入する事で病害抵抗性の育種が行われます。

トマト萎凋病菌のレース1(AVR1 AVR2)に感受性でレース2(avr1 AVR2)に抵抗性の品種はあるのか?
<訂正しました>レースTとレース2の違いは、レース1が「抵抗性遺伝子Iに認識されるAVR1を保持する」のに対して、レース2が「抵抗性遺伝子Iに認識されるAVR1を保持しない」という点だけですので、レース1に感受性でレース2に抵抗性の品種はありません。また、一遺伝子一遺伝子説に基づくと、そのような品種は今後も育種できません。この他、トマト品種ー萎凋病菌レースの関係をもう一度聞きたいとのご意見を多数いただきましたので11/29に復習します。


11月29日クラス

質問と回答

離層形成は植物の防禦反応のひとつか?
黒星病に感染したバラでは早期に離層が形成され落葉します。ご指摘のように、これは植物の防禦反応の一つかもしれません。萎凋病に感染したトマトでもどうような現象が見られます。ただし、黒星病では、落葉した葉が次年度等の感染源になりますので、それを取り除く事が防除の重要なポイントになります。従って、病原の戦略ととらえる事も可能だと思います。一方で、核果類灰星病菌のように、ミイラ果を樹上に残す(もちろん、かなりは地上に落果しますが)場合もあり、これも病原の耐久、生存戦略かもしれません。病原によって異なる戦略をとっているのはとても興味深い事で、講義で複数の病原の生活環をご紹介しているのはその多様性をご理解いただき、興味をお持ちいただきたいと考えているからです。

「炭疽病」と「炭そ病」のどちらが正しいのか?
植物病名の和文表記は日本植物病理学会において認めているものが最もスタンダードです。これまでに認められた病名は、日本植物病名データベースに纏められています。これを見ると、キュウリでは炭疽病、ハコネメダケでは炭そ病など、両方使われている様ですが、炭疽病の方が多い様です。また、「炭疽病は様々な植物で発生するようだが、一つの菌株が複数の植物に感染するのか?」とのご質問をいただきました。炭疽病菌のひとつの菌株は比較的狭い範囲の植物にしか感染しません。従って、異なる宿主範囲を持つ多様な炭疽病菌が存在するということができます。トマト萎凋病菌の病原であるFusarium oxysporumもそうです。一方、菌核病菌や灰色かび病菌はひとつの株が広い範囲の植物に感染し、宿主範囲の広い病原菌であると表現します。

灰星病に感染したモモ等の果実はミイラ果になるがこれは菌が果実の水分を利用するからか?
そのとおりです。みていただいた資料ではほとんど果肉がなくなっていたのがわかったのではないかと思います。近縁の灰色かび病菌では、ブドウ果実に感染し、水分がなくなった干しぶどう状の果実(貴腐果)を貴腐ワイン醸造の原料として利用します。

灰色かび病菌や菌核病菌はどうして広い範囲の植物に感染し、病気を起こせるのか?
これらの菌は、自身で生産するペクチナーゼ等の植物細胞壁分解酵素(消化酵素)を利用して植物組織を分解、侵入、発病、栄養分の摂取を行います。このような消化酵素は様々な植物の細胞壁成分を基質とすることができるため、これらの菌は広い宿主範囲を持ちます。「灰色かび病菌はペクチナーゼ等をどのようにしてつくるのか?」とのご質問をいただきました。多くの菌はペクチナーゼ(複数)の遺伝子をゲノムに持っています。詳しくは1月にご紹介します。「近縁の灰星病菌は何故核果類しか宿主としないのか?」とのご質問をいただきましたが、これに関する知見はありません。

トウモロコシごま葉枯病菌が産生するT-毒素について詳しく知りたい?
1月の「病原の植物侵害戦略」の際に宿主特異的毒素(HST)について少し詳しくご紹介しますのでもう少しお待ち下さい。HSTの機能等に関するご質問もいただきましたがその際に併せてご紹介します。「Alternaria属菌に感染した植物は食べても大丈夫か?」とのご質問をいただきました。病気に罹った植物は食用にしない方が好ましいと思いますが、いただいたご質問を、「Alternaria属菌が産生するHSTがマイコトキシンのように動物に影響を及ぼす場合があるか?」と読み替えさせていただくと、HSTの一部はマイコトキシンの類似体である(例えばAAL毒素とフモニシンが類似)、HSTの生合成系はマイコトキシン生合成系と類似の場合がある、等を考えると可能性は高いと考えるのが妥当だと思います。

宿主特異的毒素(HST)を産生する病原に対する特別な防除はあるのか?
HSTの作用メカニズム等に準じた特別な防除法は、抵抗性品種(HST非感受性品種)の利用を除き、現在のところ無い様です。通常の菌類病に対するのと同様な殺菌剤などによる防除が行われます。

うどんこ病菌は何故絶対寄生なのか?
大変難しい質問でお答えするだけの知見を持ち合わせません。「うどんこ病菌は子嚢菌の進化の先端ではないか、とはどういう意味か?」これも確実な根拠がある事実ではありませんが、狭い宿主範囲(選抜の結果と考えるのが妥当?)、絶対寄生性(腐生的な生活を捨てた)、閉子嚢殻の形成(裸生子嚢から閉子嚢殻への変化)等を併せ考えてた私の推察です。「うどんこ病はどのようにして防除するのか?」とのご質問をいただきました。通常は、エルゴステロール生合成阻害剤や呼吸系阻害剤などの殺菌剤で対処します。


12月 6日クラス

質問と回答

糸状菌の病原菌で交配や菌糸融合によって宿主範囲が広がる事はあるか?
理論的にはあり得ます。また、Fusarium oxysporumでは、トマト萎凋病菌とキュウリつる割病菌を細胞融合した所一時的にトマトにもキュウリにも感染する様になったという報告がありますが、核融合迄至らずに、しばらくすると片方の植物に感染できなくなった様です。ただし、このような宿主範囲が広くなる様な病原菌をつくることは倫理的な問題を含みかねませんので、あまり報告を聞きません。

細菌が生産している色素には何か役割があるのか?
コロナチンのように病原性に関連しているものもあります。その他、抗菌性や抗腫瘍活性等の生物活性が認められている色素がありますが、色素である事と細菌における本来の機能にはあまり関係がない場合が多い様です。すなわち、物質の特性から我々が偶然色素として認識できていると考えるのが妥当だと思います。

バクテリオシンを産生する細菌はそのバクテリオシンに対して耐性なのか?
バクテリオシンは、講義でもご紹介した様に、同種や近縁種に対して抗菌性を持つペプチドやタンパク質をいいます。自身の生産する抗生物質に対する耐性を「自己耐性」といい、物質の不活化や排出によって耐性になります。バクテリオシンに対する自己耐性は乳酸菌等でも知られています。

根頭がん腫病菌は傷が無いと感染できないのか?
講義でご紹介するのを忘れましたが、細菌は糸状菌のように、圧力や酵素で侵入していく力が弱く、傷や開口部から侵入します。「根頭がんしゅ病菌は、感染部位から上部組織に広がるのか?」とのご質問もありました。根頭がんしゅ病菌は維管束等に入って上部等へ進展する事は基本的には無い様です。新たな傷口から再度感染する事で拡大していきます。

ジャガイモ輪腐病は種芋で伝染するのか?
その通りです。感染した種芋の使用、感染した種芋を植え付け時にカットするナイフでの感染が主な感染源です。


12月13日クラス

質問と回答

病気に罹った植物を食べても人間に害はないか?
植物病原が動物の病原菌である例は殆どありません。従って、病気に罹った植物を食べて、その病原が人体に感染する事は無いといって差し支えないでしょう。ただし、新年の講義でご紹介しますが、植物病原が生産するマイコトキシン(菌の各論でご紹介した麦角病菌等が例示できます)等や、病原に感染した植物の組織が生産するファイトアレキシン等の物質が、罹病植物を摂食した動物に害を及ぼす事があります。また、罹病組織に二次的に様々な菌や細菌が付着、増殖する事もありますので、罹病していることがわかっている植物はあえて食べることはお勧めしません。

リンゴ火傷病の侵入が警戒されているとのことだが、物流や交通が発達した現代では病原の侵入を防ぐのは困難なのでは?
確かに、様々な病原の侵入の危険があります。輸入種苗や輸入食糧を介して様々な病原の侵入の可能性がありますので、植物防疫所等がこれを阻止するため日々検査などを行っています。植物防疫所のホームページを一度ご覧下さい。リンゴ火傷病のように警戒度が高い病害虫の例はこちらを参考にして下さい。皆さんも海外旅行の際などに、病害虫を持ち込まない様、植物防疫法に従って輸入しない、検査を受けるなど注意を払って下さい。

イネもみ枯細菌病の発生を防ぐ方法はあるのか?
採種時にもみ枯細菌病に感染していない圃場や個体から採種することが最も重要です。さらに、育苗時に複数の農薬(化学農薬、生物農薬)を使用する事ができます。「イネもみ枯細菌病」は、箱育苗が一般化される前には無かった病害なのか?」とのご質問をいただきました。箱育苗が盛んになる前にもありましたが、育苗期に顕在化しなかったため、あまり重要な病害として認識されていなかった、ということです。

バイオキーパーの有効成分である非病原性エルビニアが病原性を獲得してしまう様な危険性は無いのか?
軟腐病菌の病原性はプラスミドによって支配されている訳ではありませんので、非病原性菌が病原性を獲得する可能性は低いと考えられています。「軟腐病菌のバクテリオシンが非病原性エルビニアを殺してしまい、病気が発生してしまう事は無いのか?」とういうご質問もいただきました。先に非病原菌を増殖させてしまい、軟腐病菌の増殖の余地を与えないのがバイオキーパーの機作ですので、理想的にはご質問いただいたような事は起こらないのですが、実際には非病原菌の増殖が不十分で、軟腐病菌が発生してしまう事もあるようです。

ハクサイの葉に黒い斑点がある場合をよく見るが細菌病か?
「ごま症」と呼ばれる生理障害の可能性が大です。微量要素であるホウ酸や鉄の欠乏によるとされますが、実際には窒素やカリウム等肥料過多の結果微量要素の吸収障害が起きることが多い様です。この他、黒腐れ病やカブモザイクウイルスによる病害の場合もあります。


 1月10日クラス

質問と回答

病気に罹った植物を食べても人間に害はないと聞いても消費者は抵抗感を持つのでは?
その通りだと思います。植物保護において、食べても問題の無い病害虫の感染と、それを防ぐために使用される農薬等の費用・残留・環境影響等のバランスをとることは大変難しい課題です。

ファイトプラズマに感染した植物が叢生症状を示すのは何故か?
ジベレリン等の植物ホルモンのバランスが異常になるためと考えられています。

ファイトプラズマは昆虫に異物として認識されないのか?
昆虫にわざわざ取り込まれる様な認識タンパク質を持っていますので、昆虫に取り込まれて異物として排除されず、増殖できるもの、昆虫にも大きな悪影響を及ぼさないものが選抜されて生き残ったと考える事ができます。

ファイトプラズマは植物の出現後に出現したのか?
お答えするのが困難な興味深い質問です。もともと昆虫の病原菌あるいは内生菌であり、昆虫ー植物の吸汁関係が成立した後で植物での定着性が高まったものが選抜された結果であると考えられています。

スピロプラズマはなぜらせん型になるのか?
ファイトプラズマもスピロプラズマも細胞壁を持ちませんので、不定形、言い方を変えれば、フレキシブルに形態を変化させる事ができます。スピロプラズマは、細胞内に繊維性タンパク質を持つため、それが時にらせんの様な形にするとされています。らせん型になることで、移動が可能になり、運動性をもちます。

ネコブセンチュウ、ネグサレセンチュウ、シストセンチュウ類に汚染した圃場は使えないのか?
D-Dなどの薬剤で「土壌消毒」して、センチュウを防除する事が良く行われます。

ジャガイモシストセンチュウはどのような病徴を引き起こすのか?
植物体全身が萎れて成長が停止します。その結果収量減になります。

イネシンガレセンチュウはどこに生息しているのか?
種籾の内側に生息して種子伝搬します。乾燥耐性を持っている様です。


 1月17日クラス

質問と回答

イネいもち病菌はメラニンを作れないとイネに感染できず、死に絶えてしまうのか?
基本的にいもち病菌は付着器で生じる膨圧によってイネに侵入しますので、膨圧生成に必要なメラニンの合成ができないと侵入し、栄養分を摂ることができないことになります。従って、イネのみを宿主とする場合は死に絶える可能性もあるかもしれません。現に、メラニンの生合成を阻害する薬剤がいもち病防除に使用されています。

ある菌が植物が先天的に持つ抗菌性物質を分解できたとしても、その後ファイトアレキシンによってやられてしまう事はないのか?
あるはずです。その場合、「ある菌」は病原になり得ないことになります。単純に言えば、この菌がフィとアレキシンも代謝して無毒化できれば、病原になる可能性を持つといえます。

ファイトアレキシンが生産させている植物を食べても大丈夫か?
講義でご紹介したと思いますが、ファイトアレキシンの中には人畜に影響を及ぼすものがあります。ファイトアレキシンは微生物を認識した(感染)部位の近くで生産され、拡散している可能性があります。病気に罹った植物組織をあえて食べることはない、と申し上げた一つの理由です。

Alternaria alternataのHST非生産株とHSTを同時に植物に処理するとどうなるのか?
そのHSTに感受性の植物(例えばAK毒素でしたらナシの品種二十世紀)に同時接種をすると感染する場合があります。HSTが植物の菌の受容化(細胞膜の変化等による)を誘導するため、本来感染できないAlternaria alternataのHST非生産株が感染する様になります。

植物のある品種はなぜHSTの受容体を持つのか?
HSTの受容体はミトコンドリア膜等に存在する事が多いようで、もともと多様性のあるものの中から、あるいは、変異の中から、偶然選抜してしまった結果と考えられます。HST生合成に関わる遺伝子は、多くの場合、小さな、菌の生存にとって必須でない染色体に集まって座乗している事から、これらの遺伝子は水平移動で(まだ未知の)どこからか来たのでは無いかと考えられています。トマトアルターナリア茎枯病に感受性のトマト品種として「ファースト」等の品種が知られていますが、ガラパゴス諸島に生息する野生のトマトがこの病気およびその病原A. alternataが生産するAL毒素に感受性であるとされており、なぜか大変興味が持たれます。

植物病原はどうやって植物に侵入したり発病させたりする能力を得たのか?
微生物は栄養分を得るために様々な基質を利用します。偶然それを生きた植物に求め、それが可能になった場合、植物側から見ると病原と見なされます。栄養分を得るためには、消化酵素や自らを他から守るための毒素等の手段が必要であり、多様なそれらの道具を多様な組み合わせで持つ微生物の中で選抜された結果が現在の病原であると考える事ができるのでは無いでしょうか。病原性に関わる遺伝子の水平移動等も細菌複数報告されつつあり、病原菌がどのようにして生まれたか、という現時点では未解決の疑問にすこしずつ答えがでてくるかもしれません。「病原菌が、植物の抗菌性物質の代謝に関わる遺伝子を植物から盗むことは無いのか?」とのご質問をいただきました。仮説としてはあるのですが、まだ確認された例がありません。

PRタンパク質はどのように機能するのか?
植物が抵抗性誘導の結果生産するPRタンパク質には、キチナーゼなどの分解酵素等があります。これらは、単独ではあまり大きな抗菌活性をもちませんが、複数が生産される事で抗菌性を示すとされています。

hrp遺伝子はどのように機能するのか?
ここで簡単にお答えできる内容ではありません。教科書にたくさん記述があります。例えば、眞山滋志「植物病理学」(文永堂)p. 188-190等に纏められていますのでご参照下さい。

平成20年度、21年度の試験の問題と解説を見る事ができない
申し訳ございませんでした。リンクがおかしくなっていました。修正しましたのでご活用下さい。


 1月24日 に試験を行いました

試験は、以下の要領で行いました。
『試験に際しては、1/10の講義で配布したB4用紙(両面使用可)1人1枚を持ち込み可とします。参考書、講義で配布したプリント、ノートなどは持ち込めません。試験前に講義のプリント・ノートおよび参考書を利用して勉強していただき、病原微生物に関する理解(記憶ではない)をしていただきたく思います。従って、細かい語句、名前等の情報については配布したB4用紙をご利用いただき、独自性のある答案をつくっていただくことを期待しています。』 
図書館所蔵の教科書・参考書は、皆さんが閲覧できる機会を確保するために、長期間借り出ししないようお願い致します。
なお、成績の評価は、シラバスにもありますように、「授業出席回数(15回が最多)」+「試験評点(85点満点)」で行う予定です。また、授業出席回数が「8」未満の者は試験の成績にかかわらずDと評価します。詳しくは有江へお尋ね下さい。 
1/24は30分弱講義を行い、その後60分間で試験を行いました。また、1/31は試験の解説を行うとともに、講義(最終回)を行いますので、ご出席下さい。

試験問題と評価のポイント(414 kb pdf)


有江 力のホームページ  最近の研究成果発表

植物病理学研究室ホームページ