平成23年度
3255 病原微生物学授業情報

Modified: Jan 1 2012

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質問に対する回答など


10月 4日クラス

質問と回答

植物病害の大発生による産地の崩壊後、技術の進歩によって再度作れる様にはならないのか?
近年は農薬や病害抵抗性品種等、植物保護技術の進歩によって病害の発生をある程度押さえ込む事ができる様になっていますので、理論的にはあり得るのですが、他の産地がより有名になってしまった(ブランド力を失う)、他の植物の生産が盛んになった(例:スリランカの紅茶)など、周辺の状況によって、産地が盛り返すケースは少ない様です。産地が盛り返した例としては、リングスポットウイルスによって栽培ができなくなっていたハワイのパパイヤがウイルス抵抗性の形質転換体を使用する事で生産が拡大していることをあげることができます。

黒斑病が二十世紀ナシに特異的に発生する理由は?
今後の講義でご紹介していきますので、今少しお待ち下さい。

農薬をたくさん使用しているのにまだ病気で大きな被害がでるのか?
10/11にご紹介する予定ですが、病気の発生には、環境条件等様々な要因が影響を与えます。そのため、予想していなかった病害虫の被害や、冷害等に伴う重篤な被害が生じる場合があります。また、講義でご紹介したような土壌病害は、病原が土壌中に生息しているという特殊な条件から、効果のある農薬が少ないため、「難防除病害」とされています。

平成の米騒動は本当に2003年か?
すみません、1993年の誤りでした。

病害の被害に対して国は補助金を出す制度をもっているのか?
基本的にはありません。農家は多くの場合、農業共済(農済:http://www.nosai.or.jp/)という互助制度に加入しており、そこから補助されます。

土壌病原菌はどこから来るのか
土壌に生息していて主に地下部から植物に感染して病気を起こす病原菌を土壌病原菌と言います。従って、土壌を介して拡大する事が多いのですが、土壌を含むあるいは付着する様な用水、風、農業機械、人等によっても運ばれます。種子や肥料が土壌病原菌に汚染されていて、これが遠い距離を運ばれ、その結果新たな土地に土壌病原菌が定着してしまう例もあります。

一度病原に汚染された土壌が再度使用できる様になるまでどれくらいかかるのか?また、対策は?(複数のご質問をいただきました)
病原の種類にもよりますし、その間他の植物(その病原に冒されないもの)を作る事も可能ですので、一概には言えません。10/11の広義で、病原の生存期間などについてご紹介しますので、それもご参考になさって下さい。土壌病害(土壌中に生息する病原によって引き起こされる病害)が発生した場合の対策としては、抵抗性品種や台木の使用、栽培植物の変更、土壌消毒(化学農薬、熱など)、クリーニングクロップの栽培、隔離(土や水が移動しない様に管理する)など様々な方法で対処します。1月の講義でその一部をご紹介する予定でいます。

ポストハーベスト病害によるロスを示すスライドNo.12中の「Country of Origin」の意味は?
参考にしたデータをとった地域の意味です。例えば、「リンゴの低温貯蔵中に発生する病害によるロスは、アメリカやイギリスのデータでは、2~50%である」というようにご理解下さい。

市場病害用殺菌剤(ポストハーベスト殺菌剤)はなぜ日本ではないのか?
法制度上、収穫後の産物が農薬の対象外であるためです。我が国の農薬取締法では、収穫前のみを処理対象にしています。従って、収穫前日の処理が登録・許可されている殺菌剤はあります。収穫後の農産物は「食品」として扱われるため、以降に処理する場合は食品添加物としての登録・許可が必要になります。農薬取締法に基づいて使用された農薬については生産物に表示する義務はありませんが、食品添加物の場合には表示義務がある様です。このような区別は、食品の安全性を一括管理するためにはあまり意味がありませんので、今後変化する可能性があります。特に、収穫後病害の生物防除(乳酸菌や枯草菌など)の可能性が高まれば、検討していかなくてはならない課題になりそうです。概ねポストハーベスト病害は、圃場から潜在的に感染している病原が宿主植物の生理的変化(成熟等)によって顕在化(病気を起こす)することによっておきます。従って、原則的には、病原が潜在感染あるいは付着していない生産物をつくることが重要です。また、貯蔵方法の進歩等も貯蔵中に生じる病害の低減に役立っています。(昨年の質問に対する回答を再掲)

「産地の移動等に関係した植物病害」についてもっと知りたい?
「チョコレートを滅ぼしたカビ・キノコの話」を読んでみてください。


10月11日クラス

質問と回答

生理障害は病気ではないのか?
初回にご紹介した様に、この講義では「病気」を、微生物に起因する植物の障害としています。

目に見えない「病徴」はあるのか?
「病徴」は基本的に病気に起因する目に見える症状のことです。ただし、表面から見える場合だけでなく、内部を観察する事で見える病徴もあります。例えば、茎を切断すると維管束の褐変がわかります。「標徴」は、「病徴」のうち、病原体そのものが見えている場合を表します。

古細菌は(真性)細菌よりも真確生物に近いのか?
分子生物学的および生化学的性質によると、古細菌の方が真確生物に近い事が示されています。また、「真核生物のうち、動物、菌、植物でないものどんなものがあるのか?」、とのご質問をいただきました。かなり流動的な部分でありますが、単細胞の藻類、アメーバ動物等が含まれます。「粘菌はどこにはいるのか?」とのご質問もいただきました。次回簡単にご説明する予定ですが、古くは菌界の中の変形菌類にネコブカビ等とともに属していましたが、現在ではアメーバ動物として扱われます。このような分類は流動的な部分があり、様々な説や分類体系が示されていますので、調べてみて下さい。

「界」の下位の分類体系は?
基本的には、「界」>「門」>「綱」>「目」>「科」>「属」>「種」ですが、各分類体系の間にサブグループ(亜門等)が設けられている場合もあります。「分類体系における上位、下位はどういう意味か?」とのご質問をいただきました。上位はより大きな分類群、下位はより細かい分類群をしめします。

生物分類の究極は系統を表現した分類体系であるとのことであるが、分類の意義は何か?
系統を分類に完璧に反映させる事は究極であるが、将来に亘っても困難であろうといわれています。系統のみですと区別基準が明確でなく、ある生物を表現したいときそれが困難になってしまいます。そのため分類は必要です。また、「生物の分類はどのくらいの期間ごとに見直されるのか?」とのご質問をいただきました。見直す時期は決まっていません。新しい解析方法等の情報の蓄積に伴って研究者が分類を再考しています。その際に、どの範囲を見直すか、分類群の基準をどうするかなどかなり議論されますし、また、すべての生物で統一した基準はなかなかできません。来る2012年1月から菌の分類・命名(植物命名規約に準拠)方法が変更になります。講義では現行(2つの名前を持つ事が許容される)と異なり、学名は1つになります。このことについては次回簡単にご紹介します。

系統を無視して、必要な性質だけで分類すれば良いのではないか?
1つの考え方です。講義の中でご紹介しますが、我々が良く目にできる様な類似形質に基づいて分類した結果、系統的に全く離れた2つの生物を近縁の様に理解していたケースが現実にあります。このような分類で困らない場合は良いのですが、他の形質がかなり異なり矛盾が生じてしまう場合があります。トマトに病気を起こすかどうかでの分類等も可能ですが、この場合、キュウリに病気を起こす病原と比較しようとした時等に困難が生じます。

ファイトプラズマとマイコプラズマとは違う生物群か?
異なる生物群です。細菌の講義の時に詳しくご紹介します。

絶対寄生の病原は宿主植物が枯れてしまうと生存できなくなるのか?
通常植物を完全に殺す前に、胞子を飛ばす等して他の植物に移動、あるいは胞子のような耐久体をつくるなどして、生きのびます。また、「絶対寄生菌だった菌はどうやって培養可能になるのか?」とのご質問をいただきました。さび病菌(各論でご紹介します)等では、培地の工夫によって何とか培養が可能になった例があります。

HST(宿主特異的毒素)を作る菌は腐生菌か?
HSTを作る事で知られるAlternaria alternataでは、基本的に腐生性であるとされています(Rotem 1994)が、HSTを作る事で植物に侵入しますので、そのような菌系は、講義の中でご紹介した条件的寄生菌に相当すると考えていただければ良いと思います。また、「腐生菌は何故生きた植物に病気を起こせないのか?」という質問をいただきました。植物の抵抗性(1月頃ご紹介します)を打破する事ができないからと考えて下さい。上述したHSTを産生するAlternaria alternataは、毒素で植物の抵抗性を弱めて侵入すると言われています。

「disease triagngle」で寺岡先生の講義でもう1つ因子があった様に思うが?
講義でご紹介しましたが、環境(=誘因)から、媒介者を独立させた、disease tetrahedronだと思います。Lucasの教科書ではこちらを紹介しています。また、「環境(=誘因)をどう変化させると、病気の発生が変わる(例えば病気がでなくなる)のか?」とのご質問をいただきました。病原ー宿主植物の関係で変わってきますので、例を各論の中でご紹介する予定です。

「環境」が病気の発生要因として重要だとの事だが、同じ植物を別の国で育てると異なる病気が起きるのか?
国に限らず、異なる環境(季節、気候、温度、栽培方法等)で育てると異なる病気が起きてくる場合があります。この一部については、病気の各論の中でご紹介する予定です。


10月18日クラス

質問と回答

目に見えない微生物をどうやって発見するのか?
従来は、光学顕微鏡観察や電子顕微鏡観察、分離(腐生性を持つ物のみ)で行ってきました。微生物も、菌、バクテリア、ウイルスでも大きさが大変異なりますので、光学顕微鏡で見えるもの、見えないもの、電子顕微鏡で見なくてはならないものがあります。また、培養できるもの、できないものがあります。最近は、DNA増幅等によって、分離できない微生物も検出可能になってきました。

rDNA IGS領域はイントロンか?
IGS領域(Intergenic spacer)は、rDNAのユニット間(結果的に、26Sサブユニットと次のユニットの18Sさぶユニット間ということになります;この間に含まれる5Sサブユニットは除きます)を指しますのでイントロンではありません。なお、ITS(Internal transcribed spacer)は、1ユニットのrDNAのうち、リボソームを構成する26Sと18SのRNAをコードするDNA領域の間(この内部に含まれる5.8Sを除きます)を指します。

菌の分類体系が明らかになってきたことで、病原性と系統の関係が明らかに何なってきたのか?
不思議な事に、Fusarium xysporumでは、予想外に、病原性と系統に関係がないことが明らかになってきました。これは病原性に関連する遺伝子が水平移動などしているためと考えられます。実際に、病原性関連遺伝子の周辺には転移因子(トランスポゾン等)が存在する事が多いことがわかってきています。「菌の分類体系はまだ変化するのか?」とのご質問をいただきました。子嚢菌の下位の分類体系等はまだ変化していますが、「ツボカビ」「接合菌」「担子菌」「子嚢菌」等の大きな分類群(門)は変わらないと思います。「変形菌と子嚢菌とどちらの種数が多いのか」という質問もいただきました。子嚢菌は菌界で最大の門で、種数では一番多く報告されています。

かすがい連結の「かすがい」とは何か?
材木間をつなぐコ字型の金属製品をかすがいと言いますね、京都知恩院のうぐいすばりの廊下が有名だった様な。2006年クラスの質問への回答をご参照下さい。

n+nの細胞は分裂できるのか?
菌の種類や環境条件によってn+n(異核共存状態)を維持する期間は異なりますが、長いものでは、9ヶ月程異核共存状態を維持、この過程で細胞分裂や胞子形成を行う物がいます。詳しくは各論でご紹介します。。

有性生殖において、同じ交配型の菌株同士は交配しないのか?
子嚢菌の種には2つの交配型の菌株が存在する事が普通で、それぞれの菌株が♂としても♀としても機能します。言い換えれば、1つの菌株(例えばMAT1-1)のある細胞は♂として、ある細胞は♀として機能し、それぞれもう1つの菌株(例えばMAT1-2)の♀および♂の細胞と交配します。交配型は、植物の自家不和合のようなもので、同じ方同士の細胞の融合等を阻害する(多様性維持のため?)と考えられています。「交配型の異なる菌株はその他の性質に差はないのか?」とのご質問をいただきました。基本的に子嚢菌では、交配型は1つの対立遺伝子で決定されますので、その他の遺伝子(座)で決定される性状とは無関係です。「不完全菌の中には交配能を完全に失っている物もあるのか?」とのご質問もいただきました。交配が知られていない仲間が不完全菌として分類されてたのですが、少なくとも過去には交配能を有していたと考えられています。この他有性生殖に係るご質問を複数いただきましたので、10/25の講義で再度説明いたします。こちらもご参考になさって下さい。

有性生殖と無性生殖のスイッチングはどのようにして起こるのか?
交配型の異なる菌株の存在の認識、環境条件等によって起こるとされています。交配型の異なる菌株の存在はフェロモンで察知します。環境条件には、温度、日長、光の波長、湿度、栄養条件、植物病原菌の場合は宿主の状態などをあげることができます。

擬有性生殖についてもっと知りたい
ご質問を複数いただきましたので、10/25の講義で再度説明いたします。


10月25日クラス

質問と回答

病原が海外から持ち込まれた際に容易に定着するのか?
外来生物が定着するかどうかはその環境との適合性に依存すると考えられます。農業場面では、概ね宿主植物の導入に伴って病原が持ち込まれるため、比較的定着してしまい易いと考える事ができます。特に問題になるのは、それ迄その病原による被害がなかった近縁の植物に広がってしまう場合です。例えば、温州みかんとともにアジアから持ち込まれたカンキツ類かいよう病菌が、米国の、かいよう病に罹病性のオレンジに壊滅的被害を与えた例などが知られています。

対抗植物について知りたい?
1月10日あるいが31日にご紹介予定ですのでもう少しお待ち下さい。この他、土壌病害の防除法についてもご質問をいただきましたが、各論の中でご紹介する予定ですのでお待ち下さい。

ヴォロニン小体は何が引き金になってどうやって隔膜孔を閉じるのか?
菌糸が壊れること(細胞質の溢出?)が引き金になって信号が伝えられ、ヴォロニン小体が隔膜孔のところに移動することで孔を塞ぐとされていますs。

菌はどのようなタイミングで胞子を形成するのか?
講義でご紹介した様に、菌が作る胞子には、多様性があります。例えば、分生子、子嚢胞子、担子胞子、厚壁胞子などです。胞子の種類によっても、菌の種によっても、胞子を形成するタイミングや条件は変わります。講義の中でもご紹介した様に、植物病原菌では宿主植物の老化や季節を感知して耐久性のある子嚢胞子が作られる場合があります。イネいもち病菌は、気中菌糸を除いて、紫外光に近い光を照射する事によって分生子を形成します。

変形菌の遊走子はどのくらいの期間生きているのか?
詳しいデータはありませんが、数日以内の短期間であると考えられています。これに比べて、休眠胞子は10年程度は土壌中で生存しているといわれています。アブラナ科野菜根こぶ病菌の休眠胞子の遊走子への発芽率は非常に低く、これは種の生存を図るためだと言われていますが、リーズナブルですね。

アブラナ科野菜根こぶ病菌の休眠胞子は何を認識して発芽するのか?
植物(特にアブラナ科植物)の根部から分泌される物質や土壌抽出物の中に、休眠胞子の発芽誘導能をもつものがあるとされています。しかし、それを処理しても発芽率をあまり上げる事はできない様です。活性が高ければ、アブラナ科植物を植えていない時にその物質を土壌に処理して、休眠胞子を発芽させてしまい、死滅させる様な農薬として使用できる可能性があるのですが。


11/1以降の講義の「質問と回答」はこちらをご覧下さい。


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