平成22年度
4581 病原微生物学授業情報

Modified: Mar 17 2011

講義で使用したスライドのpdf(カラー)をこちらからご覧いただけます。
小テスト回答のヒントは、平成15年度の「質問に対する回答など」をご覧下さい。


質問に対する回答など


10月 5日クラス

質問と回答

「病害」であるが「病気」でないものはあるのか?
講義の中でご紹介した様に、「病気」のうち、人間にとって不都合な状態にある場合に「病害」と呼ばれることが一般的なので、「病害」はすべて「病気」に起因しているとお考えください。病気は個体の状態であり、「病害」は植物集団で発生していると考えることもできます。「人間ににとって不都合かどうかの基準は何か?」とのご質問もありました。これは概念的な話であり、明確な基準を設けることはできません。ただし、食料供給に量的あるいは質的被害を及ぼすこと、生産者にとっての経済的な被害がある場合、と考えると良いと思います。また、「バナナの果実が黒くなったり、モモの果実がつぶれて褐変するのは病気なのか病害なのか?」とのご質問をいただきましたが、どちらも病気でも病害でもありません。バナナの果実が黒変するのが果実の成熟に伴う場合は正常な変化であると考えられます(もちろん、正常な成熟でなく病原菌による障害の場合は病気です)。また、モモの果実がつぶれるのも多くの場合は物理的障害(圧力)によるものであり微生物によるものではありませんので、病気ではありません。

「理想の収量」、「達成可能な収量」、「経済的な収量」、「現実の収量」等を表した図で「経済的に達成可能な収量」は実際にどのような収量なのか?
「経済的に達成可能な収量」は、栽培者個々を考えた場合、その収量を得るためにかかる「病害防除等のための費用」と「収入」を比較したときに「収入が多くなる=利益が生じる」収量と考えることができます。もう少しグローバルに考えると、かかる負担(もちろん経済的な面が多いでしょうが、環境負荷等も併せて考える必要があります)と人間の受ける利益(人間の食料確保あるいは需要を満たす等)のバランスをとり得る収量と考えることが可能です。

栽培体系の変化によってなぜ新たに病害が顕在化する場合があるのか?
次週以降ご紹介する様に、病気は、宿主(植物)と病原だけが存在すれば起こる訳ではなく、環境や媒介者の影響を受けます。栽培体系が変わると、環境等が変化することがあり、その結果、以前は無かった、あるいは、以前はあまり目立たなかった病気が病害として顕在化する場合があります。

市場病害用殺菌剤(ポストハーベスト殺菌剤)はなぜ日本ではないのか?
法制度上、収穫後の産物が農薬の対象外であるためです。我が国の農薬取締法では、収穫前のみを処理対象にしています。従って、収穫前日の処理が登録・許可されている殺菌剤はあります。収穫後の農産物は「食品」として扱われるため、以降に処理する場合は食品添加物としての登録・許可が必要になります。農薬取締法に基づいて使用された農薬については生産物に表示する義務はありませんが、食品添加物の場合には表示義務がある様です。このような区別は、食品の安全性を一括管理するためにはあまり意味がありませんので、今後変化する可能性があります。特に、収穫後病害の生物防除(乳酸菌や枯草菌など)の可能性が高まれば、検討していかなくてはならない課題になりそうです。概ねポストハーベスト病害は、圃場から潜在的に感染している病原が宿主植物の生理的変化(成熟等)によって顕在化(病気を起こす)することによっておきます。従って、原則的には、病原が潜在感染あるいは付着していない生産物をつくることが重要です。また、貯蔵方法の進歩等も貯蔵中に生じる病害の低減に役立っています。(昨年の質問に対する回答を一部再掲)

「産地の移動等に関係した植物病害」についてもっと知りたい?
「チョコレートを滅ぼしたカビ・キノコの話」を読んでみてください。


10月12日クラス

質問と回答

「コッホの原則」の4番目が省略される場合があるのはなぜか?
病原体候補を健康な植物に接種して、原病徴を再現する過程(3番目の原則)で、通常、対照として病原体候補を接種しない植物体を準備します。この対照の植物に原病徴がでなければ、病原体候補が病徴を引き起こしていることが証明できたことになりますので、4番目(病徴が再現した植物から再度分離する)を省略しても差し支えない場合があります。「実際にコッホの原則は使われているのか?」との質問もいただきました。基本的な概念であり、新病害の記載の際等には必ず(培養できない病原の場合はそれなりにアレンジして)コッホの原則に基づいて試験を行います。

「標徴」はどんな病気でも顕われるのか?
「標徴」は、病徴のうち、病原体そのものが見えている場合を言います。従って、標徴のない病気もたくさんあります。

Disease triangleの環境条件に「時間」は入るのか?
「時間」で病気の発生に影響を与える場合として、植物の生育ステージ(こちらは素因と考えた方が良い)や季節、感染からの時間(感染してもすぐに病徴がでるわけではない)が関係してきます。ただ、季節の場合、直接的には温度や日照条件が関与していること、さらにその結果植物体の生理条件(素因)の変化が関与する場合もあります。

病原の伝染で媒介者を必要としないのはどのような場合か?
植物体同士の触れ合い、根の触れ合いなどの場合は媒介者を必要とせず、直接植物から植物へ伝染します。「昆虫が媒介者となる場合、体表に病原が付着するのか?」というご質問をいただきました。これからの講義の中で複数のケースをご紹介しますが、体表について伝播する場合、口針に付着して吸汁によって伝染する場合、いったい昆虫の体内に入って循環あるいは増殖し吸汁によって伝染する場合などがあります。

「条件的寄生」は日和見感染と同義か?
「条件的寄生」は栄養の取り方(タイトルが「栄養性」になっていると思います)を示す言葉であるのに対して、日和見感染は感染性を説明する言葉です。「条件的寄生」者として理解されることの多いナス科植物青枯病菌は、多くの植物に良くかかるので、あまり日和見的(宿主の状態によって罹ったり罹らなかったりする)な感染をするとは理解されません。「腐生菌=分解者か?」とのご質問をいただきました。絶対寄生菌であれ、その他の植物病原菌も多くの場合、植物組織を分解しますので、腐生菌だけでなく植物病原の多くが分解者として機能しています。

絶対的寄生者は宿主特異性が高いか?
たしかにその傾向があります。絶対寄生者の場合、生きた組織から栄養を得るために、植物の抵抗性反応などを回避する手段をもっていると考えられますので、あまり広い範囲の植物を宿主にしづらいのではないかと考えます。「なぜ、条件的腐生者は培養しにくいのか?」というご質問をいただきました。概念の話ですが、条件的腐生者は「元来生きた細胞や組織から栄養を得ており、条件がととのうと腐生生活も送ることができる」と考えることができますので、生きた細胞や組織から栄養をとる手段を多く持っており、逆に腐生生活にあまり適合していないから、と考えると良いのではないでしょうか。

共生菌から病原菌が進化して出現したと考えるとその病原菌にはどのようなメリットがあるのか?
「共生菌から病原菌が進化して出現した」というのはあくまでも説であり、そのような進化が証明された例は知りません。栽培植物と病原菌との共進化を考える場合、植物が人間の好みに応じて育種され、その結果、それまでは重要な病気を引き起こさなかった微生物による病気が顕在化した可能性もあります。病原菌は植物に病気を起こすことを目的にしているのではなく、栄養を取ることを目的としてそこで生育した結果、引き起こされたと考えられます。病気を起こすことは、組織等の分解をより進めていると考えることもできますので、より多くの栄養を、病気を起こせない微生物よりも有利に獲得できる可能性がある、等のメリットが想定できます。植物が病気で死んでしまうため不利ではないかということも考えられますが、休眠という手段を持っている微生物にとってはそれほど不利でないのかもしれません。

病原の土壌中等での生存期間は正確な数字か?
あまり正確ではないとお考えください。そのような報告例がある、ということであり、それより短ければ必ず生きている、それより長ければ完全に死滅する、ということを意味している訳ではありません。特に、環境条件(土壌の種類等も含む)や栽培履歴によっても変化しますので、概要であるとご理解ください。


10月19日クラス

質問と回答

宿主特異性の低い菌はどうやって越年するのか?
宿主特異性の低い菌にも様々な越年(耐久、伝播)方法があります。しかし,宿主特異性が低ければ様々な植物(例えば、冬期も自生している雑草など)上で越年可能ですので、特に休眠形態をとらなくとも越年可能な場合があります。菌核病菌の菌核の様に、耐久体を作る宿主特異性の低い菌もいます。

植物には菌による病気が多いとのことだが、菌にも病気があるのか?
菌を食べる菌(菌生菌)、菌に感染して腐敗させる細菌、菌の生育を抑制するウイルスが知られています。菌の生育を抑制するウイルスについては、森山先生が研究をされており、イネいもち病の天敵としての利用を研究中です。

菌の分子系統解析ではミトコンドリアDNAも使われるのか?また、ミトコンドリアDNAに基づく分子系統とrDNA ITSに基づく分子系統は一致するのか
菌でも、ミトコンドリアDNAに基づく解析も行われています。この他、エロンゲーションファクターやチューブリン遺伝子も用いられます。いずれを使った場合も結果が著しく異なることは少ないですが、近縁の菌株での食い違いや、解像度の差などが見られる場合があります。そのため、複数遺伝子の配列を組み合わせた解析も良く行われます。「なぜ分子系統分類に移行せずに形態に基づく分類を使用しているのか?」とのご質問をいただきました。遺伝子を調べるまでもなく、形態で分類できるとその方が簡易な場合も多いと考えられます。

菌の分類では形態や分子系統関係以外に、機能性なども基準になるのか?
基本的には分類基準に機能性は使われません。ただし、植物病理学では機能性(病原性をもつか、宿主範囲等)に基づく分類が行われます。これは、実用を考えると重要です(どんな植物を植えたら良いかの判断等の際)が、純粋な菌の分類学ではあまり顧みられません。

子嚢菌の交配において、交配型が異なる菌株間でどのようにして遺伝子が交換されるのか?
交配型が異なる(MAT1-1とMAT1-2)菌株間で、細胞融合が起き、ヘテロカリオン(n+n;後述)が形成されます。その後、核融合し(2n)、染色体の組み合わせの変化や乗り換えが起きることで遺伝子が交換されます。

子嚢菌の交配がよくわからなかった
詳しく説明した参考書をご紹介しますので、有江までお寄りください。

雌雄同体の菌は、条件によって雌になったり雄になったりするのか?
菌には個体という概念がありません。雌雄同体の菌では、すべての細胞は雄としておよび雌としての潜在能を保持しますが、交配の際には、細胞ごとに雌あるいは雄の機能を発揮すると考えられています。雌として機能した細胞は、他の交配型の菌株の雄として機能している細胞と細胞融合するとされます。この際に、フェロモンが関与しています。

ヘテロカリオンが何か、よくわからなかった。
たくさんの類似の質問をいただきました。説明が不十分だったようで、申し訳ありません。ヘテロカリオン(異核共存)は、1つの細胞の中に、2つの異なる核が同時に存在する状態を言います。菌では、異なる菌株の交配の際に、細胞融合によって異なる核が1つの細胞中に存在する様になります。不思議なことに、菌は直ぐに核融合→減数分裂をせずに、この、異なる核が存在する状態をかなり長期に亘って維持できる場合があります。次回の講義でご紹介するセクターは、ヘテロカリオンの細胞で、異なる核が働くことで生じることもあると考えられています。菌がなぜ、異核共存状態を長期に亘って維持するのか、どうして維持し得るのかはまだわかっていない様です。

不完全世代と完全世代を両方持つ子嚢菌は不完全世代で過ごす期間の方が長いのか?
種によっても異なりますので、本来一概には言えませんが、不完全世代を見ることのほうが多い様ですので、言い換えれば、不完全世代の方が期間が長いものが多いと考えても差し支えないと思います。


10月26日クラス

質問と回答

Fusarium oxysporumの系統樹で異なるクラスターに入る菌株が類似の病原性(トマトへの病原性)を持つのは収斂進化ではないのか?
「収斂進化」とは、系統的に異なる生物が、環境適応等の関係で類似の性状を持つことを言います。この場合は、その類似性状は同じ遺伝子によって決定されている訳ではありません。講義で話題にしたFusarium oxysporumの場合は、この菌のクラスター中のトマトに病原性を持つ物だけが特異的な遺伝子を保持していることがわかっています。現時点では、遺伝子(群)あるいは染色体の水平移動の結果であろうと考えられています。

菌の隔壁や隔壁孔の構造は系統に関係ないのか?
関係しています。特徴的なのが、担子菌の「たる型孔隔壁」(プリントに図があります)です。

菌の隔壁に孔(隔壁孔)があることで不利なことはないのか?
「ウイルスの感染拡大等はないのか?」というご質問もありました。細胞小器官の移動も見られる場合があることから、ウイルスの感染拡大の可能性もあるでしょうが、隔壁に孔があることでの不利益に関する知見は持ち合わせません。過去の質問に対する回答も参考にしてください。

菌糸が切れた時に、隔壁孔をボロニン小体が栓をするとのことだが、どんな利点があるのか?
細胞質の溶出を防いだりすると言われています。

分生子が無性的に作られるとのことだがどういうことか?
体細胞分裂によってつくられた細胞が胞子になったものを分生子と呼びます。従って、すべての分生子の遺伝的背景は基本的には(突然変異や、分裂異常、多核を想定しなければ)同一な、クローンです。

菌核とは何か?
菌糸が塊状になったもので、通常胞子を含まず、堅く、耐久性を持つものです。


11月 2日クラス

質問と回答

菌は一般に湿潤環境を好むのか?
菌界ではツボカビ類、クロミスタ界の卵菌類、原生動物界のネコブカビ類は、鞭毛を有する遊走子を作ることもあり、水が多い環境を好むと理解されています。これ以外の菌も一般的に水分の多い条件を好む様です。梅雨にかびが生え易いと言われること、春や秋の降雨後にきのこがでることも、それを表している様です。ただし、菌の中には、液体中に移植すると生育が停止してしまうものもあり、好気条件(振とうやバブリング)が必要であると考えられます。

ハクサイ根こぶ病の防除法としてこぶを取り去ることは有効でないのか?
翌年への伝染源をなくす(減らす)上で大変重要で、有効です。ただ、ハクサイの収穫は通常地上部だけを切り取って行い、その後、根部をうまく抜いて除去するのは大変である、こぶになった根部が切れて土壌中に残り易い、こぶが軟腐病等で崩壊して休眠胞子を容易に放出してしまう等、完全に取り除きにくい理由があります。

なぜ「ツボカビ」と呼ばれるのか?
ツボカビは講義でもご紹介した様に、菌界のうち、遊走子(鞭毛を有する胞子)を形成する群(門)です。壷状の遊走子嚢(遊走子を含む袋)の蓋が開いて遊走子が放出される種があることからツボカビと呼ばれます。

ソラマメ火ぶくれ病菌(Olpidium visiae)が減りつつあるのは何故か?
私も興味深く思っています。「環境変動によって生育範囲が狭まったのではないか?」というご質問ですが、その可能性はあると思いますが、ではどんな環境変動かと問われると私にはお答えできません。講義でご紹介した様に、この菌は土壌中に生息していて春先の降雨で伝染しますので、このいずれかの条件(土壌、土壌での生息、春先の気温、降雨)が変わることで発病に影響があると思われます。また、ソラマメの栽培状況(例えば、発生地でのソラマメの継続的な栽培の減少)などが影響している可能性もあると思っています。

ツボカビはウイルスをどのようにして媒介するのか?
Olpidium brassicaeは、レタスビッグベインウイルスを表面に付着させてレタスの根に侵入することでウイルスを伝搬すると言われています。なお、講義でご紹介し損ねましたが、レタスビッグベイン病の病原ウイルスは、レタスビッグベインウイルス(LBVV)とされていたが、最近、ミラフィオリレタスウイルス(MiLV)ではないかとの。


11月 9日クラス

質問と回答

さび病菌のように異種寄生する病原菌は中間宿主を除去すれば防げるのでは?
ナシ赤星病菌では、ビャクシンが中間宿主です。中間宿主は近くにあると病気が多発する可能性があるので、多摩川周辺はナシの産地ですので、ビャクシンを植えない様に指導している市があります。ただ、さび病菌の胞子はかなり長距離を風にのって運ばれるとされ、近隣の中間宿主の除去で完全に病害が防除できるかどうかは不明です。実際の防除は農薬散布で行っているケースが多い様です。

異種寄生菌の宿主の組み合わせには何か意味があるのか?
どうして、ナシ赤星病菌がナシービャクシンを移動するのか、コムギ黒さび病菌がコムギーメギの上を行き来するのか、どうやってその関係が成立したのか不思議ですね。講義の中でご紹介した様に、ビャクシンは常緑であること、ちょうど担子胞子が逆心から飛ぶ頃にナシの若芽が出始めていることなどが関係するのかもしれません。

コムギ黒穂病が種子伝染するメリットは?
風媒された胞子に感染した種子では、講義でお示しした様に胚乳に菌が侵入して垂直伝播しますので、翌年の伝染源になり得ると考えられます。多分誤解があると思うのですが、圃場で黒穂として見えるのは、前年度の汚染種子由来の罹病個体で、その黒穂から胞子が飛んで、他の個体の花器に感染、汚染種子ができるというのが生活環です。「黒穂病菌が胞子を飛散させるタイミングは?」とのご質問がありました。実物を講義でお見せしますが、大量の胞子を開花期を中心に飛散させますので、うまく花器感染できる様です。

木材腐朽菌にはなぜ白色、褐色等の種類があるのか?
木材腐朽菌が腐朽するもともとの材の色、組織学的特徴、分解された木材成分に基づいて、白色、褐色、軟腐朽菌に分けられることが多い様です。褐色腐朽菌はリグニンの分解能はあまり高くなく,多糖を効率的に分解する、白色腐朽菌はリグニンを効率的に分解すると言われています。参考文献「キノコとカビの基礎化学とバイオ技術、宍戸和夫、2002」


11月16日クラス

質問と回答

子嚢菌の進化は、裸生子嚢→子嚢盤→子嚢殻(偽子嚢殻)→閉子嚢殻を持つものの順と考えて良いのか?
分子系統解析に基づくと、これが概ね支持されています。

Taphrinaの子嚢胞子と分生子はどのように区別するのか?
Taphrinaは、子嚢中でも既に子嚢胞子からの出芽によって分生子が形成されるとされ、形態的にも同様なため区別が困難です。

Taphrinaはなぜ菌糸を作らないのか?
生活環の図にあるように、Taphrinaは、植物組織の中では菌糸状の形態をとる場合がありますが、培地状ではほぼ酵母状に生育します。培地状でも時に菌糸のような形態をとることがありますがごくまれです。すなわち、Taphrinaは、菌糸を形成する能力を失っているわけではないと考えられます。

Taphrinaのような植物に異常形態を起こす病原菌を利用して園芸植物の新品種をつくることはできないのか?
面白いアイデアではありますが、実は、園芸植物の品種とされていたものに、病原の感染が原因で面白い形質がでていたことが明らかにされた例が複数あります。特に、垂直伝搬する、ウイルスやファイトプラズマによるものが多いのですが、病原に感染していると次第に植物が弱り品種が維持できなくなる、他の植物に伝染して被害を起こす、などの危険性があるため、積極的に品種作成に使用されることはありません。

カンキツ緑かび病菌は、カンキツの果実の果皮表面にとどまっているのか?
傷などから表皮の組織内に侵入、ペクチナーゼ等を分泌してペクチン等を加水分解、組織を軟化させ、栄養をとりながら周囲に拡大します。軟化の範囲は果皮にとどまらず、果実まで拡大しますが、菌が果実内部まで進展しているのかどうかは資料がみつかりません。また、「緑かび病が発病した果実に隣接した果実で発病しないメカニズムは?」との質問もいただきました。隣接した果実では絶対に発病しない、ということはなく、放置しておくと、分泌される酵素で組織の軟化、感染、発病に至ります。発病個体とくっついて胞子がついていても、傷がない、発病条件が整わなければ発病に至らない場合がある、ということをご理解いただければと思います。

カンキツ緑かび病の様に、農家から出荷された後に発病する病害は、農家に悪影響を与えるのか?
農家が出荷してから消費までの期間は、場合によって異なりますがかなり長期に及ぶ場合があります。直ぐに消費者に渡らないものは、複数の流通段階で病気に罹ったものを選り分けて排除してつめ直す等の作業を繰り返し、消費者に届けられます。従って、この損失や作業を低減するため、圃場で感染するカンキツ緑かび病菌などの病原菌の少ない生産物が求められます。逆に言えば、このロスの多い産地はダメージを受ける可能性もありますので、防除等を行うことになります。

「いもち」病とはどういう意味か?
漢字では「稲熱病」と書きます。「いもち」の語源については、様々な説があり、 松本(1983)日植病報49(3):374は、「入熱(いりもち)」が語源であろうと推測しています。「いもち病が稲の様々なステージや部位で発生するのは何故か?」とのご質問がありました。イネがいもち病に対して弱くなる時期や部位で、しかもいもち病の発生に適した環境条件になった際に発病すると考えると、様々なステージや部位で発生することがご理解いただけると思います。


なぜいもち病は冷害年に発生し易いのか?
冷害の際は通常晴れた日が少なく、雨が多いので、湿度や葉面の水が保たれることが一つの要因です。また、いもち病菌は、比較的低温での生育が良い菌であり、低温(18C)で、それ以上の温度(20-25C)よりも良く分生子を作る(H18福島農総セ報告)こと等も理由であると考えられます。「いもち病の感染に葉表面のぬれが必要であれば、それを除くのが良い防除法になるのでは?」とのご質問もいただきました。その通りで、施設栽培や送風機による湿度低下が良い防除法の様です。しかし、稲作でそのような施設を作ってもペイしないということで現実的では無い様です。

物理的に侵入してしまういもち病菌に対するイネの抵抗性とはどのようなものか?
イネのいもち病に対する抵抗性は、病原菌の侵入を防ぐのではなく、侵入された後でいもと病菌を進展させないなどの形で機能すると考えられています。

なぜイネいもち病菌には多くのレースが報告されているのか?
重要病害であり、研究が進められているため、多数のレースが識別された。重要病害であるため、多様な抵抗性を導入した多くの種類の品種がつくられてきたため、各々を犯す多様なレースが生じた。多数の分生子を作り、しかも1年に数回伝染するため、変異や選抜が怒り易いこと、などが想定されます。

種子伝染する病原は種子消毒によって防げないのか?
100%には行かないかもしれませんが、胚や胚乳まで侵入していない病原菌は、種子消毒によって殺すことが可能です。しかしながら、特別栽培(慣行よりも使用する農薬の成分数を50%低減)などでは薬剤による種子消毒によって農薬の使用回数が増えることを嫌い、近年種子伝染性病害が顕在化しつつあり、新たな防除技術の確立がすすめらています。


11月30日クラス

質問と回答

ばか苗病に罹病した徒長苗をぬきとるとばか苗病は完全に防げるのか?
ばか苗病の症状として、講義でもご紹介した様に苗が小さい段階での枯死もみられます。これらの枯死株や株元、地際での胞子形成等の感染要因になり得ますので、完全に徒長苗を除去できたとしても感染源が残る可能性はあります。しかし、感染源は量的に確実に減少しますので、罹病株の除去は肝要です。

菌核病菌は多犯性とのことで生存にとても有利だと思われるが、他の病原菌に比べて大きな問題になっているのか?
菌核病は大きな問題の1つではありますが、多犯性でなくても大きな問題になる病原もあります。病害による被害は宿主の重要性、病害の出る部位や病徴、病害進展の速度や程度等によっても決まりますので、宿主範囲の広さと病害としての重要度は比例しません。ただ、病原菌の生存にとって宿主範囲が広いことは有利であるのは正しいと思います。

貴腐ぶどうの灰色かび病菌は他の植物に感染しないのか?
灰色かび病菌は一般的に多犯性であると理解されますので、他の植物にも感染すると考えられます。講義でもお伝えした様に、貴腐ぶどうは、灰色かび病菌が自然感染してできますので、貴腐ぶどうが伝染源になって他の植物へ拡大し、被害がでることなどはあまり想定していないと思います。また、貴腐ぶどうができるのは晩秋ですので、他の多くの植物は葉を落としていて、感染の対象もないのであろうと思います。なお、灰色かび病菌の菌系によって罹り易い植物があるという報告もありますが、貴腐ぶどうのつく灰色かび病菌の系統に関する研究例は存じません。

Alternariaのレンガ状分生子は、どれが一つの胞子なのか?
Alternariaのレンガ状分生子は多細胞の状態(レンガが重なった状態)が1つの胞子です。

バラ科植物にVenturiaが感染すると落葉し易くなるのは、エチレン等の植物ホルモンの制御をしているからか?
私もこの点興味を持っていますが、文献を探してみましたが見つけるとができていません。


12月 7日クラス

質問と回答

細菌が産生する色素の役割は何か?
細菌は黄色、あるいは蛍光など様々な色素を産生します。講義でもご紹介した様に、色素は必ずしも病原性と関連しません。Pseudomonas細菌等が産生するコロナチンは黄色の色素ですが、植物ホルモンのひとつであるジャスモン酸の類似体であり、植物への病原性にかかわるとされます。ジャガイモ塊茎切り口につけるとその部位の細胞数が著しく増加し、組織が肥大することが知られています。

キタンサンは食品に含まれていないか?
キタンサンはXhanthomonas属細菌が産生する菌体外多糖ですが、ご指摘の様に、食品で増粘剤などとして、食品添加物として使用されています。実際に食品に使用されている気炭酸も、Xhanthomonas campestris等を利用して製造されています。

細菌の種の同定でジャガイモ腐敗を見る項目があるが、これは何をみているのか?
実際には、ペクチン質分解酵素や毒素の産生をみています。

植物は病原表面のパターン認識をしているのか?
表面の糖鎖や糖タンパク質のパターン認識をすることで抵抗性を発動したりしています。

根頭がんしゅ病が防除困難なのは何故か?
まず、細菌に対する効果的な農薬が殆どないことです。登録されている薬剤を処理しても十分にとどかないなど期待するほどの効果が得られない場合が多いようです。細菌に対して卓効のある物質は植物に薬害を起こすことも多いようで、良い防除法が求められています。

根頭がんしゅ病に罹った個体の枝を挿し木等で増やせば無病株がつくれるのか?
根頭がん腫病菌に感染していない組織からは確かに栄養繁殖で無病の新個体をつくることができます。

青枯病とかいよう病では防除法は異なるのか?
両者とも土壌に潜みますが、青枯病は根を介して感染するため、抵抗性品種や台木を使用して根での感染を防ぎます。一方、かいよう病は最初は土壌から感染しますが、その後は芽かきなどの作業を通して他の個体へ伝染しますので、手指やはさみの消毒で対応します。また、かいよう病は種子伝染することもありますので、無病の種子の利用も重要です。

ハンバーガー用のトマトの育種目標形質はあるのか?
育種および栽培において、ハンバーガーに適した形質(玉質が堅く、サイズが適当で、スライスで無駄が出ない)を目指して作られている様です。「富丸ムーチョ」等の品種をハンバーガー用に栽培しているのを見ます。また、ハンバーガーに適さない(大きすぎる等)果実は、スーパーなどへ出荷されます。ポテトチップス用のジャガイモは、こげにくく、スライスした際に収量が多く、凹凸がすくなくきれいなスライスができる、等、通常の食用ジャガイモとは異なる形質を重視して育種されていますので、興味深いです。


12月21日クラス

質問と回答

どうして温州みかんはかいよう病に耐病性なのか?
講義でご紹介した様に、かいよう病細菌は緑枝で越冬すると言われていますが、温州みかんの緑枝では生存し続けず、死滅してしまうため、病気が拡大しにくいとされています。

リンゴの火傷病はリンゴ果実でも伝染するのか?
素晴らしいご質問です。http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/wto/funso/ds245.html をご覧いただくとわかりますが、両説が存在します。同様に、上記のカンキツ類かいよう病細菌の場合、日本は、「みかんの果実にかいよう病細菌は存在しないため、感染経路にならず、米国は輸入すべきである」との見解を有しています。

E. carotoviraが腐生的増殖にとどまらずに病気を起こす利点は何か?
当初は植物表面のわずかな栄養分を利用して腐生的にほそぼそと暮らしていますが、次第に増えてくるとクオルモンを産生し、また、植物の状態が適当になると一気に植物組織を分解して栄養分とする(これが我々からみると病原性の発揮)ことで、大量増殖することができることが利点と考えられます。

非病原性のE. carotoviraは病原性のものと何が違うのか?
非病原性のE. carotoviraは病原性のものと何が違うのか、たとえば、病原性株が持つ病原性関連因子であるペクチン分解酵素の産生能が低下しているのか、などの報告は見当たりません。「非病原性菌が病原菌に戻ることはないのか?」とのご質問もいただきました。「非病原性」菌株が「病原性」菌株が病原性を失うことで生じたという考え方もありますが、多くの場合は、植物と共生している様な非常に多様でたくさんの非病原性菌がいて(このうちの一つが非病原性E. carotovira)、そこから病原性菌株が生じたと考えられています。

田植機の普遍化に伴ってイネもみ枯細菌病が増加したのはなぜか?
直接田植機とは関係ありませんが、田植機を使用する様になって、箱育苗が一般化し、稚苗を使用することになったために、育苗トレイ中の種子密度が高くなり、しかもビニールトンネル等の中で加温するため、もみ枯細菌が増殖し易くなるとともに、汚染種子から他の株に伝染し易くなったことが発病が目立つ様になった原因であるとされています。

イネ白葉枯病細菌が、イネの苗代育苗が行われなくなっても水田で残っているのは、マコモなども宿主になるからか?
その通りで、イネ白葉枯病の宿主は、イネ、サヤヌカグサ、マコモなどとされており、これらが存在する限り、白葉枯病細菌が水田に残っている可能性があります。

土壌病害の防除法としては、クロールピクリン等による燻蒸以外にどんな方法があるのか?
2月の講義でご紹介する予定でスが、クロールピクリン等の土壌燻蒸剤による消毒、あまり効果は高く有りませんがその他殺菌剤の潅注、熱(太陽熱、熱水、蒸気等)による消毒、土壌還元消毒、客土やベンチの隔離、抵抗性品種や台木の利用、などが一般的に利用されている防除法です。

植物の抵抗性の中に、病原菌が産生する分解酵素に対する抵抗性に関係するものはあるか?
1月の講義でご紹介する予定ですが、植物組織中のタンニンは、病原菌が産生するペクチナーゼ等の組織分解酵素の阻害活性をもつと言われています。


 1月11日クラス

質問と回答

ファイトプラズマや一部のウイルスは昆虫体内で増殖するとのことだが、昆虫に対する悪影響はないのか?
基本的に植物病原ウイルスやファイトプラズマは宿主昆虫の生育に障害を及ぼすことは少なく、昆虫の病原体としては扱われません。昆虫体内でも、昆虫の物質を利用して増殖しているのですから影響が有っても良さそうですが、(以下は推測ですが)、昆虫に大きな影響を与えると昆虫が植物にその病原を伝搬する能力を阻害するので、植物病原として認識されなくなってしまうのでは無いかと思います。昨年の講義でいただいたご質問に対する回答もご参照下さい。他に、「媒介虫に影響を及ぼすものを利用してファイトプラズマやウイルスの生物防除ができるのでは?」とのご質問がありましたが、確かにその通り期待されますが、そのようなものはすでに存在するとするとそれによる植物病害も重要でなくなっている可能性が高いと思われます。

線虫は土壌中にどのくらいの期間生存するのか?
ネコブセンチュウ類では、10年以上も卵で生存するとされています。宿主植物がいる必要はありません。そのため、土の天地返しをすると昔発生していたときの卵が下部から上部に現れ、激しい発病をする場合があるとさえ言われます。

線虫の口針は何でできているのか?
基本的にはタンパク質ですが、(キチンが表面にあるかと推測したのですが)それ以上の情報がありません。もう少し調べてみます。

ネコブセンチュウが感染するとどうしてこぶが形成されるのか?
ネコブセンチュウに感染した組織でオーキシンの産生が誘導されるからとされています。センチュウがどのように植物のオーキシン産生を誘導するかに関する文献は見つかりませんでした。

線虫の防除法は燻蒸や対抗植物だけなのか?
センチュウ類は土壌中に潜んでいる場合が殆どであるため、防除が大変困難です。栽培履歴がなく、センチュウ類が少ないと考えられる山土で客土することも有る様ですが効果は大きくない様です。この他、抵抗性品種を使用する、高設栽培を行う、等の防除法もあります。また、生物防除資材として、線虫の天敵として知られている細菌Pasteuria(生物農薬として登録されています)や、センチュウ補足菌も知られています。

ウイルス病に対する植物の抵抗性にはどのような機構があるのか?
次回の講義で植物がもつ病原に対する抵抗性に関してご紹介する予定です。植物ウイルスは自ら感染することができませんので、植物が生来もっている細胞壁等はウイルスに対する抵抗性の機構の1つであると考えられます。それでも傷や昆虫の吸汁によってウイルスが侵入してしまった場合でも、植物は全身獲得抵抗性(次週紹介します)等の抵抗性を誘導したり、その結果でもありますが過敏間反応等を起こすことによって、ウイルスが周囲あるいは全身へ拡大することを防ぐような機構を持っています。その他の機構も有る様です。


 1月18日クラス

質問と回答

植物が持つ防御反応から植物が自らを守る機能はあるのか?
植物の持つ防御反応が植物自体に毒性が無い場合もあります。毒性がある場合は、その解毒機能を持ち、自らを守る場合もあります。例えば、ペルオキシダーゼは植物が防御反応の一環として産生する過酸化水素の無毒化に機能します。また、サリチル酸は抵抗性を誘導しますが、サリチル酸やその代謝物であるカテコールは植物細胞にも毒性があるので、生産量が制御されると考えられています。

植物が持つ防御反応は動物よりも複雑なのでは?
容易にお答えすることは不可能ですが、植物は動物の「免疫」のようなシステムを持たないため、その分様々な防御機構を持っていると考えられます。

植物は外敵の何を認識しているのか?
膜などの表面に存在するレセプターが、病原等の分泌する糖や糖タンパクを認識すると言われています。

抵抗性誘導はどのような要因によって起こるのか?
抵抗性は様々なストレスの認知によって誘導されますが、この抵抗性を司る複数の伝達経路があり、ストレスによって異なる伝達経路で抵抗性が誘導される場合亜あります。講義でご紹介したプラントアクチベーターの他にも、昆虫の吸汁、温度等のストレスが抵抗性を誘導します。

プラントアクチベーターによる抵抗性誘導の安全性は担保されているのか?
プラントアクチベーターを農薬(植物病害防除目的)として使用する際は農薬登録をとりますので、薬剤の安全性は通常の試験によって保証されます。一方、抵抗性誘導は、植物組織内のPRタンパク質の発現など、植物に物質的な変化を誘導しますが、この物質的な変化が植物を食べるヒトに影響が無いかは殆ど調査されていません。元来、植物は病害虫に対する物質的な防御能を有しており、これを失うことで商品価値が高まるとともに病害虫に弱くなると考えられていることを考えても、プラントアクチベーター処理による植物組織内の物質変化の安全性を確認した方が良いと考えます。


 1月25日 に試験を行いました

試験は、以下の要領で行います。
『試験に際しては、1/11の講義で配布したB4用紙(両面使用可)1人1枚を持ち込み可としました。参考書、講義で配布したプリント、ノートなどは持ち込めません。なお、試験前に講義のプリント・ノートおよび参考書を利用して勉強していただき、病原微生物に関する理解(記憶ではない)をしていただきたく思います。従って、細かい語句、名前等の情報については配布したB4用紙をご利用いただき、独自性のある答案をつくっていただくことを期待しています。』 
図書館所蔵の教科書・参考書は、皆さんが閲覧できる機会を確保するために、長期間借り出ししないようお願い致します。
なお、成績の評価は、シラバスにもありますように、「授業出席回数(14回が最多)」+「試験評点(86点満点)」で行いました。また、授業出席回数が「7」未満の者は試験の成績にかかわらずDと評価しました。詳しくは有江へお尋ね下さい。 
1/25は30分弱講義を行い、その後60分間で試験を行いました。また、2/1は試験の解説を行うとともに、講義(最終回)を行いますので、ご出席下さい。

試験問題と評価のポイント(424 kb pdf)


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