平成20年度
4581 病原微生物学授業情報

Modified: Mar 12 2009

小テスト回答のヒントは、平成15年度の「質問に対する回答など」をご覧下さい。


質問に対する回答など


10月 7日クラス

質問と回答

なぜ毎年同じ場所で同じ植物を栽培すると病気の被害が大きくなるのか?
講義でもご紹介した様に、耕地生態系(圃場)は、遺伝的多様性が低く、令構成も単純で、個体密度も高い、という特徴を持ちます。このような条件では一旦病気が発生すると一気に広がり、被害が大きくなる傾向があります。毎年同じ場所で同じ植物を栽培する(連作)は、耕地生態系の特徴をなおさら高めることになります。病原も、すぐに次の宿主植物に感染できますので、病気が収まる事なく被害が増加しがちです。このような被害は「連作障害」のひとつとして現れてきます。

根こぶ病や黄化病の被害畑の写真で、境界が明確だったのはなぜか?
畑の前作、耕うん方法、品種、植え付け時期などが異なる事で病気の発生は異なります。そのような差が境界になって見えたのだと思います。

ハクサイの根こぶ病や黄化病が発生するとどのような対策をとるのか?
これらの病害の病原は土壌に生息して感染するため、土壌病害と呼ばれます。長期間病原が生存することが多いため、一旦土壌病害が発生するとなかなか対処が困難になります。次の作の前に、土壌消毒(農薬利用、熱利用など)を行う、当該の病気に強い品種を使用する、他の作物(例えばレタス)に転換するなどの対応がよく行われます。上にも書きました様に、同じ植物を連作すると病気の被害が大きくなりがちですので、初めから輪作を行う、まだ科学的説明は困難ですが土壌を病気の発生しにくい状態にする、などの対策をとって病害が発生しない様に予防する場合が多くなっています。

1つの病気は1つの病原によって起こされるのか?
一つの病名がついている病気に、複数の病原の記載が有る場合は多々あります。しかしながら、分類学的にかなり離れた病原が同様な症状(病徴)の病気を起こす場合、それが明らかになった時点で異なる病名をつけて区別する事が多い様です。なお、1つの病気を引き起こすのに、同時に2つ以上の病原が感染する必要がある場合はそれほど多く有りません。ウイルス等では複合感染と呼ばれるケースがあり、2つ以上のウイルスが感染する事で病徴が激しくなったりします。また、線虫が感染した傷から病原が侵入しやすくなるようなケースも知られています。


10月14日クラス

質問と回答

コッホの原則以外に、病原の証明をする方法は無いのか?
なぜか、同様なご質問を複数いただきました。講義の中でもご紹介した様に、コッホの原則を厳密に適用できない病原(例えば、絶対寄生菌など)の場合は、コッホの原則をアレンジしなくてはならない場合はありますが、基本的にコッホの原則に準じると病原である証明は確実です。ファイトプラズマ(マイコプラズマ様微生物)が病原である事を確認する際に、マイコプラズマ等に特異的に作用するテトラサイクリンを植物に処理する事によって病徴が低減する、というデータが示された、等の例がありますが、傍証として理解されます。

条件的寄生者、条件的腐生者の区別を正確に知りたい
講義の中でご紹介した様に、これらは概念的なものであり、これらの区別、あるいはその条件について議論するのは余り意味がないと考えています。こちらもご参照ください

絶対寄生菌が生きた植物に寄生する利点は何か?
なかなか難しいご質問です。あえて、私の意見を述べさせていただくと、宿主植物の組織を酵素等で崩壊させて栄養源とする病原に比べて得られる栄養源は少ないかもしれませんが、絶対寄生菌の場合は宿主を生かしておく事によって自分の生活の場および栄養源を長期に亘り確保できる、というのが利点になり得るかと思います。

絶対寄生菌は防除しやすいのか?
絶対寄生菌は宿主植物を生かしながらそこで生活する為に、宿主植物の異物認識機構をかいくぐって組織中に入り込む事ができるようです。従って、植物組織にダメージを与えずに絶対寄生菌のみを制御するのは困難な場合も多い様です。

病原の生存期間はどのように算出されたのか?
講義で使用したデータは、Lucasの教科書から引用したものですが、そこには各病原の生存期間尾算出方法は書いてありません。特定の病原(例えば、菌核病菌Sclerotinia sclerotiorumの菌核)では、菌体をカーゼのような袋に入れて、土壌に入れ、いつまで生存しているかを調べる方法、土壌を保存しておいて、植物を植えていつまで病気が発生するかを見る方法が報告されています。なお、「生存期間には世代交代も含めた期間か?」とのご質問もありましたが、講義の中で使用したデータは、どれだけ休眠しているか、言い換えれば宿主植物が不在の条件でどれだけの期間生存するか、を示すものとご理解ください。

病原の媒介様式によって現れる病徴に共通性はあるのか?
病徴は植物と病原の相互作用の結果現れますので、基本的には媒介様式によって決まった病徴が現れる訳ではありません。しかしながら、病原によって主な媒介様式が決まっている場合(例えば、ウイルスやファイトプラズマの虫媒)は比較的共通の症状が現れる場合がありますので、媒介様式と病徴が関係あるように見える場合があります。また、花器、根部等の決まった部位へ媒介される複数の病原が、花腐れ、根腐れ等、類似の病徴を顕す場合がありますので、媒介様式と病徴に関連があるように見えることがあります。

病原の雨滴伝搬は地面がコンクリートだと起こらないのか?
雨滴は、土壌表面等に生息する病原を飛び散らすだけでなく、植物体上の病原を周囲に飛び散らす、地面に落ちた植物残さ上の病原を飛散させることもあります。従って、周囲をコンクリートにしても完全に雨滴による伝搬を防ぐ事はできません。

ダイズの種子からは多くの病原が報告されているようだが、これは親の植物体がその病害に罹っていたという事か?
親の植物体から種子へと組織を通じて伝搬する病原と、花や果実に空気伝染して、種子を汚染する病原の両者が存在します。次回ご紹介しますが、親の植物体から種子等を通して次世代に病原が伝わる事を垂直伝搬と呼びます。

土壌中の病原について、病原のみを減らす(なくす)方法は無いのか?
本年度の講義の最後の方で病原制御技術についてご紹介しますが、残念ながら、そのような都合の良い技術は現時点では確立していません。理想なのですが、なかなか難しい事を講義の中でご理解いただきたいと思います。

植物が病原に感染した際に、植物が自らその病原を排除しようとする仕組みは無いのか?
抵抗性と呼ばれる仕組みがあります。これについては、本年度は年明けの講義の中で詳しくご紹介する予定です。私どもの研究室でもこの仕組みについて研究を進めていますので、研究室HPをご覧になるか、ご訪問いただければより理解が深まると思います。

農薬は菌を殺すが、菌根菌も殺してしまうのか?
今回の講義内容とは直接には関係ないご質問です。農薬(殺菌剤)には選択性がありますので、防除対象である病原菌には効果があるが、菌根菌には効果がない薬剤であれば、また全身に移行しやすい(浸透性の)薬剤でなければ、処理する場所と根が離れていれば、菌根菌に対する影響は無いと考える事ができます。


10月21日クラス

質問と回答

病原を小さい順に並べた時に、ウイルスの方がウイロイドより小さい様になっていたが何故か?
申し訳有りません。誤りでした。

完全世代と不完全世代に分かれた利点は何か?
菌が完全世代と不完全世代の両者を持つことの利点に関するご質問でしょうか?菌は、完全世代と不完全世代の両方を持つ事を基本とします。完全世代は、2つの菌株が有性生殖(交配)を介して、後代をつくる過程(次週ご紹介します)で、できる後代は染色体のシャフリングや、減数分裂時の染色体乗換えによって、親と異なる形質を持ち得ます。一般の生物の有性生殖と同様で、多様な後代(子孫)ができるため、環境変化等に対応しやすくなります。一方、不完全世代では、胞子生産や菌糸伸長によってクローナル(遺伝的に同質)の後代をつくります。同じ形質の後代がたくさんできますので、適した環境条件下で、増殖するのに有利だと考えられます。

2つの学名を持つ菌の場合、どちらの名前を使う事が多いのか?
基本的に、完全世代(テレオモルフ)名を使う事が好ましいと思いますが、講義でご紹介した様な、完全世代名、不完全世代(アナモルフ)名が付けられる経緯をご理解いただき、対象の菌の完全世代名、不完全世代名を知っていれば、どちらを使用しても混乱する事は無いと思います。近年は、完全世代名を持つものでは、完全世代名が使用されるケースが多い様に感じます。

分類学や系統学に関する参考書を知りたい
図書館に、佐藤矩行ら著「マクロ進化と全生物の系統分類」、中尾佐助著「分類の発想」等がありますので、ご覧下さい。三中 信宏著「系統樹思考の世界」講談社現代新書、根井 正利ら著「分子進化と分子系統学」培風館、なども参考になると思います。菌類の分類については、残念ながら日本語の入門書が無い様に思います。ただ、現在、上野の国立科学博物館で行われている「菌類のふしぎ」展で、比較的わかりやすく説明されています。農工大の学生は学生証を提示すると割引で入場できますので、一度観覧されてはいかがでしょうか。

分子系統解析に使われるrDNAのITS領域、IGS領域とは何か?
ご存知の様に、リボソームは、RNAとタンパク質からなる細胞小器官です。リボソームを構成するRNA(リボソームRNA, rRNA)は、ゲノムDNA(この領域をrDNAと呼ぶ)にコードされています。真核生物では、rDNA領域には、18S、5.8S、28Sの3つのRNAをコードするDNA領域を1つのユニットとして、これが複数反復して存在しています。この18S-5.8S間、5.8S-28S間のRNAに転写されない部分をInternal transcribed spacer region=ITS領域、ユニット間(すなわち、28Sと次のユニットの18Sの間)をintergenic spacer regionと呼びます。rRNAをコードしている部分<ITS領域<IGS領域の順に、変異速度が速いと考えられています。

従来「菌類」として理解されていたものが「クロミスタ」や「原生動物」であることが判明したことは、病害防除にどのように役立っているのか?
直接的な効果は(まだ)出ていないのではないでしょうか?ただし、クロミスタに移行された、卵菌類(疫病菌、べと病菌)等に対して有効な薬剤は、植物への薬害(副作用)の影響でなかなか開発するのが困難でしたが、卵菌類が植物に近い(単細胞の藻類である;細胞壁がセルロースからなる、等)ことを考えると、リーズナブルに思えます。分類体系を変える事に対するご意見もいただきましたが、分類体系の整備は、基本的には、「分類体系をできるだけ系統を反映したものにしたい」との目的で行われているものですので、分類体系の変遷を良く理解し、どの分類体系に基づいたかを明確に示せば、いずれの分類体系に従った表現をしても問題は無いと思います。

植物と動物と両方に寄生する病原菌はいるのか?
基本的にはいません。Fusarium oxysporumという種の中には、植物に病気を起こす菌株が存在します。一方、同種は動物に寄生して真菌症を引き起こすことでもしられていますが、これは動物宿主が免疫不全に陥った特殊な場合であり、特に植物病原性の菌株だけが動物に感染する訳ではありません(動物の免疫能が低下した組織に腐生的についていると考える事が可能です)。


10月28日クラス

質問と回答

菌核は胞子よりも有利な点はあるのか?
講義でご紹介した様に、例えば白絹病菌の菌核は、動物の消化器官を経由してもなお生存しています。菌核は基本的には菌糸が絡まりあって形成された球状の形態を呼び、耐久性に優れている様です。胞子の中にも耐久性に優れたものは有る様ですが、菌によって使い分けていると考える事ができるのではないでしょうか。

「きのこ臭」等の特徴は何に由来しているのか?
菌が気相に放出する物質の混合割合によって匂いが変わる様です。菌類はアルデヒド類(アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド等)、アルコール類(エタノール、プロパノール、ブタノール、イソアミルアルコール等)、エステル類(酢酸エチル等)を生産します。

セクターは肉眼で確認できない様なものもしばしば起きているのか?
頻度は不明ですが、セクターが、必ずしも肉眼で識別可能な形質の変化を伴っているとは限りません。

子嚢菌の交配において、交配型1型と2型は、他の表現形にも差はあるのか?
交配型1型と2型は正確にはMAT1-1とMAT1-2型です。基本的に、この領域の対立遺伝子(MAT1-1とMAT1-2)は、菌株の交配型を決定している領域で、他の形質には差はないと考えられます。交配型は、菌株の細胞融合の際の相互認識、および、細胞融合後の核融合に係わる核の認識に関与する事が報告されています。

不完全菌は片方の交配型のみの菌株しか存在しないので交配しなくなっているのか?
面白いご質問です。私たちもこれを一つの仮説として検証してきました。現時点では殆どの不完全菌(交配不全性子嚢菌)の種内には両方の交配型の菌株が存在します。しかしながら、子嚢菌では、種内に、内輪でしか交配できない「交配群」というグループ(交配する事が種の定義と考えれば、これが新たな種になり得る)が存在する事がしばしばあります。このようなグループ内に片方の交配型の菌株しか存在しないとやはり交配する事はできません。現在この可能性を様々な方法をつかって検証しているところです。

菌類の交配条件はどのようにして見つけるのか?
完全世代を形成する菌では、その形成条件を再現して行く事で、見つける事ができる場合が多い様です。しかし、交配しない菌の交配条件を見つけるのは大変困難です。近縁の交配できる菌の条件を応用してみるなど、様々な条件を試みるしかありません。「科学的に」条件を想定する事がなかなな困難です。

擬有性生殖はなぜ菌類に特有なのか?
菌類が通常の生活環の殆どが半数体であること、頻度の低い擬有性生殖が起きるに足る多数などを形成することに関係があると思います。


11月14日クラス

質問と回答

アブラナ科野菜根こぶ病菌休眠胞子はどのようなタイミングによって遊走子発芽するのか?
アブラナ科野菜根部からの浸出液や土壌抽出液を処理すると、発芽率が高まる事から、宿主植物の根部から放出される物質を認識すると考えられています。

Olpidium等はどのようにしてウイルスを媒介するのか?
菌の表面に付着して、菌が植物に侵入する際に同時に植物に感染するようです。

卵菌類の遊走子のうが直接発芽するのと遊走子を形成するのはどのように制御されているのか?
詳しい情報を持っていません。Phytophthoraで解析されている可能性がありますので、調べてみます。

遊走子による感染をする類似の菌(Pythium、Phytophthora等)は同じ宿主を競合するのか?
申し訳ありませんが、これについても情報を持っていません。調べてみて何かわかればお知らせいたします。


11月25日クラス

質問と回答

麹菌に純水をかけると菌糸先端がバーストするのはなぜか?
これは、東大微生物学研究室で見いだされた興味深い現象です。以前の講義でご紹介した様に、菌糸は先端伸長するため、先端部で細胞壁、細胞膜の再構築を行います。それにともない、菌糸先端では、細胞壁の無いプロトプラストの様な状態になっているので、低浸透圧の水にさらされるとバーストするのであろうと私は理解しています。

さび病菌の各胞子世代は確実に生活環に対応しているのか?
「例えば、ナシ赤星病では、担子胞子はビャクシン→ナシへの伝搬に係わり、ビャクシンへ再感染する様なことは無いのか?」というご質問のようです。調べてみましたが例外の報告は見当たりません。もちろん、宿主交代をしないさび病菌では同じ宿主に再感染する事になります。

黒穂病に罹病したムギの穂が他の穂よりも大きくなるのは黒穂病菌がジベレリンを産生するからか?
黒穂病菌によるジベレリン生産の報告は見当たりません。罹病した植物でジベレリン生産量が増えている可能性も想定できますが、これも報告が見当たりません。一方、裸黒穂病に罹ったトウモロコシでは逆にジベレリン生産量が低下し、節間がつまるという報告があるようです。

メキシコでは黒穂病菌を接種して罹病した穂をつくっているのか?
市場では罹病トウモロコシの方が高値で売られていますので、私もそのように現地の方に質問しましたが、そうでは無いようです。人工的に種子を汚染すれば罹病トウモロコシを作る事は可能かと思いますが、通常のトウモロコシ栽培や種子採取に与える影響が大きく、倫理的にはよろしくない様に思います。

黒穂病菌に犯されたトウモロコシは発酵食品と考えられるのか?また、他にも植物病原が関係する食品はあるのか?
発酵食品というより、菌体そのものを食べていると考えた方が良いと思われます。写真で黒く見えていたのはすべて菌の胞子です。この他にも黒穂病菌に感染したマコモ(真菰)が中華料理の食材として利用されており、最近我が国でもかなり栽培されています。また、貴腐ワインも灰色かび病菌の機能を利用した産物です。


12月 2日クラス

質問と回答

きのこなどに寄生する菌はいるのか?
あります。きのこに限らず、担子菌、子嚢菌でこのような寄生菌が知られており、菌生菌と呼ばれます。菌生菌の多くは子嚢菌です。一般的なところでは、Trichoderma属菌をあげることができます。

イネいもち病の感染は葉面の夜露をなくすことで防除できないか?
いもち病菌分生子は水の存在かで発芽し感染しますので、夜露は感染促進条件です。従って夜露を減らせば感染・発病も低減できる事が期待されます。葉でも夜露の付きやすい部分が有る様ですから、付きにくい形質を指標にした育種、ファンによる夜露付着防止などの対策が想定されますが、そのような研究に関するデータは見当たりませんでした。

イネ馬鹿苗病など種子伝染性病防除の為の種子消毒はどのように行うのか?
一般的には種子を殺菌剤薬液に浸漬する事で、種皮の表面や内側にいる病原を殺します。例えば、イネ種子消毒用のテクリードの使用方法を記したHPをご参考になさってください。この他、温湯消毒による方法もあります。ただし、種子消毒では、ムギ類黒穂病菌のように種子内部(胚乳等)まで侵入している病原を防除するのは困難な場合も多いようです。

灰星病に罹った果実は何故樹上に残るのか?
灰星病に罹病し樹上に残った果実を「ミイラ果」と呼ぶ場合があります。一般に果実が自然落下するのは離層形成によるとされますが、灰星病に罹った果実では離層が形成されないため樹上に被害果が残るとされています。

寄主特異性が低い、あるいは高い事の利点は何か?
寄主特異性が低い(=多氾性)の利点は様々な植物から栄養をとることができると考えられます。一方、寄主特異性が高い病原は当該植物の上で優占し、より有利に栄養をとることができることが想定されます。

灰色かび病菌を使ってイチゴの貴腐果をつくることは可能か?
詳しくは知りませんが、ぶどうでも貴腐果ができるには微妙な環境条件(温度、湿度など)が必要であるとされています。また、ブドウの場合は果皮が堅く、灰色かび病菌が果実内部から水分や栄養分を得て主に果皮表面で生育する為、いわゆる腐敗果でなく貴腐果ができるようですが、一方、イチゴの様にしっかりした果皮が存在しない果実(集合果ですので)ではすぐに腐敗してしまうため困難ではないでしょうか?


12月 9日クラス

質問と回答

多氾性の病原は、様々な植物の抵抗性を打破できるのか?それとも植物の抵抗性メカニズムは共通なのか?
奥(1980)によれば、植物病原は、「植物に侵入する力」、「宿主の抵抗性を打ち破る力」、「病気を起こす事ができる力」を併せ持つとされています。病原によってそれぞれの力は質的あるいは量的に異なることが考えられます。例えば、灰色かび病菌等は、傷口や植物の弱いところ(抵抗性の弱い所)に侵入し、大量に分解酵素を分泌(病気を起こす力が強い)するので、様々な植物に病気を起こせると考える事が可能です。

「二十世紀」が作られる前は、AK毒素産生菌は無かったのか?
毒素への感受性を決定する因子(毒素受容体)をコードする遺伝子は元来ナシが持っていた様ですが、二十世紀が作出され、広く作られる事でこれを侵すAK毒素産生株が顕在化してきたと考えられます。AK毒素産生株では、毒素生合成遺伝子は、通常よりも小さなCD染色体と呼ばれる染色体に集まって座乗しています。非生産株はこの染色体を持たないため、病原菌のこの染色体がどこから来たのか、病原菌の進化と併せて興味深い問題です。

生ジャガイモ以外にも原則輸入できない作物はあるのか?
まずは、生ジャガイモ輸入の一部解禁と直後に禁止になった経緯、さらに再開への経緯を示す農水省の文書をご参考になさってください。基本的には生果実等病原や害虫を運んでしまう可能性のある植物体や土壌は概ね輸入禁止ですが、特に重要な例としては、講義の中でもご紹介した火傷病菌の侵入予防に係わるリンゴの輸入禁止があります。

リンゴ火傷病と植物検疫、さらのその背景にある政治的な問題を知りたい
ここで総括できる様な問題ではありません。インターネットで「リンゴ」、「火傷病」などの語で検索をかけてみてください。様々な興味深い情報が得られると思います。

人間の病原菌が耐性を持つと困るのでストレプトマイシンは農薬としては使用できないと聞いたのですが
ストレプトマイシンは農薬登録があります(アグリマイシン等の名前で販売されています)。確かに農作物に残留して口に入ると、動物病原菌で耐性菌の出現が懸念されますね。それを考慮しているのか、ジャガイモやタマネギなど地下部を収穫する品目以外では、使用が収穫のかなり前までに制限されている様です


12月16日クラス

質問と回答

大麻の種子が日本に持ち込まれているという報道があったが、植物検疫はどうパスしているのか?
植物検疫は、植物防疫法に基づいて農林水産省の各植物防疫所が行うものです。その目的は、農業等に大きな被害を及ぼす植物の病害虫が国境などを越えて侵入・まん延するのを防ぐためです。従って、殆どすべての植物体、植物から作ったもの、土壌は、特別な場合を除いて輸入禁止、あるいは検査が必要になります(上のリンクから詳細を見る事ができます)。残念ながら、このことについて、一般の方はあまりご存じない場合がありますので、海外旅行で果実、球根、種子などを購入して帰国し、植物防疫法に違反して国内に持ち込んでしまっている場合があります。植物防疫所もポスターの掲示、リーフレットの配布による啓蒙周知等の努力をされていますが、多数の旅客、多数の荷物をすべて検査して植物等を調査する事は不可能です。従って、少なくとも本講義を受けた皆さんは、海外から植物等を安易に持ち込まない様、あるいは持ち出す場合も相手国の法律等に従う様にして下さい。なお、種子も検査が必要で、病原菌や虫の付着がある場合は放棄しなくてはなりませんので、かならず植物防疫所のカウンター(各空港のバゲッジクレイムにあります)に見せてください。なお、植物検疫は、病害虫の持ち込み等を検査することが目的ですので、麻薬関連等の法律に関する検査は他の機関が行うことになるのでしょう。ただし、質問いただいた事例は隠して持ち込んでいるに違いなく、植物防疫法にも違反しているはずです。ともかくも、学生の皆さんには、大麻でも種子の保持は罪にならないなどの情報で輸入してしまう様な安易な行動は決してとらない事を求めます。

細菌が分泌するクオルモンを撹乱すると病気の発生を防ぐ事ができるのか?
病害防除技術になるのでは無いかと興味が持たれ、研究が進められている様です。大変興味深い知見です。野菜茶業試験場の篠原信氏の研究成果などが参考になるのではないでしょうか。

ファイトプラズマ病で、枝の叢生等の症状が起こるのは、ファイトプラズマが植物ホルモンを生産するからか?
植物のホルモンバランスを撹乱しているのではないかと考えられています。

ファイトプラズマはATPを合成せず、宿主植物のATPを利用しているとのことだが、ファイトプラズマは植物細胞内にいるのか?
そのとおりです。多くの植物病原細菌(例えば、リンゴ等の火傷病の図をご覧下さい)は細胞間隙に定着していますが、ファイトプラズマは、SEM写真でお見せした様に、師管内(すなわち細胞内)に定着します。


  1月13日クラス

質問と回答

線虫は土壌中で長期間生存するとのことだが、不耕起栽培では線虫病が多く発生するのか?
土壌の環境条件(微生物相、有機物、土壌温度等)によって発病程度は変わってきます。多くの場合、不耕起栽培は、有機農法など、農薬や化学肥料を使用しないで土作りをし、病害等の発生を低減しようとしている農家が取り入れているようですが、その試みがうまく行っているところでは不耕起栽培でも線虫病の被害は低減される様です。

コンパニオンプランツとして利用されているネギは防御物質であるチオエーテル類を土壌中に放出しているのか?
ネギ等のAllium属の植物は、土壌病害防除を目的としたコンパニオンプランツとして使用される場合があります。講義でもご紹介した様に、Allium属植物は、アリシン等抗菌性のチオエーテル類を産生しますが、これらは、土壌病害防除にはさほど貢献していない様です。私たちの過去の報告では、Allium属植物の根圏に特徴的に定着する細菌が、ピロールニトリンという抗生物質を生産し、これが土壌病原菌の生育を阻害している事が機作であるとしています。

サポニンの機能は?
サポニンは、「植物に広く存在する配糖体(糖類と炭水化物の複合体)で、炭水化物の部分が窒素を含まない多環式化合物からできているものの総称」です(Yahoo!百科辞典より)。サポニンは界面活性作用を持ち、講義でご紹介した様に、ムクロジなどは石けんの様に使用されていました。一方で、サポニンの中には抗菌性、殺虫性を示す物質もあり、植物が先天的に保持する防御機構として働いている場合もあります。

「水平抵抗性」、「垂直抵抗性」とは何か?
1つの遺伝子(抵抗性遺伝子)によって決定される抵抗性を「真性抵抗性」あるいは「垂直抵抗性」、複数の遺伝子が関与する抵抗性を「圃場抵抗性」あるいは「水平抵抗性」と呼びます。前者は病原のレースー植物品種の特異性に係わる場合が多く、関与する1つの抵抗性遺伝子が、その関係においては病気が起きるか起きないかを決定します。一方、圃場抵抗性は、1つの遺伝子由来の抵抗性はあまり強いものではないものの、それが複数集まる事によって病気に対して強くなる現象を示します。圃場抵抗性では、病原のレースー植物品種の特異性はあまりありません。多くの場合、圃場抵抗性は植物が先天的に持っている静的抵抗性に由来し、真性抵抗性は植物が病原菌を認識して過敏感細胞死等の動的抵抗性を起こす事にとって発現します。

ファイトプラズマはATPを合成せず、宿主植物のATPを利用しているとのことだが、ファイトプラズマは植物細胞内にいるのか?
そのとおりです。多くの植物病原細菌(例えば、リンゴ等の火傷病の図をご覧下さい)は細胞間隙に定着していますが、ファイトプラズマは、SEM写真でお見せした様に、師管内(すなわち細胞内)に定着します。


  1月20日クラス

質問と回答

イネいもち病菌の付着器内の核は高い膨圧に耐える事ができるのか?
核を包む核膜には孔があって細胞質と繋がっていますので、そもそも膨圧はかからないのでしょうが、核膜や小胞体などはどうなっているのでしょうか?

動的抵抗性での細胞壁の強化はどのようなタイミングで起きるのか?
外敵を認識して侵入されるまでのわずかな時間に、速やかに細胞壁を肥厚させたり、リグニンを蓄積させたりするとされています。

野火病抵抗性の組換えタバコにはタブトキシン代謝系が導入されているのか?
そのとおりです。野火病菌からとったタブトキシンアセチラーゼ(タブトキシンをアセチル化し、無毒にする)をコードする遺伝子が導入されているため、野火病菌に感染し、それがタブトキシンを産生した場合でも解毒できるため、抵抗性になっています。

マイコトキシンは植物には影響を及ぼさないのか?
講義でもご紹介した様に、マイコトキシン自体が病原性因子として機能している場合は比較的少ないようです。逆の見方をすると、病原性因子である場合は、植物自体に被害が出て収穫に至らないため、植物への毒素として認識されるが、それを食する人畜への被害が顕在化しないのではないかと思います。ただし、赤かび病菌に侵されたムギ類の粒は小さくなるなど、当該部分で病徴が生じる事があります。

Aspergillus属菌以外にも、近縁の菌でマイコトキシンを産生する種と食用に使用されている種が存在するものはあるのか?
Penicillum expansumは、パツリンというマイコトキシンを生産し、リングジュース等を汚染する事が知られています。一方、チーズ等の生産にもPenicillium sp.が使用されます。Penicillium属菌では、パツリン生合成に係わる遺伝子が明らかにされていて、それを持つ株はパツリン生産能を有する、遺伝子を持たないものはパツリンを生産しないと考えられています。

ムギ類に蓄積したマイコトキシンの影響が恐ろしいが防ぐ方法はあるのか?
マイコトキシンは、ムギ類等の食用植物の可食部で、マイコトキシン産生菌が増殖することによって蓄積します。主にマイコトキシン産生菌は圃場で感染します。従って、収穫前の処理(殺菌剤の散布等)を確実に行いマイコトキシン産生菌が感染していない植物を収穫する、天候を良く見て降雨前に収穫する、産生菌が増殖しにくい環境条件(乾燥、低温等)で保存・輸送する、などによってマイコトキシンの蓄積およびそれによる被害を未然に防ぐ事ができます。一旦マイコトキシンが蓄積してしまった植物は廃棄せざるを得ません。


 1月27日 に試験を行いました

試験は、以下の要領で行いました。
『試験に際しては、講義で配布したプリント類、ノート類、御自分で復習された紙類は持ち込み可とします。教科書、参考書などは持ち込めません。なお、試験前に講義のプリント・ノートおよび参考書を利用して勉強していただき、病原微生物に関する理解(記憶ではない)をしていただきたく思います。従って、細かい語句、名前等の情報についてはプリントなどの資料をご参照され、独自性のある答案をつくっていただくことを期待しています。』 図書館所蔵の教科書・参考書は、皆さんが閲覧できる機会を確保するために、長期間借り出ししないようお願い致します。なお、成績の評価は、シラバスにもありますように、「授業出席回数(12回が最多)」+「試験評点(88点満点)」で行います。授業回数には試験日は含みません。また、授業出席回数が「7」未満の者は試験の成績にかかわらずDと評価します。詳しくは有江へお尋ね下さい。 

試験問題と評価のポイント(424 kb pdf)


有江 力のホームページ  最近の研究成果発表

植物病理学研究室ホームページ