質問に対する回答など
10月 2日クラス
質問と回答
植物の生育阻害因子の図の生物群名の前の○や◎は何を示すか?
申し訳有りません。説明するのを忘れていました。テキストの1頁目をご覧ください。○は植物病原として今回の講義で扱う範囲、◎は自己増殖能を有する生物群を示します。後者については、次回以降説明いたします。
「病気」を起こす病原と「病害」を起こす病原に違いはあるのか?
講義でご紹介した様に、植物生産上被害のある病気を病害と呼びます。従って、基本的には病原の違いによって区別される言葉ではありません。
身近な野菜がドロドロに腐っていることがあるが、それは病原微生物によるものか?
極端に熱がかかったり、一旦冷凍されたものでない限りは、病原微生物によるもの、例えば軟腐病や灰色かび病に罹ったものだと思います。講義の各論で少し例をご紹介する予定です。
植物と病原の共進化とはどういうことか?
元々野生の植物がヒトの文明化とともに、食用植物として利用される様になり(農業のはじまり)、さらに、品種改良(育種)によって現在の食用植物になってきています。このような植物の進化に伴って、その植物を侵す病原(もちろん、害虫等もそうですが)も進化します。このように、「場」を共有する2つ以上の生物が関連して進化することを共進化と呼びます。ヒトが介在する食用植物の進化(人為育種)では、その進化速度が極端に速くなり、それに伴って、病原の進化も早くなります。抵抗性品種に対する新レースの出現、殺菌剤に対する耐性菌の出現等が例示できます。
地産地消は病害等による食用植物の被害を低減するのに役立つか?
周年供給や世界的な農産物の移動に伴って、病害が増加したり、新しい病害が出てしまったりするのは確かですが、需要に応えるためには地産地消や適地適作、適期的作では対応できない部分があります。さらに、価格の点からも農産物の輸入がさけられない社会状況にあります。このような社会学的問題点については別途議論が必要です。ただし、そのような社会変化に伴って問題となる病害等にたいしても、もちろん新たな防除技術を確立するなどの対応策がとられています。
斑点や輪紋以外にどのような病徴があるのか?
病徴の例については、次週概説する予定です。
植物もストレスによって病気になるのか?
この場合の「ストレス」は、微生物のことでは無いと思いますので、それによっておこる生育障害は病気とはいいません。植物にとってのストレスとしては、乾燥、塩、化学物質、温度など様々な化学的・物理的要因があり、それにさらされた結果、植物の生育障害が起きる場合は多々あります。一般に、生理障害と呼びます。「音がストレスになるか?」とのご質問がありました。音は振動ですからストレスになり得るでしょうが、それによって発生する障害は聞いたことがありません。(モーツァルト等の音楽を聞かせて植物を育てると良く育つという話は聞きますが、、、)
生育障害の原因が化学物質である場合、どのようにその原因を明らかにするのか?
化学物質の場合は、微生物と異なり、分離ができませんので、素直にコッホの原則に当てはめることはできません。しかし、コッホの原則に準じて、化学物質を処理して、対照にはでない障害がでることを再現することで原因を明らかにすることが可能です。
10月 9日クラス
質問と回答
現在世界で発生している植物病害でそれを防ぐことで最も大きな経済効果が得られるものは何か?
一般的に、疫病(ナス科植物等)、べと病(ブドウ、ウリ科植物等)、ムギ類やマメ類のさび病、イネいもち病などであるとされています。ただし、正確なデータに基づいてお答えしているわけでは有りません。なぜなら、すでに殆どの病害で殺菌剤処理などの対処が行われている結果、良い薬剤の無い病害が目立つこと、重要な作物ほど病害を防ぐことで経済効果があると考えられることなどから、病害のひどさと防除の経済効果との相関があまり無いからです。
病害が一旦出たらその作物は植えられないのか?
「病害が出たらどのような作物だと同じ病害が出ないのか試験をするのか?」というご質問も同様だと理解します。講義の後半で、病原の制御のなかでご紹介する予定ですが、一旦病害が起こった場合、様々な対処法があります。もちろん、作物を同じ病原が罹らないものに変更する(例えば、ハクサイ根こぶ病が多発した圃場をレタスに転作する等)のも一つの手段です。また、同じ種類の作物でも、その病害に強い品種や強い台木に接木をしたものを利用することもあります。農薬や物理的な方法で病原を取り除くこと等も行われます。詳しくは後日ご紹介いたします。
過去の飢饉の原因は当時からわかっていたのか?
もちろん、作物に異常が生じますので、病気が起こっていたことは認識していました。対処方法としても様々なことが行われた(水量の調節や、油を撒く等)様です。また、どのような環境(天候等)で病気が出やすいかも知っていたはずです。ただし、病原が何か、どうして起こるのか等は科学技術が進展したこの100年余りで初めてわかってきたことですし、化学農薬などによる対処もわずか100年余りの歴史しかありません。参考までに、1846年のアイルランドのジャガイモ疫病による飢饉当時の病原の系統を、当時の標本から採取したDNAを用いて検定した研究結果がNature 411:695 (2001)で紹介されています。
これからも予期せぬ新しい病害によって飢饉が起こる可能性があるか?
同じ病原が様々な植物を侵すことはあまり想定されません。また、世界で同時に同じ病気が突然発生することもあまり想定できません。現在は食用植物が多様化している(私たちの食物が多様化している)うえ、農産物が世界的に移動している(輸出入)、さらに殺菌剤も多種類開発されているため、過去のような飢饉は起こらないと考えられます。ただし、種苗も世界的に移動しているため、今後は世界各地で病害が同時多発的に起こる危険性が危惧されるため、植物防疫(講義のなかでご紹介します)の重要性が増してきています。
これからもファイトプラズマ、マイコプラズマより小さな細菌が見つかる可能性はあるのか?
現時点では、ファイトプラズマなどは、生きていくための(宿主細胞から様々なものは調達しても)最低限のゲノムセットをもっていると考えられています。従って、これ以上小さな生物は無いと考えるのが妥当でしょうが、、、「ファイトプラズマもATP産生能が無く、宿主に依存しているのだから生物ではないのでは?」というご質問をいただきました。ウイルスは、遺伝子自体を宿主に導入する等して、その複製自体を宿主に依存しているため、生物ではないとされます。ファイトプラズマは、物質を外から取り込み、自ら複製、増殖しますので、生物であると理解されます。
etiolationとchlorosisの違いは?
講義の中でもご紹介した様に、どちらも黄化の意味があります。etiolationは緑色が退色して黄色くなる場合(本来は、暗いところで植物を育てた時に黄色くなる現象をさす、軟白や暗中退色を示す言葉です)、chlorosisは緑化せずに(クロロフィルの異常)黄化や白化することを示します。
上偏成長はどうして起こるのか?
植物ホルモンの作用によって、葉の表側の細胞が肥大すること等によって起こると考えられています。
潜在的に感染している病原によって引き起こされる市場病害を防ぐには環境条件を制御すれば良いのでは?
たしかにその通りです。ただし、私たちが食べておいしい状態にすることが、しばしば発病好適条件だったりします。
市場病害を防ぐにはどのような対処法が考えられているのか?
講義の中でご紹介した様に、多くの場合、病原を圃場から持ち込んでいます。そこで、圃場で収穫前に殺菌剤を散布する等して、病原の潜在感染を防ぐことが一つの対処法です。また、保存、輸送中の環境調節、殺菌剤の散布なども行われます。海外では、酵母などを利用して生物的に防除することも試みられています。
10月16日クラス
質問と回答
コッホの原則で宿主が弱っていたり、傷がついていないと発病しないときは、病気の再現はどのように行うのか?
発病に、宿主の状態が影響する場合は多々あります。そのため、その条件がわからず、病徴が再現できず、なかなかコッホの原則によって病原が決定できない場合もあります。病気の三角形でもご紹介しました様に、病気は宿主と病原がいれば必ず起きるものではありません。環境条件が発病に適した状態に整う(これを発病条件と呼ぶことがあります)ことが必要です。コッホの原則によって病原を証明する際は、病原と発病条件をセットで確認しているとご理解ください。なお、前期の学生実験で行った、「トマト萎凋病をモデルにしたコッホの原則による病原の証明」の実験の際、トマト根部に傷を付けたのは、より効率的に感染させるためで、学生実験という限られた期間で、限られた植物を使って、よりわかりやすい結果を出すための工夫です。傷を付けただけで分離菌を接種しなかった植物(対照)は発病しませんでしたので、根に傷が有る条件では、分離菌が萎凋病の病原であることが証明できたとご理解ください。なお、萎凋病は根に傷を付けなくても感染し、発病しますが、時間がかかったり、植物によって病徴の現れる時期がずれたりします。
絶対寄生菌は宿主が存在しない冬等の間に死滅するのでは?
「絶対寄生菌」は、栄養のとりかたを表す言葉で、「生きた植物から栄養をとって生きる」ことを示します。宿主植物がなくなってしまう時期(例えば冬)は、子嚢など休眠できる形態で活動しない状態になり、新たに宿主植物が植えられると(例えば春)、その上で栄養をとって成長を始めます。ナシ赤星病菌の場合(条件的寄生菌かもしれませんが、、)は、ナシの葉がなくなる前に胞子を飛ばして常緑のビャクシンに感染し、またナシの若葉が出る頃に新たな胞子を飛ばしてナシに感染します(各論でご紹介します)。栄養の取り方の様式については、たくさんご質問をいただきましたので、次回はじめに再度ご説明します。
菌の寿命はどのように測定するのか?
図2-21に対するご質問だと思います。病原としての菌の寿命を測る方法はいくつも報告されています。例えば、胞子懸濁液を放置して定期的に植物に接種し病原性を検定する方法、病気が出てしまった圃場の土を保管しておいて経時的に罹病性の植物を植えて発病を見る方法、菌核を網のような袋に入れ土に埋めておき、経時的に回収して培地に置いて発芽を見る方法などです。図はこれらのデータを集めた物で、統一された手法で各菌の寿命を測定した物ではありません。
flagellar mastigonemes とは何か?
細胞の周囲に存在する鞭毛状の側毛を表します。
系統分類と人為分類の基本的な違いは?
系統分類は、生物のこれまでの進化の道筋に基づいて、その系統をできるだけ忠実に表現できるような分類体系をいいます。一方、人為分類は、人が何かの形質に注目してつくる分類で、必ずしも系統関係と相関があるとは限らない分類体系です。「講義で紹介された宿主範囲に基づく分類以外にどのような人為分類体系があるのか?」とのご質問もいただきました。実は、生物の分類は系統分類を理想としていますが、すべて人為分類であるといっても過言ではないでしょう。これまでの分類体系は、人が見つけやすい形質の差(これが系統関係を表しているいるかどうかは疑わしい)に築かれてきましたので、多くは、バイアスのかかった人為分類に基づいています。他の例としては、次回ご紹介する、不完全菌類をあげることができます。
環境を制御すれば病気が抑えられる可能性があることは理解できるが困難なのでは?
理論的には環境を制御すれば病気が抑えられる可能性があることをお伝えしたかったのです。現在植物病害用防除用に用いられている殺菌剤の多くは、殺菌性であり、病原を殺すことを目的としています。しかし、その結果生じる弊害(標的外生物への影響や耐性菌の出現といった問題)もあります。これを少なくするために、病原菌を殺さずとも環境を変化させて病気を起きにくくすることも1つのオプションになり得ると考えられます。今後、各病原について生活環などをご紹介しますが、そのなかでお話しする、発病条件、伝搬経路、感染機構などを良く解析、理解することで、病原を殺さなくても病気を防ぐ方法はあるか?をお考えいただきたく、そのような観点ももちつつ、講義をお聞きいただけると幸いです。
薬剤の使用で環境に影響を及ぼし、病害が大発生する可能性はないのか?
土壌に生息する病原を殺すために、薬剤や熱を利用して土壌消毒を行う場合があります。土壌消毒は広い生物スペクトラムをもちますので、処理によって土壌微生物相が大幅に変化します。その結果、土壌が本来もっていた干渉作用が失われ、新たに病原菌が侵入すると病害が大発生する事例も報告されています。
我が国の農薬の安全基準は世界的にみてどうか?統一される可能性はあるのか?
農薬については、1月頃にご紹介する予定です。ただし、安全性の基準等については、この講義の目的とは合致しませんので、あまりご紹介する予定はありません。ご質問の内容に関することは、「植物保護学」で、私も少しご紹介したつもりですし、上路先生などからも聞かれたかと思います。確かに、近年GAP規範の導入傾向があり、今後世界的に安全基準が評価されるようになると思います。詳しくは、有江までお越し下さい。
10月23日クラス
質問と回答
子のう菌で擬有性生殖は起きるか、また、有性生殖と擬有性生殖をどのように使い分けるのか?
子のう菌で起きます。しかし、スイッチングのメカニズム等については全く不明です。「有性生殖と擬有性生殖で必要なエネルギーはどのようにして測るのか」というご質問もありました。これは、Leslie and Klein (1996) Genetics 144: 557-567での議論の中に出てくることに関してですが、正確にエネルギーを測った訳ではなく、擬有性生殖の方が少ないであろうという想定に基づいています。
擬有性生殖で何度染色体が減ると単相(n)に戻るのか?
染色体の数だけ減少することが必要です。例えば、染色体数n=10の菌では、10回減少することになります。「擬有性生殖の過程でできる2n-1の核は通常と同様に分裂できるのか?」というご質問もありました。体細胞分裂ですので、問題なく分裂します。
有性生殖と擬有性生殖ではどちらが多様性が生まれるのか?
基本的におこることは、染色体のシャフリングと乗り換えですので、同レベルで起こると考えられます。
動物や植物では、2つ以上の核が細胞内に入った場合に細胞は死ぬのか?
菌では2つ以上の核が細胞内に独立で存在し得る点が特徴です。もちろん、動物や植物でも配偶子の融合の際に2つの核が1つの細胞内に入ることがありますが、速やかに核融合へと進むようです。動物や植物でも2つ以上入ることがあるのか、排除されてしまうのか、私は知識がありません。「異核共存状態がマイナスに働くことはあるのか?」というご質問もありました。お答えするだけの知識がありません。すみません。
何故ナシ赤星病菌は2種の宿主を行き来するのか?
ナシ赤星病菌の生活環については次回ご紹介します。しかし、このような生物現象について、理由は殆どわかっていないのが現状です。
Fusarium oxysporumは完全世代をもたないのか、それとも見つかっていないのか?
私たちは後者であると考えています。これまでの様々な解析結果が、F. oxysporumも交配に関する機能を保持していることを示唆しています。
糸状菌の交配に関するわかりやすいテキストは無いか?
有江までお越し下さい。本をお貸しするとともに、解説いたします。「菌株の交配型はどうやって見分けるのか?」とのご質問がありました。これもご説明しますので、有江までお越し下さい。
アブラナ科野菜根こぶ病菌の休眠胞子はどんな外部刺激によって発芽するのか?
アブラナ科野菜等の根からの滲出液中の物質を感知して発芽、遊走子を放出するとされています。
10月30日クラス
質問と回答
土壌に残った伝染源に対して農家はどのように対処するのか?
とても対処が難しいのが現実です。1月の講義でご紹介する予定ですが、感染しない植物を利用する(輪作や抵抗性品種、台木など)、土壌消毒(化学農薬、熱など)を行う、客土や天地返しなどを行う事があります。「アブラナ科野菜根こぶ病菌発生した畑土壌中の休眠胞子を殺すには土壌燻蒸ぐらいしか方法はないのか?」というご質問もいただきました。アブラナ科野菜(ハクサイやキャベツ)は露地で栽培するのが一般的で、その広いフィールドを燻蒸するのはほぼ不可能です。従って燻蒸は一般的ではありません。粉状の殺菌剤(粉剤)を土壌と混和して殺す、あるいは、水分を減らしたり石灰等を混和して発病しにくい環境にすることが一般的ですが、完璧では有りません。一般には、耐病性品種の利用、感染しない作物(例えばキク科のレタス)への転換などの対策もとられます。
異核共存状態の期間の制御はどのように行われるのか?
正確にお応えする事はできませんが、異核共存状態は、交配のための菌糸融合(細胞融合)が起きてから、核融合→減数分裂が起こる間保たれます。核融合→減数分裂→次世代(例えば担子胞子)形成は比較的速やかに進行するようです。また、核融合以降に進むかどうかは、環境条件などによって制御されているようです。従って、菌の場合、細胞融合して異核共存状態になった後、次のステップに進む環境条件が整うまで異核共存状態を保ち得ると理解するのが良いのではないでしょうか。
菌糸の隔壁孔の部分では細胞質も通じているのか?
細胞膜は存在しますので、細胞質が自由に細胞間を行き来している訳ではありません。「細胞小器官はこの孔を通って移動するのか?」とのご質問が有りましたが、菌によって異なるようですが、ミトコンドリアや核まで移動できる場合があるようです。
菌糸の隔壁はどのようなタイミングで形成されるのか?
菌糸が有る程度伸長すると形成されます。どの程度の長さで形成されるかは、菌の種によってほぼ決まっており、従って、菌糸先端細胞の長さの平均値を菌の種の特徴的な性状として記載する場合があります。
菌糸の細胞間で輸送される転流糖は実際にはどんな糖なのか?
菌によって異なる転流糖を利用しているようですが、Rhizoctonia solaniでは、トレハロースを利用しているといわれています。
白絹病菌の菌核の大きさはどのくらいか?
私が調べた菌株では、0.3〜2.0 mm程度の直径でした。
何故菌は様々な形状の胞子(分生子)を形成するのか?
お応えする事の困難な謎です。「環境適応などで有利になるように進化したのか?」とのご質問もありました。確かに、以降の講義でご紹介する様に、胞子も、空気によって運ばれたり、水で運ばれたり、虫で運ばれたり、何かに付着したり、とそれぞれ異なる性質を持っていますので、それに応じて適応進化してきたと考える事も可能でしょうが、現時点で私がお答えできる情報はありません。
菌叢(コロニー)に形成されるセクターは病原性と関係あるのか?
セクターは、多核の菌で、機能する核がかわった場合、ゲノムや遺伝子に変異が起きた場合に生じるとされていますので、特に病原性だけに関係がある訳ではありません。ただし、病原性の低下が見られる場合もあります。
アブラナ科野菜根こぶ病菌の休眠胞子を発芽させなければ防除は可能か?
理論的には可能ですし、販売されている殺菌剤のうちに、そのような効果をうたっている物があります。講義の中でお話ししましたが、逆に、アブラナ科植物を植えない時に、休眠胞子を発芽させて死滅させるのも一つの防除法として提案されています(実用化されていません)。
Phytophthora infestanceの遊走子のうが分生子になる場合と、遊走子を形成する場合で機能は異なるのか?
遊走子の方がより水で伝搬しやすいのではないかと想像します。
11月13日クラス
質問と回答
ソラマメ火ぶくれ病菌Olpidium viciaeが絶滅しかけているのはなぜか?
正確には今後の研究が必要ですが、発生地域における宿主のソラマメの栽培が減少しているのが1つの要因ではないかと思います。また、海岸に近い比較的湿度が多い土壌の畑で主に発病するのですが、最近は畑の環境が改善されつつ有る事も要因ではないかと考えています。
レタスビッグベインウイルスを媒介するOlpidoum brassicaeはウイルスを媒介する事で何か利益はあるのか?
O. brassicaeを含め、病原の媒介者が病原を媒介する事で利益を得ることは、聞いた事がありません。ウイルス粒子はO. brassicaeの菌体(遊走子)表面に強固に吸着し、時に細胞質に取り込まれるようです。ウイルスを付着あるいは取り込んだO. brassicaeが植物根組織に侵入すると、ウイルスが放出されます。なお、O. brassicaeは、チューリップ微斑モザイクウイルスやタバコ壊疽ウイルス等も媒介します。
さび病菌の生活環をもう一度説明してほしい?
講義の中でご紹介したさび病菌は、コムギ黒さび病菌とナシ赤星病菌です。この生活環の特徴は、担子胞子、精子、銹胞子、夏胞子(ナシ赤星病は欠く)、冬胞子と多様な胞子を形成する事、精子が受精毛に受精してから担子胞子形成直前まで異核共存状態(n+n)を保つ事、異種寄生であること、胞子がかなり長距離を飛散する事、などです。さらに詳しいことはここでは説明できませんので、有江までお越し下さい。
さび病菌がn+nである期間はどうして長いのか?また、どのような利点があるのか?
ナシ赤星病菌では、精子が受精毛に受精(5〜6月)から担子胞子形成直前(翌年の3月頃)までがn+nであると考えられます。この期間は、生活環の中で、受精してから完全世代形成を形成するまでの期間によって決まりますので、種によって異なると考えられます。n+nの状態を保つことによってどのような利益が生じるのかはわかりませんが、この状態を保つことができるのが菌の特徴です。
異種寄生の宿主はどのようにして決まったのか?
これは全くの謎です。さび病菌の場合、とてもたくさんの胞子を飛散させますので、それが様々な植物種に着地、そこでうまく生活環を築く事ができたものが現存していると考える事はできないでしょうか?また、「どういう研究で異種寄生であることがわかったか?」とのご質問もいただきました。私も昔の研究者の熱意と慧眼に頭がさがります。さび病菌については、過去から非常に詳しく研究がされてきています。お亡くなりになりましたが、平塚直秀先生は、さび病菌の研究から我が国における菌学を発展されました。研究者の詳細の観察と繰り返しの接種の結果、異種寄生のシステムを明らかにされたのだと思います。
ナシ赤星病菌はビャクシンの上で生育するのか?
10/30付けプリントの図12をご覧ください。銹胞子がビャクシンに感染後生育し、その後冬胞子を形成する事がわかります。
何故菌は様々な形状の胞子(分生子)を形成するのか?
お応えする事の困難な謎です。「環境適応などで有利になるように進化したのか?」とのご質問もありました。確かに、以降の講義でご紹介する様に、胞子も、空気によって運ばれたり、水で運ばれたり、虫で運ばれたり、何かに付着したり、とそれぞれ異なる性質を持っていますので、それに応じて適応進化してきたと考える事も可能でしょうが、現時点で私がお答えできる情報はありません。
食べる事ができる病気に罹った植物は他にもあるのか?
講義でお見せしたのは、トウモロコシ黒穂病に罹病したトウモロコシ穂(メキシコ)、黒穂病にかかったマコモ(まこもたけ;中国、最近は日本でも)です。これ以外に罹病した植物組織を直接食べる例は知りません。
まこもたけをしばらく置いておくと内部が黒くなるとのことだがなぜか?
組織内に生息している菌が成熟してたくさんの黒穂胞子を形成するからです。お見せした黒穂胞子の写真は黒くなった部分を観察したものです。なお、まこもたけでは、黒くなってしまうと品質が落ちたと判断されます。元々我が国にあったマコモの黒穂病菌はマコモをあまり肥大させないため、現在栽培されている物は中国から輸入された物だといわれています。マコモ黒穂病菌の系統解析は農業環境技術研究所で行われています。
なぜさび病菌や黒穂病菌等の担子菌はきのこを形成しないのか?
担子菌は有性生殖の結果形成される次世代を担子器の上につくることを特徴としています。きのこは担子器を保持する構造体であり、きのこを形成する事が担子菌の特徴ということはできません。きのこを形成するかどうかは、担子菌のなかの群の特徴と考える事もできます。さび病菌や黒穂病菌は通常のきのこのような構造を作らずに担子器をつくります。ただし、ナシ赤星病菌の担子器はビャクシンの上に形成されるキクラゲのような構造体(研究室ホームのトップページに写真があります)上に形成されます。なお、この講義ではほとんど扱いませが、生きた樹木等に感染して病気を起こす担子菌の中にはきのこを形成するものがたくさんしられています。
11月20日クラス
質問と回答
Penicilliumが潜在感染しているミカンをたべても大丈夫か?
Penicilliumが増殖していなければ大丈夫だと思います。特に内部を食べる場合は、菌は全くついていないと思います。なお、食料には常に幾ばくかのリスクは存在します。あえてリスクの有る物ばかり集めて食べなければ通常は大きな害はないと考えるべきでしょう。
Penicilliumによる緑かび病が発病しているミカン果実に接している果実に病気がでないことが多いとの事だが、傷があると感染するか?
傷があると感染、発病します。実際に、発病試験では傷をつけてそこに菌を接種します。
麦角毒素による家畜の被害は日本でも出ているのか?
輸入飼料に麦角毒素に汚染された穀粒が混入している事が有るようで、ときどき発生事例が報告されるようです。
サクラ天狗巣病とキリ天狗巣病は、病原が菌とファイトプラズマで異なるが、症状が類似するということは発病過程は類似しているのか?
植物組織に同様な病徴を生じる場合、その発病機構の一部が類似している可能性はあります。サクラ天狗巣病は、病原菌であるTaphlinaがジベレリンを産生する事によって起こるとされています。キリ天狗巣病の発病メカニズムについては情報がありませんが、ジベレリンを産生を誘導していれば興味深いですね。
馬鹿苗病に罹ったイネは開花期まで枯れないのか?
激しく罹病したイネは枯れてしまいます。(極端な場合は発芽しません)しかし、イネ開花期に丁度枯れる程度に罹病したイネ上にたくさんの分生子が形成され、飛散します。
トマト萎凋病菌で汚染されたトマトの種子には異常は見られないのか?
多くの場合、トマト萎凋病菌は種皮表面に付着するか、種皮の内側におり、胚や子葉にはあまり到達しないようです。そのため、通常の汚染では目で見て種子の異常はないようです。重度に汚染されると発芽率の低下等を招きます。これらの現象はイネ馬鹿苗病でも同様です。
11月27日クラス
質問と回答
一旦モモ縮葉病に罹った個体の葉はすべてが縮葉症状を示すのか?
縮葉症状を出した葉は、しばらくすると落ち、通常は健全な葉が出てきます。学生実験で縮葉病を観察した個体を後日見ていただいていれば、健全な葉になっているのがわかったと思います。ただし、今年は、7月頃に再び縮葉病がかなり発生していました。「縮葉病にかかったモモの木の果実を食べても大丈夫か?」というご質問をいただきました。多分大丈夫でしょう。それより、縮葉病を大発生させて平気でいるような管理の仕方では、モモの果実は収穫できないでしょうから、そもそもご質問が成り立たなくなります。今回講義でお話しした様に、食物にリスクはつきものですし、摂取する量や頻度によってリスクは変わりますので、それをできるだけ小さくし、リスクを分散するのが食物の良い摂取方法です。従って、「XXXを食べても大丈夫か?」という問いは基本的にナンセンスであるとご理解ください。
「オウトウ」はモモなのでは?
直接本講義とは関係ありませんが、たくさんご質問をいただきましたのでここでお答えします。講義でご紹介した灰星病の写真はオウトウの果実です。オウトウは、漢字では「桜桃」と書く事からもわかる様に、いわゆる‘さくらんぼ’の作物名です。通常缶詰などでよく使われる「黄桃」は黄色い桃を表し、作物名ではありません。ちなみにどちらもバラ科で核を持つ果実をつくり、灰星病の宿主になります。
植物が病気に罹る時に激しく罹病するものとそうでないものがあるが、それは何に因るのか?
いくつかの場面が想定されます。例えば、同じ品種の植物を同じ圃場で育てていた場合でも個体によって発病程度が異なる場合があります。これは、各個体へ病原感染の度合いの差や、各個体のわずかな生育差等が影響します。一方、たとえば1つの圃場に複数の品種の植物が栽培されている場合は、各品種の病原に対する感受性に差があり、その結果発病程度に差が生じます。
ナスなどの灰色かび病防除になぜBacillusが効果を示すのか?
1月の講義で詳しくご紹介しますが、より早く処理されたBacillusが葉面を覆ってしまい、後から感染しようとする病原との競合(場所および栄養分)をするため、病原があまり増殖できないためであると考えられています。
うどんこ病が絶対寄生にもかかわらず、秋に良く見られるのはなぜか?
秋によく見られるのは、子のう殻の形成などで、越冬に関わる器官の形成です。絶対寄生ですので、宿主植物が枯れる秋に、春に向けて病原も冬眠の準備をしていると考えることができます。
病原は季節をどのように感じているのか?
上記のうどんこ病菌のみならず、アブラナ科野菜根こぶ病は長日条件での栽培を経ないと発病しない、トウモロコシごま葉枯病菌は完全世代を秋にならないと形成しない、など季節を感じている様な生活環を示します。「菌類も日長を感じるのか?」とのご質問もいただきましたが、菌も日長を感じるメカニズムをもっています。ただし、多くの場合は、宿主植物の物質的変化を感じて病原の生活環は推移するのであろうと考えられています。
うどんこ病菌など生き延びるためにがグリーンアイランドを作るよりも他に感染する方が有利ではないか?
お答えするのが困難な質問です。病原が感染して,発病し、次へ感染するための胞子を形成する期間は少なくともそこで生活しなくてはなりませんので、絶対寄生菌はグリーンアイランドを形成する等して栄養分を取っている、と考える事ができます。しかし、胞子を形成できる様になったらすぐにグリーンアイランドがなくなってしまうのか、あるいは、基本的に他に感染していくよりも有利なのか、などについては知見を持ち合わせていません。
宿主特異的毒素は遺伝的に均一な個体の集まりである近代農業で問題になるように思えるが、野草など自然界でも問題になるのか?
すばらしく興味深いご質問です。宿主特異的毒素の生合成に関わる遺伝子(群)の起源や水平移動については、鳥取大学植物病理学研究室やWashington State UniversityのTobin Peever研究室で研究を進めておられます。興味深い1例は、講義でもご紹介した様にA. alternata tomato pathotypeが産生するAL毒素には、特異的にトマト品種ファーストなどが感受性です。野生種トマト属菌を含めて、殆どのトマトがこの毒素に非感受性なのですが、面白い事に、ガラパゴス諸島に自生するチーズマニートマトはAL毒素に感受性であることがわかっています。そこで、現在、私どもは、鳥取大学、Washington State Universityと共同で、ガラパゴスに存在するA. alternataでAL毒素を生産する菌株が存在するのか調査すべく計画をしています。
12月 4日クラス
質問と回答
根頭がん腫病用の生物農薬Agrobacteroum radiobacter strain 84はバラ等の植物に侵入するのか?
A. radiobacter strain 84は、根部の周囲に定着する、といわれています。大変申し訳有りませんが、これ以上詳しい情報(根の内部に定着するのか、根圏土壌なのか)は持っていませんが、根頭がん腫病菌よりは内部に侵入しにくいようです。そのため、講義の中でもご紹介した様に、この生物農薬は感染を予防する効果しかなく、すでに発病した植物に処理をしても効果はありません。
火傷病におかされたリンゴが発見されたらどのように対処されるのか?
リンゴ火傷病は我が国では未発生で、侵入が警戒されている病原細菌です。従って、リンゴ等の苗木の輸入に際しては、長期間植物防疫所で栽培、病気がでないことを確認する等の措置をとります。もし、発生が見られた場合は、直ちに滅菌処理されるとともに、周囲への伝搬予防措置がとられるはずです。米国からは、火傷病が日本へのリンゴ輸出の関税障壁になっていると主張しています。これと逆のようなケースでかんきつ類かいよう病の例がありますが、詳しくは次週ご紹介します。
傷口から感染する細菌が多いようだが、そんなに傷口はあるのか?
まず、10月9日に、植物病原細菌は、植物の表面から自力で内部に侵入していく力を持っていないので、開口部(気孔、蜜腺、傷口など)から侵入することをご紹介したのを思い出してください。また、そういう観点で、各論の生活環を示す図をご覧ください。さて、植物の表面にはかなり傷口は多いようです。虫の食害、葉等が擦れ合う事、根毛の脱落などによって容易に傷口が生じるようです。
ハクサイ軟腐病が生育後期に発生するのは、それまで化学的防除等によって病原の増殖を抑制できているからではないのか?
講義でご紹介した様に、ハクサイ軟腐病菌は、植物の表面等で腐生的に増殖しており、その数が増加すると一気に病原性を発揮するようになるといわれています。そのため、防除をしないハクサイでも生育後期に発病する傾向が見られます。生育初期に軟腐病菌の増殖を化学的手法あるいは生物的手法で抑えておくのは大変効果的な方法だと考えられます。生物農薬バイオキーパーは軟腐病菌と競合することで増殖を抑制し、効果を示すといわれています。
ハクサイに軟腐病を引き起こすためには、生育初期から感染している必要があるのか?
生育後期に高密度で存在し、傷口等があれば容易に感染、発病します。接種試験が容易なのもその一例です。通常の圃場では、土壌中に生息していた物が水がはねる事あるいは根を介して感染しますので、通常は初期に感染し、ゆっくりと数を増やしていると考えられます。
細菌はその密度をどのように感知しているのか?
細菌は、クオラムセンシング(密度感知機構、クオラムquorumは、定足数という意味)という情報伝達によって密度を認知しているといわれています。その結果、低密度では病原性を発揮せず、高密度になると一気に病原性を発揮することになります。昔から、特に細菌病は、細菌の密度が1オーダー違う事で発病したりしなかったりする、といわれていたのが実証されつつ有る、ということです。この認知には、クオルモンと呼ばれる菌対外に分泌される物質が関与しています。脂肪酸エステル、遊離脂肪酸、ペプチドなど様々な物質がクオルモンとして機能するといわれていますが、最も研究が進んでいるのがN-アシル-L-ホモセリンラクトン(AHL)です。クオルモンは、同種の細菌同士ばかりでなく、多種認識等にも機能するという報告もあり、これを逆に病原細菌の防除に使用することが期待されています。
12月11日クラス
質問と回答
Pseudomonas syringae pv. tabaciのtabaciは種名の一部なのか?
種名は、Pseudomonas syringae です。その下位にあたる、宿主範囲や病原性による分類群は、分化型(forma)や病原型(pathovarやtype)で分けられていますが、講義でもご紹介した様に、種によってどれが使用されるかは議論のあるところです。植物病原細菌ではpathovar(pv.)が使用される事が多いようです。これは病原性に基づく品種を表します。講義の中で案ダーリンを引いたのは、イタリック表示の代わりです。Pseudomonas、syringae、tabaciがイタリックになります。
苗代栽培時代に、もみ枯細菌病菌はどこにいたのか?
イネもみ枯細菌病は1957年に初めて報告された病害です。想像ですがそれまでも発生してはいたのだと思います。しかし、箱育苗になって、栽培環境が変わる事にって問題になる位大きな被害を及ぼすようになったと考えると良いと思います。第1回の講義でご紹介したように、まさに病気が人間によって病害になった例ですし、そこには栽培環境の変化が大きく関わっています。
植物の葉の裏に気孔がないのは病原細菌の侵入を防ぐためなのか?
光合成能を高めるために関係ない気孔を裏側に配置したことや、異物(ゴミなど)の侵入を防ぐため、とされているようです。植物の進化において、気孔が葉の裏にあると病原細菌が侵入しにくくなりますので、それも一つの選択圧になっていたのかもしれません。
ファイトプラズマは極限まで宿主にたより、最低限の遺伝子しか持たないということだが、昆虫の体内で生きるための遺伝子は持つのか?
次週ご紹介する予定ですが、大変興味深いご質問です。講義でもご紹介した東大の難波先生のグループでは、ファイトプラズマの同じタンパク質が植物および昆虫細胞への取り込みに関与していることを見いだしています。昆虫による伝搬については次週ご紹介します。
植物病原細菌でヒトが摂食して問題となるものはないのか?
聞いた事がありません。
ファイトプラズマのように難培養性の微生物は研究対象として好ましくないのでは?
確かに取り扱いが難しいと思います。しかし、それと研究対象として重要かどうかは別問題です。ファイトプラズマ研究は、その欠点をどのように克服するかが腕の見せ所化かもしれません。もちろん、培養を可能にする、という研究に取り組むこともできますね。
ファイトプラズマは細胞壁を持たないとの事だが、外界に細胞膜が直接さらされて大丈夫なのか?
ファイトプラズマがこれまで植物細胞や昆虫細胞中からしか見つかっていないのはそのためかもしれません。
病原にとって、多氾性と高い宿主特異性を持つ事とどちらが有利なのか?
興味深い課題です。たしかに菌核病菌のようにとても多氾性の病原もいれば、ナシ黒斑病菌のように宿主範囲が限定された病原もいます。病原毎に生活環や発病メカニズム(1月に少しご紹介します)も異なりますので、その影響もあって宿主範囲が決まっているのだと思います。従って、有利、不利を議論する事は簡単ではないと思います。
12月18日クラス
質問と回答
ファイトプラズマとスピロプラズマは違うのか?
どちらも細菌の系統関係の図(11/27付けスライドの16図をご覧下さい)中のmolicutes綱に属しますが、16S rRNA遺伝子の塩基配列の解析等によってその綱の中で独立した集団を形成すると理解されており、それぞれに、Phytoplasma、Spiroplasmaという属名が与えられています。スピロプラズマは培養可能で、回転運動するらせん構造をとるのがファイトプラズマと異なる特徴です。
線虫に対する対抗植物はマリーゴールド以外にもあるのか?また、殺線虫物質自体の応用はされているのか?
対抗植物としては、マリーゴールドが有名ですが、その他にもギニアグラス等も同様な作用を持つ事が報告されています。詳しくは、九州農業試験場のHP http://konarc.naro.affrc.go.jp/jnews/38/38p02.html をご参照ください。殺線虫物質を殺線虫剤として利用する研究や、殺線虫物質をつくる組換え体を作成する研究については私は情報を持っていません。
マリーゴールドが対抗植物として有効なのはネグサレセンチュウ類だけか?
線虫は比較的広い範囲の植物の根に侵入するようです。そのため、マリーゴールドなどの対抗植物にも侵入します。ところが、マリーゴールドは、殺線虫物質であるα−terthienylを組織内に分泌して、線虫の生育を阻害し、殺すとされています。従って、マリーゴールドの場合は、基本的には、内部寄生性線虫に対して効果があるとされます。従って、ネグサレセチュウやネコブセンチュウに対して効果があります。
シストセンチュウのシストは卵がふ化した後またメスとして機能するのか?
シスト化した時点ですでに死んでいます。
シストのふ化促進物質は宿主特異性を決定しているのか?
宿主がそばにあることをふ化促進物質認識してふ化をするため、宿主特異性に関与しています。しかし、ふ化した幼虫が植物に侵入する際の認識にこの物質が関わっているかどうか(正確にはこれが宿主決定因子の役割です)については、探してみましたが情報が得られませんでした。
トマトに接種されている弱毒CMVは何故農薬登録をとらずに使用できるのか?
日本デルモンテのHP http://www.delmonte.co.jp/garden/know/vaccine.html をご参考になさってください。私は何故農薬登録をとらなくて良いのか良く理解できないでいます。以前、「通常CMVは良く感染していてすでに皆が口にしており、安全性が確認されているような物だから」のような理由(いわゆる特定農薬にすべきもの)だと聞いた気がしますが、正確かどうかわかりません。
弱毒CMVが増えすぎると植物に影響がでないのか?逆に弱毒CMVが植物に影響が無い程度しか増えないのであれば、他のウイルスの防除能が下がるのでは?
日本デルモンテの弱毒CMVではサテライトRNAだけが大量に増え、RdRPを使ってしまいます。この時点ではゲノムRNAの複製に至らないため、病徴がでません。後から感染するウイルスもRdRPを使えず増殖できないため、病徴がでないことになります。
弱毒ウイルスはどのようにして得られるのか?
日本デルモンテの弱毒CMVは自然界からとられたものです。そのほか、経代、UV照射、遺伝子組換えなどによって誘導した例もあります。
1月 8日クラス
質問と回答
病原菌が物理的に侵入するか、化学的に侵入するかはどのようにして決まったのか?
お答えするだけの知見が得られていません。「どちらがより進化した侵入方法なのか?」とのご質問もありましたが、これにもお答えする根拠がありません。「イネいもち病菌以外にも物理的な力でのみ侵入する菌はあるのか?」というご質問もありました。私は聞いた事がありません。とすると、イネいもち病菌はかなり特殊な菌であるかもしれません。もともとは、菌は酵素を用いて化学的な力で主に植物に侵入していたが、イネいもち病菌は特異的に力で侵入する事ができるようになったので、化学的な力を侵入に使用する事をほとんどやめてしまった、と考える事も可能かもしれません。
「ムシラージ」とは何か?
ご紹介したのは、イネいもち病菌の菌糸や付着器がイネ表面に付着するのに使用している粘着物質です。
病原と植物が接触するまえに相互認識する事もあるのか?
植物が分泌する物質や病原の菌体表面の糖などが関与する場合、接触前に相互認識する場合があります。例えば、前回の講義でご紹介したダイズが生産するシストセンチュウのシストふ化物質(グリシノエクレピン)などはその例と考える事ができます。
宿主植物が産生するファイトアレキシンやPR-タンパク質は植物によってことなるのか?また、対象の病原菌によって異なるのか?
植物は複数のファイトアレキシンやPR-タンパク質を持ちますが、種類によって異なります。また、病原菌によって、生産されたりされなかったり(認識されたりされなかったり、と理解する事もできます)、しますし、異なるファイトアレキシンやPR-タンパク質の生産パターンを示す場合があります。
PR-タンパク質は抗菌性物質なのか?ファイトアレキシンもPR-タンパク質の一種か?
抗菌性タンパク質として機能すると考えられています。ファイトアレキシンはタンパク質やペプチドではありません。資料をご覧下さい。
サリチル酸は、「病原が来た」という情報の伝達物質なのか?
未だ完全に解決されていない課題です。グリコシド化したサリチル酸が伝達物質で、局所的な信号(ある場所に病原が来たという情報)を全身に伝えていると考えるのが妥当である証拠が蓄積されてきています。しかし、サリチル酸やその他の物質が伝達物質であるという報告や、サリチル酸は信号の増幅の役割を果たしているという説も否定されてはいません。
1月22日クラス
質問と回答
non-selective toxinを産生する事は何か利点があるのか?
植物に侵入できた場合に、毒素が病原性因子として機能する場合は、栄養分を得る事につながります。また、他の病原(あるいは微生物)との競争に勝てる可能性も想定されます。
非殺菌性薬剤の利用は現実的なのか?
講義でもご紹介した様に、イネいもち病用のメラニン生合成阻害剤、イネ紋枯病用バリダマイシンA、プラントアクチベーター等で実用化されている物があり、耐性菌が出現しにくいことからかなり長期間に亘り使用されてきている物があります。もちろん、病原菌を殺す機作のあるものよりも効果がシャープでない場合もあるようですが、それでも使用価値のあるものが生き残っていると考える事ができるでしょう。従って、現実に使用できる物であると考える事ができます。(注:殺菌性のある剤が良くないとか、非殺菌性の剤にとって代わるべきだ、と言っているのではありませんので、誤解の無い様に)
非殺菌性薬剤の利用は現実的なのか?
講義でもご紹介した様に、イネいもち病用のメラニン生合成阻害剤、イネ紋枯病用バリダマイシンA、プラントアクチベーター等で実用化されている物があり、耐性菌が出現しにくいことからかなり長期間に亘り使用されてきている物があります。もちろん、病原菌を殺す機作のあるものよりも効果がシャープでない場合もあるようですが、それでも使用価値のあるものが生き残っていると考える事ができるでしょう。従って、現実に使用できる場合があると考える事ができます。(注:殺菌性のある剤が良くないとか、非殺菌性の剤にとって代わるべきだ、と言っているのではありませんので、誤解の無い様にお願いします)
なぜBITでなくPBZが商品化されているのか?
正確な知識がありませんが、製造コスト、安定性、薬害などの面からPBZが商品化された物と思われます。
1月29日 試験を行いました
試験は、以下の要領で行いました。
『試験に際しては、講義で配布したプリント類、ノート類、御自分で復習された紙類は持ち込み可とします。教科書、参考書などは持ち込めません。なお、試験前に講義のプリント・ノートおよび参考書を利用して勉強していただき、病原微生物に関する理解(記憶ではない)をしていただきたく思います。従って、細かい語句、名前等の情報についてはプリントなどの資料をご参照され、独自性のある答案をつくっていただくことを期待しています。』 図書館所蔵の教科書・参考書は、皆さんが閲覧できる機会を確保するために、長期間借り出ししないようお願い致します。なお、成績の評価は、シラバスにもありますように、「授業出席回数」+「試験評点」で行います。授業回数には試験日は含みません。また、授業出席回数が「7」以下の者は試験の成績にかかわらずDと評価します。詳しくは有江へお尋ね下さい。
試験問題と評価のポイント(380 kb pdf)