平成17年度
2581 病原微生物学授業情報

Modified: Feb 1, 2006

質問に対する回答など


10月 4日クラス

質問と回答

この講義は病原側を主に対象とするのか?
その通りです。講義名もそれを表しています。しかしながら、植物の病気は、次週ご紹介致しますように、植物ー病原の相互関係の結果顕れて来るものですので、植物側をも良く知らなくてはなりません。従いまして講義の中では関係する限りで植物に関する知見などもご紹介していきます。

次世代を残せる場合は病気とは言わないのか?
授業で示した不健全な植物の状態は、どれか一つがあてはまれば良いという意味で、最終的に次世代を残せない場合のみを病気という訳ではありません。人のことを考えても同じですね。

なぜ耕地生態系では植物と病原の共進化速度が速いのか?
一つは、植物及び病原の密度が高い事により、変異および固定の機会が多いことが想定されます。さらに、作物は育種などによって人為的に速い速度で変化しますので、それに対応する病原の共進化も速いと考えられます。Lucas, 1998には、「It is likely that plants in natural communities have co-evolved with their pathogens over long periods of time, leading to some kind of host-pathogen equilibrium, while plant breeding and the deployment of crops in new areas have sidturbed this balance」とあります。

耕地生態系を自然生態系に近づけるこころみはあるのか?
試みられています。例えば、農工大BASEの豊田剛己先生は、土壌で伝染する病害を、土壌微生物の多様性を利用することで防ぐけんきゅうしておられます。生物多様性は自然生態系の特徴の一つだからです。ただし、植物生産(農業)やその効率化と、それを自然生態系ベースで考えることはかなり矛盾点がありますので、耕地生態系を自然生態系に近づけて植物保護に役立てることはそれほど容易では無いと私は考えています。

Lucas (1998)の図の「Economic yield 」のレベルはどのようにしたら上げることが出来るのか
単純には、植物保護のための処理(農薬散布等)の費用を相対的に下げてやれば良いことになります。これには、農薬の価格を下げる、特効的な農薬を用い使用回数を減らす、農薬に代わる安価な方法を確立する、販売価格を上げる、などが想定されます。

植物検疫制度はどのようにしてつくられたのか?
世界で最初の植物検疫制度は、ブドウの害虫フィロキセラ(ブドウ根アブラムシ)がアメリカからヨーロッパへ侵入したことに基づき、ブドウ苗を検診するために1872年にドイツでできたとされています。1951年には国際植物防疫条約が制定され、我が国も批准しています。

病原菌はある地域に固有に存在するものか?産地が移動すると病原菌も移動するのか?
植物と比較的近い関係にあった微生物が病原性を獲得することによって病原となったと考えられています。また、病原性獲得およびその後の病原性進化の過程は、上の質問とも関連しますが、植物との共進化の過程であると考えられます。従って、当初はある地域に固有に限られて存在していたと考えられます。最も簡単な理解が、植物の原産地周辺で病原も発生したとする考え方です。その後、植物の移動とともに病原も移動しています。

植物病原が関係しない腐敗はあるのか?病原が居る場合、食べても害はないのか?
植物組織が生きている限り、起こった現象は植物病原による腐敗症状と考えて良いと思います。調理済みの植物については対象外です。なお、これから授業のなかで紹介しますが、植物病原にも生きた細胞から直接栄養分をとるものや、細胞を殺して(組織を腐敗させて)栄養分をとるものなど、様々な栄養のとりかたがあります。植物病原菌で植物組織中に毒素などを生産するものもありますので、病原菌に感染している植物を食することは好ましいこととは言えません。しかし、発病していない場合は、感染していたとしても病原の量およびそれが産生する物質の量も少ないと考えられますので、実害は少ないと考えられます。

カンキツかいよう病菌は温州ミカンにはあまり発病させないとのことだが、温州ミカンの中で生きているのか?
生きています。その生息様式によって激しい病気を起こさせません。詳しくは細菌に関する授業でご紹介します。

ファイトプラズマとMLOは同じものか?
詳しくは細菌の授業でご紹介しますが、同じ者です。古い名前と、現在の名前です。この講義では、基本的にファイトプラズマで統一したいと思っています。MLOの記述を残してしまい、申しわけありませんでした。


10月11日クラス

質問と回答

人間に罹る植物病原菌はあるのか?
ありません。講義の中で植物病原のリスクについて紹介しましたが、主に食糧として人が摂取する植物に残留する毒素のことを述べました。詳しくはマイコトキシンの講義でご紹介します。麦角毒素に関するご質問もありましたが、これもその時にご紹介します。

植物病害に対して予防的に使用する農薬は、病原の種類だけ必要になるのか?
各農薬には、その適用範囲があります。言い換えれば各々の薬剤のスペクトラムは異なります。そのため、予想される病害に対してできるだけ少ない数の薬剤を処理することになります。特異性が低い(スペクトラムが広い)薬剤を処理すると多くの病害に効果を示すことが期待されますが、標的外生物への影響も懸念されます。一方、特異性が高い(スペクトラムが狭い)薬剤の場合は数を沢山使用する必要がでできますね。防除のところで簡単にご紹介する予定です。

標徴として顕れる病原は顕れない病原と何が違うのか?
主に、植物表面で多く増殖し、病害を引き起こす病原で標徴が見られます。増殖量がそれほど無い病原、植物組織内へ侵入することが多い病原では標徴が出にくい傾向があります。詳しくは各論でご紹介します。

病原微生物の生活環は1サイクルどのくらいか?
重要な質問です。植物病原の場合は、植物に寄生して栄養をとることが重要であると考えられます。そのため、病原微生物の生活環は植物の生活環との関連が密接になります。従って病原毎言い換えればその病原が寄主とする植物毎に異なることになります。詳しくは各論でご紹介します。

ファイトプラズマは電子顕微鏡で見えるのか?
感染植物の徴薄切片を電子顕微鏡観察すると、主に師管部に不定形のファイトプラズマが観察できるようです。

(菌類などにくらべて)ウイルスやウイロイドで垂直伝搬が重要なのは何故か?
ご質問頂いた主旨を上の様に私は判断しました。お応えするのが難しい質問です。菌類などでももちろん垂直伝搬される病原はあります。しかし、水平伝搬による場合が圧倒的に多いため垂直伝搬があまり多く見えないこと、また、菌類の垂直伝搬による病害が一部を除いてあまり大きな問題としてとらえられないことによって、菌類の場合は垂直伝搬が比較的重要でないと考えられています。一方、ウイルスでは、アブラムシなどの水平伝搬とともに接ぎ木や球根での垂直伝搬が大きな被害を与えるために比較的重要であると考えられているようです。なお、今回の授業の感想で「水平伝搬よりも垂直伝搬の方が重要なことが良く解った」とのご意見を戴きましたが、これは一部の病原に関してであり、多くの場合、水平伝搬はとても重要な役割を果たします。

線虫はどのようにして垂直伝搬するのか?
主に種子表面に付着して垂直伝搬します。土壌中に残存したり、シストが種子と混ざって伝搬したりしますが、これは垂直伝搬とは言いません。「線虫とは何か」というご質問をいただきました。今回の授業では「線形動物門」に属する生物であるとご紹介しましたが、さらに詳しくは御自分で調べてみて下さい。

病原が種子によって垂直伝搬される場合、健全な種子と比べて生育などに障害はないのか?
「病原」が種子で垂直伝搬される場合、当代(種子が発芽してできる個体)に病気が発生しますので、いずれ何らかの障害がでます。また、病原によっては、種子の発芽阻害(発芽率の低下)や、発芽後すぐの枯死、発芽後すぐの徒長などの症状を示すものもあります。各論でも具体例をご紹介します。

菌類の分子系統解析は具体的にどのように行うのか?
授業でもご紹介したように、DNA塩基配列の差を比較して、その差が大きいほど遠縁であるとする解析方法です。昨年の質問と回答の中にも類似のご質問がありますので、ご参考になさってください。

卵菌類の現在の所属について知りたい?
10月18日の授業でご紹介する予定です。

質問&回答などの文字が見にくい。図が小さく文字が見にくい。
質問内容の文字色を濃くしました。図については本などから引用している関係で文字が小さくなっているものがあります。できるだけ見やすいように努力はしていますが、まだ見にくい場合は図に出典をつけてありますので、そちらをご覧下さい。


10月18日クラス

質問と回答

圃場において農薬などを使用する場合、どの程度標的外生物への影響を考慮しなくてはならないのか?
答えはありません。もちろん、理想的には標的外生物への影響がゼロであれば好ましいのですが、そんな防除法はありません。そもそも、植物生産(農業)自体が自然とは全く異なるものですので、農薬散布などによる標的外生物への影響についても有る程度は許容しなくてはなりません。しかしながら、ヒトやヒトにとって有益なものへの影響についてはすぐさま問題が提起されてきますので、早急な対応が必要になります。水系に出たときの魚への影響(魚毒性)など、基準が明確なものもありますが、多くは1例、1例ずつ対応して行かなくてはならないと思います。過去に、植物病原菌をターゲットとした菌生菌(菌をたべる菌)生物農薬がシイタケ栽培農家から拒絶反応を示されたことがありますし、最近では、(殺菌剤ではありませんが)ネオニコチノイド系の殺虫剤がミツバチを殺し、養蜂業者に被害を与えたニュースがありました。

雨でながされて土壌とともに川に入った病原は水中でどの程度病原は生存するのか?
データを見たことがありませんが、例えばアブラナ科植物根こぶ病菌では、休眠胞子が水とともに移動することが伝搬の1方法で、その場合は長期(川に流れ込んでから海に達するまで)に生存はずですので、そのような水を潅漑に利用すると感染の危険性は有ると思います。

病徴を示す英語の一部が分からない?
choke:詰まること。成長がとまること。clubroot:根こぶ。アブラナ科野菜根こぶ病菌Plasmodiophora brassicaeによって根にこぶが形成されること。

菌類の体外(細胞外)消化について知りたい
菌類は、例えば麹菌では、分解酵素アミラーゼなどを細胞外に分泌して、デンプンなどを分解した産物(グルコースなど)を細胞内にとりこみ、呼吸基質などとして利用します(腐生菌の栄養のとりかたです)。植物病原菌では、ペクチン質分解酵素(ポリガラクツロナーゼなど)やセルラーゼなどを分泌して、生きた植物の細胞壁関連多糖を分解し、得た単糖類などを細胞などに取り込んで利用しています。くわしくは、竹内道雄先生が講義などでご紹介されていると思います。また、「キノコとカビの基礎科学とバイオ技術」などの本をご参照下さい。

不完全菌門Deuteromycotinaは現在はどうなっているのか?
旧来から現在まで提案されている分類体系は、どれが正しく、どれが誤りであるかということはできません。自分がどの分類体系を良いと考えて採用するかです。従って、不完全菌門が無くなってしまったわけではなく、最近は一般的に不完全菌門を認めない分類体系を用いるようになってきたということをご理解下さい。その上で、もともと不完全菌門に属していた種は、現在の不完全菌門を認めない分類体系では概ね子嚢菌あるいは担子菌に属すると理解されています。ただし、まだ完全世代(有性生殖環とそれに伴う子実体)が見いだされていない種も多く、その場合、子嚢菌あるいは担子菌としての学名を持たず、系統解析などから、既報の子嚢菌種、担子菌種に近い、不完全性子嚢菌種、不完全性担子菌種として理解されています。

現在の誤った分類体系は完全に改訂されるのか?
上にも書きましたように、分類体系に正しい、誤っているという評価はできません。ただし、生物の系統関係を表す分類体系かどうかの評価は可能です。現在の分類体系は10月11日の講義でもご紹介したように、決して系統関係を反映したものではありません。分類体系の究極の目標は生物の進化の過程、言い換えれば系統関係をただしく表現することですが、ほぼ不可能なことと考えられます。なぜなら、ケヤキの木に例えるなら、系統は過去からの進化の過程を示す連続的な幹や枝のような形で示され(樹形図をご覧になったことが有るかと思います)、また、分岐した枝も一本線でなく太さを持ったものであり、さらに細胞内共生などで枝が入り組む場合があること、一方、分類はそのケヤキの木をどの平面で切断してその枝の範囲を分類群とするかという考え方を表すものになります。実際には分岐の位置が一定でない(ケヤキで言えば枝はばらばらば高さで分岐している)、生物の系統をすべて同一平面で切断することは出来ないことからも、系統関係を分類体系に反映することは困難であることは分かります。

トマト萎凋病菌(Fusarium oxysporum f. sp. lycopersisi)とその他のFusarium oxypsorumでは遺伝子レベルでの差は無いのか?
有るはずですがまだ残念ながら明らかになっていません。これはまさに私どもの研究テーマです。この差が明らかになると、なぜトマトの病原菌がトマトに寄生するのかが解明され、その結果に基づいて萎凋病を防除することも出来るかもしれません。トマト萎凋病菌はトマト以外の植物に寄生できないのか?という質問も戴きました。トマト萎凋病菌は、植物の枯死した残渣や培地から栄養をとることは出来ますので、トマトに寄生しないでも生きていくことができますが、トマト以外の植物(ナス、キュウリ、メロンなど)には寄生できません。このように限られた植物にしか感染しないことを「寄主特異性が高い」と表現します。一方、様々な植物に寄生できることを「寄主特異性が低い」あるいは「多氾性である」などと表現します。菌核病菌(後日各論でご紹介します)などが多氾性の菌の代表です。

植物には動物のような免疫機構はないのか?
動物ほど精密なものではありませんが、存在します。1月10あるいは17日にご紹介します。

先日新聞に出ていた「ハテナ」は画期的な菌なのか?
Noriko Okamoto and Isao Inouye (2005) A Secondary Symbiosis in Progress?Science 310: 287の事ですね。これは、鞭毛虫が光合成能を持つ緑藻を取り込む現象、あるいはその分裂様式に係わる報告で、これまで「説」とされていたクロロプラストの細胞内共生の過程を現実に示すことができる大変興味深い例だと思います。しかし、残念ながら菌ではありません、、植物病原微生物とは直接の関係はありませんでしたが、ご参考までに記しました。


10月25日クラス

質問と回答

きのこが担子胞子を飛散させるメカニズムを知りたい
担子菌の「きのこ」は一般的にその子実体(かさ)下部に多数の担子胞子を形成します。子嚢菌の「きのこ」の場合は、子実体(子のう盤など)の上部に子嚢胞子を形成します。これらの胞子は、子実体および胞子の成熟に併せて子実体を離れて風で飛散することが多いようです。この際に、天候や湿度などにも影響を受けると考えられます。トビムシ、キノコバエ、リスなどの昆虫や小動物も伝搬に関与する場合があるようです。

菌糸の細胞にはウォロニン小体がある場合と無い場合があるのか?
一般に、子嚢菌で隔壁に孔を持つものでウォロニン小体が確認されています(これまで50種以上)。最近では麹菌のヴォロニン小体の形成や動態の研究が我が国でも進められています。一方、担子菌の菌糸にはウォロニン小体は無いようです。これは担子菌が樽型孔隔壁という特殊な隔壁を持つことと関係があるかもしれません。

隔壁の無い菌糸の研究は進んでいるのか?
接合菌類が隔壁のない菌糸を持ちます。菌糸形成、分枝、伸長メカニズムは、アカパンカビやコウジカビなどで研究されていますが、接合菌類についての情報は持ち合わせていません。

菌糸が先端伸長する際に、どうしてミトコンドリアが先端に近い部分に多くなるのか?
菌糸が先端成長するときには、先端部で細胞壁の分解、細胞膜の新生、細胞壁の再構築などの一連の反応が起きます。そのためにはエネルギー(ATP)が必要となります。そのため、先端部に近いところ(正確には先端部の少し後ろ)でエネルギー生産をした方がATPのような比較的反応性の高い物質の輸送をしなくて済む点で有利なのではないでしょうか。

イネ紋枯病菌はなぜ転流糖としてトレハロースを使うのか?
昨年の質問に対する回答をご覧下さい。

細胞壁の構造成分が菌の分類群によって異なる理由は?
菌が進化の過程で細胞壁の構成成分を少しずつ変化させ、それが固定したと考えられます。この変化の結果の差と分類群が合致していると言うことは、分類群が比較的系統を反映していることを示していると思います。

菌の細胞は何故多核になるのか?その利点は?その場合どの核由来の形質を発現するか、どのように制御されているのか?
私は知る限り、ご質問の現象は確認されているものの、そのメカニズム等は未知です。お答えできず、申しわけございません。利点などその他の情報については、平成15年の10/28分の回答をご覧下さい。

DAPIとは何か?
細胞の核染色に良く使われる試薬で、diamidino-2-phenylindoleのことです。DAPIは、DNAに特異的に結合し、UV下で青〜紫の蛍光を発するため、蛍光顕微鏡下でDAPI染色した細胞の核が容易に観察できます。Toda T. et al. (1981) J. Cell Sci. 52: 271-187が原論文です。

セクターから有用な菌を得ることは可能か?
セクターは、異核共存体の機能している核が代わること、あるいは遺伝子自体の変異の結果、多様性のある性状が現れる1つの例であると考えられます。セクターとして見えるのは、形質の変化が目に見える菌そうの変化として顕れる場合だけで、実際には目に見えない形で他の性状の変化が生じている可能性があります。遺伝子の変異の結果出現したセクターからは新規の性状を持った菌株が得られ、これが利用可能な場合もあります。しかしながら、異核共存体の機能している核が代わった場合には、その性状が戻る可能性もあり、安定性が問題となりそうです。


11月 1日クラス

質問と回答

菌類の分類が新旧あり、混乱する
配布したプリント(テキスト)では、1995年以降にDisctionary of the Fungiで基準とされている分類体系に従っており、それに沿って授業もすすめています。しかし、教科書などでは1973年のAinsworthの分類体系に従って記述されていたものもあるため、混乱を避けるために3回目の授業でその比較についてご説明しました。その際に、1973年の分類体系が形態重視の結果なぜ系統関係を反映しなかったか(例えば、遊走子の形成の有無による分類など)についてご紹介しました。今回の授業では、1995年以降の分類体系に従ってご紹介しましたが、遊走子の説明をすることを前提に旧体系との関係をご紹介したことが混乱を招いた原因かと思います。分かりにくかった部分については、詳しくご説明いたしますので、研究室までお越しいただけると幸いです。なお、旧体系と新体系の大きな違いの部分は、今回の授業で終了しましたので、今後は混乱も無いと思います。

菌類はなぜ偽有性生殖をする必要があったのか?有性生殖の方が効率的では?
必要があったのかどうかは分かりませんが、偽有性生殖という特殊な生殖方法を得、それが現在まで残っているのですから、なんらかの有利な点があったと考えるのが適当であると思います。偽有性生殖は減数分裂を伴わないにもかかわらず、その課程で染色体のシャフリングや染色体乗り換えによる遺伝子組み換えが起き得、結果的に親と形質の異なる次世代が誕生する可能性があります。偽有性生殖において核相がnに戻るための染色体の不等分配の頻度はかなり低いとは思いますが、無性生殖環を繰り返し、その過程で頻繁に菌糸融合や異核共存状態に成り得る菌の場合、偽有性生殖はいつでも新形質を生み出せる生殖法であり、かえって効率的であることも考えられます。

偽有性生殖において、どのように単相化するのかよくわからなかった
染色体の不等分配の繰り返しによって2組存在した相同染色体の一方が失われて行き、最終的に単相になると考えられています。詳しくは、「現代真菌学入門」pp. 128-をご参照ください。

アブラナ科野菜根こぶ病を抑制を目的にオーキシン阻害物質を利用する場合、植物への悪影響は考えられないのか?
もちろん、影響があることが想定されます。実際、phenyl butyric acidは、低濃度(2-5 micro gram/ml)でハクサイに薬害や不発芽を生じさせました。一方、triiodobenzoic acidは、25 micro gram/mlでは薬害を生じましたが、10 micro gram/mlでは薬害を生じず、根こぶ病の発病抑制効果を示します。また、根こぶ形成時に、「オーキシンは植物が過剰につくるのか、病原がつくるのか?」、というご質問を戴きました。現時点では、植物が過剰に生産すると考えられていますが、その生産誘導メカニズムなどの詳細は未詳です。

アブラナ科野菜根こぶ病菌休眠胞子の発芽条件は?
授業でもご紹介しましたが、アブラナ科植物の根の滲出物などによって発芽が誘導されるとされています。しかし、誘導できる割合は非常に低いようです。一度にたくさん発芽してしまうと、感染の競合が起きる、あるいは発芽した後で条件が悪いと、死滅するものがおおくなります。発芽率が低い利点は、徐々に発芽することで長期間土壌中に生息する可能性が高くなることと理解されています。

アブラナ科野菜根こぶ病菌はどのように伝搬するのか?
授業の中でもご紹介したように、水で伝搬します。また、土壌とともに風で運ばれることもあるようです。

アブラナ科野菜根こぶ病菌休眠胞子を餌にする微生物はいるのか?
休眠胞子を食する微生物については残念ながら聞いた記憶がありません。

Phytophthora infestansはなぜ分生子と遊走子嚢をつくるのか?
いただいたご質問を少し変更しました。この質問内容で良いでしょうか?Phytophthora infestansが無性的に形成する胞子は直接発芽して菌糸を伸長すること、およびその胞子自体が内部に遊走子を持ち、それを放出する場合があります。前者は「分生子(無性的につくられ、増殖に関与する胞子)」と判断されますし、後者は「遊走子嚢」ということになります。もともと同種類の胞子が2つの機能をもつ理由は明らかではありません。菌糸を伸長することと遊走子をつくることと感染にどちらが好ましいか、環境条件によって制御しているとすると興味深いのですが、、「この胞子が勇壮子嚢になるのかどうかは、どのように決まるのか?」とのご質問もありましたが、上記からわかるように現時点でお答えできる情報はありません。

乾燥を好む病原菌はいるのか?
根こぶ病菌や疫病菌は高湿をこのむ病原と考えられています。うどんこ病菌は、葉がぬれているような高い湿度は好みませんが、乾燥を好むとまでは言えないと思います。菌類はある程度高い湿度がある条件で菌糸などを良く伸長することが多く、比較的高湿を好むと思います。もちろん、子嚢殻や厚膜胞子などの耐久器官は乾燥化でも生存できます。

11月8日は休講です。


11月15日クラス

質問と回答

接合菌が菌糸に隔壁を持たないメリットはあるのか?
申しわけありません。お答えできるだけの知識がありません。調べてみます。

宿主交代をするさび病菌で、宿主が近くになかったらどうなるのか?
もちろん、近くに両方の宿主が存在した方が有利ですが、授業でもご紹介したように胞子をかなりの距離とばすことができます。ナシの産地では、ビャクシンを植えないように指導しているという話も聞きます。なお、宿主にたどり付けなかった胞子は死ぬと考えられます。これは、宿主交代をするさび病菌でも、宿主交代の無い他の病原菌でも同様です。そのため、多数の胞子をとばすようです。過去の質問と回答もご覧下さい。

さび病菌が宿主交代をする意味は無いのでは?
さび病菌は絶対寄生菌であると考えられています。従って、植物残渣上などで生育することができません。宿主植物が無い期間(例えばムギ類であれば夏から秋)に、他の宿主植物上で生活できれば、耐久体などをつくる必要が無くリーズナブルではないでしょうか。

オオムギ黒補病菌は種子内部に侵入するとのことだが、種子外部では生きられないのか?
種子で伝染する病原菌は数多くあります。しかし、菌類や細菌類ではおおむね種子の表皮か種皮の内側に生息して伝染するものが多く知られています。オオムギ裸黒補病菌は、胚乳にまで侵入して伝染するのが特徴ですのでそのことについてご紹介しました。後の質問に対する回答でも述べますが、生育が比較的遅いなど、他の菌が存在するところでは競争に負けて生存しにくいのかもしれません。

黒補病菌が難培養であるということはどういう意味か?
なかなか分離できない、という単純なことですが、その理由としては生育が遅い、酵母状になる、などが上げられます。


11月22日クラス

質問と回答

モモ縮葉病菌は越冬時に芽や小枝のどこに居るのか?
芽の鱗片や小枝の皮目で越冬すると言われています。

核菌綱がつくる偽子嚢殻とはどのようなものか?
子座と呼ばれる菌体に埋もれて形成される子実体です。子実体の外殻が子嚢殻の様に明確につくられないことから、pseudotheciumと呼ばれ、これを和訳して偽子嚢殻となりました。

完全世代未発見の菌の完全世代はどのように発見するのか?
お答えが難しい質問です。当該の菌の原産地では、遺伝的多様性が高いと考えられるので、そのようなところで探索をすることが試みられています。植物病原菌の場合は菌と宿主植物の共進化を考慮して植物の原産地に近いところで採集を行うこともあります。イネいもち病菌の交配能を持つ株は、そのような考え方から、中国雲南省などで採集が試みられ、採取されました。

中国雲南省からのイネいもち病菌は人工的に交配できるとのことだが、野外で完全世代は確認されていないのか?
農業生物資源研究所の林長生先生は、中国雲南省から交配能を保持するいもち病菌を持ち帰られましたが、野外で完全世代は発見できなかったとおっしゃっています。ただし、見つからなかったというだけで、野外で完全世代が形成されている可能性はもちろん残っています。

カンキツ類緑かび病菌は実から実へ感染するか?
します。分生子をたくさん形成し、これが健康な果実の傷などから容易に感染します。従って、カンキツ緑かび病の発生を見つけた場合は早く取り除く必要があります。Penicillim sp.を食べると体に良いのか/体に害か?という質問を戴きました。抗生物質ペニシリンがPenicillium sp.から取られたことから、Penicillium sp.を食すると体に良いと言う話があるのでしょうが、少なくとも”科学的”に良いと判断する根拠はないでしょう。Penicillim spp.は様々な物質を産生することが知られていますので、積極的に食するべきでは無いと思います。

潜在感染は日和見感染と同じか?
潜在感染は、「すでに病原が感染しているものの発病に至らないでいること」を言います。一方、日和見感染は「通常あまり感染しない様な微生物が宿主の状態(弱っているなど、)によって偶発的に感染すること」を言います。潜在感染している病原によって発病するのは、条件が整ったときで、例えばカンキツ緑かび病では、pHレベルの変化によって発病すると言われています。潜在感染している病原による発病をさせないためには、病原の生育にとって不適当な環境条件、例えば低温に置く、湿度を調整する、などが想定できます。

花粉で媒介される病原菌はあるか?
聞いたことがありません。鳥などに運ばれる病原もあるのか、というご質問もありました。有っても不思議ではありませんが、これもデータを見たことがありません。

マイコパラサイトについて知りたい
後日講義の中でご紹介する予定です。


11月29日クラス

質問と回答

花器感染する病原が多いようだが防御メカニズムは無いのか?
植物は病原などの「他」を排除するための様々な防御メカニズムを持ちます。そのメカニズムについては1月10日にご紹介します。花器ではこの防御が弱いため、花器から感染する病原が多くなると考えられています。その理由としては、花器では、受粉のために、「他」の存在を容認しやすくしているためと考えられます。

宿主特異的毒素について詳しく知りたい
1月10日の授業でご紹介する予定です。植物側の毒素受容体の存在についても同日ご紹介します。また、植物病理学関係の本に詳しく書かれていますので、ご参照下さい。宿主特異的毒素と宿主品種の共進化および宿主特異的毒素の由来は、現在精力的に研究が進められている分野です。詳細については大学院植物病原学特論などでご紹介する予定です。

宿主植物を認識して宿主特異的毒素を産生する病原はあるのか?
授業でご紹介したトウモロコシごま葉枯病菌やナシ黒斑病菌は常に宿主特異的毒素を産生します。しかし、最近、アブラナ科植物黒すす病菌Alternaria brassicicolaは宿主植物であるアブラナ科植物の成分によって毒素産生が誘導されることが分かっています。

うどんこ病菌の宿主特異性はどの程度か?
例えば、コムギうどんこ病菌(Blumeria. graminis f. sp. tritici)は基本的にはオオムギには病気を起こしませんし、逆にオオムギうどんこ病菌(B. graminis f. sp. hordei)はコムギを侵しません。イネにはうどんこ病は報告されていません。このように、同一病原種の中に宿主を異にする分化型が存在するものもあります。

なぜ細菌病に対する農薬は少ないのか?
ヒトや動物の細菌病に対する薬剤はたくさんあります。それに比べて植物の細菌病に対する薬剤が少ないのは、細菌による植物病害が糸状菌によるものより少ないため開発意欲が低い、スクリーニングされた場合には医薬に優先的に供試される、耐性菌の観点から同じ薬剤を使いづらい、などの社会的理由もあるようですが、植物に薬害を出さずに細菌に効果のある剤がなかなかスクリーニングで出てこないことも理由のようです。


12月 6日クラス

質問と回答

細菌の系統で、グラム陽性菌がDNAのGC含量によって分かれているが、それは形質の差に関係があるのか?
グラム陽性菌は大きく2つの系統に分かれます。DNAのGC含量もその系統を反映して、差があります。様々な生物群の指標としてGC含量が記録される場合がありますが、それが形質に直接関係するというよりも、系統関係を示していると考えた方が良いと思います。

根頭がんしゅ病菌はオーキシンを産生してこぶを作らせるが、その利点は?
オーキシンは、細胞壁のゆるみを誘導する、細胞膜の透過性を増大させるなどの働きがあります。このため、病原細菌が定着・増殖しやすい、栄養分を得やすい環境になるのではないかと考えられています。

リンゴ火傷病菌の菌泥が虫を誘引するとのことだがどういう理由か?
細菌の多糖質と、植物の樹液として分泌されるソルビトールが虫を誘引するそうです。(私はなめたことがありませんが、甘いようです)

リンゴ火傷病に罹病した樹で、離層が形成されず樹上に葉が残るのはなぜか?
病気が葉側からでなく、樹側から進展し、水分が欠如して萎れるので、離層が形成される前に枯死してしまうことが原因の様です。

軟腐病菌が居住型生存のまま発病しないで終わることはあるのか?
もちろんあります。傷から感染できなかったり、発病条件が整わなければ、発病しないと考えられます。

本日の回答のヒントは、静岡大学農学部瀧川雄一教授にいただきました。


12月13日クラス

質問と回答

タブトキシン解毒酵素を導入した組換えタバコの味はどうなのか?
私はタバコを吸いませんし、通常タバコはブレンドの結果販売されますので、組換え体の味については詳しくありませんが、開発された米山勝美現明治大学教授は、味は川和無いとおっしゃっていたように思います。

種子の温湯消毒によって種子の発芽率への影響は無いのか?
一般に処理の温度を上げるほど消毒効果は高くなります。しかし、温度を上げるに従い、種子の発芽率は低くなります。そこで、消毒効果が見られ、発芽率の低下が問題にならない程度の温度設定が重要になります。その結果、40〜50Cでの処理がよく行われるようです。また、細菌は40C程度で本当に死ぬのか、とのご質問が有りました。芽胞を形成するような枯草菌や納豆菌はかなり高温に耐えますが、植物病原菌は概ね芽胞を形成せず、40〜50Cで死滅するようです。糸状菌も殆どはこの処理で死滅するようです。

メチルブロマイドは人畜に対する悪影響を示すのか?
急性毒性を持ちますので、注意が必要です。また、オゾン層破壊物質であることが分かっており、本年からは、ジャガイモそうか病など限られた場合以外には先進国では使用できなくなっています。


12月20日クラス

質問と回答

キリてんぐ巣病は病名なのか、病原名なのか?
病名です。病原は、ファイトプラズマ、aster yellowsサブグループの暫定種Phytoplasma asterisで、キリてんぐ巣病ファイトプラズマと呼ばれる場合もあります。

ファイトプラズマは植物病原だったものが昆虫でも増えるようになったのか、あるいはその逆か?
この答えは無いはずですが、私は後者だと考えています。それは、既知のすべてのファイトプラズマが昆虫によって媒介されること、ファイトプラズマが昆虫が吸汁する師管部に局在する傾向にあることなどからです。ファイトプラズマは昆虫の生体防御機構によって排除されないのか?という質問もいただきましたが、上記はこの答えにもなるかと思います。

ファイトプラズマに感染すると何故叢生症状が現れるのか?
植物における植物ホルモンバランスの異常が起こると考えられています。具体的な研究例は見あたりません。

ファイトプラズマが何故植物に病害を起こすために必要最低限の因子をもつと考えられるのか?
ファイトプラズマは、最小の生物であることをご紹介しましたが、ゲノムサイズも最小です(ウイルスよりは大きい)。ウイルスは、増殖・感染のための殆どの因子を寄主植物に依存するが、ファイトプラズマはATP合成や核酸合成に関与する酵素は宿主植物に依存するものの、植物から栄養分を取り込むのに必要な輸送に係わる因子は保持していました。言い換えれば、単独で生きることは出来ないが、寄生(この場合病気を起こ)して生きる機能は持っていると考えられるのです。

ファイトプラズマの昆虫体内での潜在と永続伝搬の関係は?
潜在は、吸汁してから次に伝搬できるようになる期間のことを言います。言い換えれば、中腸からリンパに入り、唾腺などで増殖し、新たな吸汁行動でファイトプラズマを伝搬できるようになるまでの段階を言います。永続伝搬は、一旦伝搬するようになると、その昆虫は終生ファイトプラズマを伝搬し続けることを意味します。

シストセンチュウ類のシスト孵化のメカニズムを知りたい
シストセンチュウは、雌の成虫がシスト化し、内部にたくさんの卵(内部に休眠状態の幼虫を含む)を持ちます。このシストは条件さえ整えば10年以上生存可能といわれています。講義の中でもご紹介したように、ダイズシストセンチュウの場合、寄主植物であるダイズ根部から滲出するグリシノエクレピン(Glycinoeclepin A)によって孵化が促進され、シストから幼虫が遊出します。ジャガイモシストセンチュウでは、まだ物質の同定に至っていません。この孵化促進物質はセンチュウ病の防除薬剤として利用の可能性が期待されています。

センチュウの口針の構造はどうなっているのか
配布したプリント、p. 4 14図あるいは15図をご覧下さい。両図ともAgriosのものですので、ご参照下さい。

センチュウの寄主特異性は高いのか?
寄主特異性は余り高くないようです。特に、ネコブセンチュウ類は多氾性とされています。


 1月10日クラス

質問と回答

水平抵抗性の中にも特定の病原に機能するものがあるのでは?
確かにあります。遺伝子対遺伝子説で説明されるような、レースー品種のような特異性の高さではありませんが、有る程度の特異性は有ります。例えば、サポニン類のような化合物に対して、菌の種類あるいは菌株によって感受性がそれぞれ異なるのが例です。

静的抵抗性におけるリグニン化、コルク化と動的抵抗性におけるリグニン化、コルク化は異質なものか?
同質です。ただし、静的抵抗性では、外敵を認知していない状態でも常にある場所がリグニン化、コルク化して、多くの微生物等にたいして防御壁になるのに対して、動的抵抗性におけるリグニンかでは、外敵を認識して、その侵入を防ぐため、局所的にリグニン化、コルク化します。

非病原力遺伝子ー抵抗性遺伝子の関係で、抵抗性遺伝子産物はなぜ菌の病原力遺伝子産物でなく非病原力遺伝子産物を認識するのか?
遺伝子対遺伝子説では、植物の抵抗性遺伝子産物が病原菌の産物を認識すると抵抗性が発動し、病原は植物に病気を起こせなくなります。植物に認識された産物が病原力遺伝子産物であったとしてもこの時点で非病原力を決定する因子となります。現に、非病原力遺伝子産物の多くは、もともと病原力に係わるものであったと想定されています。

病原菌のレースごとにその認識、抵抗性誘導に係わる抵抗性遺伝子を持たなくてはいけないようだと、植物にとって良い防御機構にならないのでは?
植物は様々な微生物に取り囲まれています。それらから網羅的に防御するシステムは、先天的な防御システムを含めて存在します。しかし、ある特定の微生物を認識して強い抵抗性を発動することは、植物にとってよりリーズナブルだと考えられます。そのためには、特定の微生物を認識するメカニズムが無くてはなりません。現に、イネーイネいもち病菌の品種ーレース関係を解析すると、多くの抵抗性遺伝子が存在し、防御に機能していることが分かっています。

植物の抵抗性遺伝子を壊すとどうなるのか?
講義の中でお示しした遺伝子対遺伝子説の表(プリント参照)をご覧いただくと良いのですが、それまで罹らなかった関係(非親和性)の病原(この抵抗性遺伝子に対応する非病原力遺伝子を保持している)に罹るようになる(親和性)。

植物の持つHST受容体に競合する物質は病害防除剤として使用できるのではないか。
そのとおり、可能性はあります。しかし、現時点ではそのような機作をもつ農薬は開発されていません。

HSTについてもっと詳しく知りたい
大学院、生物制御科学専攻、生物制御科学特論Iでさらに詳しくご紹介する予定です。H18年度は5〜6月に開講予定です。

hrp遺伝子群が非宿主植物細胞で過敏感反応を誘導する意義は?
hrp遺伝子群産物は、宿主に成り得る植物では毒素として病気の進展に関与する場合があります。一方、宿主に成り得ない植物は、hrp遺伝子群産物を認識して過敏感反応を起こし、それ以上の細菌の進展を食い止めます。その結果、病気が起きないため、非宿主となります。


 1月17日クラス

質問と回答

マイコトキシンは何故産生されるのか?
マイコトキシンは菌が産生する二次代謝産物のうち、人畜に毒性を示すものを言います。菌は様々な二次代謝産物を産生しますが、それが菌にとってどのような役割を果たしているのか判明しているものは多くありません。マイコトキシンとしては約100の化合物が知られていますが、これらについても、菌にとっての役割は知られていません。ただし、自らが優占になりやすくするために役立っているのではないかという推測があります。授業の中でもご紹介したように、マイコトキシンが、植物に対する病原性因子として重要であるとは考えられていません。

様々な殺菌剤があるが、使用者はどのようにして使用する薬剤を選択するのか?
基本的には、発生したあるいは発生が見込まれる病害に対して、適用が登録されている薬剤のうちから、選択することになります。この際、耐性菌の出現を遅らせるために昨年とは機作の異なる薬剤を使用することが推奨されます。その他にも、薬剤のスペクトラム(高い選択性の薬剤が求められている一方で、農家は、複数の病害に一度に効果を示す薬剤を求めています)、価格など様々な条件に基づいて選択します。実際には、農協などの指導あるいは防除暦を参考に選択することが多いようです。

プラントアクチベーターに副作用はないのか?
場合によって生じます。1つは、プラントアクチベーターを処理した植物で、小さくなったり、成長が停止したり、壊死が見られることが報告されています。

プラントアクチベーターによって誘導される抵抗性はある病害に特異的なのか?
特異的でなく、多くの病害に対して抵抗性になるのが特徴です。詳しくは、本年度の「植物保護学」のページをご参照下さい。

プラントアクチベータによって植物の品質などに変化はないのか?
想定されます。上述のように、植物の生育が遅れる(小さくなる)場合があります。また、「抵抗性が誘導される」ことは、植物組織内で化学的な変化が起きていることを意味します。具体的には、サリチル酸の蓄積やPRタンパク質あるいはそれに係わる物質の生産などですが、これらが植物の可食部の品質に影響を与える可能性はあると私は考えています。

耐性菌がでにくい薬剤にはなにか特徴があるのか?
化学的な構造から推定することは困難だと思います。作用性から考えると、殺菌性を持たない化合物は選択圧になりにくいことから耐性菌が出にくいことが期待されます。

プラントアクチベータ以外にも社会のコンセンサスを得やすい農薬はあるか?
1月31日にご紹介予定の生物農薬がその一つだと考えます。


 1月24日 試験を行いました

試験は、以下の要領で行いました。
『試験に際しては、講義で配布したプリント類、ノート類、御自分で復習された紙類は持ち込み可とします。教科書、参考書などは持ち込めません。なお、試験前に講義のプリント・ノートおよび参考書を利用して勉強していただき、病原微生物に関する理解(記憶ではない)をしていただきたく思います。従って、細かい語句、名前等の情報についてはプリントなどの資料をご参照され、独自性のある答案をつくっていただくことを期待しています。』 図書館所蔵の教科書・参考書は、皆さんが閲覧できる機会を確保するために、長期間借り出ししないようお願い致します。なお、成績の評価は、シラバスにもありますように、「授業出席回数」+「試験評点」で行います。授業回数には試験日は含みません。また、授業出席回数が「7」以下の者は試験の成績にかかわらずDと評価します。詳しくは有江へお尋ね下さい。 

試験評価のポイント 
〔〕内は配点(合計86点)を示します

【1】「植物病原を殺さずとも、生活環を妨げることで病害防除が可能な場合があります。具体的な植物、病原、病名を1組例示し、生活環のどこをどのように妨げることによって病害が防除できることが期待されるか簡潔に説明しなさい。また、防除できる理由を併せて述べなさい。(実用化されている技術でなくても良い)〔30〕
具体的な植物、病原、病名については概ね正確に示されていました。この問題は病原の生活環を正確に理解し、その中で病害防除に結びつけられる点を記述していただくことを期待しましたので、生活環の説明を重視し、この説明が不足しているものは原点しました。ナシ赤星病菌での中間宿主の除去、イネ白葉枯病での中間宿主の除去や箱育苗、リンゴ火傷病等での媒介昆虫の防除、アブラナ科植物根こぶ病での休眠胞子発芽促進など、多様な解答がありました。なお、種子伝染を妨げるために、種子消毒をするとの解答が複数ありましたが、この問題で問うているのは「植物病原を殺さない」方法ですので、勘違いをされたようです。

【2】植物病原の植物侵害戦略のうち、(1)宿主特異的毒素、(2)宿主非特異的毒素の機能について具体例をあげながら簡潔に説明しなさい。〔30〕
宿主特異的毒素、非特異的毒素がどのようなものかは、概ね正しく記述されており、ご理解いただいているようです。(1)では、ナシ黒斑病、(2)ではタバコ野火病について解答された方が多かったようです。宿主特異的毒素の特徴である、限られた系統や品種に対して影響を及ぼすことを記述しているか、両毒素の機能(宿主特異的毒素が植物が菌を受容しやすくすること、タブトキシンなどが病原性(病原力)の本体であること)を記述しているかを重視しました。

【3】非殺菌性殺菌剤(殺菌性をもたない植物病害制御用農薬)の作用機作について、具体例を挙げて簡潔に説明しなさい。〔26〕
イネいもち病菌の付着器においてメラニン合成を阻害して侵入を阻止するMBI剤、イネ紋枯病菌の転流糖であるトレハロースの代謝に必要な酵素トレハラーゼを阻害するバリダマイシンA、植物に病害に対する全身的な抵抗性を誘導するプラントアクチベーターに関する解答が多く見られました。概ね正確にご理解、ご解答いただいたようですが、例えば、メラニン合成を阻害すると何故病害が抑えられるのか、が不明確な場合は減点しました。


 1月31日クラス

質問と回答

登録された生物農薬の中で、その後使えなくなったものはあるのか?
農薬登録が更新されず、使用できなくなったものがあります。作用機作の解析研究はあまり進んでいないため、作用機作が判明して使用できなくなった例はありません。

菌類の遺伝子破壊実験についてもっと知りたい?
生物制御科学専攻の講義「植物病原学特論」(H18後期開講予定)でご紹介する予定です。あるいは、研究室をご訪問下さい。

菌類の分類の特徴にリシン合成系が取り上げられたのはなぜか?
リシンは、ジアミノアジピン酸から、あるいは、アジピン酸から合成されますが、このどちらから合成されるかが、生物の群によって異なっています。菌類とされるもののうち、真菌類の多くは、ジアミノアジピン酸からリシンを合成しますが、いわゆる卵菌類は、高等植物と同様にアジピン酸からリシンを合成します。この違いは生物界の進化を反映しているとも考えられているため、授業の中でご紹介いたしまし。


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