平成14年度
2581 病原微生物学授業情報

Modified: Jan. 9, 2003

自習課題および質問に対する解答


10月 1日クラス

質問と回答
プリントの字が小さくて読みにくい
本年から、OHPに代え、Powerpointを用いた授業を試みています。暗い、見にくいなどのご意見がありましたら、お知らせ下さい。また、プリントとしては、原則として、授業で紹介したプレゼンテーションをそのまま配布させていただきたいと思っております。ただし、他の本からスキャンした図・表などの文字が小さくなってしまうのが問題点で、上記のプログラムを使用する以上は改善しにくいのが現状です。そのため、各図・表に出典を明示して、見にくいものについてはオリジナルを参照いただくことを期待しているのですが、いかがでしょうか。残念ながら、著作権などの問題がありますので、HPから図、表をダウンロードしていただくようにすることも困難です。

前期の植物病理学を履修しなかったが
全く問題ありません。植物病理学を履修していなくても、それが原因で今回の講義内容が理解できないことはありません。わからないこと、質問などがありましたら、ご遠慮なく、有江まで。

病原におこる病気はあるのか?
あります。授業の中でもご紹介する予定ですが、かびにつくかび、線虫を食べるかび、などがあり、病害の生物防除資材(生物農薬)として使用されているものがあります。

植物に異常を起こす、遺伝的理由は生物的要因、非生物的要因のどちらか?
内因性なのでどちらでもありません。生物的要因、非生物的要因による生育障害とは、その個体が遺伝的に持つ機能や形態の発現に対する外的要因による障害をいいます。

病原研究は食用植物の収量増に確実に効果があるか?
非常に厳しい質問です。病原研究が即、収量増にプラスに働くか、と問われると、そう希望していますがなかなか現実には難しいと思います。しかしながら、授業のなかでも触れていきますが、新しい農薬の開発や、新しい生物農薬の開発、新しい品種の開発等の場面において、病原研究の結果蓄積される知見が重要な役割を持ちます。

ポストハーベストには、病原に依らないものはないのか?
ポストハーベスト病害(市場病害)のことでしたら、病害は生物的要因のうち、微生物によるもの、という定義の元ではありません。ただし、保存、輸送、市場での障害としては、この他にも、輸送中の物理的障害、低温による生理障害、過熟による一見腐敗に見えるような障害、および、もちろん、害虫による被害があります。ポストハーベスト病害やポストハーベスト農薬については、後日改めて紹介します。

ウイロイドは取り上げられますか?
ウイロイドは、植物病原としては非常にマイナー(失礼な言い方かもしれませんが)です。従って、詳しく取り上げる予定はありません。何か、特にご興味があるようでしたら、お知らせ下さい。

イネの病気・害虫・雑草による収量低下が大きいのはなぜ?
授業の中で紹介した、Lucas, 1998のテキスト中の表では、50%程が、病害虫雑草により失われていることになりますが、その元になるデータを見ていませんので、なぜそんなに多いのか不明です。少なくとも、我が国ではそれほどのロスは無いと思います。ただし、イネの栽培は、日本などの栽培技術の進んだ地域のみならず、東南アジア、アフリカなどの開発途上国でも低い栽培技術をもって行われていますので、それが効いているのかもしれません。50%という数値はさておき、他の穀類に比べてロスが多いこと、に注目したいと思います。

「収量の理想と現実」を示す模式図(Fig. 1.6 of Lucas, 1998)の具体的意味は?
次回の授業で改めて説明します。

植物病原は現在どれくらいあるのか?
私にはお答えできない質問です。生物としての「種」の数のことでしたら、次回お話しするように、分類体系というものは、固定されたものではありませんので、数を数える意味がありません。また、同じ「種」の中にも、病原性を持つもの、持たないもの、あるいは、植物Aにだけ病原性をもつもの、植物Bにだけ病原性を持つものがあり、どれを基準に数を数えたらいいのか、全くわかりません。従って、私は、病原の数を数えたことがありません。もし、ご興味があるようでしたら、「植物病害大辞典」をお見せしますので、その数の多さに驚いてください。
ウイロイドは取り上げられますか?
ウイロイドは、植物病原としては非常にマイナー(失礼な言い方かもしれませんが)です。従って、詳しく取り上げる予定はありません。何か、特にご興味があるようでしたら、お知らせ下さい。


10月 8日クラス

課題(10月15日クラスまでに考えておくことが望ましい)
分離・培養できない微生物はどの様にして病原であることを確かめたら良いか?

質問と回答
形態学的基準と分子生物学的基準は、分類の「ものさし」として、比較できないのでは?
そのとおりだと思います。分子生物学的基準としては例えば、リボソームDNAのRNAとして読まれない部分の塩基配列(このような部分の塩基の置換などの変化に対しては、選択圧がかからいため、その変化の割合=進化上の距離、と読み替えることが可能と期待される)が「生物の系統」を推定するのに適していると考えられています。その結果、「系統」関係をできるだけ反映した、使う人に便利な分類体系を作っていくことが分子生物学的知見を取り入れることで可能になりつつあります。なお、分子生物学的に系統関係を調べると、菌類は植物よりも動物に近い(植物になる祖先が分岐した後で、菌類の祖先と動物の祖先が分岐した)と考えられています。

圃場(土)に病原が定着してしまった場合は、土の入れ替えが必要となるのか?
このような原因による病害を土壌病害と一般には呼びますが、様々な防除法、耐病性品種の使用、作物種の転換、客土(土の入れ替え)などで対処してきました。この詳細については、今後の講義の中で紹介します。

水平伝搬、垂直伝搬の違いがよくわからなかった
水平伝搬は同時期に存在する他の個体へ移ること、垂直伝搬は、種子、球根などを経由して次世代(いわゆる子)へ移ることを言います。

物理的媒介とは何か?
いわゆる傷等です。農業場面では、他の葉とふれあうこと、腋芽取り等による伝搬を言います。これに対し、傷を付けてそこに病原を付けても感染しないが、昆虫の吸汁によって伝搬されるものもあります。

菌の生物的媒介者による媒介が△なのはどういう意味か?
頻度が非常に低いことを示したつもりです。ウイルスなどは殆どが、生物的媒介者によって伝搬されますが、菌は自ら飛散・定着・侵入する場合が多く、生物的媒介者による感染は、非常に稀です。

ウイルスとファイトプラズマは、伝染に関する性質が類似しているが、どの様に区別するのか?
この2種類の病原は、伝染に関する性質ではなかなか見分けられません。そのために、ファイトプラズマの発見が遅れた(当初はウイルス病と考えられていた)訳です。

ウイルスやファイトプラズマは媒介者の中では休眠状態か?
媒介者(主に昆虫の話ですが)の口針に付着して一時的に伝搬されるもの(非永続伝搬)、媒介者の体内でも増殖して伝搬されるもの(永続伝搬)およびその中間型(半永続伝搬)があります。永続伝搬の場合は、卵を経由して次世代まで移行するものもあります。ただし、このようなウイルスは昆虫にはあまり大きな害は及ぼさないようです。

多くの病原は垂直伝搬するが、細菌や菌は種子中でどのような状態にあるのか?
種子の表面、種皮中、種子内部など、病原によって異なりますが、主に休眠体(胞子、厚膜胞子等)で存在していると考えられます。

腐生、条件的寄生、等の基準がよくわからなかった
10月15日に再度説明します。

「罹病」は何と読むか
「りびょう」です。病気に罹っていることを示します。

細胞内共生説を証明するために、ある原核細胞を他の原核細胞に取り込ませることは実験的に可能か?
この講義の中でお答えするのが適当なことかどうか、判断に迷いましたが、私の知る範囲ではその様なことは不可能です。細胞内共生が起こったと考えられる時点から現在まで、非常に長い年月が経ており、もとの原核生物も当然進化を繰り返していますので、当時の細胞を再現することさえ不可能なことを考えると、理解できるかと思います。

「病原性を持たない微生物を利用した生物防除」と「共生」の関連について知りたい
生物防除についての講義の中で、詳しくご紹介する予定です。

コッホの3原則では?
確かに、コッホの4原則の4番目を除外して3番目までですませてしまうことは往々にしてあります。しかし、4番目(同じ病原が回収できること)まで確認できた方がより正確であることは否定できません。

10月15日クラス

課題(10月22日クラスまでに考えておくことが望ましい)
「かび」と「きのこ」とは何か?

質問と回答
rDNA ITS領域についてもっと詳しく知りたい
簡単にいうと、リボソームを構成するrRNAの塩基配列情報を保存している染色体DNA上の領域のうち、RNAとして読まれない部分のことで、広く生物が持っていること、選択圧がかかりにくいので進化速度を反映している可能性が高いことから、この塩基配列の差を生物の近縁関係、進化の道筋を議論するのに利用します。生物の進化と多様性遺伝学電子博物館 進化と遺伝等のHPもご参照下さい。

分類と進化についてもっと知りたい
授業の中で述べたように、生物の系統進化の過程解明は、生物科学の究極の目標であり、残念ながら現在はそのごく一部が明らかにされているに過ぎません。従って、まだ、生物の系統に従った分類体系(系統分類体系)は確立していません。菌類の分類も、もともとは、形態や胞子の形成様式などを基準に分類してきましたが、現在では、分子系統学的解析により、菌類の系統関係が少しずつ明らかになりつつあります。Dictionary of the FUngi の8版(1995)までには、従来の分類体系の、あきらかに系統関係と矛盾している部分を補正した分類体系が使用されるようになってきました。一方で、形態などを基準にした分類体系が系統を反映している部分も多いことも明らかになってきています。

有性胞子などのことばが分からなかった
菌類の形態に関する紹介は、10/22に行う予定です。その際に、改めて、各菌群の特徴を纏めますので、その際に理解していただけると思います。

Ainsworthの分類体系中の「真菌Eumycota」とは何か?
細胞壁を有し、アメーバ状にならない菌類、と考えていただくのが妥当ではないでしょうか。10/15のプリントの、TABLE5「生物の各界の特徴」のFungiを参考にしてください。

ウイルスの純化とは何か?
字の通りなのですが、植物の組織などから、超遠心法等により、ウイルス粒子のみを精製することを指します。純化したウイルスを、傷をつけた植物の葉などに塗布すると、感染して病徴を示す場合があります。

10月22日クラス

質問と回答
菌糸先端部では、細胞小器官も盛んに分裂しているのか?
菌糸の先端部(伸長部)には、電子顕微鏡写真を見る限りほとんどミトコンドリアなどはありません。先端部には、多くの小胞があり、菌糸伸長に係わる様々な物質の代謝・輸送を行っていると考えられています。ミトコンドリアはそのやや後方におり、この生命活動にひつようなエネルギー源を供給しているようです。

イネいもち病菌がつくる付着器内部の膨圧は80気圧にもなるとのことだが、核はつぶれないのか?
核の構造を考えてみてください。核は核膜に覆われていますが、この核膜には多くの隙間(核孔)があります。従って、核内部の圧力も同様に上昇し、核外部と同じと考えられます。また、「いもち病菌の侵入メカニズムがよく分からなかった」との意見を戴きましたが、詳しくは、12回目の「植物侵害戦略」でお話しします。今回の授業では、菌が、植物への侵入特異的な器官をつくることを理解していただければ、と思います。さらに、「付着器はイネいもち病菌以外も持っているか?」との質問を戴きました。器官としての完成度を無視すると、かなり多くの植物病原糸状菌が付着器を形成します。また、付着器からの侵入も、物理的(いもち病菌の様に圧力を利用する)に行うもの、化学的(酵素で植物組織を消化するもの)に行うものがあります。

「きのこ」の菌糸を培養すると「かび」とおなじようになるのか?
そのとおりです。条件を上手く設定できれば、培養器の中で、菌子束形成→「きのこ」形成を観察することができる菌もあります。

菌の菌糸内の物質輸送はどのように行われるのか?
菌の場合、基部細胞から菌糸を経由して先端細胞へ栄養分を送り込む「転流」を盛んに行うものと行わないもの(行わない場合は、各部の細胞が直接栄養分を取り込む)があります。前者の場合は、菌糸束のようなかたちに発達・分化して、植物と同様、吸収、輸送等の役割を分担する組織を形成する場合もあります。菌糸内の輸送は、菌糸隔壁および隔壁孔を通して、能動的あるいは受動的に行われるとの報告があるようです。また、「菌糸隔壁の多様性には何か意味があるのだろうか?」との質問を戴きました。確かに、隔壁のタイプにより、物質や小器官の細胞間移動性状が異なりますので、意味はあると思います。しかし、これは、進化に伴って隔壁タイプに多様性が生じ、その結果異なる性状を発揮するようになった、と単純に考えてはいかがでしょうか。ラ・マルクの用不要説ではありませんが、生物を理解する場合、「理由があるから変化した」と理解するより、「変化の結果、何らかの現象が生じた」と考える方が自然に思います。「なぜ、担子菌はたる形孔隔壁をもち、しかも、かすがい連結のような面倒なしくみで核をやりとりするのか?」という質問も、同様に、私にはお答えできないものです。ただし、子のう菌の様に、核まで通過してしまう隔壁孔も、良い点と悪い点があるのでしょうから、担子菌の隔壁システムは一見面倒なことをしていますが、利点もあるのだと思います。

菌の 不完全世代←→完全世代 変換の要因は何か?
7回目で若干紹介する予定です。菌により、異なりますが、パートナーの存在、環境条件の変化をあげることができます。「無性胞子と有性胞子の違いは何か?」についてもその際に理解していただければ幸いです。

「胞子」、「子実体」の定義は?
「胞子 spore」は、一般には、「微生物や藻類でみられる増殖体」を言いますが、菌学では、「特殊化した(菌糸などと異なる形)、無性生殖・有性生殖の結果形成される、小さな増殖器官で、環境変化に伴い形成されたり、環境変化に適応可能であったりするもの」と考えます。「子実体 fruit body」は、広義では「胞子を形成する器官」の事ですが、通常菌学では、「子嚢胞子、担子胞子等の有性胞子を形成する器官」、すなわち、子嚢殻やきのこを指します。

10月29日クラス

質問と回答
遊走子とは何か?
運動性のある(motile)胞子嚢胞子(sporangiospore)を指します。胞子嚢胞子とは、胞子嚢(遊走子嚢)の中に内生的に生じる胞子を言います。一般に、遊走子は、べん毛を持ち、水により移動しやすい性質を持っています。なお、胞子嚢は、無性的に胞子嚢柄上に形成される胞子で、内部に遊走子を形成せずに自ら発芽する(直接発芽と言います)こともできますので、胞子嚢=分生子と考えることができます。なお、分生子は、10月22日の授業で紹介しましたが、無性的に作られる胞子のことです。

アブラナ科野菜根こぶ病菌Plasmodiophora brassicaeの生活環の中の点線部分の意味は?
二次遊走子がどの様に感染するか(根毛細胞から一旦外に出て再感染するのか、外に出ずに細胞壁を突き抜けて隣の細胞へ広がっていくのか)が良く分かっていないため、その部分が点線で現わされています。
Oogoniumは「造」卵器、Antheridiumは「造」精器ではないのか?(多数の質問あり)
Oogoniumは、菌類等の雌器官を、Antheridiumは雄器官を指します。「造」か「蔵」かは、日本語標記の問題で、あまり重要な事と私は捉えていませんが、一般的に菌については、「蔵」を使用しているようです。「造」は、いかにも卵や精子を作って外部に出す様な感じがしますが、 Pythium等の図を見ていただくと分かるように、これらは、卵や精子を放出することなく、菌糸融合(細胞融合)により交配します。従って、卵や精子に当たるものを内部に含んでいる器官という意味で、「蔵」の文字を使用しているのだと理解しています。

各病原の生活環で、核相nと2nの変化要因がよくわからない
これは非常に単純で、通常の核相がnか2nか、および核融合がいつ起きるか、また、減数分裂がいつ起きるかで決定されます。

マツタケを培養できたら大金持ち?
授業の中で紹介したように、マツタケも培養自体は可能です。しかし、培地上では、菌糸状から、いわゆる「きのこ」への分化が現在の所困難です。上手に、菌の形態分化のスイッチングを起こさせ、「きのこ」を培地上で形成させることができれば、なかなかなものかもしれませんが、あまり簡単に培地上でマツタケができてしまうと、値段も安くなりますね。


11月 5日クラス

質問と回答
ソラマメ火ぶくれ病菌の生態が解明されない理由は?
授業でもお話ししたように、この菌の生態には興味が持たれます。しかし、農業生産上あまり重要な病害でない(植物病理学は農学の一分野ですので)、発生地が非常に限られている、土壌伝染の可能性が高い、絶対寄生性である、等、農学としての研究対象になりにくいこと、実験系として扱いにくいこと、が理由で、現在では研究対象にしておられる研究者は0であると思われます。

担子器上に形成される担子胞子の数は決まっているのか?
核融合により、核相複相dykaryonになった担子器の細胞核が減数分裂により、単相×4個の核に分裂し、それぞれが担子器上に形成される担子突起に分配され、担子突起上に形成される担子胞子へ移動します。従って、基本的には4個の単相の担子胞子が1つの担子器上に作られます。

宿主交代をするさび病菌で、一方の宿主植物が近くに無いときは、どうなるのか?
宿主交代おいて、胞子はかなりの距離を飛散するようです。しかし、当然ながら、近くに宿主植物がある場合の方が菌にとっては有利です。そこで、ナシ栽培地域の周辺では、赤星病菌の中間宿主であるビャクシン類の栽培を控えるように要請される場合もあります。

「酵母状」とは何か?
以前に紹介したように、菌類の形態を示します。簡単には、「単細胞で出芽や分裂によって栄養繁殖する状態のもの」を指します。

かすがい連結部に形成される隔壁もたる形孔隔壁か?
正確な記載は見つかりませんでしたが、配布プリントの図を見る限り、そのようです。

夏胞子、冬胞子は季節と関係あるのか?
ある程度(当初名付けられたとき)は関連しているのであろうと思いますし、実際、ナシ赤星病菌等ではおおよそ合致しています。ただし、あまり厳密に考える意味は無いように思います。

さび病には、「錆」の感じは使わないのか?
使いません。何故、「錆」でなく「銹」なのか、調べてみてください。


11月19日クラス

質問と回答
カンキツ緑かび病菌はカンキツが成熟するのを待って発病するのか、それとも、成熟に伴ってカンキツが免疫力を失うのか?
理解としてはどちらも正しいと思います。この菌と同様に、圃場で感染していながら直ぐには発病せず(潜在感染)、条件が整うと発病してくる病気は多く知られています。カンキツ緑かび病菌は、条件(pH等)が整うと発病してきます。この菌の病原性因子として重要であると考えられているペクチン質分解酵素の活性により、カンキツの果皮中のペクチン質が消化され、水浸状に軟化します。「発病は皮だけで中は食べられるのか?」という質問を戴きましたが、軟化は内部までいたりますし、病原のPenicilliumの旺盛な物質生産能を考えると、食べない方が良い(私は食べません)と思います。

白絹病菌は試験管の栓を突き抜けるほどの旺盛な生育をするとのことだが、どのように保存するのか?
培地の量を減らす等して、試験管の外へ菌糸が出ない状態で保存します。ところで、(余り一般的ではないのですが)私は、多くの植物病原糸状菌を4℃の冷蔵庫で保存しています。主な理由は培地が乾燥しにくく、数年間メンテナンスフリーであるからです。(もちろん、バックアップとして-80℃保存もしていますが)さて、白絹病菌は、授業で触れたように、比較的高い温度(約30℃)を好む菌です。この菌を4℃で保存すると、1年も持たずに死滅してしまいます。

木材腐朽菌は宿主である樹木を殺すのか?
通常の草本類の病原菌に比べると非常にゆっくりではありますが、最終的には「殺す」ことになります。第1講義棟南側の(手入れされていない)雑木林の、府中市の名木百選に選ばれたコブシの一部が倒れたのも木材腐朽によるものと思われます。しかしながら、自然林での樹木の更新の一要因として考えると重要な機能を果たしているのではないでしょうか。


11月26日クラス

質問と回答
植物の炭疽病菌と動物の炭疽菌は同一か?
植物の炭疽病anthracnoseは、動物の炭疸病anthraxと同様に罹病部が黒変することからその様な名前が与えられました。植物の炭疸病は、Glomerella singulata等の子のう菌によって引き起こされることは講義の中で紹介しました。1876年にPasteurとKochが病原としての微生物を初めて確認したのが動物の炭疽菌であり、Kochの原則もここで確立されました(以上は10/8に紹介済みです)。さて、動物の炭疽菌がどのような微生物かについては、多くの教科書等に書かれていると思いますので、調べてみてください。

菌核病菌Sclerotinia sclerotiorumで見られる不動精子の機能は?
講義の中で紹介したかと思いますが、不動精子は、自ら栄養繁殖をする能力を持たないと考えられており、そのため、「胞子」と呼ばれません(過去には、小型分生子と呼んだこともあるようですが)。不動精子を菌核にかけることで、交配が起こり、子嚢盤を含む完全世代が形成されると言われており、不動精子は有性生殖において機能しています。

teleomorph、anamorphとは何か?
teleomorphとは、子嚢果や担子果に特徴づけられるような完全世代(有性世代)やその形態を、anamorphは、分生子の特徴づけられる不完全世代(無性世代)やその形態を言います。多くの子嚢菌、担子菌は、それぞれの世代に学名を与えられており、完全世代名、不完全世代名と言います。不完全世代名は、系統関係を反映していない場合も多いのですが、完全世代を形成しない菌類は不完全世代名しか持つことができませんので、これらの菌類に共通の学名として不完全世代名は有用です。


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