質問に対する返答
5月22日クラス
質問と返答
かび・きのこ・酵母は、その一般的に目に付く「かたち」によって呼ばれている科学的でないグループ名です。授業でも触れたように、科学的に認められているグループとしては菌類(菌界、Kingdom of Fungi)として纏めることができます。菌類は、運動性が無い、細胞壁を持つ等の一般性状から二界説あるいは三界説では植物と同じ界に入れられていました。現行の高校の教科書も基本的にはそうなっていますので、参照してみてください。しかし、その後の、生物の系統解析研究の結果、植物の祖先が動物の祖先から枝分かれして独自の進化の道筋を歩み始めた後に、菌類の祖先が動物の祖先から枝分かれした、と考えられる証拠が見つかりました(DNAシーケンス情報もこれを支持しています)。そこで、五界説以降では、菌類は植物とも動物とも異なる新たな「界」としてグルーピングされています。
葉緑体を持った動物はいないのか?
この場合の「動物」を、五界説以降の分類群で考えるならば(過去は、ミドリムシ等が運動性を持つため、原生動物として動物の中に入れられていたこともありますので)、葉緑体をもった動物はいません。これは、細胞内共生説で考えると、植物の祖先が動物の祖先から枝分かれして独自の進化の道筋を歩み始めた後に葉緑体の祖先と推定されているラン藻細胞が共生して現在の植物になったと考えれば理解しやすいかもしれません。(一方、植物の祖先が動物の祖先から枝分かれする前の原核細胞に、好気性細菌類と想定される原核細胞がすでに共生していたため、動物も植物も共通してミトコンドリアを持っていると考えられます。)
細菌、真菌、菌類、ウイルス等の違いを知りたい
まず、はっきりさせたいのは、細菌、真菌、菌類は自律増殖能を持つ、いわゆる「生物」であり、ウイルスは自律増殖能を持たず、宿主細胞を利用して増殖する、タンパク質と核酸から構成される「非生物」です。また、生物のうち、細菌は、原核細胞(特徴については授業で配布したプリントを見てください)を持つ生物群です。真菌は菌類と同じ(以前菌類に纏められていた変形菌類等一部の生物群が新たな界に移動され、現在は菌類=真菌と言えるようになりました。詳しくは、直接有江まで)と考えていただいて結構で、真核細胞を持つ生物群です。植物や動物との関係は、一つ目の質問に対する返答をご覧下さい。
原生生物は真核生物か?
原生生物という分類群は、ふるくから様々な定義付けをされてきました。Haeckel(1866)では、細菌・菌類・単細胞藻類・原生動物等を含む群でしたが、その他にも細菌・原生動物を纏めた群として提唱されていました。そういう意味では、現在でははっきりした定義付けをすることができません。ただし、原生動物 protozoaは単細胞性の真核生物で、過去は動物界に入れられていましたが、現在は独立した界として扱うことが多いようです。
細胞小器官の由来や機能は?
細胞小器官のうち、細胞内共生で生じたと言われているものは、ミトコンドリア、葉緑体、ペルオキシゾーム等です。この他の核、液胞、ゴルジ体等は、細胞内共生によってできたものとは考えられていません。機能も併せて詳しくは、次回の講義で紹介する予定です。
ミトコンドリアの内膜と外膜の間はどうなっているのか?
膜間部分と呼ばれる、およそ30 nm程度の液体に満たされた部分です。この部分にも複数の酵素が含まれ、ATPを使ってヌクレオチドのリン酸化等の働きをしています。
ATPがADPになるときにエネルギーを発生するのか?
その通りです。呼吸系の最終ステップである電子伝達系→酸化的リン酸化では、物質変換の結果生じてきたエネルギーをADP(アデノシン2リン酸)にリン酸を付与して(高エネルギーリン酸結合)、ATP(アデノシン三リン酸)の形で蓄えます。必要に応じて、ATPをADPに変換(加水分解)することで、リン酸基をはずし、この際に生じるエネルギーを生命活動に利用します。
発見した人の名前を記憶する必要はあるのか?
例えば、細胞を初めてみたフック等のことを指しているのでしょうか?良く生物学は記憶の科目(学問)であると言われますが、私は生物学は理解する学問だと思っています。人の名前その他の細かいことは事典、教科書、論文等に纏められていますので、それを参照することは簡単ですし、その方が正確であると思います。従って、余り細かいことを記憶する必要は無いと思います。ただし、理解することによって必然的に記憶してしまう、言い換えれば理解するためには記憶せざるを得ないことはあるはずです。これが何なのか、については個人の考え方もありますし、一概に私がこの言葉は記憶してください、この言葉は記憶しないで結構です、と言うべきことでもないように考えています。(これは生物学に限ったことではないでしょう)
5月29日クラス
質問と返答
ウイルスRNAは他のRNAと似た形か?
ウイルスには、RNAを持つものがあります。多くの植物ウイルス(植物の病原)やレトロウイルスがその例です。ウイルスのRNAも、「塩基+リボース(糖)+リン酸」からなるヌクレオチドがホスホジエステル結合した多量体であることに違いはありません。ただし、ウイルスはタンパク質も持っています。
なぜ若いと水虫にならないか?
若いと水虫にならないのではなく、若い人には水虫(の病原菌)の保菌者の割合が少ない、という意味を申したつもりですが、、、水虫(正式には白癬)は潜在感染しやすい病気です。潜在感染とは、病原菌が感染しているにもかかわらず、症状がでない状態を言います。水虫の病原菌は、感染部の角皮(足裏などの厚くなった組織)が脱落したものから感染しますので、年齢を経て、家や共同浴場や温泉の脱衣所等で、感染のチャンスが多かったひとほど感染している率が高いことになります。さらに、年を取ってくると足の角皮も厚くなり、菌が潜在できる組織も多くなることも一因かもしれません。以上、水虫研究者では無い私の考えですので、正確には他の研究者等のホームページでも調べてみてください。
膜のポンプとチャネルは同じタンパク質の二つの機能か?
チャネルタンパク質とポンプ(キャリアータンパク質)は異なる膜タンパク質ですが、併せて膜輸送タンパク質と呼ばれます。チャネルタンパク質は、二重層の細胞膜を貫通しているタンパク質で、このタンパク質は概念的にはチューブ状をしていて、細胞の外部と内部をつなぐ孔をもっています。この孔が通じて拡散により(濃度勾配に従って)物質が細胞内外を行き来しますが、孔のサイズや状態により移動する物質に選択性が生じます【受動輸送】。一方のポンプを司るキャリアータンパク質は、特定の物質を結合する部位をもっており、一旦物質を結合した後に分子の方向性を変え、結合していた物質を放すことで輸送を行います。キャリアータンパク質による輸送では、エネルギーを消費することで、濃度勾配等に逆らった輸送を行う【能動輸送】こともできます。
チュブリンとチューブリンはどちらがただしいか?
「tubulin」をどう日本語表記にするかで、どちらでもかまわないと思います。上のチャネルをチャンネルとしている本もあるのも同様です。
細胞骨格について詳しく知りたい
授業で紹介したように、細胞骨格には、微小管、アクチンフィラメント(ミクロフィラメント)、中間径フィラメントの3種類がありますが、それぞれ、チュブリンタンパク質、アクチンタンパク質、デスミン+ビメンチンタンパク質により構成されている、タンパク質でできた構造です。さらに詳しくは、とてもここや授業で紹介できませんので、「細胞の分子生物学 第3版、ニュートンプレス」p. 788-858をご参照下さい。有江までお越しいただければお見せします。
どうして細胞骨格で細胞運動させる必要があるのか
これは、「生物はどうして運動するのか?」という生物学の根本にも関わる疑問に繋がりそうで、とても私には答えられません。「生物が運動する機構として細胞運動があり、細胞運動は細胞骨格の機能によって起こる」ということは事実ですが、、、
植物の液胞の存在場所は細胞骨格で規定されているのか?
液胞も膜(一重)に包まれた器官ですので、細胞骨格により存在場所や動き、形を制御されている可能性は高いと思いますが、それを示した文献を見つけることができていません。調べてみますが、皆さんも調べてみて文献を見つけたら教えてください。
ミトコンドリア内で起こるエネルギー変換等が複雑で分かりにくい
ミトコンドリア内での、TCAサイクル、電子伝達系、酸化的リン酸化は、好気呼吸において得るエネルギーをATPに蓄える過程の重要な連続した反応よりなっています。詳しくはすでに片山先生の授業で紹介されたかと思いますが、「細胞の分子生物学 第3版、ニュートンプレス」p. 66-74にわかりやすく纏められていますし、その他の生化学、生物学の本でも紹介されていますので、読んで不明の点は有江までお越し下さい。なお、ミトコンドリアのマトリックスについての質問もありましたが、マトリックスは内膜の内側の液体に満たされた部分で、ミトコンドリア独自のゲノムや、TCAサイクルに関わる酵素群など、多くの物質を含んでいる。TCAサイクルの場である。
ゴルジ体の役割をもっと知りたい
基本的には、来週紹介する、DNA情報に従って合成されたタンパク質の修飾や輸送が主な役割です。タンパク質は、糖鎖等が付加されることによって酵素としての機能を発揮する事が多いこと、また、タンパク質の一部(シグナルペプチド)によって輸送される場所が限定されており(宅急便の振り分けコードのようですね)、それに従ってゴルジ体が輸送し、最終的にシグナルが切断されてタンパク質の機能が発揮できる、というように、修飾はタンパク質の機能性にとって重要ですし、輸送も、機能を発揮するために重要です。
沈降係数とは?
授業でも紹介したように、分離用超遠心器で分離する際に沈降する速度を元に、沈降係数(S)として表すもので、分子の大きさ、分子量、分子の構造、水和性等によってきまります。高分子の大きさを表現する際に使用しますが、このように、単に分子量を示すものではなく、構造(形)にも関係する係数ですので、真核生物のリボソームの40Sと60Sのサブユニットが結合しても100Sにはならず、80Sになります。
リボソームのだるま型はどこで作られるか?
リボソームを構成するrRNAは、核染色体上のrDNA領域の情報に基づき、核小体で合成され、細胞質で合成されて送り込まれてくるタンパク質と結合してサブユニットを形成します。ただし、サブユニットが結合してだるま型になるのは、これらが核から細胞質に送り出された後です。何故なら、もし核内でだるま型の成熟リボソームになってしまうと、核内でDNAから転写されるmRNAの前駆体のRNA(hnRNA)と結合してしまうためです。この部分については次回のクラスで紹介します。
この他、核や遺伝子についての質問をいくつか戴きましたが、次回のクラスの中で解説する予定です。
6月5日クラス
質問と返答
形質と性質の違いは?
基本的に同じと考えていただいて結構ですが、形質の方が正式な科学用語です。
遺伝子、染色体、ゲノムの違いは?
染色体は真核生物の場合、核内部にあるDNAの凝集したものをさします。また、この場合、2本鎖DNAを1つの染色体と考えます(従って、ヒトの細胞は通常46の染色体を持ちます)。一方、ゲノムは、核内の染色体およびその上の遺伝情報全体を表す概念的な言葉です。一方、遺伝子は、第一義的には、染色体上でタンパク質合成に関わる情報を保持する(コードするといいます)部分で、調節領域+翻訳開始点~翻訳終止点(エクソン+イントロン)+転写終了点を言いますが、場合によっては、翻訳開始点~翻訳終止点(構造遺伝子)をさすこともあります。タンパク質合成に関わる遺伝子長(塩基対数)には様々なものがありますが(プリント参照)、異なるタンパク質に関わる複数の遺伝子長が遺伝子の平均サイズとなります。
DNAの3'、5'の決め方は?
二本鎖DNAを構成する1本のヌクレオチド鎖は、ヌクレオチドが規則正しくホスホジエステル結合したものですが、両端のヌクレオチドを見ると、糖の5位の炭素原子に結合したリン酸基と、糖の3位に結合した水酸基で終わっています。ヌクレオチド鎖の、前者側を5'末端、後者側を3'末端と呼びます。二重らせんにおいて、2本のヌクレオチド鎖の5'→3'の方向は逆になります。
タンパク合成をする際にどうしてDNAから直接翻訳しないのか?
一番初めにできたタンパク質合成系がRNAから翻訳する系であり(現在のレトロウイルス等の祖先を想定)、RNAが不安定なため、重要な情報をDNAの形で保存して、RNAにコピーをして使用する形になって現在に至っているからであると推定されます。
ゲノムプロジェクトで個体差はどの様に調べるか?また、どの程度個体差があるものか?
ゲノムプロジェクトは、各生物種のある個体(系統)をモデルとして行うものであり、そのデータをもとにゲノムの部分を解析・比較することで個体差を知ることができます。個体差は、変異の結果であると考えられます。変異の頻度は遺伝子によって異なります。概念的に言うと、変異することが死に繋がるような遺伝子では変化が少なく(変異したものが保存されない)、変異することで病原性など新たな有利な形質を獲得できるものでは変化が多くなる可能性が高くなります。
突然変異の重要性は?
6/19にやや詳しく説明します。
6月12日クラス
質問と返答
細胞分裂時の核内DNAの複製はいつ起きるか?
体細胞分裂、減数分裂とも、細胞周期における間期(見かけ上細胞分裂現象が見られない時期)の中のS期(synthesis期)にDNAが複製され、細胞当たり、および核当たりのDNA量は倍加します。
減数分裂でどのような染色体が二価染色体を構成するのか?減数分裂が2回の連続した細胞分裂を必要とする理由は?
授業でも紹介したように、一般に動物や植物の細胞核の核相は2nであり、すなわち、一つの細胞核中に、ほぼ同じ遺伝子がほぼ同じ順序でほぼ同じ位置に配列した染色体(相同染色体)が2つずつ(例えばヒトでは、23種類の染色体が2本ずつ)存在します。二価染色体は、この相同染色体同士が対合することで構成されます。
減数分裂は結果として、核相が半分(n)になることが特徴です。体細胞分裂同様に、DNAを複製(すなわち見かけ上4n)した後に、核相をnにするためには、細胞分裂が2度必要になります。もちろん、DNAを複製せずに相同染色体を一つずつ娘核に配置すると核相nになりますが、この過程では、染色体の組み合わせをかえることは可能ですが、染色体の乗換えによる組換え(6月19日に紹介します)が起きえません。
植物には無性生殖をするものが多いのか?無性生殖の利点は?
もちろん多くの種子植物は種子をつくる、すなわち有性生殖をしますが、そのほかの手段として、ランナー(匍匐枝:イチゴ等)、塊茎(ジャガイモ等)、塊根(サツマイモ等)、鱗茎(ユリ等)、むかご(零余子:ヤマノイモ等)や挿し芽・挿し木(コモチベンケイや果樹類)で増殖できるものがあります。時には殆ど種子を作らなくなってしまっているものもあります。
このような無性生殖の有利な点は、遺伝的な背景が同じ後代(クローン)をたくさん作ることができることであり、農業の場面でも、性状のそろった生産を行う上で、無性生殖で増殖可能であることが有利に機能する場合も多く見られます。
これに対し、有性生殖は多様な遺伝的バックグラウンドおよび多様な形質を持つ後代を作ることができ、環境変化などに対する適応がより容易になることが期待されます。有性生殖の結果得られる後代は基本的には両親とも性状が異なります。農業場面では、種苗会社がF1種子(固定系の両親を種苗会社が持っており、その交配1世代目)を多く販売しているのは、(1)固定系の両親の交配で得られるF1の性状は均一であること、(2)F1種子由来の植物から種子を採取して得られるF2の形質はF1と異なることから、毎年農家は種苗会社から種子を購入せざるを得ず、種苗会社の販売戦略上非常に有利になります。
なお、種子を経由した次世代には、植物ウイルス等による病気は伝わりにくいのですが、無性生殖で得られる後代には病気が伝わりやすい(垂直伝搬と言います)欠点があります。
リンゴの枝を海外に持っていって挿し木や接ぎ木をしているというのは本当か?
何やら生物学基礎ではなく、とても農学的内容ですが、本当です。リンゴの原産地がヨーロッパと言われており、日本へは、明治時代に、海外の品種が挿し木によって増やされて持ち込まれたのが最初です(私は詳しくありませんが、「印度」系統であったようです)。その後、昭和初期に、リンドバーグの太平洋横断飛行記念に、ワシントン州から「リチャードデリシャス」が持ち込まれ接ぎ木によって増やされ、デリシャス系の原型となったのは有名な話です。その後、「ふじ」(国光 x デリシャス:育成地の藤崎町、女優山本富士子等にあやかって命名したと言われている)が昭和37年に育成されました。富士は高品質品種として名高く、接ぎ木によって増やされ、世界的に栽培されている。アメリカニューヨーク州北部にあるコーネル大学はリンゴの育種研究の中心として有名ですが、コートランド等の自家育成品種以上にFujiの評価が高く、大学の農産物販売センターでは、比較的高い価格で販売されていました。
ところで、リンゴ等の場合、異なる品種の枝に新たな品種の枝を接ぎ木し(高接ぎ)て収穫することが可能です。そこで、日本で「ふじ」等の良い品種の枝打ち(不要な枝を落とすこと)した際に出る枝を台湾農家等が購入して穂木として高接ぎして生産をしていることがあるようです。ところが、このような方法で、ウイロイド等による病気が伝搬してしまうことがあることも知られています。(以上、私は果樹の専門ではありませんので、正確には参考書を調べたり、生物生産の園芸学教室で情報を得ることをお勧めします)
突然変異は環境の変化に適応できるように都合良く起こるものなのか?
これはとても返答させていただくのが難しい質問です。ただし、通常、突然変異は、「環境が変化したことを認知して、方向性をもって起きる」のではなく、「ランダムに突然変異が起き」ており、多くの場合はこれが致死であったり、僅かに保存されていたりするのですが、環境の変化が起きたとき、その突然変異が環境変化への適応力に優れた形質を示していた場合、選抜によって優勢になると考えるのが一般的なようです。詳しくは参考書がたくさんあると思いますのでご参照下さい。なお、6/19の授業でも触れます。
6月19日クラス
訂正
授業の中で、遺伝子型(例えばRRかRrか)を知るために、劣性ホモの個体(rr)と交配することを「戻し交雑」というと紹介しましたが、「検定交雑」の誤りでした。訂正下さい。申し訳ありません。ちなみに、戻し交雑とは、育種等の過程で、栽培種と野生種をかけ合わせて、病害抵抗性遺伝子などを導入し、その後繰り返し栽培種と交雑することで、病害抵抗性に関する部分だけを野生種から導入する方法です。
質問と返答
エンドウを自家受粉すると純系になることを農家の人は知っていて、メンデルはこれを聞いていたのでは?
私は、そのあたりのストーリーは詳しく知りませんが、多分その通りだと思います。ただし、「メンデルの法則」が提唱される前の話ですから、正しくは、「農家の人は、自家受粉を繰り返すことで、形質が変化しなくなることを知っていて、メンデルはこれを聞いて理論的に解析した」のでしょう。実際、科学が「遺伝」のメカニズムを解析する遙か昔から人間は食用植物を育種してきていました。
販売されているF1品種の両親は完全に純系か?
これについては、公表されていない部分が多いので正確にはお答えできませんが、育種にかかる期間は非常に長く、いくら戻し交雑を繰り返しても完全に純系になっているとは言えない場合も多いと思います。ただし、品質に関与する相同遺伝子が同じになっていればF1の品質は一定になることになります。
リンゴの品種「ふじ」を高接ぎで栽培しても、他家受粉してしまうと果実の品質は「ふじ」と異なってしまい、高品質を維持できないのでは?
リンゴのどこの部分を食べるか考えてみてください。リンゴの可食部は、交配によってできる種子ではなく、種子をとりまく子房(果心)の外側の、花床が肥大した部分です。つまり、母親の組織を食べているのです。従って、受粉させるのは、交配という現象を起こさせることにより、可食部の肥大を促進する信号を出しているに過ぎないのです。メロン等も同様です。従って、このような果実生産において花粉を受粉させることは、種なしブドウ栽培でジベレリン処理をするのとほぼ同義ですね。他家受粉でできた「ふじ」の果実から種をとって栽培すると、もちろん異なる形質の植物になります。
染色体突然変異で悪影響がある場合は多いか?
多いと思います。X線、紫外線や変異原性のある物質に暴露された場合、治療の困難な症状を示すことがあるのはご存じだと思います。発生初期までの染色体突然変異の多くは「死」に至る可能性があり、この場合は観察されませんので、数値に出てきません。
ダウン症は一生直らないか?
ダウン症は、片親の配偶子が形成される過程で21番二価染色体がうまく分離できず、2本存在し、従って、交配後の後代が21番染色体を3本持つことに起因します。受精後は、細胞の分裂は体細胞分裂に依りますので、染色体数の変化等は期待できず、すべての細胞が同様な染色体数異常をもつことになります。従って、残念ながらダウン症は染色体的には通常には戻せないと考えられます。