研究目的

東アジア地域における急速な経済発展は、環境に調和した成長とは乖離した石炭・石油を中心とするエネルギー大量消費を伴い、排出される多量の二酸化炭素やNOx、SO2 等の酸性ガス、粒子状物質は、発生源近傍の大気汚染はもとより、周辺国への広域越境汚染、さらには北半球全体にも及ぶ広がりをもって、気候変動にも影響するなど、地域規模〜地球規模の大気環境問題の顕在化につながっている。しかしながら、エアロゾルの空間的分布、生成機構、環境影響の定量的評価については未解明な点が多い。特に、人の健康への影響は、環境保護対象として最も高位に位置づけられるものであり、またCO2吸収源でもある植生への影響は地球温暖化にも関わって、非常に緊急性の高い問題である。
エアロゾル粒子のうち、ガスの粒子転換により生成する二次粒子は粒径2.5um以下のPM2.5と呼ばれる微小粒径域に存在し、人間の健康に大きく関わっている。アジアでは一次物質による環境汚染が依然深刻であるが、二次粒子やオゾンなどの二次生成物の越境大気汚染も重要な問題となりつつあり、広域な影響評価、地球温暖化対応策と連動した削減方策の提言と実行は喫緊の課題である。
本研究領域は、このような東アジア由来のエアロゾルの環境影響を解明しようとするものであり、広域で喫緊な課題解決のための政策など意志決定のために不可欠な、エアロゾルに関わる従来の枠組みを超えた新たな学術領域の創製を目指している。この目的のため、本研究領域は、研究項目A01:エアロゾルの生成と排出源の評価、研究項目A02:東アジアのエアロゾル・大気汚染物質の輸送と広域分布の解明、研究項目A03:エアロゾルの植物影響の解明、研究項目A04:エアロゾルの健康影響の解明、の4つの項目によって構成される。研究項目A01とA02のプロセススタディ研究と、研究項目A03とA04の影響解明の研究を連携して進める。前者で東アジアに由来するエアロゾルの発生・変質・沈着の過程の解明と、現状評価を行い、その成果を後者に取り入れて現在の影響を明らかにし、再度A01にフィードバックして将来の影響の評価も行い、対策の基礎となる環境基準や国際的排出源対策・連携の裏付けとなる科学的データの提供と提言に結びつけることが目標である。
これまで、東アジアの急速な経済発展によるエアロゾル汚染の増悪と、様々な大気汚染物質の植物や健康への影響はそれぞれ独立に研究が進められてきた。そのため、種々のフィールド観測のデータも地球科学的には非常に興味があり、意義深いものであっても、影響の研究に有効に活用されてきたとは言い難い。一方、植物や健康影響に関連して多くの大気汚染物質や粒子状物質の曝露実験が行われてきたが、ローカルな汚染をターゲットにしたものが中心で、広域の汚染を意識したものは限られていた。このような分野の研究者が連携を深めて研究を進めることにより、異分野間の関係をより密接なものとすることに貢献し、この分野の学術水準の向上・強化に資することができる。
エアロゾル環境学の創世