研究項目A04
平成21年度研究成果

研究実績および関連論文リスト

研究実績

 

研究実績の概要

A04-P12

これまでに引き続き、台湾の研究者とともに韓国の研究者を訪問し、データの収集方針、解析方法に関する議論を深めた。特に、今後越境汚染に関する解析を加えるにあたり、黄砂の研究が進んでいる両国との意見交換ができたことは重要であった。更に、わが国では実現の困難な小児などの有病データを用いた解析も、これら両国は考慮しており、今後の展開を考える上で貴重な示唆を得ることができた。昨年度に加え、死亡、インフルエンザ、エアロゾル、気象のデータをまとめて解析用のファイルを作成し、予備的な解析を開始した。
 データ入手が完了したので、予備的解析を開始した。一例として、浮遊粒子状物質(SPM)濃度と65歳以上男の循環器疾患死亡数との関連をみたところ、季節と日最高気温を調整した場合には、高濃度ほど死亡数が多かったが、調整しない場合には必ずしもそのような関連が見られなかった。このことから、改めて季節や気象など、交絡因子の制御が重要であることが明らかとなった。本年度後半にかけて、日本の7都市、韓国の6都市、台湾の3都市を解析する予定である。

A04-P13

多環芳香族、そのキノン体、水酸化体、ニトロ体等の付加体の異なる大気汚染化学物質や化学式が同一の異性体の活性について、影響の異同を比較検討している。現在、オルト体の9,10-PQ1,2-NQに比較し、フリーラジカルが生成しにくいとされるパラ体の1,4-PQ1,4-NQ及び、それぞれの基本構造であるフェナントレン、ナフタレンの影響等について検討を進めている。さらに、影響が観察された物質については、影響メカニズムの詳細な解明をめざし、細胞内の転写因子やシグナル伝達系等の解析も進めている。
 免疫応答への影響に関しては、9,10-PQ1,2-NQが主としてリンパ球の機能変化を促すのに対し、BaPはリンパ球とともに抗原提示細胞の機能をも修飾することが明らかになった。気道上皮への影響に関しては、BaP及び9,10-PQ1,2-NQが、炎症や傷害、粘液産生に関わる分子の発現を修飾することを見出した。また、微小粒子・エアロゾルの健康影響評価において、脾細胞のCD86TCRCD69の発現やIL-4産生、抗原刺激による脾細胞増殖、BMDCCD86CD83CCR7CXCR4の発現、気道上皮細胞のIL-6や可溶性ICAM-1等の炎症性因子の産生、ムチン-1の発現等がバイオマーカーとして有用であることが示唆された。また、検討対象物質によって標的となる細胞や反応性が異なる可能性も示されたことから、微小粒子・エアロゾルによる健康影響の規定要因やメカニズムを解明するためには、同じ基本構造で付加体の異なる化学物質や化学式が同一の異性体等の作用の比較が重要と考えられた。現在この点について検討を進めているが、9,10- PQ1,4-PQ、あるいは、1,2-NQ1,4-NQの異性体間で作用が異なることや、それぞれの基本構造であるフェナントレンとナフタレンは、免疫担当細胞と気道上皮細胞どちらに対しても明確な影響を与えないことも見出している。この結果は、微小粒子・エアロゾルに含まれる多環芳香族の付加体の形成やその分子構造が健康影響の規定要因として重要であることを示唆している。

A04-P14

黄砂・花粉飛散チャンバー設計・試作、化学的要因に伴う花粉物理的変形の基礎調査、黄砂または花粉アレルゲンの化学的修飾実験 (花粉飛散・暴露チャンバーの作製、基礎実験) Ames試験による花粉・黄砂複合粒子の変異原性試験、共焦点レーザー走査型顕微鏡による黄砂・花粉アレルゲン含有粒子存在形態の3D可視法の応用、            黄砂・花粉タンパク質化学的修飾のSPR法などの評価手法の継続検討、スギ花粉アレルゲン物質の変性に関する複合影響評価などの研究を進めている。
 基礎的な解析の成果を用いて、以下の3点などを明らかにした。(1)黄砂飛来時における飛散花粉数とCry j 1の粒径別濃度を確認すると、1.1 mm以下の微小粒径範囲において、他の粒径範囲より高濃度のCry j 1濃度が測定された。1.1 mm以下の微小粒子は肺胞まで到達することができるため、下気道へ侵入可能なCry j 1含有微小粒子の存在が示唆された。すなわち、高濃度のCry j 1含有微小粒子が、黄砂や汚染化学種と共に下気道へ侵入し、何らかの相乗効果を及ぼし、人体への悪影響を増幅させる可能性が考えられた。(2) スギ花粉粒が高湿度雰囲気下で破裂し、内部のデンプン粒を放出することが観察できた。(3) 様々な地点による結合速度定数(ka)、解離速度定数(kd)、結合解離定数(KD)にはほとんど差が見られなかったが、さいたま市におけるPM1.1 試料中のCry j 1では明らかに値の変化が見られた。PM1.1 の解離定数が他の試料と比べると低い値が観測されたということは、Cry j 1-Cry j 1 Mabとの親和性が強く、解離が生じにくいことを示している。様々な地点で採取したスギ花粉は葯から直接採取したものであるのに対して、大気中のスギ花粉は様々な大気汚染物質と接触している。また、地域によるCry j 1-Cry j 1 Mabの相互作用に変化は見られなかった。そのため、大気汚染物質と接触したスギ花粉中アレルゲンはタンパク質の修飾を引き起こし、Cry j 1-Cry j 1 Mabとの分子間相互作用に変化を引き起こした可能性が推測できた。


関連論文リスト (謝辞に「科研費による」との記載がないものも含む)

原著論文


Yao Z., Feng M., Lu S., Zhang J., Wang Q. (2010). Physicochemical characterization and source apportionment of PM2.5 collected in Shanghai urban atmosphere and at atmospheric monitoring background station (Linan), China Environmental Science, Vol.30(3), 1202~1208 (in Chinese).

Wang Q., S. Nakamura, X. Gong, K. Kurihara, M. Suzuki, K. Sakamoto and D. Nakajima. (2009). Contribution estimation of airborne fine particles containing Japanese cedar pollen allergens to ambient organic carbonaceous aerosols during a severe pollination episode, Environmental Health Risk V; Biomedicine and Health, Vol. 14, 65-76.

Wang Q., X. Gong, S. Nakamura, K. Kurihara, M. Suzuki, K. Sakamoto, M. Miwa and S. Lu. (2009). Air pollutant deposition effect and morphological change of Cryptomeria japonica pollen during its transport in urban and mountainous areas of Japan, Environmental Health Risk V; Biomedicine and Health, Vol. 14, 77-89.

Bao L., Sekiguchi K., Wang Q., Sakamoto K. (2009). Comparison of water-soluble organic components in size-segregated particles between a roadside site and a suburban site in Saitama, Japan, Aerosol Research and Air Quality, Vol. 9, 412-420.

口頭発表

本田 靖:東アジアにおけるエアロゾルの健康影響.日本エアロゾル学会第26回エアロゾル科学・技術研究討論会,岡山,2009. 8.(シンポジウム招待講演)

本田 靖:エアロゾルの健康影響-新たな融合研究.第50回大気環境学会年会,横浜,2009.9.(特別集会にて招待講演)

柳澤利枝, 高野裕久, 小池英子, 定金香里, 市瀬孝道, 井上健一郎 (2009). Benzo[a]pyrene(BaP)曝露がマウスアトピー性皮膚炎モデルに及ぼす影響, 第21回日本アレルギー学会春季臨床大会, p428.

小池英子, 柳澤利枝, 井上健一郎, 定金香里, 市瀬孝道, 高野裕久 (2009). Benzo[a]pyrene曝露によるアトピー性皮膚炎モデルマウスの所属リンパ節における変化, 第21回日本アレルギー学会春季臨床大会, p429.

小池英子, 井上健一郎, 柳澤利枝, 高野裕久 (2009). ベンゾ[a]ピレンによるマウス免疫担当細胞の活性化, 第16回日本免疫毒性学会学術大会, p63.

小池英子, 井上健一郎, 柳澤利枝, 高野裕久(2009). キノン系化合物がin vitroで免疫応答に及ぼす影響, フォーラム2009:衛生薬学・環境トキシコロジー, 55(Suppl.):163.

王青躍, 仲村慎一、キョウ秀民、呉迪、坂本和彦、鈴木美穂、中島大介、(2009). 降水中塩成分変化によるスギ花粉アレルゲンの溶出と放出、第26回エアロゾル科学・技術研究討論会(岡山大学)講演要旨集, pp.134-136.

王青躍, キョウ秀民、仲村慎一、呉迪、坂本和彦、三輪誠、中島大介、(2009). 黄砂飛来時のスギ花粉アレルゲンの飛散挙動、第26回エアロゾル科学・技術研究討論会(岡山大学)講演要旨集, pp.137-140.

胡舜尭、王青躍、孫陽、坂本和彦、関口和彦、(2009). 都市部道路端における浮遊粒子状物質中のイオン及び炭素成分の特性解析、第50回大気環境学会論文集, P-03, p.295.

王青躍, キョウ秀民、仲村慎一、呉迪、坂本和彦、鈴木美穂、三輪誠、(2009). 表面プラズモン共鳴法による都市大気中に浮遊するスギ花粉アレルゲン成分の測定, 第50回日本花粉学会年会(京都府立大学)論文集, p.10.

王青躍, 仲村慎一、キョウ秀民、坂本和彦、鈴木美穂、中島大介、(2009). 降水による花粉の破裂現象とアレルゲンの溶出挙動, 同上, p.11.

Wang Q., Wu D., Nakamura S., X. Gong, K. Sakamoto, M. Suzuki and D. Nakajima, (2009). Observation and measurement of airborne Japanese cedar and cypress pollen in urban area of Saitama during 2009 pollination season, 同上, p.12.

Shimada, S., Enya, K., Bao, L., Takada, T., Ortiz, R. R., Sekiguchi, K., Wang, Q., and Sakamoto, K., (2009). Characterization of summertime submicron aerosols at Saitama, Japan, using an aerosol mass spectrometer and an annular denuder-filter pack system, Abstracts of the 11th International Conference on Atmospheric Sciences and Applications to Air Quality (ASAAQ 2009), Jinan, China, p.202.