研究項目A04
平成20年度研究成果

研究実績および関連論文リスト

研究実績

 

研究実績の概要

A04-P12

 東アジアにおいて、エアロゾルによる人間の集団レベルの健康影響を評価することを目的として、地域汚染、越境汚染を含む総合的な解析を開始した。
 評価にあたっては、原因となるエアロゾルの情報と、結果としての健康情報が必要となる。エアロゾルの情報に関しては、本研究領域のA01, A02班からの情報が非常に有用ではあるものの、結果としての健康情報は、年間の結果がそろってから整備され、それから公表されるため、通常は1年遅れでやっと両者の情報が整うことになる。このため、連携をとるようになってからの解析はそれ以上に遅れることになる。そこで、疫学班としては、既存のエアロゾル情報としてわが国ではSPM、他の国ではPM10の情報を用いることとし、さらに解析に必要な他の情報、たとえば気象要因などを収集することとした。
 最初の問題意識が、エアロゾル影響の地域差であり、それが、単に解析方法、モデルに用いる変数の相違によるのではないことを示す必要性から、東アジア諸国との連携を図ることに重点をおいて最初の作業を進めた。2008年度の研究開始早々に、韓国、台湾、マレーシア、シンガポールの研究者を招待してワークショップを行った。各国の研究者に、研究の概要を周知し、協力を依頼した結果、韓国と台湾の研究者とは、データセットの共通化をはかること、また両国のデータセットを入手して、日本のデータとともに同一の手法で解析することで合意がなされた。わが国、韓国、台湾でかなり広範囲の調査が可能であり、特に中国からの越境汚染を考えれば、重要な協力体制が構築できたと言える。
 わが国のデータ収集に関しては、2009年度から行った。厚労省から死亡診断書データの使用許可を得て、1972年から2008年までの解析データファイルを作成した。また、大きな影響を及ぼすと考えられるインフルエンザ患者数のデータも、電子的に得られる2000年から2007年までのデータを入手した。エアロゾルのデータは、一部を除き、1976年から既存の測定局データを入手した。
 解析のため、死亡データは、どの死因区分を用いるか、大気汚染データは欠損値の処理をどうするかなどを、上記韓国などの研究者も含めて議論し、方針を決定した。

A04-P13

微小粒子・エアロゾルの健康影響発現メカニズム及び影響を規定する要因を明らかにすること、また、バイオマーカーを探索することを目的とし、微小粒子・エアロゾルとその含有成分が、アレルギー疾患の発現に重要な役割を演じている免疫応答、並びに、呼吸器とエアロゾルの最初の物理化学的接点である気道上皮に及ぼす影響に注目した。免疫応答についてはアトピー素因を有するNC/Ngaマウスに由来する脾細胞と骨髄由来樹状細胞 (BMDC) を、気道上皮に関しては正常ヒト気道上皮細胞株であるBEAS-2B細胞を用いた。
 当該年度は、微小粒子・エアロゾルに含有される化学物質であり、先行研究により呼吸器・免疫系への悪影響が指摘されているベンゾ[a]ピレン (BaP) 及び9,10-フェナントレンキノン (9,10-PQ)1,2-ナフトキノン (1,2-NQ) を検討対象とした。

A04-P14

都市部で排出される汚染化学種によるスギ花粉や黄砂の修飾に関する影響評価を行い、その動態解析手法を開発し、花粉と黄砂・汚染化学種による花粉症罹患への複合影響について工学的解析を主とした分野融合型研究で、影響指標を探索し、越境大気汚染とスギ花粉による生体影響評価手法の検討、ならびにその情報化のための基礎データの蓄積に貢献しようとしている。主なものとして、(1) 花粉とアレルゲン含有粒子のフィールド試料捕集、(2) 数種類の花粉サンプラーによる比較調査、花粉専用サンプラーによる飛散花粉数の整合性、規格の検討、(3) フィールド試料からのアレルゲンの分析表面プラズモン共鳴法(SPR)、抗原と抗体反応を計測するBiacore J によるスギ花粉のアレルゲンの分析(Cry j 1Cry j 2)の開発、高速化、(4) 花粉アレルゲンの放出機構、湿度や降雨等の気象要因による花粉物理的変形の基礎調査、降水中塩濃度の変化、特にCa2+による花粉表面と内部のアレルゲン溶出影響、湿度による花粉破裂現象の解析(5) 黄砂飛来時期のスギ花粉・アレルゲンとTOC計の測定による花粉由来水溶性有機炭素(WSOC)の寄与評価、(6) 共焦点レーザー走査型顕微鏡による黄砂・花粉アレルゲン含有粒子存在形態の3D可視法(三次元観察法)の検討 があげられる。


関連論文リスト (謝辞に「科研費による」との記載がないものも含む)

原著論文


Inoue, K., Koike, E., Takano, H., Yanagisawa, R., Ichinose, T., and Yoshikawa, T. (2009). Effects of diesel exhaust particles on antigen-presenting cells and antigen-specific Th immunity in mice. Exp. Biol. Med. 234, 200-209.

Inoue, K., Takano, H., Yanagisawa, R., and Yoshikawa, T. (2009). Airbone particles in pulmonary diseases.Curr Respir Med. Rev. 5, 69-72.

Ichinose, T., Hiyoshi, K., Yoshida, S., Takano, H., Inoue, K., Nishikawa, M., Mori, I., Kawazato, H., Yasuda, A., and Shibamoto, T. (2009). Asian sand dust aggravates allergic rhinitis in guinea pigs induced by Japanese cedar pollen. Inhal. Toxicol. 21, 985-993.

口頭発表

本田 靖,Likhvar VN, 杉本和俊:大気汚染の短期影響評価モデルは気温の影響評価に転用できるか? 第79回日本衛生学会総会,東京,2009. 3.