高密度ストレージの最近の展開

東京農工大学工学部 物理システム工学科  佐藤勝昭[*]

 

1.     はじめに

世界的な情報技術革命の流れは、有線・無線のネットワークを中心に急速に進展しているが、情報技術を下から支えるハードディスク、光ディスクなどの補助記憶装置の発展も忘れてはならない。

1に示すように、1990年代半ばまで、10年で10倍の割合で推移してきたハードディスクの密度の増加は、1995年を境に10年で100倍という驚異的な伸びを示すようになった。ハードディスクの面記録密度は、現行のもので10Mb/in2以上に達しており、チャンピオンデータは、面内記録で36Gb/in2、垂直記録では55Gb/in2に及んでいる。

一方、光ディスクを中心とする光メモリは、ハードディスクの容量増とともに、ソフトのインストール、データのバックアップ、データの長期保存、データの配布などのためのメディアとしての光ディスクの需要が高まると予想され、今後とも重要な地位を保つものと考えられている。

相変化記録をベースとする書き換え型DVD(DVD-RAM, DVD-RW)の登場とデータ圧縮技術の進歩は、動画の長時間ディジタル記録を可能にし、家庭用ビデオテープに取って代わろうとしている。青紫色半導体レーザの開発により、高密度化はいっそうの進展を見せようとしている。また、これまで不可能と思われていた超解像技術の導入もSuper-RENSの登場で可能になりつつある。

DVDのみならず光磁気記録(MO)技術の進展も見逃せない。実際、MO技術をベースとするMDはオーディオカセットを駆逐する勢いで伸びている。MOの基本は磁気記録であるから、その潜在能力は相変化光記録に比べ格段に大きい。磁気超解像(MSR)技術、磁区拡大再生(MAMMOS)技術、青紫色レーザにより、ハードディスクを超える高記録密度を達成できる見通しができてきた。さらには、半球レンズを用いた近接場MO記録とMRヘッド再生を組み合わせたハイブリッドハードディスクも提案されている。

もっと長期的に見たとき、果たして「ディスク」という形態で将来の高密度・高転送レート化に対応できるであろうか。次々世代のメモリとして、ホールバーニング記録、ホログラフィックメモリなど、回転機構を必要としない光メモリの研究も進められている。この小文では、高密度ストレージの基礎、現状と将来展望について概説するとともに、機械製造技術への課題にも触れたい。

 

2.       ハードディスクの高密度化を支えるもの

ハードディスクとは、図2に示すように高速回転する円盤状の磁気記録媒体に磁気ヘッドのコイルに流した信号電流から発生する磁場を使って磁区として記録し、磁区の磁化状態から洩れ出す磁束を磁気ヘッドで電気信号に変換して再生する。

最近の急速な高密度化は何によって可能となったのであろうか。これには、磁気記録媒体の材料技術の高度化、再生用磁気ヘッドの高度化、信号処理技術の高度化のいずれもが寄与している[1]。特に、1990年代後半の急速な高密度化を支えたのは、再生用磁気ヘッドがそれまでの磁気誘導タイプのものからMR(磁気抵抗効果)を使ったものに変化したことが大きい。高密度に記録するには、磁性媒体に記録された線周方向の磁区の長さと動径方向のトラック幅を小さくしなければならない。すると、この磁区から洩れ出す磁束が減少するため、従来の誘導型の磁気ヘッドでは十分な出力電圧を得られなくなってきたのである。MRというのは磁界を受けて電気抵抗が変化する効果で、これを再生に用いることにより誘導型ヘッドの数倍の出力を取り出せるようになった。MRヘッド登場の当初は、AMR(異方性磁気抵抗効果)といって、磁化の方向と電流の方向が平行か垂直かで電気抵抗が異なるという性質を用いた。その後、非磁性金属を磁性合金でサンドイッチした構造のGMR(巨大磁気抵抗効果)ヘッド(IBMはスピンバルブヘッドと命名)が登場して、より大きな出力が得られるようになった。これにより、現在では線密度300kbpi (bpi=bit per inch)以上(1bitの記録波長が0.1μm以下)、トラック密度30ktpi (tpi=tracks per inch)以上の高密度で記録された情報が再生できるようになった。

ここでは、機械技術との関係を述べておこう[2]。磁気ディスクには、ディスク円盤を回転させるスピンドルモータ、情報を記録再生する磁気ヘッドと、そのトラック位置決めを行うロータリーアクチュエータから成り立っている。それぞれの部分に摩擦が関わっている。スピンドルモータ(10000rpmに上る高速回転)にはスピンドルの振れを小さくするとともに摩擦抵抗を下げるという相反する課題があり、さまざまな工夫がされている。

磁気ヘッドについては、図3に示すように、高密度化とともにどんどん減少しており、現在では20 nmを切り10 nm近い値になってきた。磁気媒体の表面は数nmDLC(ダイヤモンドライクカーボン)で覆われているが、空気流の圧力で磁気ヘッドのスライダーが浮上することによって媒体表面との間隔を保っている。10 nmを切るような微小間隔になると、ファンデアワールス力や静電力の世界となり浮上が不安定になるので、浮上させることをあきらめ常時接触させるコンタクト方式の磁気ヘッドも検討されている。

 


3.       光ディスクの基礎

テキスト ボックス: 表1. 現行光ディスクの分類
	再生専用型	追記型	書き換え可能型
孔あけ型	CD-ROM, DVD-ROM		
熱変形型		CD-R, DVD-R	
相変化記録			CD-RW, DVD-RW, DVD-RAM
光磁気記録			MO, MD, iD-photo

3.1 光ディスクの分類

光ディスクとは、レーザ光を用いてデータを再生するディスクで、再生専用型(CD-ROM, DVD-ROMなど)、追記型(CD-R, DVD-Rなど)、書き換え可能型(CD-RW, DVD-RAM, DVD-RW, MO, MD)に分類される。

まず、CD-ROMでおなじみの再生専用ディスクであるが、ディジタル情報(0,1)はピット(くぼみ)として記録されている。ピットは、型を作ってプレスするか、型にプラスチックを流し込んで固める方法(射出成形)によって作られる。ピットの直径は光をレンズで絞ったときに回折限界で決まるウェストのサイズより小さく深さはλ/2nとなっている。(nは基板の屈折率で、基板面から光が入るので波長は基板の屈折率分の1になっている。)ピットの底からの反射と周りからの反射が干渉してうち消し合い、ピットのある部分の反射率は低くなっている。再生専用ディスクはこのような仕組みなので、後述の書き換え可能型よりもピット径が小さく、高密度に記録されている。

追記型というのは、消去や書き換えはできないが記録が可能なディスクで、write-once(一度だけ書ける)とも呼ばれるが、場所を変えて追加して記録できるという意味で追記型というほうが正しい。追記型として、実際に無機・有機材料に穴をあけるもの、相変化を利用するもの、相互拡散によるもの、色素の分解による熱変形を利用するものが提案されたが、現在では色素を用いた熱変形タイプのものがCD-Rという形で定着した。プラスチック(polycarbonate)基板に色素層を塗布し、その上に金の反射層を蒸着した単純な構造なので、低価格に製造できる点が特徴である。色素の吸収帯の波長をもつレーザビームが照射されると、色素が光を吸収し熱エネルギーに変わり色素が分解し気体が発生、その圧力で、熱的に軟化した基板に変形が生じることが記録の原理である。再生の時には、基板変形によって戻り光の位相が周辺より進むことで、CD-ROMと同様の位相差によるピットが形成される。

テキスト ボックス: 表2. DVDファミリーの仕様
	DVD-ROM	DVD-R	DVD-RAM	DVD-RW	DVD+RW
容量	4.7 / 9.4	3.95 / 7.9	2.6 / 5.2	4.7	3.0
形状	disk	disk	cartridge	disk	disk
マーク形成
材料	ピット形成	熱変形型
有機色素	相変化型
GeSbTe系	相変化型
AgInSbTe系	相変化型
AgInSbTe系
レーザ波長
レンズNA	650/635
0.6	650/635
0.6	650
0.6	638/650
0.6	650
0.65
マーク長	0.27	0.293	0.41-0.43	0.267	
トラック幅	0.74	0.8	0.74 L/G	0.74 G	0.74 G
書き換え可能回数	−	−	105	103-104	103-104


書き換え可能型には、結晶-アモルファスの構造相変化を利用した相変化光ディスク(CD-RW, DVD-RAM, DVD-RW)と、熱磁気記録と磁気光学再生を利用した光磁気ディスクとがある。3.23.3では、これらの書き換え型光ディスクについて原理を紹介する。

 

3.2 相変化光ディスク[3],[4]

一般に物質を融点Tm以上に加熱して急冷するとアモルファス(非晶質)固体となるが、このアモルファス相の固体を結晶化温度TCr以上に熱し徐冷すると結晶化が起きる。GeSbTeなどの多元化合物においては、融点(600℃程度)、ガラス転移点(400)が比較的低いので、レーザの強度を変えることによってアモルファス相と結晶相を容易に制御できる。再生にはレーザの反射光強度がアモルファスでは低いが結晶では高いという性質を利用する。直接重ね書きが容易であること、MOと異なり偏光を使わず光の反射強度しか利用していないので、光ヘッド構造が単純で、かつ、再生専用ディスクとの両立性があるという利点をもつ。一方、欠点は、信号強度は確かに強いがノイズが多い、消え残りをなくすことが困難である、書き換え可能回数に制限があることなどである。消え残りに関しては、レーザパワーのマージンがあれば対応が可能である。一方、書き換え可能回数については、非晶質化の際に融点(~600)を超える高温になるため、保護層が変形し融解した記録膜が記録トラック方向に押し出され、アモルファス領域が減少していくことによる。

媒体は、基板上に金属反射層、誘電体層、相変化記録層、誘電体層という積層構造になっている。相変化層の材料としては、DVD-RAMではGe-Sb-Te(GeTe+Sb2Te3+Sb)が、CD-RW, DVD-RWではAg-In-Sb-Te系が使われる。GeTeは結晶化時間が30nsと速いが体積収縮率が高いためクラックを生じやすい。一方、Sb2Te3の結晶化時間は数μsと遅いがクラックを生じにくいので、両者を混合して結晶化速度の最適な組成比を選ぶ。書き換え可能回数は10万回と言われている。結晶とアモルファスの反射率差は、屈折率n、消光係数kの違いから干渉効果の変化が生じることに起因している。DVD-RAMでは、結晶相で50%、アモルファス相で30%位なので、ドライブに工夫をしない限りDVD-ROMとの両立性はない。一方、Ag-In-Sb-Te系は、消去状態を単一の結晶相とせず、AgSbTe2微結晶相とアモルファスIn-Sbの混相とすることにより溶融消去を容易にしている。DVD-RWでは、結晶相とアモルファス相の位相差を大きくとることにより、コントラスト比を大きくしている。このためDVD-ROMとの互換性が保証されている。ただし、この材料の場合、書き換え可能回数は2000回程度であると言われる。次世代の高密度相変化記録ディスクとして提案されているDVRでは、Sb69Te31をベースとする成長速度の速いメディアが用いられる。

3.3 光磁気ディスク

光磁気(MO)記録は、光を用いた磁気記録である。情報は微小な磁区として書き込まれる。MO媒体の構造は、プラスチック基板に誘電体(SiNなど)をスパッタ法で堆積し、その上に光磁気記録膜(TbFeCoなど)をスパッタし、さらに誘電体を堆積し、その上に金属反射膜(Alなど)を堆積した4層膜を用いている。直接重ね書き(direct overwrite)ができる仕様の媒体の場合は、磁性体層が複雑な構造をしている。誘電体層はアモルファス膜の保護膜としての意味と、磁気光学効果のエンハンスのための光学薄膜をかねている。

記録のメカニズムの詳細は専門書[5]に譲り、ここではその概略のみを紹介する。磁気記録媒体としてはアモルファスTbFeCoをベースとする保磁力の大きな垂直磁化膜が使われる。この膜は予めある方向に10kOe程度の強い磁界で磁化してあり、記録したい部分のみを加熱された部分が室温に戻るとき、まわりの部分からの逆向きの磁界を受けて磁化反転を起こしてマークが記録される。この際に永久磁石やコイルで磁界を印加して磁化反転を助けてやると磁化反転が完全に行われる。これが光磁気記録の原理である。この記録方式は熱磁気記録、あるいは、キュリー温度記録と呼ばれる。相変化記録との違いは、物質の構造を変えるのではなく磁化を変化させるだけなのでキュリー温度Tc(~300)以上に加熱すればよく、はるかに低い温度上昇で十分である。構造変化を伴わないので、書き換え可能回数は1000万回以上とされている。レーザ光を照射したスポットのうちTc以上に加熱された部分のみ磁化が失われる。記録の方法としては、光強度を変調するLIM方式と、磁界を変調するMFM方式とがある。現行のMOディスクはLIM方式である。MFM方式の方が線記録密度を高くできるが、記録用磁気ヘッドが必要である。

テキスト ボックス: 表3 ASMO Technologies
LD wavelength	650 nm
NA	0.6
Disk diameter	120 mm
Thickness	0.6 mm
Track pitch	0.6 μm Land/Groove
Recording method	MO & CAD-MSR
Modulation	Laser pumped MFM
Signal processing	PRML
(bit density 0.235μm) PR(1,1) or PR(1,2,1)
Velocity control	ZCAV/ZCLV
Code	NRZI+ (DC suppressed)

光磁気記録された記録マークを磁気光学効果により再生する方法について述べる。半導体レーザの光を偏光子を通して直線偏光とし、レンズにより光磁気膜に焦点を結ばせ、反射されて戻ってきた光の偏光が、記録された磁区の磁化に応じた磁気光学効果を受けて回転することを利用して電気信号に変えて再生する。記録膜による偏光の回転角はせいぜい0.5度なので誘電体膜/MO記録膜/誘電体膜/反射膜という構成にすることでエンハンスしている。±0.5度という小さな回転を電気信号に変えるために偏光ビームスプリッタでps両偏光に分け、それぞれを検出して差をとる差動方式がとられる。磁気光学効果の原理、および、種々の物質における回転角や、そのスペクトルなどは、参考書に譲る[6]

4.       光ディスクの高密度化

一般に光をレンズで絞ったときに、回折限界で決まるスポットの大きさはd=0.5λ/NAとなる。ここにNAはレンズの開口数である。NA~0.6なので、dは波長λ程度である。従来の赤色レーザの場合読み出せる最小のマークサイズは600nm程度ということになる。従って、スポット径を小さくして高密度化を図るには、NAを大きくするか波長を短くすればよい。NA0.85程度にし、青紫色レーザを用いることができれば、スポット径は半分、従って(トラックピッチを半分にすれば)4倍の高密度化が実現する。さらに、超解像技術、近接場技術の適用によってさらなる高密度化が見込まれている。

DVD-ROMについてはマスタリングの高密度化、青紫色レーザの採用により12cmディスクで25GBの大容量が可能であることが示されている[7]。また、次世代DVD-RWについても、高NAレンズと青紫色レーザにより、22GBの大容量化に見通しがついた[8]。また、Super-RENSという超解像近接場技術が開発され、100nmマークを再生できることが示された[9]

一方、MOディスクについては、現行の赤のレーザでも磁気超解像(MSR)技術を用いたGIGAMO(3.5”ディスク1.3GB)が市販されており[10]、表のASMO規格では4.6 Gbit/in2の高密度が設定されている[11]。この技術によるディジタルスチールカメラ用MOディスクiD-Photoが本年市販されるがこれまでで最も小さい直径5cmのディスクに730MBの大容量記録が可能である[12]。さらに青紫色レーザと高NAレンズによって20Gbit/in2を達成できることが示されたが、これは12cmディスクで25GBの大容量に相当する[13]。また、磁区拡大再生技術(MAMMOS)により64Gbit/in2の高密度が可能であることが示された[14]。以下に、高密度化の要素技術を解説する。

4.1 超解像

4.1.1 磁気超解像(MSR)と磁区拡大再生(MAMMOS)

磁気超解像(MSR)は、読み出しに用いるレーザの波長よりも小さなビットを読み出すための技術である[15]。このディスクは、交換結合した読み出し層/記録層から構成されている。これには、FAD(フロントアパーチャ検出),  RAD(リアアパーチャ検出), CAD(センターアパーチャ検出)という3つの再生方式がある。FAD, RADのポイントは、読み出しの際のレーザ光による高温部分が一様ではなく一部に集中しており、回転に伴って、高温部がやや後方に偏ることを利用している。FADでは、読み出し層における記録マークの後ろの部分に転写されたマークをマスクすることにより小さなマークを読み出す。一方、RADでは読み出し層を予め磁界によって消去しておき、高温部で記録層から転写して読むのでクロストークに強いという特徴がある。CAD方式は、これらとはやや異なっており、記録層の上に面内磁気異方性をもつ読み出し膜を重ねておく。レーザ光で加熱すると中心部のみの異方性が変化し、交換結合により記録層から読み出し層に転写がおきる。転写された部分は光の波長よりかなり小さな領域であるから、回折限界以下の小さなビットを再生できるのである。この方法では、光が当たった部分以外は表面に垂直磁化が現れていないので、隣接するトラックからのクロストークに強いなどの特徴を持つ。1998年に市場に出たGIGAMOと呼ばれる1.3GBの容量をもつ3.5”MOディスクは、MSRを利用したはじめての市販品である。このMSRRADの一種でレーザビームの前部と後部にマスクのできるダブルマスクRAD方式とよばれるものを使っている。次世代のMO規格であるASMOでは、CADが採用される。

MSRは記録磁区の2-3倍の直径のビームを使いながら、記録磁区以外の部分をマスクすることにより微小磁区を再生するが、ビームの利用効率が悪く信号強度が小さくなる。これを解決しようというのが磁区拡大再生である[16]MSRにより読み出し層に転写された磁区が外部磁界の存在のもとで拡大するので、ビームの直径程度まで大きくすることができる。次のマークを読むためには、逆方向の磁界をかけて読み出し層の転写磁区を壊す。このような磁区の拡大はかつてバブルメモリの研究において確立したものである。これを用いると、単なるMSRでは信号が小さすぎて再生できない0.1μm以下の記録マークも大きなマークの再生信号と同程度の振幅で再生できることが示された。これをMAMMOS (magnetically amplified MO system)と称している。このほか、一方の磁壁のみを動かして磁区拡大をはかり信号強度の増大を目指すDWDD(domain wall displacement detection)という磁区拡大再生も提案されている[17]

4.1.2 Super-RENS(Super-resolution near-field structure)

相変化ディスクにおいてレーザの回折限界以下のマークを再生する方法としてSuper-RENSという方式が考えられた。これは、記録媒体の上にSbAgOxなどの膜を重ねておき、レーザ光照射誘起の吸収飽和による開口、または、AgOxの分解による光散乱を用いた近接場検出を利用する[18]。これにより、以前は不可能と思われていた相変化光ディスクへの超解像技術の適用が可能であることが示された[19]。また、MOディスクへの応用も提案されている[20]

4.2 短波長化

ワイドギャップIII-V族半導体InGaNを用いた短波長レーザ(λ~405nm)が実用レベルの出力と寿命を達成し、これを用いた光記録の実験が行われている。、電子ビームマスタリングで作製したトラックピッチ0.26μm、マーク長0.213μmの容量25GBDVD-ROMを高開口数(NA=0.85)のレンズを用いて再生することに成功した[21]。また、405nmを用いた相変化記録では直径12cmのディスクに22.4GBの容量、50Mbit/sのデータレートで記録再生するという成果を達成している。また、2層構造のDVD-RAMにおいて、NA=0.65のレンズでトラックピッチ0.34μm、マーク長0.29μm、層間距離35μm、容量27GBディスクの記録再生を行い、33Mbpsの転送レートを達成した[22]MOディスクの場合は、現行のレーザ635nmでもMSR-MAMMOSにより20GB/in2の高密度(3.5”10GB)記録の可能性が実証されているので、405nmLDを用いると原理的には120mmディスクで75-90GBの大容量が可能と言われている[23]。伊藤らは青色レーザ(413nm)と、高NAレンズ、およびMAMMOS技術を組み合わせて、200nm周期に配列した100nm径のマークを高いCNRで読むことに成功した。これは64Gbit/in2の記録密度に相当する16)

4.3 近接場

Betzigらは近接場を用いた光磁気記録に初めて成功した[24]。彼らは光ファイバ・プローブを用いてPt/Co人工格子膜に直径60nmのマークを波長514nmの光で近接場記録し、記録磁区を近接場磁気光学顕微鏡で観測した。日立中研のグループはこの方法が光磁気記録だけでなく光相変化記録にも利用できることを明らかにした[25],[26])。しかし、このように光ファイバ・プローブを走査するやり方では、高速の転送レートを得ることができない。このことを解決する方法として提案されたのが、SIL (solid immersion lens) [27]というレンズを用いた光磁気記録である[28]

SIL光学系そのものは近接場ではなく通常の回折理論が成立する系である。はじめに述べたように回折限界はレンズのNA=nsinqに反比例するのでこのNAを大きくしてやれば分解能が向上する。NAを大きくする方法として、開口角qを大きくするとともに、対物レンズと対象物体の間の空間を屈折率nの大きな液体で満たす手法がある。その液体の代わりにレンズの媒質自体を使うのがSILである。図9は、SILについての説明図である[29]。レンズで集光された場合のスポットサイズはほぼ0.5l/NAで与えられ、通常のレンズの場合NA0.5-0.6程度なのでスポット径はlの程度であるが、半球型のSILを用いるとn=2, q=45°として、NA=1.4程度にすることができるのでスポットサイズは0.18lとなって、通常のレンズ系の1/3程度となる。さらに、スーパースフェア・レンズと呼ばれるレンズを用いると、スポットサイズは0.5l/n2sinq1で表され、n=2, q1=45°として、0.09lの解像度が得られる。臨界角より大きな入射角でレンズの底面に達した光は全反射するので、SILの平坦な底面からは伝播光として出射せずエバネセント波となる。従って、SILと記録媒体の距離を近接場の範囲に保持するならば、近接場記録・再生が可能である。

10に示すように、SILを磁気ディスク装置のヘッド・アセンブリ(いわゆるジンバル)に搭載して光磁気記録を行うアイデアが1994Terrisらにより出された[30])。この方法により、面記録密度380Mbit/cm2、データ転送速度3.3Mbpsを達成している。鈴木らはMFM(磁気力顕微鏡)を用いて、SIL記録されたマークを観測し2Gmarks/in2を達成していると発表した[31]。このSIL記録については、ヘッド浮上量は100nm以上あるため必ずしも近接場の範囲になくまた、臨界角より小さな入射角で入った光の効果が大きいので、近接場記録とするべきではないとの批判もある。

5.       光ディスクと磁気ディスクの融合

磁気ディスクの高密度化が進み磁区が極端に小さくなった結果、記録された磁区の磁気モーメントが熱揺らぎの効果で回転し緩和する現象が生じ、記録の安定性が損なわれるため、高密度化には限界があると考えられている。この限界を超える手段として光磁気記録技術とMRヘッド再生技術を組み合わせた光アシスト磁気記録技術が提案された[32], [33]。日立中研のグループは、最近、記録層としてTbFeCo、再生層としてTbDyFeCoを組み合わせた2層膜を用い、青色レーザとSILを組み合わせた光学系を用いて記録し、190nmギャップをもつGMRヘッドで再生することによって300kFCIの線記録密度を達成している。MFMによる観測では100 nm径の磁区形成が確認され60 Gbit/in2の記録密度に相当することを報告した[34]。一方、シャープのグループは記録・再生いずれにもレーザを援用することにより、0.3μm以下の狭いトラックピッチでも高いクロストーク除去比でGMRヘッド再生が可能であることを報告した[35]

6.       革新技術をめざして

6.1 ホログラフィ

次世代光メモリとして最もよく研究されているのはホログラフィ記録技術である。ホログラフィは体積記録が可能なので、光ディスクのような2次元記録に比べ圧倒的な高密度記録が可能である。多重化の方法として、角度多重[36]、波長多重[37]、位相コード多重[38]などが提案されている。また、偏光多重も研究されている[39]。このような多くの基礎研究が行われてきたが、これまで実用的なメモリはできていない。その原因は、(1)手法が複雑、(2)よい媒体がない、(3)高価で複雑かつ不安定なレーザが必要、(4)アレー型検出器の効率が悪く高価、(5)SLMの性能が悪い、などであった。しかし、最近になり、(1)媒体の単純な並進移動による多重化+位相相関多重化、(2)よい媒体(Fe添加LiNbO3, および、光ポリマー)の開発、(3)低価格・高信頼性の高出力固体レーザの市販、(4)CMOS型アクティブピクセルデテクタ(APD)の出現、(5)ディジタルマイクロミラー(DMD)の開発、など要素技術が進歩したおかげで、ようやく実用デバイスの見通しが出てきた[40]。ベル研ではFe添加LiNbO3,では350チャンネル/μm2、光ポリマーでは48チャンネル/μm2の記録に成功している[41]200 Kbit/page、ビット誤り率10-5が得られている。

6.2 ホールバーニングメモリ

記録媒体の光吸収スペクトルが、特定の波長の光照射によって、その波長位置の狭い波長範囲の吸収率が減少することを利用したメモリを光化学ホールバーニング(photochemical hole burning=PHB)メモリという[42]PHBの起きるのは、不均一吸収帯をもつ無機または有機物質である。無機物においては、アルカリハライドの色中心(アニオン空孔)の電子励起とトラッピングによる吸収帯、酸化物やアルカリハライド中の希土類イオンや遷移金属イオンの電子励起による吸収帯が対象となっている。光永らはEu+3: Y2SiO5 を用いてホールバーニングによるホログラフィック動画記録に成功している[43]。有機材料においては、光互変異性、水素結合の光最配位、光イオン化などによる光吸収帯が用いられる。ホールの幅は0.02nm程度、不均一幅は40nm程度である。富士通のグループは半導体量子ドットを用いた波長多重メモリを作製し、波長の異なる2つの書き込み光による複数のホールバーニングを、世界で 初めて観測した。この素子は、ダイオードの中に結晶成長技術により量子ドットを埋め込んだ構造をしており、量子ドットの光吸収に対応する複数の波長での情報の書き込みを可能にするものである。量子ドット一つの吸収線幅、あるいは均一幅は、この状態密度の形状を反映し0.1meV以下であるが、量子ドットの集合体と見ると、サイズ揺らぎによる大きな不均一幅(100meV)を示すので、"不均一幅/均一幅"で表される波長多重度は1000程度が期待され、テラビット(Tbit, 1012)級メモリへの可能性がある[44]。ホールバーニングは、現在のところ低温でなければ発現しない。実用のためには、室温動作する物質の探索が望まれる。

 

7. おわりに

光メモリを中心に高密度ストレージの現状と今後の展開について概説した。なるべく、最新の動向を紹介するように努力したが、不勉強のために紹介し忘れた話題、紙数の関係で割愛した話題も少なくない。この小文が高密度ストレージに関心をお持ちの機械技術研究者の何らかの参考になれば幸いである。

 



[*] E-mail: satokats@cc.tuat.ac.jp, Home page: http://www.tuat.ac.jp/~katsuaki/



参考文献

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